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flying 〜The sky story〜 52 いっそのこと、死んでしまいたかった。 ゼクンドゥスの身体から、完全に戦意と殺気が消えた。 それを認め、ヤマトも構えを解いた。 「ヤマト!」 たん、と音を立て、太一が近くに降り立つ。 そしてヤマトの左手を取ると、すぐに回復呪文をかけ始めた。 「・・・サンキュ」 「うるさい!・・・ヤマトは、無茶しすぎなんだ!」 礼を言うと、太一に逆に叱られてしまう。 無理もない。 ゼクンドゥスを相手に、一人で立ち向かい、酷い傷を負っているのだ。 心配をするなと言う方が無茶だろう。 (・・・けど・・・) 属性王を相手に、骨折が一番大きな怪我だったと言うのは、何と言うか、奇跡に近い。 四翼の天使である自分を含め、ゼクンドゥスには苦戦を強いられていた。 なのにヤマトがここまで善戦できた最大の理由は、術の応用で持つ実力をほぼ完璧に発揮していたことだろう。 ・・・それはもちろん、ゼクンドゥスが手加減をしていた、と言うのもあるのだろうが。 でなければ、自分たちはあの油断している間にやられてしまっていただろう。 それこそ、以前ゼクンドゥスに別々の場所へ移動されられてしまった時に。 あの時、一人ずつに離れされられて。 あの時、そこを襲われていたら。 いかな太一でも、生き延びるのは難しかっただろう。 そう思うと、背筋が凍る。 そして、掴んでいるヤマトの腕を握る指に、負担をかけない程度に力を篭める。 伝わってくる、脈動と体温。 生きている。 そのことを改めて確認し、ひどく太一は安堵した。 もう、この存在を失って自分は生きていたくはない。 それくらいに、ヤマトが好きだ。 回復法術を解くと、ヤマトは折れた手を最初は恐る恐る、といった感じで動かし、痛みがないことを確認すると、握ったり開いたりを繰り返した。 「さすがだな」 「アタリマエ」 まだ機嫌が直っていない太一は、ツンとした態度でヤマトに向かう。 そんな、子供のような態度を見せる太一に、ヤマトは思わず苦笑してしまう。 もちろん、太一に見られれば後がまた厄介なので、こっそりと、だが。 けれど太一も、本当に本当に、ハラハラしたのだ。 心臓が・・・とまってしまいそうな、くらい。 『あの時』のことが、幾度も幾度も頭の中をフラッシュバックして―――――・・・。 きゅ、と、唇を噛み締める。 ヤマトも重々そのことは承知なのだろう、だからこそ言葉をかけられず困ってしまう。 そして、ゼクンドゥスの方を見た。 今にも地面に膝をついてしまいそうなくらいに呆然としてしまっている。 先程のことを思うと、胸が痛む。 だって彼は、悪くはないのだから。 「―――――ゼクン「いっそのこと」」 ヤマトの言葉を遮るように、ゼクンドゥスが再びしゃべりだす。 覇気はなく、今にも消えてしまいそうな儚い声で。 「いっそのこと、死んでしまいたかった」 ひゅっと、喉が鳴る音が聞こえた。 姿を目に留めなくてもわかる。 ・・・マクスウェルだ。 「だが私は、死ぬことすらできないのだ」 自虐的な笑み。 精霊には、基本的に死はない。 自分の属性で死ぬことはまず無いし、あるとすれば、相反する属性の攻撃を受けた時だ。 それも、自らよりも強い力で。 ゼクンドゥスは時を操る。 それと力を並べることが出来るのが、マクスウェルだ。 だがマクスウェルが、ゼクンドゥスを殺すことは無い。 それを願われることが何よりも怖くて、マクスウェルはゼクンドゥスから逃げていたのだから。 ・・・いっそのこと、死んでしまいたかった。 そうすれば、目の前の全てを塞がずにすむ。 だが、そのなんとも言えない沈黙を破ったのは、太一の怒声だった。 「馬鹿野郎!!」 いきなりの大声に、マクスウェルや、ゼクンドゥスまで振り向いてしまう。 「なんで、お前はマクスウェルの気持ちをわかってやれねェんだよ! マクスウェルは・・・マクスウェルはなぁ・・・ッ」 「太一・・・」 諭そうとするヤマトの手を振り切り、太一は自分の感情を抑えきれずにゼクンドゥスに詰め寄る。 「マクスウェルは、お前が大事で、お前を殺したくなくて・・・お前を喪いたくなくて、お前から逃げたんじゃないか! マクスウェルにそんなツラい思いさせて、自分だけ楽になりたいなんて、思うんじゃねェ!」 太一とて、ゼクンドゥスの気持ちがわからないわけではない。 それでも、ヤマトがゼクンドゥスに同調してしまうように、自分はマクスウェルにどうしても親近感を拭えないのだ。 逝って、残されたものの気持ちを、自分は痛いほど知っている。 「・・・ぅ・・・ッ」 その時のことを、まざまざと思い出してしまい。 太一は少しだけ嗚咽を漏らし、鼻を啜った。 ヤマトは、そんな太一をそっと抱きしめる。 今度は抵抗をされなかった。 「・・・ゼク・・・」 マクスウェルがゼクンドゥスに近寄る。 そっとその手を取ると、ヒクリと、少しゼクンドゥスの肩が震えた。 沈黙が降りる。 聞こえるのは、小さく鼻を啜る音。 「―――――――あいしてるよ」 愛してる。 言葉で伝えるのがもどかしいくせに、それしか浮かんでこない。 それでも、人間(ヒト)の、意志あるものの、大切な行為。 決して文では、伝わらないもの。 それは、伝える感情。 「もういい」 しばらくそうしてマクスウェルがゼクンドゥスの手を握っていると、呟くようにそうゼクンドゥスが言った。 「・・・もう、いい」 「・・・ゼク?」 そして顔を上げ、マクスウェルの方を向いた。 「―――――――――」 見えたのは、ゼクンドゥスの笑顔。 けれどとても寂しそうな、ソレ。 「お前は、世界を望むのだろ?」 「・・・・・・」 無言で、マクスウェルは頷く。 「その意見を、替える気は・・・ないのだろう?」 もう一度、頷く。 「・・・ならば、仕方が無い」 ゼクンドゥスは、マクスウェルの手を離すと、ヤマトの方へと向かってきた。 ヤマトはそっと太一を離すと、ゼクンドゥスに向かい合う。 そしてゼクンドゥスは、ヤマトへ向かって手を伸ばした。 「契約を」 「―――――――――」 それでも。 自分で言った言葉を反芻し、間違ってはいないと思う。 あっているとも思っていないが、それでも。 ・・・ヤマトは、迷った。 自分がその手を取れば、宝珠は全てそろう。 そうすれば、アレクタリスは再びその力を取り戻し、世界も再び安定する。 ・・・けど、それは・・・・・・。 ヤマトの迷いを感じ取ったのか、クツリとゼクンドゥスは笑った。 「お前は選んだのだろう?」 ゼクンドゥスの言葉に、ヤマトはハッとする。 そうだ。自分は選んだのだ。 一と全。 どちらも救うことの出来ない時の選択を。 ヤマトは、今度は迷わずに。 ゼクンドゥスに手を伸ばした。 ゆらりと、ゼクンドゥスの輪郭がぼやける。 「それに、まだ終わりではない」 「・・・え?」 「むしろ、これからだ」 「え、ち、ちょ・・・ッ」 だが、ゼクンドゥスはもう宝珠・・・アイオライト(菫青色)に姿を変え、だんまりを決め込んでいる。 ヤマトは太一と顔を見合わせ、首を捻る。 「まだ、って・・・」 「そう、まだなの」 「ぅ、わっ」 いきなり、にゅっと顔を出したのはシルフ。 驚き、思わず一歩後退してしまう。 その姿をクスクス笑い、シルフは術を発動させる。 太一たちを、ここに運んできた『風』だ。 「ちょ、シルフ・・・ッまだって・・・!」 だが、シルフもソレに答えずに、結局術を発動させてしまった。 「・・・まだ・・・?」 降り立った大地で、手に持った石を見つめる。 八人の視線は、唯一ヒトの形をしているマクスウェルへと注がれた。 マクスウェルはまだ少しぼぅっとしていたが、すぐにフッといつもの笑みを見せた。 「そう。・・・まだ」 そう言い、マクスウェルもその輪郭をぼやかせていった。 「まだ。だから、まだ僕たちをアレクタリスにはめては、駄目」 「駄目、って・・・ッ」 「駄目。まずは、身体を癒して。キミたちの身体が癒えたのなら、もう少し、ヒントをあげる」 ソレだけを言うと、結局マクスウェルも宝珠へ戻っていってしまった。 八人の間に沈黙が流れる。 「えーっとぉ」 それを破ったのは、さすがと言うか、ミミ。 「とりあえず、ダメって言われちゃったんだし。・・・ご飯、食べよ?」 ミミ、お腹空いちゃった〜と言う、一気に雰囲気を壊した一言に、太一たちは苦笑しつつも、とりあえずその場を離れて行った。 ようやく、世界の均衡を戻す力が『全て』手に戻ったのだから。 コメント ヤマ太がメインなんだかオリジがメインなんだか・・・(汗) ようやく佳境っぽいです! あと・・・ふたやまくらい?(・・・) が、がんばれー・・・。 |