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Secret Agreement Place 2 ここに来て一番に学べたことと言えば、錬金術ではなく子供の扱いかもしれないとロイはつくづく思う。 エドワードとアルフォンスの面倒は、居候の身としてはしなくてはいけないことだ。 ・・・と言うか向こうから寄ってくるので相手をせざるを得ない。 が、最近ではそこに幼馴染みのウィンリィも加わっているのだ。 しかし自分を交えて楽しそうに戯れている姿を見れば、それを無下にしてしまうのは可哀相に思ってしまう。 「じゃあわたしもうかえるね!」 お遊びもそこそこに、おませなウィンリィは日が暮れる前にちゃんと帰っていく。 それをバイバイと三人で見送り、そのあとはトリシャの手伝いにと向かう。 「きょうはね〜かあたんシチューだっていってたの〜」 かあたんのシチューだいすき〜と無邪気に笑ってアルはほてほてとロイの前を歩いていく。 「オレもすき〜!」 「シチューにすれば、嫌いな牛乳も飲めるしね?」 いたずらげな眼と共に言えば、ムゥとエドワードは頬を膨らませる。 「・・・いじわるなにいちゃんはきらいだッ」 ベーッとエドワードは小さな舌を見せて先にテテテと駆けて行ってしまう。 機嫌を損ねてしまったことに苦笑し、ロイとアルフォンスのその後を追った。 こんな生活がもう二週間ほど続いている。 都会のようにいろいろなモノが揃っているわけではないが、向こうには無いのんびりとした時間がここにはある。 もちろん、今の自分はのんびりしている暇など無いとはわかっているのだが、それでも久しく忘れていた心のゆとりを持てて、ロイは幸せだった。 特に長男のエドワードは自分に良く懐いてくれている。 トリシャが言うには、アルフォンスにはもうエドワードと言う兄が居るが、エドワードが長男のため『兄』と言う存在が珍しく、嬉しいと言うことだ。 「にいちゃんにいちゃん!」 今日もホーエンハイムの書斎に篭っていると、エドワードが後ろからタックルしてくるように抱き付いてくる。 腹筋に力を込めてその衝撃を和らげると、クルッと振り向いてその金色の子供を見やる。 「なんだいエドワード」 「あのなーあのなー」 そう言って目をキラキラと輝かせるエドワードの表情には何度も見たことがある。 これは何か『いいこと』を思いついた時のそれだ。 「あのなートリンのとこのにいちゃんがなートリンにあいしょうってつけててなーそれをじぶんにしかよばせないんだって」 「うん」 「でな〜トリンもにいちゃんのことあいしょうでよんでてな〜それもトリンにだけよばせるんだって〜」 「そうなのか」 トリンと言うのはエドワードと同じ年の友達で、ソバカスが印象的な子だ。 「でな〜」 エドワードの輝きが増す。 ロイも言いたいことが何となくわかり、クスリと笑顔になる。 「オレもにいちゃんのことあいしょうでよびたい!」 思っていた通りのことで、ロイは思わずエドワードの前で笑い声を漏らしてしまいそうになる。 しかし、そんなことをすれば一気にエドワードの機嫌が降下するのもわかっていたので、それをごまかすようにエドワードを膝に抱き上げた。 「な〜あいしょうつけていいか〜?」 嫌と言ったって絶対駄々をこねるくせに、エドワードはそれでも一回は聞いてくる。 もちろん、ロイだってそれを拒む気は毛頭無いが。 「構わないよ」 言えばエドワードは更に笑顔を輝かせる。 背中から抱きしめられていたエドワードはモゾモゾと動いてロイと向かい合うようになる。 「でも、俺の名前は愛称つけるほど長くはないけどね」 苦笑しながら言えば、エドワードはだいじょうぶと胸を張る。 「もうかんがえてあるから!」 「へぇ?」 どういうのだい?と聞けば、エドワードは耳元で教えてくれる。 「ロイにぃ」 愛称と言うものではないような気もするそれだが、エドワードがあまりに嬉しそうに『いい?』と聞いてくるので、思わず頷いてしまう。 やったぁと抱きついてくるエドワードを落ちないように抱きしめると、ロイにぃはと聞いてくる。 「え?」 「ロイにぃもオレにあいしょうつけて!」 「・・・うーん・・・」 言われて思わず考え込んでしまう。 なにせ人に愛称をつけるなんて初めてのコトで、咄嗟に出てこないのだ。 しばらくエドワードを抱いてうんうん唸っている間、急かすことなくワクワクと待っている。 自分の名と違い、『エドワード』と言う名には結構な愛称名がある。 もっともポピュラーなのが『エド』だが、それはみんなが使ってしまっている。 もう一度唸ってエドワードの顔を覗き込めば、こちらを見ていたエドワードと視線がかち合う。 蜂蜜のような純粋な色だけの金色の瞳が、こちらをジィッと見ている。 「―――――エディ・・・?」 そしてふと思いついたのがそれだった。 エドワードはキョトンとしたあと、『エディ?』とオウム返しに聞いてくる。 何となく思いついたそれは美しい響きを持って空気を震わせた。 エドワードはエディ・・・エディ・・・と口の中で何度か繰り返したあと、俯いていた顔を上げた。 「もっかいよんで!」 乞われるまま呼べば、エドワードはホワッと顔を輝かせる。 どうやら気に入ってくれたらしく、ロイがずれ下がっていた身体をもう一度抱え直して呼べば、更に嬉しそうに笑ってくれる。 「ロイにぃだけがよべるんだよ?かあさんにもアルにもウィンリィにもよばせちゃだめだぞ?」 「ああ、わかっているよ。可愛いエディ」 必死なその姿が愛らしくて、柔らかく笑む。 特に用も無く二人でロイにぃロイにぃ、エディエディと呼び合う。 取り留めの無いその遣り取りに、どうしようも無く心が暖かくなった。 もちろんその二人の遣り取りを知って羨ましがるのはアルフォンスである。 やはりというか、エドワードとロイの愛称に『ずるい』と自分も呼びたがるのだが、なにせアルフォンスは『ロイ』と呼べない。 だが、エドワードほどロイに依存していない(人の好き嫌いに高低さが少ない為)ので、すぐに機嫌を直してくれた。 しかし、それ以来エドワードは更にロイに懐いてくれ、どこに行くにもロイの後を着いて来るようになる。 ロイだってエドワードに好意を寄せているので、それはとても嬉しい。 けれど、懐いてくれれば懐いてくれるだけ辛くなる。 ロイすらも時々忘れそうになってしまう。 いつか来てしまう、別れの時を。 そしてそれは、実は間近に迫っていた。 一週間後に、国家錬金術師の試験があるのだ。 「もうすぐ・・・なのね・・・」 エドワードとアルフォンスを寝かしつけた後、本に読みふけっているロイに差し入れを持ってきたトリシャがポツリと呟いた。 「・・・そう、ですね・・・」 「寂しくなるわ」 何気ないその一言に感じたのは、女性としての艶ではない母性と言うものであった。 ほんの少ししか暮らしていないはずのここが自分の家のように感じしてしまう。 それほどにここは居心地が良くて。 「エドとアルには言ったの?」 「いえ、まだ・・・中々言う機会がなくて・・・」 「そう・・・」 トリシャは近付いてくると、ロイの肩に優しく手を置いた。 「その方が良いわ。あの子たち・・・時にエドはあなたにとても懐いているから」 言ったら絶対離してくれないわよ。と言われ、それが冗談に聞こえなくてロイは苦笑してしまう。 それでも別れの時は刻々と近付いてくる。 自分が知識を吸収するたびに。 呼吸をするたびに。 言葉を発するたびに。 ロイの心情を察したのか、トリシャは子供にするように頭を撫でて部屋を出て行った。 「おやすみなさい」 彼女の行き過ぎない優しさがまた、胸に染み入った。 それでも、やはり言わなくてはならない。 ようやく言う決心がついたのは、旅立つ前日のことだった。 「ごちそーさまっ」 「ごちしょーしゃまっ」 エドワードに続いてアルフォンスも朝食を食べ終わり、席を立とうとする。 「エディ、アル。ちょっといいかな」 そこをロイに引き止められ、二人はもう一度自分の席につく。 「なんだよロイにぃ」 「なぁに〜」 面白い話しを期待しているのか、二人はワクワクとロイの言葉を待つ。 その顔を見て、また罪悪感がロイの中に生まれる。 それを何とか押し殺し、ロイは言葉を続ける。 「―――――あのね、二人とも。・・・・・・実は俺・・・明日にはここを出てくんだよ」 え〜っと二人は口を揃える。 「どこいっちゃうのさ、ロイにぃ」 「どれくらいでかえってくるのぉ?」 なるほど、軽い反応はすぐにロイが帰ってくると思ってたからだ。 完全に自分を受け入れてくれている二人に嬉しさを覚える反面、悲しみを与えることに胸が痛む。 「・・・違うんだよ。・・・もうここには戻ってこないんだ。俺は、俺のやることをやんなくちゃいけないから」 更に詳しく伝えると、二人の表情が一変した。 「やだよ〜!ずっとここにいてよ、にいたんっ」 ガタガタとテーブルを鳴らしてアルフォンスが訴える。 「アル」 ベソをかき始めたアルフォンスを抱き上げて、トリシャがその背を撫でてやる。 「お兄ちゃんにはね、やらなきゃいけないことがあるの。 やらなきゃいけないお勉強をするためにここに来てたからね、今度はそのやらなきゃいけないことをしなくちゃいけないの」 わかってあげて?と優しく言えば、アルフォンスは応えずにトリシャの胸に顔を押し付けて泣き出す。 ロイはアルフォンスから目を離すと、黙ってしまっているエドワードに視線を向ける。 「・・・エディ」 「やだ!」 ロイの言葉を遮るように、エドワードが叫ぶ。 「ロイにぃと離れるなんて、ヤだ!!」 それだけ叫ぶと、エドワードは椅子から降りて家を出て行ってしまう。 「エディ!」 ロイは躊躇って、トリシャに視線をやる。 トリシャは頷いて、行ってやって。と言ってくれる。 ロイはペコリと頭を下げ、エドワードを追いかけていた。 行き場所には覚えがあった。 最初にロイがエドワードたちに錬金術を見せてやったところだ。 エドワードは、アルフォンスやウィンリィとケンカしたり怒ったり泣いたりすると、大概はこの場所に来ていた。 全速力で追いかけてみれば、やはりそこにエドワードの姿が。 こちらに背を向けて、小さく丸まっている。 「・・・エディ」 「・・・・・・なんで・・・」 「え?」 「なんででてくのさっ」 「――――――」 ストレートすぎるその質問に思わず言葉に詰まってしまい、ロイは咄嗟に答えられない。 こちらを向いたエドワードの瞳は涙で潤んでいて、そのまま金色が融けてしまいそうに思える。 「オレたちのこときらいになったから?オレがぎゅうにゅうのめないから?オレがロイにぃのとこずっといて、うっとおしくなったから?」 ぎゅうっと自分にしがみ付いてくるエドワードを抱き返してやり、ロイは違うと首を横に振る。 「・・・エディたちのことは、とてもとても大好きだよ」 「じゃあなんで?!」 「・・・・・・やらなきゃいけないことがあるから」 「・・・?」 キョトンとした表情をするエドワードの頭を優しく撫でてやり、なるべくエドワードでも判る言葉を選びながら話してやる。 「俺がエディたちの家に言ったのはね、国家錬金術師になるためなんだ。 もうすぐその試験があるから、俺は中央に戻らなきゃいけないんだよ」 「じゃあ、こっかれんきんじゅつしのしかくとったらもどってくる?」 希望を持った眼で言われ、それでもヘタなごまかしはしたくなくて、ロイは首を横に振った。 ヘタなウソは、更にエドワードたちを傷つけてしまうから。 また眼に涙をためるエドワードを抱きしめてやり、言葉を続ける。 「俺は軍の人間だから、また軍務に戻らなきゃいけないんだ。 ・・・俺はもっともっと上に上がって、やるべきことをしなきゃいけないから・・・」 わかってくれるかい?とエドワードの瞳を覗き込めば、シャックリを上げながらロイに引っ付く。 「でも・・・っ・・・やだっ!」 ストレートなエドワードの願いに、ロイも困惑してしまう。 小さな迷いが生じている。 ここはとても良いところで、正直軍に居るよりもずっと居心地がいい。 なによりも、ロイもエドワードと離れたくは無かった。 ここで暮らせれば。と甘い誘惑が自分の中に生まれてしまった。 もしかしたら、その迷いの為に自分はエドワードたちに言えなかったのかもしれない。 ―――――けれど。 ・・・だけれど・・・。 その誘惑は切り捨てなければいけないものだ。 「エディ」 涙でグシャグシャのエドワードの顔を拭ってやり、コツリと額をあわせて、その瞳を覗きこむ。 「今は無理だけど・・・また絶対に会いに来るから」 ね?と言えば、エドワードはシャックリを押し込めて、キッとロイを見つめ返した。 「じゃあ、オレもこっかれんきんじゅつしになる!」 「・・・ぇえっ?」 思っても見なかったことを言われ、ロイは目を丸くする。 それでもエドワードは真剣な顔で、ロイを見つめる。 「だって、そうすればロイにぃといっしょにいられるんでしょ?!だったらオレ、それになる!!」 それは、子供の言い分かもしれない。 すぐに忘れてしまうような、目標を変えてしまうような、脆いもの。 それでもロイは、自分を想って言ってくれるその言葉が嬉しかった。 「・・・わかった。じゃあキミが錬金術を使えるようになったら、迎えに来るよ」 「うん!・・・ねぇやくそく。やくそくだよ?」 確認をするように、エドワードが小指を出してくる。 「うん、約束」 そう言って、自分も小指以外の指を折り曲げる。 「ぜったいぜったい、ぜったいだよ?」 「ああ、絶対絶対に」 絡めた小指から伝わってきた熱を忘れないように、ロイは必死に心に刻み込む。 そうしてエドワードは笑った後、耐え切れずにもう一度泣いてしまった。 本気で自分を想ってくれているエドワードを本当に嬉しく思い、ロイもその小さな身体を思い切り抱きしめてやった。 ロイが話し終えるてエドワードを見ると、案の定彼は呆然とした顔をしていた。 「・・・・・・ぅおええええええぇぇぇえええぇえええぇぇッッッッ!!??」 予想通りの絶叫に、ロイは思わず声を出して笑ってしまう。 そんなロイをペシリと叩き、キッとロイを睨む。 ・・・赤い顔で睨まれても、効果は無いのだが。 「だ、だって・・・リゼンブールに・・・オレたちを国家錬金術師に誘ったのはそもそも書類不備だったって・・・!」 「私がヒューズに頼んだのだよ。とにかくきっかけが欲しかったからね」 「じゃ・・・なんで会った時に知らんふりしたんだよ!」 「再会がそんな状況じゃなかったじゃないか。それに、キミも私のことを最初見てわからなかっただろう?」 ズバッと言われ、エドワードはウッと言葉に詰まってしまう。 「・・・マジかよ・・・」 ロイに言われ、なるほど記憶が思い出されてくる。 あれからロイの為にと必死に錬金術の勉強をしたのだ。 元々母親好きだったエドワードは、それを見てトリシャが喜んでくれるのを嬉しく思い、それを糧にまた勉強を重ねる。 そして母親が倒れて、修行をして、人体練成を行ってしまった。 幼児の時の脳みそと記憶力と今までのことが、ロイのことをすっかり記憶の片隅に追いやってしまっていたのだ。 「・・・ごめん・・・」 他に言えることが無くて謝ると、ロイがクツクツと笑いながら抱きしめてくれる。 「しょうがないよ。・・・それに、過程がどうあれ今キミはこうして私の近くに居てくれる。それが私は嬉しいのだよ」 エディ。と言ってやれば、こそばゆそうにしながらも逃げずに聞いていてくれる。 そして、クルリとこちらを振り向く。 「・・・結局はオレって、ロイのこと好きなんだな・・・」 そう言って笑った顔は、昔からずっと好きだったエドワードのそれと同じで。 懐かしくて愛おしくて、ロイは殊更エドワードを強く抱きしめる。 「・・・私の方こそ、ずっとキミの虜だよ」 エディ。 魔法のように心に沁みるその言葉を一つも逃さないようにエドワードは耳を澄ませる。 覚えているのは記憶ではない。 魂が、ロイのことを覚えているのだ。 だからこそ、こうしてロイに惹かれていった。 恥ずかしいけれど、事実でしかないそのことに、けれどエドワードは笑みを漏らしてしまう。 そう、それが。 魂の記憶。 秘密の場所で誓った、たった二人の大切な記憶。 コメント 一度は書いてみたかったロイにぃ設定でした〜。 ちっさいこは書くの楽しいけど言葉づかいに迷う・・・!! そしてこじつけが無理矢理ですみません(苦笑) 主にオチが・・・!お、おちてない・・・? 私的に書いてて譲れなかったのは、アルの『かあたん』でした。 ちっちゃいこの舌っ足らずな声って蕩けちゃいそうで可愛いです〜vvv |