flying 〜The sky story〜 39

「我描きしは力の文様。
汝等数多なる精霊、この陣に集いて我に更なる力を与えよ!
汝、涼やかなる緑を身にまとうもの。
流れるような風を自在に操り、切り裂く刃となれ!
六亡星の一角を司るもの、汝の名『SYLPH』 ―シルフ― よ!
ウィンド・カッター!」
増幅詠唱を唱え、ヤマトは前方に居る兵軍に向かってソレを放つ。
兵たちは鉄の鎧を纏っているので、それぐらいでは死にはしない。
ただ風の圧で吹き飛ばされ、気を失ってしまうのを狙ったのだ。
・・・シリアの攫われた明朝、太一、ヤマト、空、丈はバキラ邸へと乗り込んでいった。
もちろん、シリアの奪還、また領主への注意をかけにだ。
本来、人間界のこういうものに干渉をかけるのは、八神の夜架かヴォーウだが、天使でも四翼の天使には、行き過ぎたと見える行為には干渉してもよいのだ。
この作戦を考えた丈もまた、低級の魔術で相手の怪我を最小限に押さえつつ前に進む手段をとっている。
一方太一と空は、体術で相手を昏倒させている。
もちろん、武具に術をかけて。
「ブリザード!」
「ぐおっ!」
「うわあぁあっ!」
冷気と風に当てられ、たまらず兵たちは突っ伏す。
そこを、太一と空が叩いていく。
そんな風に邸内・・・城内と言ってもいい広さを、かれこれ10分以上走り回っているのだ。
ちなみに、一番疲れが見えているのは丈。
「・・・先輩・・・大丈夫ですか・・・?」
はぁはぁ息を切らせて走る丈に、空はそっと声をかける。
「だ・・・大丈夫・・・っ」
「・・・でも・・・」
「そーら」
先に前方に出てトラップを解除していた太一たちに追いついた。
二人は苦笑し、その会話を聞いていた。
「丈にだって男の意地があるんだから。がんばらせてやれって」
「リスキーイグザミン!」
太一が両掌から青白い光を放つ。
それはすぐに消え、また現れた。
壁や天井、至るところに現れた光は、罠が仕掛けられているところだ。
「チェックブレイク」
そう言い指を鳴らすと、光が弾け、罠も消滅した。
「よし。行こう」
少しの休憩の後、また走りあいが始まる。
その中攻撃魔術も唱えなければいけないので、体力の無いものにはなかなかツラい。
「・・・ちょっと・・・タケルくんに任せればよかったかもとか今ちょっと思っちゃったよ」
丈のその独り言が責めれるものは、この中には居なかった。

「第三隊、突破されました。天使たちは罠を解除しつつ、こちらに向かっております」
「・・・ふむ・・・さすが神に属するもの達、と言う事か・・・おい。準備はどうだ」
「着々と」
「そうかそうか・・・・よぅし・・・」
攻められているのに、バキラは上機嫌そうにニヤリと口端を持ち上げた。
「お客様をしっかりと『あの部屋』へお通ししろよ。・・・わしも向かうか」
ゆっくりした動作で起きると、すかさず両側にメイドが立ち、バキラを支えた。
当然のようにメイドたちの力を借り、バキラは立ち上がった。

「ストーム!・・・太一、どうだ?」
「・・・ん・・・もうちょっと・・・」
三人で格闘している間に、太一は扉の錠の解除に当たる。
慎重にやらないと毒などが跳ね返ってくる可能性があるので、さすがに先程の罠解除の法術は使っていない。
しばらく太一がいじっていると、パチリと音がした。
「開いた!三人とも入れ!」
ドアを開け、太一は後方で戦っている大和、空、丈を呼び、先に入らせる。
「テンペスト!」
自分が入る前にもう一度魔術を兵たちに唱え、追っ手を減らす。
確認し、太一も扉へと入って行った。
扉に入りまず目に入ったのは、三人の強張った顔だった。
それは正面を向いてすぐにわかった。
「・・・シリアっ!!」
ホールのような広い場所の中心に、シリアが横たわっていた。
薬を嗅がされたか、法術をかけられたかしているのだろう。
外傷は見受けられないので、暴力というものはされていないと太一は解釈する。
「やぁやぁようこそ我が邸宅へ。天使殿たち」
太一たちが集まったのを見計らったように、野太い声が響き渡る。
見上げれば、中年の男が手を腰で組んで見下ろしていた。
「お前が・・・」
「バキラ・・・!」
ノコノコと顔を現したバキラに、四人の怒りが増す。
「お前!シリアに何をした!!」
「いやいや、本当にすみません。私の部下が人間違えを犯しまして・・・本当は罪人を連れて来いと命じたのですが・・・相すみませぬ」
そう言い、バキラは少しだけ身を屈めた。
「ささ、このお子をどうぞ引き取ってくださいませ。どぅぞ傍へ」
意外なバキラの態度に、それでも油断は出来ない。
・・・だが、周囲に居る兵からは距離があり、シリアのところへ向かっている時に襲われても、守れる自信はある。
太一が空たちに目配せをすると、三人も同じ事を考えていたらしく、コクリと頷いた。
「・・・シリア・・・!」
太一たちはシリアの元へと駆ける。
その間も兵たちは動かず、バキラも命令を与えない。
「シリア!」
抱えたシリアの顔色は悪い。
だが、脈も呼吸もしっかりしており、命に別状は無いようだ。
「・・・よかった・・・」
―――――しかし太一たちはここでミスを犯してしまった。
「―――――っ?!」
まるで重力がかかったかのように、身体が重く、地に押し付けられる。
「なっ?!」
突然の事に太一は眼を見開く。
魔法の力は感じられなかった。・・・なのに、何故・・・。
「太一っ?!」
「空くんっ!」
右を向けば、ヤマトと丈がやや辛そうにだがしっかりと立っている。
左を向けば、空が自分と同じ様に地に膝を着いている。
・・・おかしい。
こんな事を考えるのは自分でも嫌だと思うが、力では天使の中で最強である四翼の天使の自分がこんなに辛く感じているのに、なぜヤマトや丈は立っていられるのか。
力・・・それは魔法耐性でも自分は他の天使よりも凌駕している筈なのに、何故。
ハッと周りを見れば、先程は気付かなかった円陣が淡く昏い(くらい)光を放っていた。
「・・・昏潰陣(こんかいじん)・・・!!」
太一は自分の失態を本当に悔やんだ。
「麻汝羅大陸の術、昏潰陣を知っておるとはさすがは四翼の天使というところか」
先程の低い態度はどこに行ったのか、バキラはニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている。
術・・・魔術や法術などは、大陸によって名前が異なったり、偏りがあったりする。
それは神々がその地方によって違うため、宗教等により詠唱術が違ったりするからだ。
特に異なるのが、『漢字』が発達している麻汝羅大陸だ。
他の大陸の者たちの名前が横文字に対し、麻汝羅大陸のものたちの名は縦文字が多い。
それは麻汝羅大陸に伝わる神々の名が縦文字だった為に、今でもその習慣が根付いているからで、術もそうなのだ。
もちろん横文字の術の名も知っているが、普段縦文字を使っている為に、麻汝羅のものたちは縦字の術を使う。
そして麻汝羅は円陣がもっとも良く伝わっているとされているのだ。
なので、麻汝羅では陣術、陣使いという特殊な能力のものたちも集まっている土地だ。
風見師の術で、縦文字横文字が入っているのはそのためである。
しかしこれは、人間の術を神族や魔族が使っているのではなく、神々に特徴があるので、それを取り入れてこのようなものになったのだ。
人間のものより太一たちの術の方が力が強いのはそう言った理由もある。
そして陣術のひとつ、昏潰陣とは、聖なる力を封じる・・・いや、吸い取る陣術だ。
聖なる力とは即ち『法』の力。
ヤマトたちより太一たちの方がダメージがでかいのはそういう事なのだ。
唇を噛み締めていると、空がガクリと崩れてしまった。
「空・・・っ」
急速に力が失われたので、身体が貧血状態になってしまったのだ。
しかし、昏潰陣はすべての力を吸い取るのではなく、そのものの持っている力のギリギリまで吸い取ると、そこで効力は無くなってしまうので、逆に言えば空は気を失って正解なのかもしれない。
だが太一はそうも行かない。
膨大すぎる力は、そう簡単に尽きてはくれない。
太一は要らぬ苦痛を受けてしまっているのだ。
「・・・や、まと・・・っ」
意識がくらくらする。だが、ここで意識を手放してしまえば、その後どうなってしまうかは想像がつかない。
「・・・この中で・・・陣術を使ってるやつが居るはずだ・・・そいつを・・・!」
「そうはいかない」
そう言って現れた男に、太一は見覚えがあった。
「お・・・まえ・・・っ・・・シリアを攫った・・・っ!」
現れたのは、オリズだった。
しゃべるのでさえ苦痛そうな太一を背に庇い、ヤマトは怒りを隠さずオリズを睨む。
丈も、空を出来るだけ楽な体制にしてやり、そちらを睨む。
「・・・そこをどけ・・・っ!むやみに傷つけたくはない」
「そうはいかない。私も雇われの身でね。金の分は働かないとな」
男が手に持っているのは、吟遊詩人が使う、小さなハープ。
「ヤマトっ丈っ聞くな・・・っ」
ハッとし、太一は注意を促すが遅かった。
「音は想像以上の力を生み出す・・・」
指が弦を爪弾く。
「美しいものほど、ソレは強い」
柔らかに、しっかりとソレに声が乗る。
美しい音色の筈のそれに、ヤマトと丈は耳を塞いだ。
「な・・・んだよ、これ・・・っ」
「あ、たまが・・・われる・・・っ」
二人は思わず膝をついてしまう。
キリキリ、ガンガンと、鋭痛と鈍痛が入り混じって頭の中をグルグルと回る。
それは太一にも同様の症状をもたらした。
「・・・輝黎歌・・・っ」
何から何まで裏をかかれてしまった。
・・・自分たちの最大のミスは・・・・・・
自分たちの力を過信してしまい、人間たちの力を甘く見ていた事だ。
・・・そこで、四人の意識は途切れてしまった。



☆NEXT☆


コメント

はい、佳境に入りました☆(ようやく・・・)
なんか・・・今までの中で一番前置き長かったような気が・・・するね!(・・・)
こっからはバシバシ進めていきますね!
あーこういうの書くのホント楽し〜!(笑)