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flying 〜The sky story〜 38 太一たちが街に戻って来ると、空たちの手によって街人たちの手当てはほぼ終わっていた。 「オレが後やるから、空たちは休んでてくれ」 それを太一が引き継ぎ、街全体に回復法術をかける。 「こう言う時、ホントに太一が居てくれて良かったと思うわ」 太一の回復法術は、自分たちの疲労も癒してくれた。 力の容量が違うので、空たち3人が数度かけて街全体に回復法術をかけたのに比べ、太一は一回で強力な法術を全体に広めてしまった。 今は羨望よりも、ただ街人たちの無事が確保された安堵の方が大きい。 「僕は空くんが、そういう性格で本当に嬉しいよ」 隣りに居た丈にそう言われれば、空は照れて俯いてしまう。 ミミは地上で奔走して疲れたのか、光子郎に抱きついて『疲れた〜』を連発している。 そこで作業を一区切りし、太一たちは比較的無事な宿屋へと場所を移した。 「さっき街の人たちにバキラの・・・領主の場所を聞いてきた」 そう言って広げたのは世界地図ではなく、先日購入したこの辺りの地図だった。 「ここがオレたちの居る、カウィン。・・・で、ここがバキラ邸」 言って指差したのは、先程の林を抜け、更に置くにある四角い記号だった。 「でも・・・なんで領主がシリアを・・・?」 一部始終の話を聞き終え、空が至極当然な質問を投げかける。 「力だろうな。あの、唄の力」 ヤマトが腕を組み、ポツリと答える。 「しかも、シリア一人を攫うのに複数の人間が出てきた。これは周到なものだ」 太一もヤマトに賛同する。 そこで、沈黙が降りる。 「・・・で、お兄ちゃん・・・どうするの?」 相手が領主なら、迂闊に手は出せない。 しかしかと言って、シリアをこのままにさせておけば、危ないのは目に見えている。 「・・・行くしかないだろ・・・。あそこで弓を仕掛けたやつが居るなら、オレたちが天使だっていうのもバレちまってるはずだ。 向こうはシリアを攫っていった。それは・・・嫌な言い方するけど、『珍しいもの好き』なんだと俺は思う。 なら、オレたちが飛び込んでいくのなら、自分のものに出来ると向こうは喜ぶんじゃないか?」 苦虫を潰したような顔で太一は自分のセリフに嫌気を見せる。 「でも・・・またこっちを攻撃されたらホントにヤバイよ?」 街人たちは疲労しつつも復興を始めている。 自分たちの存在が天使だとばらしてしまえば、地の精霊王・ノームの力を使って手助けは出来る。が、世話のかけ過ぎる助けは惰性を生んでしまう。 「じゃあ、こうしたらどうかな?」 考えるように地図を見ていた丈が、小さく手を上げて意見を述べる。 「戦力を二つに分けるんだ。 広範囲に及ぶ魔術攻撃が出来るミミくん、法術と的確な指示を与えられる光子郎を街に残す。 で、すでに存在の知られてしまっている太一、ヤマト、それから体術に長けてる空くんと魔術のバランスで僕を入れた4人でバキラのところに乗り込むんだ」 「・・・私とタケルくんは?」 自分たちの役割が入っていなかったので、ヒカリは小さく呟く。 「ヒカリちゃんは高位階級で法術も長けてるからね。街に残ってくれ。タケルくんもだ」 しっかりと言葉には出さなかったが、丈は一番年下のヒカリとタケルを保身にかけたのだ。 必ず攻撃を受けるとわかっているところにむざむざと向かわせれないし、何より二人はまだ属性王の力を手にしては居ない。 それが、二人を残す大きな要因だ。 そして二人もバカではない。 その事をわかっているので、二人は渋々ながらも頷いた。 役に立たないわけではない。 むしろ、まだ幼い二人はこれから伸ばせるところがある。 太一やミミなどの陰になってしまっているが、タケルの魔力も高位階級に近い強さを誇る。 翼さえ隠していないのなら、魔物はあまり脅威ではないのだ。 「ヒカリちゃんを守ってあげてね」 「・・・うん。絶対」 「・・・・・・ぅ・・・」 身体に冷たい感触を感じ、シリアは薄く目を開けた。 意識が戻った事で、腹にも鈍い痛みが戻ってしまい、シリアは身体を丸めた。 手に不自由を感じたと思ったら、後ろで拘束されている。 足も同様だった。 「起きたか」 「・・・?」 声がした方を見ると、大きく豪奢な椅子に男がずっしりと腰を降ろしていた。 街で強制的に貼られているポスターで、幾度となく見た顔。 「・・・バキラ・・・っ」 思わず、呼び捨てをしてしまう。 シマッタと思ったが、向こうは特に気を悪くするでもなくニタニタと笑っている。 「・・・ほう・・・オリズ、この者が例の『唄』の持ち主か」 「さようで」 抑揚無くオリズが答える。 「おい」 バキラが兵を呼ぶと、一礼してからシリアを手荒くバキラの方へと運んでいった。 「は・・・なせ・・・!」 ジタバタと暴れるが、兵は動じずバキラの方へと歩んでいった。 バキラは立ち上がり、傍へと近づく。 そしてシリアの顎をやや乱暴に掴むと、検分するようにじろじろと見ていった。 強く掴まれているので、シリアは振り払う事も出来ない。 「・・・ふむ・・・容姿は合格だな。おい、唄ってみろ」 命令されるが、シリアは拒否をしめす。 「従わぬか?・・・なら、痛い目を見てもらおうか?」 バキラが指を鳴らすと、ムチを構えた別の兵が隣りに立った。 「そんなもの、いくらやられたって唄うものかっ!」 「気丈だな・・・では、街を攻撃するか」 「―――――――――っ!」 こういうものの心理を心得ているバキラは、すぐに次の手を打つ。 シリアは眉を顰める。 バキラはニヤリと口の端を持ち上げて笑い、兵に縄を切るように命じた。 「伴奏は?」 「そんなもの、いらない」 手足を拘束していた縄を取られると、シリアはフラフラしつつも立ち上がった。 そして、何呼吸か置いてシリアは口を開いた。 少女のものとは違う、声変わりしていない少年独特の高い声。 天井の高い部屋に反響し、更にその美しさに磨きがかかる。 まるで人形のように人間味も無く立っていた兵たちにどよめきが走り、一斉に魅了された。 柱に寄りかかっていたオリズも、口の端を持ち上げて薄く笑った。 「・・・ほう・・・」 バキラさえもその声に魅了され、感嘆めいた言葉を呟いた。 唄い終わり、シリアは眉間に皺を寄せてバキラを睨んだ。 「素晴らしい」 しかし、それにすらバキラは関心を寄せず、笑ったままシリアに手を伸ばした。 頬を何度も撫でられるが、シリアは今度は拒まなかった。 拒めば、何と言われるかは容易に想像がついたからだ。 「お前こそが相応しいと言うものだ。あの儀式には」 「・・・儀式・・・?」 何で自分などがココに連れてこられたのかが疑問でならなかったシリアは、バキラのその一言を思わず聞き返してしまった。 「そうだ。・・・まぁ何の儀式かは言えんのだがな。お前の唄が必要なのだよ」 「・・・なんで僕なんかの・・・」 「お前の唄の力は素晴らしいからだ」 自慢げに腕を伸ばし、バキラが笑う。 「お前に協力をしてもらいたい。・・・もちろん、断ってもらっても構わないがね。・・・それ相応のコトが返ってくるかも、しれんが・・・」 そして、触れ合うくらいに顔を近づけ、囁くようにバキラは脅しをかける。 「・・・・・・」 協力を拒めば、街の人に危害が加わる。 太一たちの力を持てば何とかなるかもしれないが、彼等に頼るには自分は他人過ぎる。 「・・・協力、します・・・」 苦渋の選択を、シリアはせねばならなかった。 シリアに部屋を用意させ、メイドに案内をさせた。 そして入れ替わるように、兵が入って来た。 「報告申し上げますバキラ様」 「なんだ」 「魔法隊長のスヴェールが撃たれ、情報が漏れる可能性がありましたのでこれを排除いたしました」 「澪皇石は」 「奪取ならず」 「ふん。余計な金を消耗したか」 部下の心配をせず、バキラは舌打ちをした。 「しかし、その者たちが実は」 「何だ」 「天使、と・・・」 「・・・ほう・・・どのような」 「一人は金髪の堕天使の男。・・・もう1人は・・・」 兵はバキラに近づき、耳打ちをする。 「・・・四翼の天使、との事で・・・」 「容姿は」 「バキラ様のお目にかかれるかと」 「・・・ほう・・・!」 嬉しげにバキラは目を細める。 「天使・・・しかも最高位の四翼の天使とな!これはいい・・・で、その者たちは」 「一時カウィンに戻りましたが、先程の歌唄いがおるのなら、連れ戻しに来るかと・・・」 「そうか・・・ならば最上級のお出迎えをせねばならぬな」 「はい。では、その用意を」 兵も笑みを深くし、深々と礼をした。 「儀式の歌唄いも見つかった。追っ手は四翼の天使。しかも双方容姿は美麗と来ている。 ・・・・・・今日は愉快だ・・・!」 椅子にまた深々と腰を降ろし、クツクツとバキラは笑う。 「・・・オリズ」 呼ばれ、オリズが今まで興味なさげに閉じていた目をバキラに向けた。 「報酬に更に2万ティル追加させよう。侵入者達・・・天使の捕獲にお前も加わってくれ」 「・・・3万」 「いいだろう。3万ティル追加だ」 オリズの要求を飲み、バキラは頷いた。 「・・・さて、楽しい宴の始まりだ」 コメント 今回の更新はそれなりに早く出来たのでよかったです☆ ・・・前々から恐怖してたのですが・・・2章、絶対に1章より長くなっちゃいますね・・・!(ヒィッ!) 次からは太一と空が大活躍☆です☆(予定/コラ) |