flying 〜The sky story〜 42

光子郎の創った結界のおかげで、内部に侵入した魔物・獣たちは全て消滅した。
それでも周りには、まだ幾数もの魔物たちがたむろっている。
初めて精霊・・・しかも属性王を召喚した光子郎がどこまで持つかわからない。
けれど、そんな短時間でこの数の魔物たちを倒すだけの魔術をミミは持ってはいない。
・・・そう、残っている希望は・・・。
ミミは空へとまたはばたき飛んでいく。
「お願いイフリート!また私に力を貸して!」
そしてミミは紅玉を取り出し、必死に祈る。
「光子郎くんを・・・みんなを助けたいの!イフリート・・・お願い、出てきて・・・!!」
と、ミミの中に熱い力と共に詠唱呪文が浮かんできた。
初めて召喚した時は頭に血が上っていなかったので、その感覚には気付かなかったが、ミミはそれに身を任せた。
言葉が、自然に口から出て行く。
「―――汝!!」
ミミは両手を高く天に上げる。
「六亡星の一角、火を司るもの、汝の名、『EFREET』 ―イフリート― !!
紅玉を持ちし属性王よ!
我は汝の力を求め、また、我の力を汝に貸すものなり!
「打てし、我が敵を!!
召喚!『EFREET』 ―イフリート― !!」
高く上げた掌から紅い魔法文字(ルーン)が浮び、それは光子郎の張っている結界の外側に居る魔物たちに向かって放射状に飛んでいく。
そして声を上げる間も無く、全ての魔物たちは消滅してしまった。
あまりの威力に、街人たちからもざわめきが起こる。
召喚術と魔法との一番の差は、その魔術、法術は一定の形でしか働かないのに対して精霊はその属性を自由に操れると言うことだ。
前にピーヴィに向けて放たれた炎は、前方に向かってのみ飛んでいったが、今放ったのは放射状に飛んでいった。
召喚術は習得するのに困難だが、ひとつの呪文を覚えるのに対して応用はいくつも利くのだ。
イフリートはしばらく荒くれるようにしていたが、ミミに小さく笑むと、紅玉に戻っていった。
ミミは息を乱しポカンとしていたが、次第に嬉しさが込み上げてきた。
「・・・やった・・・」
紅玉にキスをし、またちゃんとしまい直す。
そして、光子郎の元へと降り立った。
回復したタケルとヒカリも光子郎の元にやってきている。
「・・・ウンディーネ・・・」
ポツリと漏らすと、結界はスゥッと薄くなっていき、女性の姿をまたかたどった。
ウンディーネは笑み、コクリと頷く。
「辺りに、もう魔物の気配はしませんわ」
言われホッと息を吐く間も無くミミが飛びついてきた。
「うわっ」
「やったやったやったぁっ!」
ミミは光子郎にぎゅうっと抱きつくと、ピョンピョン飛び跳ねる。
タケルとヒカリも嬉しそうに笑い合っている。
光子郎も肩の力を抜き、ミミを抱き返した。
「光子郎さん」
と、ウンディーネがまた声をかけてきた。
いつもはすぐに宝珠に戻ってしまうのに・・・。
「ウンディーネ・・・?どうしたんですか・・・」
「術者が近くに居ります」
4人の間に、また緊張が走る。
「・・・気配を追えますか・・・?」
「今の距離なら、まだ大丈夫です」
光子郎、ミミ、タケル、ヒカリは眼を見配らせて頷く。
「皆さん!ここにはもう敵は居ません!僕たちは行かなくてはいけないのですが、ここでジッとしていてください!」
まだざわめいている街人に一言声をかけると、4人は走り出す。
「おにいちゃんたち!」
と、幼い声に引き止められる。
足を止めてそちらを見れば、4、5人の子供たちが顔に手をつけて大声で叫んでいる。
「まもってくれて、ありがとー!!がんばってね!!」
がんばってねー!と後で他の子たちも合唱してくる。
「・・・お願いします・・・!」
大人たちも声を張り上げてくれる。
それがまた、光子郎たちに勇気をくれた。

「くそ・・・!何なんだあの力は・・・魔物たちが一瞬で消し飛んじまった・・・ッ!」
リダールはヘルハウンドという大狼型の魔物に乗ってバキラ邸へと逃げ去ろうとしている。
途中までは楽勝と言って良いくらいに優勢だったのに、いきなり大きな力がふたつ出でて、魔物たちが消されてしまったのだ。
と、上空に影を見つける。
まさかと思いそちらを見ると、ヒカリに高速移動法術(ヘイスト)をかけてもらった光子郎たちが居たのだ。
「クソゥ・・・!」
リダールは焦りつつもブツブツと口の中で呪文を唱える!
「従いし我が同胞よ!汝等の敵を撃ち朽ちたせ!」
言うと、茂みから何匹かの魔物が出てきた。
「レイ!」
すかさずミミが魔術で応戦する。
どうやら先程のウンディーネの光は『力』も回復してくれたようで、4人は疲労を抜かせばほとんど完全回復している状態だ。
ミミの力ならば、例え午後で死気に転じていても充分応戦できる。
ドンッドンッと地響きを立て、光のレーザーは敵に当たっていく。
「くっ・・・!」
素早さと力を兼ね備えているヘルハウンドは、その間を縫って走っていく。
「ミミさん、当ててはいけませんよ」
光子郎が言うと、ミミが『え〜っ』と不満そうな顔をする。
「彼にバキラのところまで案内してもらうんです。邸内に関しては僕たちは知識を持っていませんからね」
案内してもらうと言うことだとわかると、ミミはわかった!と頷く。
そうして決死と思わせる芝居を打ちながらの攻防は、しばらく続いた。

「・・・遅い・・・!」
準備を整え終えたバキラは、リダールの帰りをイライラしながら待っていた。
太一、シリアは今だ汲剛石をはめられており、到底動けるような状態ではない。
「太一・・・大丈夫・・・?」
と言っても、シリアは魔法を使える訳ではないので実質的には被害は受けてはいない。
深刻なのは、太一の方だ。
力は全然回復してはおらず、貧血のような状態に陥ってしまっている。
「・・・ああ・・・まぁ・・・」
顔色は悪い。
気分は最悪。
思いながらも力なく笑うが、体勢を崩してしまったら起き上がれる自信は無い。
と、そこへバァンッと荒々しく扉が開いた。
「・・・リダールか・・・遅かったな・・・して贄たちはどうした?」
「そ、それが・・・!」
リダールは顔を歪め、必死にバキラへと近寄る。
その横にはヘルハウンドがおり、小さな傷をいくつも負っている。
バキラはリダールのその様子に、ますます眉を顰めた。
「・・・まさか・・・」
そして目を細め、空気を振動させるような低い声で呟くようにリダールに問い始める。
「まさか、失敗したなどと言うのではなかろうなぁ・・・」
「もっもっ申し訳ありません!!天使たちに邪魔されてしまい、この様な失態を・・・!」
「・・・天使・・・?」
バキラは眉を持ち上げる。
「・・・まだ天使が居たと言うのか?」
「はっはい!天使、堕天使共に2名ずつでございますっ」
しばし顎に手をかけて考え込むような仕草をしていたバキラは、不意にニヤリと笑った。
「そうか・・・なら仕方が無かったな・・・」
「も、申し訳ございませんでした・・・!」
代わりに、とバキラはまた言葉を紡ぐ。
「お前に新しい使命を与える」
と、途端にリダールの顔が明るくなる。
「は、はい・・・!何なりと・・・!」
言うとバキラはますます笑みを深くし、リダールの髪をいきなり掴むと、魔方陣の方へと放った(ほうった)。
「やれ」
バキラが命令すると、数名の陣術者が詠唱し始め、淡く陣が光り始める。
「なっ・・・な・・・ッ?!」
リダールは困惑する。
それは、本当ならばリダールの連れてくるはずだった100人の生贄が入る筈の陣だったのだ。
「ば、バキラ様・・・これは・・・ッ!!」
眼を見開き、リダールはバキラを凝視する。
「仕方なかろう。お前が生贄を連れてこなかったのだから。その責任を負うのは当たり前であろう?
・・・それに、何の為にお前に墨杢石を与えたと思っているのだ」
そう。リダールは『保険』だったのだ。
もしもの時のための、生贄。
「与えるのは肉ではない。力なのだよリダール。
更なる力を与え呼び寄せる、餌なのだよ・・・わかるかね・・・?」
と、自分の手がサラサラと粉状になっていき、リダールはヒィッと喉を引きつらせる。
「バキラ様、バキラ様ァ!!どうかお許しをぉっ!!」
しかしバキラはその様子をクツクツと笑いながら見ている。
「・・・ヒデェ・・・!」
太一とシリアは直視できず、眼を閉じてしまう。
リダールは数分もおかず、絶叫と共に消えてしまった。
しゅううぅぅぅ・・・と音を立て、陣の中は燻った音をたてている。
と、何か禍々しいものの気配を感じ、太一はビクッと肩を揺らした。
「・・・太一?」
「さすがに魔の気配には敏感だな、四翼の天使殿」
バキラは太一の方を見るとニヤリと笑む。
「・・・やめろ・・・!アレをお前が制御出来ると思ってるのか・・・?!」 「もちろんだよ四翼の天使殿。私を誰だと思っているのかね?」
どこにそんな自信が有るのか、バキラは胸を反り返す。
何を言っても通じないバキラに、太一の怒りと焦りも募っていく。
「さて・・・」
バキラはカツカツと靴を鳴らし、シリアの方へと歩み寄ってきた。
「お前の出番だよ、シリア」
そうしてシリアの頬を撫で、肩を寄せる。
シリアは抗いそうになるが、太一と眼が合ってしまい、素直にそれに従う。
「いい子だ」
そして、先程リダールが居た場所へと連れてこられた。
「大丈夫だよシリア。お前の『力』を貰うだけで命は取らないからな」
そう言い、バキラが部屋に出ようとした途端、扉の方が騒がしくなった。
「何だ、どうしたと言うのだッ!」
バキラの問いに応えたのは、轟音だった。
「太一!」
現れたのは、ヤマト、空、丈の3人。
シルフとノームは、厭漏陣を脱出してからは、干渉しすぎるとの事で宝珠に戻ってしまった。
「お前たち・・・何故ここにおるのだっ!陣術者ども!厭漏陣はどうした!」
完璧に閉じ込めていた筈なのに、とバキラはさすがに焦りを見せる。
シリアはハと気付く。
自分は今汲剛石も拘束しているものもつけては居ない。
そして、眼の前のバキラはアレクタリスを腰にかけていたのだ。
・・・チャンスだ、と思う。
「おい!何をしている!兵ど・・・ッ!ぅうっ!!」
いきなりシリアに後ろから突進され、さすがにバキラも重心を失う。
「・・・ヤマトッ!」
そして奪ったアレクタリスを、一番傍に居たヤマトに投げた。
「シリア!逃げろ!!」
太一が叫んだが、シリアは背中に焼けるような痛みを感じ、その場に伏してしまった。
何、と自分で思う間もない出来事。
「シリア!!」
太一の声が遠く感じる。
ヤマトたちも、険しい表情でこちらを見ている。
「この・・・恩知らずめが!!」
眼の前にバキラの靴が現れ、眼を上にあげると、短剣を持ったバキラが憤怒の形相をしていた。
・・・短剣には、血がベットリとついている。
自分の血だ。
思うと、力が抜けていった。
太一たちの声が遠く感じる。
バキラは苛立った様子で短剣を血に叩きつけ、陣外へと出る。
「・・・もうよい!シリアも消してしまえ!陣術者!」
命令を受けた陣術者は戸惑いつつも、詠唱を始める。
「シリア!」
思わず身を乗り出してしまい、太一は倒れこんでしまう。
胸を強かに打ってしまい、息を詰まらせる。
「ヤマト!空!丈!!」
ヤマトたちに助けを求むが、ヤマトたちも兵に苦戦している。
「魔法使い!」
「ウィンドカッター!」
バキラが怒鳴るとすぐに魔法使いたちが魔術を唱えて攻撃を仕掛ける。
「しまっ!」
空は身体を支えるだけで法術を使えるだけの力はまだ回復しきれていない。
ヤマトたちは衝撃を堪える為に腕で支えを作る。
「レジスト!」
が、風の刃は当たらず、直前で砕け散ってしまった。
「・・・ヒカリちゃん・・・!」
現れた人物に、ヤマトは目を見張る。
ハと後ろを見れば、光子郎が空に法術をかけている。
「お前たち、いつの間に・・・」
「ん〜さっきなの。実は途中でさっきの男見失っちゃって〜」
ミミが苦笑を浮かべつつ、魔術を唱えては敵をなぎ払う。
「それよりも今はシリアさんだよ!」
タケルはヤマトに自分の剣を渡しつつ、応戦している。
「シリアっ!シリアっ!」
太一は這いながらも必死にシリアに呼びかける。
「ふんっ・・・自分の愚かさを知るのだな」
バキラは太一の背を踏み、シリアの方を観て憎々しげに鼻を鳴らす。
「くそ・・・!こんな部屋の中じゃ大きな魔術も使えない・・・!」
「シリア!!」
遂に陣が光り始めている。
太一はその姿を見ていられず、ギュッと眼を閉じてなお叫ぶ。
「もう・・・やめてくれよ!頼むから・・・マクスウェルー――――ッ!!」
『えっ?!』
太一の言った言葉に、ヤマトたちは眼を見開く。
思わず視線を移すと、シリアの身体はなんと強く光を放ち始めたのだ。
そして光は爆発的に放射し、陣を破り、窓の外へも漏れていった。



☆NEXT☆


コメント

す、進んだ〜!(笑)
今回のこの事実に何人が驚いてくださるかが私はとても心配です・・・。
バレバレかも・・・しれなかったのですが・・・私・・・がんばったわけで・・・!
感想、お待ちしてま〜す(笑)
そしてまた中途半端に終わらせてしまってすみませ・・・!!