スキスキダイスキ! 1

ずっとずっと気になってた。
でもソレを感じたのは初めてで、どうすればいいのかさえもわからなくて。
ただただ。
あなたに会うたびに胸が焦がれた。

国家錬金術師の資格をとってから間も無く。
各地の視察を言う名目の元、旅を許されたエドワードたちは、ロイに報告書を出すために東方司令部に赴いていた。
乗った電車が朝出発し昼過ぎには着く予定だったので、早々に済まそうとその日の内に持っていこうとしたが、電車がトラブルでだいぶ遅れてしまい、着いたのは夕方も暮れる頃になってしまった。
「でもまぁ急ぐ用事も無いしね。今日はもう宿とって明日にしよっか」
「・・・・・・ん〜・・・」
隣りを歩きながら気の無い返事をする兄に、アルフォンスは嘆息する。
「も〜・・・何なのさ兄さん、その溜め息」
「だぁってよ〜・・・」
「またいつもの〜?」
東方司令部に行くのを嫌がるエドワードに、しょうがないなぁともう一度溜め息をつく。
「そんなこと言ったって僕だけじゃ司令部に入れないし、報告は兄さん自身がしなくちゃしょうがないじゃない」
「・・・別に行きたくないなんて言って無いじゃないか」
説教を始めてしまったアルフォンスに、エドワードはポツリと漏らす。
「じゃあ何で渋るの?」
「・・・それ、は・・・」
言葉と共に歩みを止めてしまったエドワードに、アルフォンスも同じく足を止める。
考えると一つのことに思考がハマってしまうエドワードの背を押し、とりあえず宿を取る為にもう一度歩き出した。

「で、別に行きたくないわけじゃないのに何で行くのを渋るの?」
部屋の硬いベットに腰をかけ、アルフォンスは再び話を開始する。
エドワードは最初うーうー唸っていたが、ずっと待っているアルフォンスに根負けして話し始めた。
「だからなー・・・別に司令部はイヤな訳じゃないんだって。・・・・・・ただ・・・・・・」
「ただ?」
「・・・・・・・・・・・・たいさが・・・・・・・・・」
「大佐〜?」
以外・・・とも言えないが、出てきた言葉にアルフォンスは多少驚いた。
「そう言えば兄さん会うたびに眉顰めてたりしてたけど、大祭の何がイヤなの?
僕たちに道を与えてくれたり、こうして旅に出させて国家錬金術師なのにある程度は自由をくれてるじゃない」
多少冷酷だったりもするが、それは司令官としての立場として必要なモノだ。
自分たちを暖かく迎えてくれる大佐を始め司令部の人たちに、アルフォンスは好感を抱いている。
「だーかーらー・・・イヤなんじゃなくってー・・・」
「じゃあ何なのさー!」
物事に白黒はっきりつけたがるエドワードがまごついていることに、アルフォンスは戸惑ってしまう。
それでも、根気が無ければこの兄とは付き合えない。
「大佐に会うと・・・なんか胸が苦しくなるんだよ・・・こう・・・ぎゅってなって・・・顔・・・見れなくって・・・」
いつもの勝気な顔から、しおらしいものへと変わり、小さな身体を更に小さくさせている。
なんだか子供の頃見たことのある症状だ。
あれは確か、小学校の裏側で呼び出した女子が見せた・・・・・・。
「あーそっか」
ポンと手を打ち、スッキリした表情になるアルフォンスを、エドワードは眉を顰めて見る。
「何だよ・・・何がわかったんだよ」
苛々と聞いてくる兄を、まぁまぁとアルフォンスは宥めてやる。
「だからね、なんで兄さんが大佐を見るたびに胸が締め付けられたりしちゃうのかって。
その原因がわかったんだよ」
言い放った途端、エドワードがバタバタっと近寄ってアルフォンスの胸倉(と思われるところを)掴んで引き寄せる。
「何・・・何なんだよその原因って・・・ッ」
「だからねー・・・兄さんは大佐に恋しちゃってるのさ」
「・・・・・・こ・・・」
「ちなみに池にいる鯉じゃないよ」
サラッとアルフォンスが可能性を撃墜する。
エドワードは今まで、錬金術のことで頭がいっぱいで恋なんてしたことがなかった。
周りから見れば、兄よりも愛想の良いアルフォンスの方が持てて告白されているようにも見えたが、ただエドワードに告白をする機会がなかっただけなのだ。
しかし、頑固なエドワードのことだから、そう簡単に納得するとは思えない。
だが可能性としてはこれしか考えられないのである。
どうやって納得させようかと思っていると、スクッとエドワードが立ち上がった。
・・・またこれは暴走するかもしれないと思い、アルフォンスも体勢を整えようとする。
・・・・・・・・・・・・が。
「そっか!」
「え?」
「そっかそっか!オレって大佐に恋してるのか!」
なるほどー!と満面の笑みで納得している兄に、恐る恐るアルフォンスは声をかける。
「に、兄さん?恋の意味わかってる?」
「お前オレを馬鹿にしてるのか?好きってことだろ?」
スッキリしたー!と騒いでいる兄に、アルフォンスはグルグルと思考が回ってしまう。
まさかここまで単純だったなんて。
いくらそういうことに疎いと言っても、いくら信頼を置いてくれている弟の言うことを信頼しているとしても。
鵜呑みにするのはどうかとも思ってしまう。
「じゃあ善は急げだ!」
「はっ?!兄さん何する気?!」
突然扉に向かって歩き出した兄に、アルフォンスは慌ててその肩を掴む。
「何って・・・大佐に告白してくんだよ!!ついでに報告書を!」
「えっ?!報告書はついでなの?!」
思わず突っ込んでしまったが、まぁそれは横に置いといて。
「い、いきなり何アホなことをしようとしてるのさ兄さん!!」
「アホなことだと?!だってお前、大佐だぞ大佐!!
(良くは知らなかったが)老若男女もてるっつー噂じゃねェか!
告白は早いに越したことは無い!!」
「いやだからって何も自覚した今日今の時点で言いに行かなくったって!」
本当に妙なところネジの抜けてしまっている兄に、アルフォンスは四苦八苦してしまう。
ぎゃーぎゃーもみ合ったが、結局アルフォンスが押し合いで勝てるはずも無く。 結局エドワードは壊れるかと思うほどの音を立てて扉を開け、司令部へと向かってしまった。

一方、暴走中のエドワードが向かっている東方司令部では。
「・・・はぁ・・・」
「・・・大佐」
「・・・・・・ふぅ・・・」
「・・・・・・大佐・・・ッ」
「・・・・・・・・・あー・・・」
「・・・・・・・・・ッ。た・い・さ!!」
「うおッ!」
呼んでも応じないロイに切れたホークアイは、耳元に大声を浴びせてやった。
「なっ!何をするんだねキミは!!」
驚いたロイは、椅子から落ちそうになりながらまだキンキンする耳を抑えながら非難を口に出す。
そんな上司を冷ややかな眼で見つつ、ホークアイはもう一度自分を落ち着かせるように溜め息をつく。
「何度呼んでも大佐が返事をしてくださらないからです。
・・・それで、今日仕上げていただくはずの書類は終わりましたか?」
「―――――――――――」
目の前にあるのはまだ未サインの書類の束がどっさり。
もちろん、これだってホークアイの嫌味に過ぎないのだが。
「・・・まったく・・・いくらエドワード君たちが心配だとしても、仕事をしていただかなくては仕方がありません」
「ム・・・」
まったく正論を唱えられて、ロイはグウの音も出ない。
傍から見ていたハボックたちも、そのいつもの光景に苦笑を禁じえない。
「でも大将たち、大佐が連絡しろとか言ってもしませんからねぇ・・・。
これでもう四ヶ月目でしたっけ?
そりゃまぁ心配にもなりますけどね」
弁護するようにハボックが挟んでやる。
特にこの上司は、十四歳も年下の最年少国家錬金術師に恋愛の情を抱いている。
心配するなと言うほうが無理だろう。
「けど、仕事と心配は別のことよ。
私だって、ちゃんと手を動かしていただければ文句も言わないのだし」
ホークアイに睨まれ、ハボックは両手を挙げて『ごもっともで』と早々に降伏した。
しかし、その間もロイの手が動く気配は見せない。
「大佐・・・このままではまた残業をしていただかなくてはならなくなりますよ?」
「・・・・・・・・・」
それは嫌だと言うように、ロイは無言を貫く。
やる時はやる上司なのに、こういう腑抜けたところには、まったく副官としては参ってしまう。
もう一度ホークアイが溜め息をつこうと息を吸い込んだその時、扉が壊れるかと思うくらいの轟音を立ててバンッ!と開いた。
「大佐!!」
「はっ鋼の?」
そこに居たのは、今まで噂の的になっていた自分の想い人。
しかしまさか来るとは司令部の誰もが思っていなかったことなので、皆驚いてエドワードの方を見ていた。
ロイも例外ではなく呆けていると、ツカツカとエドワードは怒っているのではないかと言う様な歩みでロイの方へと歩いてくる。
「は」
「大佐!」
エドワードはロイの執務机に乗り上げて、そのままロイの襟首を掴み上げた。
最初から見ていても、途中からその光景を見ても、殴るとしか思えない体勢。
「はっ」
「好きだ!!」
しかし、相手の口から出てきたのはまったく思ってもいなかった言葉。
ハボックをはじめ、コーヒーを口に含んで傍観していた男どもは、ブーっと互いの顔にコーヒーを拭きかけてしまった。
「・・・・・・・・・・・・は?」
かなり間を置いて不覚にも間抜けた声で聞き返したロイに、エドワードは続けるように告白を続ける。
「だから!大佐のことが好きなんだってば!
なぁ大佐は?大佐はオレのコト好きか?」
「お、落ち着きなさい鋼のっ」
弾丸のようにしゃべってくるエドワードの肩を掴んで、ロイはエドワードに一息つかせる。
「一体・・・どうしたと言うのだ、いきなり」
「だから!オレ大佐のことが好きだから、こうして告白に来たの!」
エドワードの目を見ても、彼が本気だと言うことが窺い知れる。
そしてそれ以前に、彼はこう言ったことを悪ふざけで、しかも皆の居る前で言えるような子ではない。
彼は自分のことを好きだと言ってくれる。
そして自分も、この少年のことが好きだ。
・・・けれど。
「悪いが・・・キミの気持ちに応えることは出来ない」
その返答を聞いて驚いたのは、エドワードよりも副官たちだ。
自分の上司が、どれだけエドワードを想っているかはうっとおしいほどわかっている。
エドワードの申し出に、諸手を上げて応えると思っていたのに。
当然、エドワードだってその応えで納得できるようなヤワな神経は持ち合わせてはいない。
「ンでだよ!大佐はオレのコト嫌いなのか?!」
「そうッスよ・・・大佐いつも大将のコト心配してたじゃないっスか」
ハボックも納得できないと言うように、口添えをする。
ロイは一瞬ハボックを睨んだが、すぐ目の前にある強い目に、溜め息をついた。
「・・・確かに、私はキミを好きだけれど」
「じゃあ!」
「―――好きだが・・・鋼の」
期待を持ったエドワードの言葉を遮り、ロイはエドワードの金色の瞳をヒタと見つめる。
その真剣な眼に、エドワードも気を張りつませてしまう。
「・・・キミはまだ若い。旅もしている。素敵な女性に出会うかもしれない。
・・・今ここで私に決めてしまっては、キミの残りの人生をダメにしてしまうかもしれない」
思いもかけなかったロイの一言に、エドワードは目を見開いて固まってしまう。
「――――ンだよ、それ・・・オレのこの気持ちは、そんな薄っぺらいもんだってのかよ!」
「そうは言っていない。ただ、私と・・・同性と付き合うのは異性以上に覚悟もいるし、付いた傷も深い。
私は、キミにそう言う思いをしてほしくないし、与えたくは無いのだ」
「でも、好きなんだ!」
悲痛にも聞こえるその声に、ロイも思わず黙ってしまった。
確かに、今この時点での彼の自分に対する想いは本物だ。
言ってくれた言葉も、自分には天にも登っても良いくらいに嬉しいものだ。
けれど、今この時点の気持ちに流されて良いものでもない。
「・・・なら、こうしよう」
ようやくしゃべったロイに、エドワードはキョトンとした目を向ける。
「三年。三年間キミが私を想ってくれたのなら、キミが真に私を想ってくれているのだと認める」
これならどうだと提案すると、エドワードはみるみる笑顔になっていく。
「三年だな!わかった!全然ラクショーだぜ!」
久々に見た太陽のような笑顔に見惚れていると、エドワードは机から降りて改めてロイを不敵な笑みと共に見る。
「三年後の今日、あんたをオレのものにしてやるからな!」
待っていやがれとまるでケンカを吹っかけるような捨て台詞を残してエドワードは部屋を去っていった。
後には、呆けて動けないロイとその部下たちが残るのみ。
「あ・・・嵐が去った・・・」
「・・・あ、報告書」
結局報告書を出し忘れてしまったエドワードは、改めて翌日大きなたんこぶを作って弟と共にもう一度司令室へと出向いたのであった。

約束の日まで、後2年11ヶ月29日・・・。



☆NEXT☆


コメント

私にはないノリ?のお話しです(笑)
結局エドは照れてるエドと並ぶくらいに可愛らしくて好きです〜vvv
いつも大佐に振り回されているので、今回はエドに振り回されてもらいます・・・☆