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flying 〜The sky story〜 51 攻防は決死を極めた。 と言うのも、ゼクンドゥスの力は強大だったが、怒りのために真の力を発揮できないでいるためだ。 加えてこちらは多勢。 優勢、とは言えないが、決して劣勢とも言えない。 そんな中先ほどからゼクンドゥスに挑んでいるのは、挑発を受けたヤマトだ。 ・・・いや、もしかしたらこれは『試練』なのかもしれない。 多数の世界と、一人の想い人。 秤にかけられるものではない。 しかし、目の前のゼクンドゥスはまさにその究極の選択を迫られたのだ。 そして選んだ、ただ一人愛すべき人。 マクスウェルは、今までのあのどこか掴めない笑顔を引っ込め、代わりにどうしてよいかわからないという戸惑いを浮かべている。 もし、自分が―――――― 自分がそんな選択を求められてしまったのなら・・・・・・ 「ヤマトッ!」 太一に鋭い声で呼ばれ、ハッと意識を浮上させる。 魔力を拳に込め、ゼクンドゥスがまさにこちらにそれを放とうとしていた。 「―――――ぐぅッ!!」 反射的にそれを左腕で受け止める。 しかし、いくらヒカリの結界で護られ、威力をそらしたところで属性王の力がそれで相殺できるはずもない。 ボギリと嫌な音がした。 声を上げなかったのは、次の攻撃に身を構えていたからだ。 「テンペスト!」 丈が機転を利かせ、ゼクンドゥスとの間合いをとってくれる。 近くにあった岩に降り立つと、すかさずヒカリと空が回復法術をかけてくれる。 だが完全に治る前にゼクンドゥスが次の攻撃を仕掛け、それを避けるように飛び立つと、今度は回復法術も中断されてしまった。 回復法術は自分の自然回復能力を高め、また周りの精霊たちの生命力を借りて成り立つものである。 故に相手が動いてしまっていると、力が安定せずに分散されてしまうのだ。 「ヤマト!!」 空が援助にと飛び出すが、ゼクンドゥスが片手から魔力を発動させると、たまらず空は吹き飛ばされてしまう。 その姿が助けられたのを確認すると、ヤマトはまたゼクンドゥスを睨むようにヒタと視線をあわせる。 先程の音と具合からいって、左前腕骨(肘から手首までの骨)が砕かれてしまっているだろう。 それでも中断されてしまったとは言え先程の回復法術で、何とか耐えられる。 ゼクンドゥスは自分を狙ってきている。 しかもあえて手加減をして、だ。 その証拠に、決定的な打撃を与えてはいない。 他のものは傍に近づくことさえ出来ないのだ。 これは、先程の空の例をとってみても明らかだ。 理由は一つ。 先程の『答え』を聞くためだろう。 世界か、個人か。 ・・・太一は犠牲を好まない。 自分一人の命で済むのならと、太一はその命を投げ出してしまうのだろう。 そんなことはさせたくはない。 「相手を失いたくは無い、と言うのは当たり前の考えだな」 まるで心を読んだかのようにゼクンドゥスが語りかけてくる。 思わず顔に出してしまうとクツリとゼクンドゥスが口の端を歪めて笑んだ。 「当たり前、だ。だから私はウェルを選んだ」 それのどこがいけない。と、ゼクンドゥスはさらに答えを要求する。 「失いたくない!当たり前の考えだ!愛するものをむざむざと世界の犠牲にするなど、できるはずもない!」 「ゼク・・・」 ゼクンドゥスの叫びに、マクスウェルは悲しげに眉を寄せる。 そんなマクスウェルに、ヤマトは眉を潜めた。 あの、態度。 彼は知っているはずだ。その『答え』を。 ならば何故、それを伝えないのか・・・・・・――――――― 「―――――――――」 そこまで考えたところで、あ。とヤマトは閃いた。 ああ。そうだ。 ・・・そうだった。 『答え』を追い求めすぎていて、一番大切なモノを見失いかけていた。 「お前も、お前も、お前も・・・!!お前等は本当にそれで納得できると言うのか?!」 投げ掛けられた質問に、太一たちは即座に答えることができない。 選べる、はずがない。 「私が、何か間違っているとでも言うのか!!」 「間違ってるさ!」 そんなゼクンドゥスに、ヤマトは再び反撃を開始する。 ヒクリと形の良い眉を歪め、襲ってきた火の玉を遅れて、それでも簡単に消滅させた。 「・・・何が、間違っていると?」 「根本的に、だ」 カッとゼクンドゥスは、魔力破を放つ。が、ヤマトはそれを片手でいなした。 力は意思にも左右される。 彼の心は、ヤマトに・・・天使にさえ破られてしまうほど揺れているのだ。 「確かにそんな選択がされたら、太一は世界を取るだろう。 ・・・でも俺は、そんな結末は迎えたくない」 「ならば私と同じ考え、と?」 「違う」 だが、ヤマトはそれに首を横に振る。 「そう言うんじゃない。そこから、お前は間違ってしまったんだ」 すると、今度はゼクンドゥスが首を降る。 何を言いたいのかわからない、と言うように。 「あんたの考えは、ゼクンドゥス。ただの自己満足だ」 その一言に、ゼクンドゥスの殺気がまた蘇る。 「ヤマト!!」 太一たちは結界を張ろうとするが、それよりもゼクンドゥスの動きの方が速かった。 いくつもの魔力破が、ヤマトへと向かっていく。 だがそれは、一つも当たることなく遥か後方へと流れていってしまった。 「この・・・ッ」 「みんな」 だがそれを宥めたのは、なんとヤマト自身であった。 「大丈夫だ」 「でも・・・ッ」 「意に沿わないことを言われたからって殺してしまうくらいなら、質問なんてしないよ。 ・・・俺がそれをいうまでは平気だから・・・少し、手を出さないでくれ」 そう言われても、簡単に出来るはずが無い。 それでもヤマトがもう一度頼む。と言うので、渋々太一たちは攻撃を仕掛けようとするのをやめる。 だが、体制は崩せない。 確かにヤマトの言うことも一理あるが、逆上・・・と言う言葉もあるのだ。 「・・・続きを聞こうか・・・何をどうとって、自己満足なのかを」 一件冷静に見えるゼクンドゥスだが、その殺気がピリピリと肌に伝わってくる。 それでも、言うのをやめることは出来なかった。 「言葉の通りだ、ゼクンドゥス」 「ッ・・・私の何が間違っていると――――」 「間違っていないのなら、何でマクスウェルはあんなに悲しそうなんだよ?!」 そこで初めてヤマトが声を荒げた。 言われハッと見たマクスウェルの顔には、深い哀しみが満ちている。 「世界を救おうとするマクスウェルは間違っていない。 マクスウェルを救おうとするあんたの態度も、俺は間違っていないと思う」 ヤマトが言葉を続けるが、ゼクンドゥスは、マクスウェルから眼が離せなかった。 「・・・太一、お前なら、どちらを選ぶ?」 そこで話を振られ一瞬戸惑ったが、すぅっと目を閉じて落ち着いた表情で、太一は世界。と答えた。 「・・・じゃあ、本心は?」 言われ、太一を初めゼクンドゥスもその言葉にハッとした。 「建前は、捨ててくれ。・・・お前は・・・太一。・・・世界を見捨てても、俺と居たいと思ってくれるか?」 至極穏やかな声だった。 その声に宥められるように太一はクシャリと顔を歪め、ヤマト。と答える。 「ホントは、ヤマトと居たいに決まってる。でも、オレにやらなきゃならないことがあるのなら、オレは・・・・・・オレ、は――――」 「ありがとう、太一」 ゴメンな。と謝ると、太一は耐え切れず顔を伏せてしまう。 「なぁゼクンドゥス。俺の答えは、これだ」 俯いてしまった太一を微苦笑で見つけてから、ヤマトは視線の合わないゼクンドゥスに向き直る。 「俺は、太一のしたいことを選ぶ」 本心となさなければならないことが決して同じとは限らない。 ましてそれを相手に押し付けるのは、自分のエゴだ。 自分の我が侭のせいで何かを失ってしまうのは、太一にとって生きてて地獄に等しい。 それが、世界にたったひとつずつしかない命ならば、なおさら。 「太一がついてきてほしいのなら、俺は太一についていく。 ・・・太一が、例え自分の居ない世界でも生きててほしいと言うのなら――――俺は、太一の望みをとる」 「―――――奇麗事だ!!」 「そう捉えられても構わない」 でも、とヤマトは続ける。・・・ひどく、哀しい笑みを湛えて。 「・・・俺は、自分のエゴを押し付けて、太一にツラい人生を送ってほしくは無いよ。 ・・・・・・俺は太一を、愛しているから・・・」 物は壊れる。 人は死ぬ。 そうして世界は回っている。 変えられない事実。 世界の理(ことわり)。 そうした世界の中で、愛を知らずに居られるはずも無い。 巡り循環する世界ならば、喜びも。悲しみも。 すべてを持っていくしかないのだ。 「・・・ウェル」 マクスウェルもその事を理解(し)っていた。 けれど言えなかったのは、自分の口から言ってもしかたのないことなのだ。 気付かなければ。 気付かされなければならないことだから。 世界の平和を望むマクスウェル。 けれど、それよりも自分たちを優先させた、自分。 何度、マクスウェルは自分を止めた? 呆然となるゼクンドゥス。 ・・・その身体から、戦意が消えた。 コメント 実はここをこのお話しで一番書きたかったとことです。 個人と世界って秤にかけられないようで、実は結構身に迫った時にあじあわされる『地獄』だと思うのです。 ここは、自分自身に問うてみました。 故に、ヤマトの気持ちは私の思いです。 もちろん、私はそんな目にあったことはないので、『奇麗事』でしかないのですが・・・。 それでもこれが私が辿り着いた答えです。 |