Secret Agreement Place 1

『ねぇやくそく。やくそくだよ?』
『うん、約束』
『ぜったいぜったい、ぜったいだよ?』
『ああ、絶対絶対に』
幼い声と蕩けるようなぬくもり。
それからその必死さに、頬の筋肉が緩んでいった。

エドワードがたまにしか帰ってこないため、一度戻ってくるととにかくロイはエドワードに構いたがる。
それは例えば膝に乗せたり顔中にキスを降らせたり食事に誘ったり。
エドワードと言えば、嫌がる素振りは見せるものの、やはりそうして想ってもらえるのが嬉しいらしく、結局はロイに済し崩されてしまう。
今回もそうしてエドワードに甘えて、その代わりにとエドワードは文献を読みながら大好物のドーナツを奢ってもらってそれを頬張っている。
しかし、あまりにロイがずっと自分から離れないので、思わず苦笑してしまう。
「大佐ってホントに甘えんぼだよな」
オレよりずっと子供みたいといえば、ロイは心外そうな顔になる。
「何を言っているんだ。私からこうして触れなければ、キミは照れて近くにもこないじゃないか」
サラリと恥を突かれ、エドワードは反射的に左手でロイを叩こうとする。
その手を易々と捕まえて、手の甲にキスを落とす。
エドワードはその行為を当然近くで見てしまい、さらに暴れてロイから手を抜こうとする。
「だー!もう!!恥ずかしいことをサラッとするなー!」
ジタバタと暴れるエドワードを抑えながら、その様子を見てロイは溜め息を一つ。
「はぁ・・・昔はあんなに素直で可愛かったのに・・・」
言うロイに、エドワードはヘッと憎たらしげに鼻で笑う。
「大佐に取っては三年がもう昔なのかよ〜」
歳じゃねェの?と可愛くないことを言うエドワードの口を自らの唇で塞ぎ、頬を紅くしておとなしくなったエドワードに違うよと否定する。
「キミが三歳くらいだった時のことを言っているんだけどね」
言い放たれたロイの言葉に、いきなりのことに驚いていたエドワードの表情が、今度はきょとんとしたものになる。
「はぁ?何でアンタがオレの三歳のときのことを知ってんだよ!」
が、そんな無防備な表情はすぐに引っ込められてしまい、眉を怒らせて怒鳴ると、ロイはまた大きな溜め息を一つ。
「・・・本当に忘れてしまったのかい?―――――可愛いエディ?」

ロイがリゼンブールにやってきたのは十七歳の時だ。
間近に国家錬金術師の試験を控えたロイがその休暇を利用し何故こんな田舎ににやってきたかと言うと、少しでも練金術の知識を得ようと、その筋で有名なホーエンハイムに会いにきたのだ。
いや、会いに来たと言うよりも押しかけに来たと言う表現の方があっているかもしれない。
一応軍に属していると言っても、まだ入隊したばかりだ。
まだ人脈も無い自分に、まともに手紙を書いて待っていたとしても、ホーエンハイムが会ってくれるとは思えない。
イチかバチかの勝負で、こうして直接やってきたのだ。
「・・・さすがに緊張するな・・・」
しかし、ずっとそこに居ても会えるはずも無いので、ロイは意を決して歩き出す。
ホーエンハイムの居場所は、情報通のヒューズが調べてくれた。
その紙を手に、慣れぬ土の道を歩いていく。
何度か人に道を聞き、ようやく辿り着いたのは大きな樹に抱かれるように建っている一軒の家。
「・・・ここか・・・?」
都会のように整頓して建っているわけでも、密室的に建っているわけでもないので、人たちから返ってくるのは『あっち』とか『そっち』とかのアバウトなモノばかり。
わかるか!と最初は思っていたが、意外にわかるものだと妙なところで感心してしまう。
ロイは大きな荷物を再び持ち、扉の前にやってくる。
「・・・・・・」
さすがに緊張し、ロイはそこで何度か深呼吸を繰り返す。
そして、意を決して扉を叩くと、少ししてパタパタと軽い足音が二組。
「はーいッ!」
元気な声と共に扉が勢いよく開き、ぶつかりそうになったロイは慌ててそこから一歩引く。
そうして目に入ったのは、蜂蜜や太陽や月の金色を閉じ込めたような綺麗な色。
こちらを見た瞳も同色の色をしていて、その強烈さを印象付けられる。
「にいちゃんだれきたの〜?」
続いてきた子も同じ色をしていたが、少しだけその色身は濃い。
ヒマワリのような色に、琥珀のような虹彩。
そちらももちろん綺麗だが、『兄』と呼ばれたものの方がやはり美しい。
見つめたまま呆然と立ち尽くしているロイに兄弟はキョンとした顔をしていると、部屋の奥からまたパタパタと足音が聞こえる。
「もう・・・エドもアルもいきなり扉を開けちゃダメって言ってるでしょ?」
そうして出てきたのは、茶色い髪を右肩に流すように縛っている女性・・・多分彼らの母親なのだろう。
煌びやかでない彼女は、素朴な美しさを持っており、弟の方は彼女に似たのだろうとわかる。
兄弟は母親に両側からしがみ付き、母親は今度はロイに視線を向ける。
「えぇと・・・どなたかしら?」
最もな質問をぶつけられ、ハッとロイは背筋を伸ばして女性に返す。
「おれ・・・・・・私は錬金術の勉強をしています、ロイ・マスタングと申します。
今回は錬金術の師と言われるホーエンハイム・エルリック殿にご指導いただきたく、こうして参りました」
何度も頭の中で練習した言葉を言うと、女性はキョトンとした顔になる。
そして、その口が開く前にロイは今度は頭を下げる。
「アポイントメントを取らず、こうしていきなり参ったことは心よりお詫び申し上げます!
しかし―――――」
「ああ、いいえ、そういうことじゃなくって」
やんわりと女性はロイの言葉を遮る。
起こっているわけでも飽きれている訳でもないその声色は、ただ優しさを含んでいた。
「主人を頼ってきてくださったことはとても嬉しいんですけれど・・・」
断られるのかとロイは焦って再び口を開こうとするが、それは女性の方が早かった。
「主人は今・・・家を出ていますの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は・・・?」
随分な間を空けて出たのは、まぁ何とも情けの無い声。
まさかそんな展開は予想していなかったので、ロイは思わず脱力してしまう。
「・・・あの・・・すぐに戻っていらっしゃるでしょうか?」
「いえ・・・いつ戻るかはちょっと・・・」
そう言って苦笑する女性に罪は無い。
が、やはり今までの期待と緊張を思うと、やはり泣きたくなってしまう。
しかし、ホーエンハイムが居ないとわかった今、ここに長居をするのは向こうに取って迷惑なだけだ。
「では・・・私はこれで・・・」
去ろうとするロイを引き止めたのは、意外にも小さな手だった。
カクンと下から来た衝撃に、ロイは思わず振り返ってそちらを見てしまう。
自分を引きとめたのは、あの印象付けられた金色の子供。
「・・・にいちゃんれんきんじゅつつかえるの?」
「あ、ああ・・・一応ね」
言うと、パァッと少年の表情が明るくなる。
「みせて!」
「え?」
「にいちゃんのれんきんじゅつ、オレみてみたい!」
するとそれに便乗するように琥珀色の子も『アルもー!』と言ってくる。
「え・・・でもね・・・」
困って女性を見れば、女性はアラアラと呟きながらロイに再び視線をやる。
「よかったらお昼が出来るまでその子たちを遊んでもらえないかしら?」
思わぬことを言われ、ロイは言葉に詰まってしまう。
「え・・・しかし・・・」
帰らないと・・・と呟くロイに、女性は再びニッコリと微笑む。
「主人はいないけれど・・・蔵書ならあるから、それでよければどうぞ読んでくださいな」
何でもないことのように言われ、ロイはまたド肝を抜かれる。
錬金術師は研究でその縄張りを築いている。
それを明かすと言うことは、普通はしないものなのだ。
「主人は別にそう言うことを気にしない人だから。
もちろん、本当に見られたくないものは別の部屋に移してありますから、それ以外でしたらどうぞ」
それに。と女性は続ける。
「息子たちも懐いていますし・・・主人は居ませんが、あなたさえ良ければいくらでもここにいらしてくださいな」
「いっいいんですか?!」
思わずロイが大きな声で言うと、女性はまた嬉しそうにもちろん。と返す。
「あなた大きいから作りがいがありそうで嬉しいわ」
そう言って女性はロイのトランクを引き受けると、ロイはそれまでウズウズと待っていた子供たちにそれぞれの手を掴まれて芝をかけていた。

ワクワクとこちらを見つめる子供たちに、ロイは思わず苦笑してしまう。
歩いている最中にわかったことは、名前。
兄の方がエドワード。弟の方がアルフォンスと言う。
兄の後ろを雛のようについてくるアルフォンスの足取りが危うくて、でもそれがまた可愛らしくてロイは思わず笑んでしまう。
お世話になるのだから、サービスに。と思い、ロイは受け取って間もない手袋をはめる。
「・・・危ないから、こちらに来てはダメだよ?」
言えば、子供たちははーいと元気よく返事をする。
ロイはちゃんとそこに座っていることを確認すると、正面へと向き直る。
そこには土で作られた団子が三つ、木箱の上に乗せられている。
ガラスや石、木などを対象物にした場合、怪我をする可能性があるためだ。
ロイはスッと右手を伸ばし、目標を定める。
そうして意識を集中し、頭の中で構築式を固める。
パキンッ。
指を鳴らし、チッチッと火花が目標に向かって進んでいく。
そうして本当に小規模の爆発を起こし、土団子を粉砕する。
木箱を燃やすことなく破壊したことにロイはホッと息をついていると、パチパチと小さな二組の拍手が聞こえてくる。
「すげー!すげー!」
「すごーいねぇ!」
キャッキャと純粋に喜んでくれている彼らに照れつつも、ロイがそちらに戻ると二人が立ち上がってタックルをするように抱きついてくる。
「にいちゃんすげぇのなー!」
「うんっ!ほのおとってもきれいだった〜」
「そ、そうかい・・・?」
子供たちに喜んでもらえたことを嬉しく思っていると、グ〜っとエドワードの腹が盛大になった。
「・・・ハラへった・・・」
「アルもおなかへった〜」
アルフォンスも空腹を訴えると、エドワードはダッと駆け出した。
「エ、エドワード?」
「いえかえろーぜ〜!んで、れんきんじゅつのはなしきかせて〜!」
「アルもいく〜」
兄に続けとばかりにアルフォンスまで駆け出して、ロイもハッとそれに続く。
「こっこら・・・走ったら危ないから・・・!」
「へいきだも〜ん」
「も〜ん!」
だ―っと駆けていく二人(主にアルフォンス)が転ばないかとヒヤヒヤしながら、結局はロイも走って家へと戻っていてしまった。

「私は焔の練成が得意なんだ」
パスタを食べながら、ロイはエドワードの問いに答えていく。
エドワードはキチンと食事を取りながら話が出来るが、アルフォンスにはまだそういうことはできない。
余程お腹が減っていたのか、ガツガツとミートスパゲッティを口元を真っ赤にしながら食べていく。
「オレもね、ちっさいのなられんせいできるぞ!」
「えっ?!」
思わぬエドワードの言葉に、ロイはビックリする。
そうして女性・・・トリシャに視線を送ると、それを肯定するようににっこりと笑った。
「・・・エドワード・・・キミは本当に錬金術が使えるのかい?」
「つかえるよ!」
心外だとばかりにエドワードは眉を寄せて反論する。
そして席を立とうとしたエドワードを、トリシャがピシリと叱る。
「こら、エド!食事中は錬金術は使っちゃダメ!」
「でも・・・!」
「お兄ちゃんは逃げないんだから・・・ちゃんと食べ終わってから見せてあげなさい?」
ね?と言われ、渋々エドワードは席に戻る。
その様子を微笑ましく思いながら、ロイはスパゲッティにお手製のミートソースを絡めながら、穏やかな気持ちでそれを食べていった。

エドの練成は、木から構造の簡単なものを構成すると言う簡単なものだったが、これを三歳児が行ったということに驚いてしまう。
錬金術は普通の人からしてみれば、まず理解するのが難しい。
余程の学力と理解力、そして根気がなければ成し選れないものなのだ。
それをたった三歳の子供がやってのけるとは・・・。
「アルはねーまだできないの〜」
「あたりまえだろ?おれのおとうとなんだから!」
ヘンな理屈を持ち出すが、アルフォンスの方がそれで納得しているらしい。
後でトリシャさんに聞いてみると、『自分より年下なのにできるはずが無い』と言う、お兄ちゃんらしいものだった。
そうして、意外にも錬金術の話は白熱した。
と言うよりも、ふと気付いてみれば彼らに錬金術を教えていた。
それでも、ワクワクとしたエドワードたちの顔を見ると、ここで中断するのも憚られる。
内心オロオロしていると、グッドタイミングでトリシャが来てくれた。
「あらあら・・・エドワードにアルフォンス?ロイお兄ちゃんは遊びに来たわけじゃなくって勉強しに着たんだから、邪魔しちゃダメよ?」
邪魔とは思わないが、さすがにここで遊んでばかりではせっかく許しを貰って蔵書を読めるのに、それではあまりに申し訳ない。
エドワードとアルフォンスはエーッ!と渋るが、トリシャに再びメッと叱られると、ブーブーいいながらそこを去って行った。
「・・・ウィンリィのとこ行って来る」
「アルもー」
扉を潜ろうとしたエドワードが、不安そうにこちらを見る。
なんとなくその視線の意味するものが判って、ロイはニッコリと笑んだ。
「帰ってきたら、遊ぼうね」
ロイが言うと、パァッと二人は笑いがなら元気に『いってきます』と言い、走っていった。



☆NEXT☆


コメント

・・・続いちゃったv(殴)
ちみっこお話しは一度書いてみたかったのです〜v
アルは『ぼく』も良いけど、自分のことを『アルね〜』と言ってもらえると萌・え☆(笑)
エドは『オレ』がいいなぁ。
ちなみにこの頃のロイの一人称は『俺』です。