flying 〜The sky story〜 37

「サンダーブレードッ!!」
話す時間も取らず、男は魔術を放ってきた。
「うおっ!」
「・・・っと・・・」
あらかじめ円陣を組んでいたのか、通常のその術よりもずいぶんと強いものが放たれた。
それでも、翼を出したままの太一とヤマトは難なくそれをかわした。
「はっ!まさか堕天使と四翼の天使にお目にかかれるとはな!」
不利な状況の筈なのに、男はたじろきもせず術を繰り出してくる。
跳びながら、また法術で受け止めながら太一とヤマトは男の行動を窺う。
「・・・なぁ、おかしくないか?」
「ああ。太一もやっぱそう思うか?」
しばらくかわしていたが、妙な事に二人は気付いた。
男が高位の魔術をいくらも飛ばしてきているのに、疲れがまったく見られないのだ。
円陣を組み、増幅しているのはわかる。
だがそれにしても、人間の持つ『力』の許容量をどう考えても上回った使い方をしているのだ。
「ほらほらっ!!いつまで逃げ回っているつもりだっ?!」
「・・・っち・・・!」
男の放った巨大な火球が太一の翼を掠ったのだ。
「太一っ!」
ヤマトは思わず太一の方を振り返る。
太一の白い翼の先の方が、黒く焦げてしまっている。
「お前ッ!!」
ヤマトはカッとし、剣を取り出して男に急降下で向かっていった。
「ヤマトッ!」
その行動に焦ったのは太一だ。
相手が何かを仕込んでいるかもしれないのに、不用意に懐に入っては手痛い仕返しが来るかもしれない。
慌てて太一は、法術を唱え始めた。
「右手に宿りしは水を司るもの、『UNDINE』 ―ウンディーネ― 左手に宿りしは水を司るもの、『UNDINE』 ―ウンディーネ― を我はおく。
汝らの力を持ちて我に新しき力を与えよ・・・」
いきなり急降下してきたヤマトに驚いたのは、男も同様だった。
「・・・ファイアーボール!!」
慌てて、低級の火球を繰り出すが、何とヤマトはそれを手で振り払った。
「ハッ!」
それにより、多少体勢を崩しながらも男に剣を振り落とした。
「く・・・っ」
だがそれは致命傷にはならず、衣服と皮膚を傷つけただけになってしまった。
そしてその破けた服から、キラリと何かが光を反射した。
「この・・・っ。アブソリュート!!」
「レジスト!」
凄まじい冷気が一瞬だけヤマトに襲い掛かったが、すぐにそれは治まった。
間一髪、太一の法術が間に合ったのだ。
ヤマトは一瞬戸惑ったのち、すぐにその場を離れて太一の方まで跳んだ。
「ヤマト・・・ッ」
寄って来たヤマトに、太一は咎めるような心配したような視線を向ける。
「・・・悪い・・・」
つい、太一が傷ついたのを見てカッと血が昇ってしまったのだ。
太一はヤマトの火傷を負った方の腕に触れ、回復法術を唱える。
火球は大きかったが、一瞬しか触れていなかったために火傷は酷くは無かった。
傷を塞ぐと、太一はようやく安堵の溜め息をつく。
「・・・でも、無事でよかった・・・」
「ああ、悪かった。・・・それで、太一・・・」
「え?」
ヤマトが何かを告げていると、下の方からさらに魔術が飛んできた。
「・・・なるほどな。それなら納得がいくぜ」
それをかわし、太一は頷く。
「じゃ、俺が・・・」
「ああ。それが隙を作るから」
二人はそれだけ言うと、パンッとお互いの手を叩き、行動を別けた。
ヤマトがまだ剣を持っているのに男は気付き、別の術を唱え始めた。
「ラーヴァトラッパー!!」
すると、男の半径1メートルに紅いマグマのようなもの現れ、地面がグラグラと揺れ始めた。
『ラーヴァトラッパー』は、火系の法術で、結界に属す。
自分のある一定範囲に近づいてきたものを焼き殺してしまうのだ。
「なるほど・・・」
太一は細く笑み、自身も魔術を唱え始めた。
しかし、その間も男からの攻撃は止まない。
属性関係無く、太一を狙った術が飛んで来るのだ。
それをかわし、太一は指を男の方に向けた。
「イラプション!」
轟音と共に、爆炎が男に降り注ぐ。
だが、相手は同属性の結界・・・しかも増幅をかけたものを纏っているので、周囲の事を考えてセーブした太一の魔術では到底それは破れなかった。
「はははっ!!四翼の天使の力はその程度かっ!」
「そんな訳ないだろ?」
答えは、太一からではなくヤマトから届いた。
結界を張ったため、至近距離からの攻撃に無頓着になってしまっていた男は、ハッとヤマトの姿を探す。
辺りを見回して発見したヤマトは剣を地に刺しており、そのまま息を少し切らして笑っていた。
「お前が太一を傷つけた事を、後悔させてやるよ」
それだけ言うとヤマトは、刺してあった剣を天へと掲げた。
良く見れば、いつの間にか自分を中心に円が描かれている。
「我の周りに渦ましき鋭き風よ!この者に、風の裁きを!
鋭風翔乗(えいふうしょうじょう)!!」
円が一瞬光を放ち、男の周りを鋭利な風が取り巻き始めた。
「ふんっ!こんなも・・・っ」
鼻で笑ったのだが、その言葉はチリッと腕に感じた痛みに阻まれてしまった。
「な・・・っ?!」
風に乗り、先程太一が放ったイラプションで焼けた草や熱が、男に襲い掛かってきたのだ。
「・・・熱は、そんな結界じゃ意味が無いもんな?」
不敵に太一は笑うと、男の真上に飛んだ。
「グラビティプレス!!」
「ぐあっ!」
いきなりの真上からの重圧に踏ん張る事が出来ず、男は地に伏っした。
「我が前に伏し者。汝の自由を、我奪うなり」
太一が指を弾くと、一瞬だけ重力が更にかかり、男の意識を奪った。
「スプレッド」
太一はそのまま水を落とし、まだ火に焼かれている草も鎮火する。
男が目を覚まさぬうちに、ヤマトは男を仰向けにし、先程破かれた衣服へと手を伸ばした。
「どうだ?」
そこに、降りてきた太一が手元を覗き込む。
自分よりは太一が詳しいので、ヤマトは男から取り合えたものを太一に手渡した。
「魔法晶石か?」
ヤマトに問われ、太一は眉を顰めた。
「ああ・・・澪皇石(れいこうせき)っていう、かなり稀少なものだ」
澪皇石は、火真石のようにある属性に傾いている魔法晶石ではなく、全属性に対応した晶石なのである。
なので創られるのも見つけるのも本当に稀で、小さなカケラでも家が一件建ってしまうくらいの価値で取引されているのだ。
「これはでも本当に小さいからな。威力が強かったのは、こいつの実力もあるんだろうな」
「なーる」
とりあえず取り合げたところで、ヤマトは男の襟首を掴み、頬を一叩きする。
「おい」
「・・・ぅ・・・」
揺すると、男は呻き声と共に目を覚ました。
「これを、誰から貰った?シリアをどこにやった!」
太一たちの存在を思い出し、男は逃げ出そうとする。
「無理」
ヤマトはすかさず男の腕の関節に技をかけ、動きを止める。
「言え。・・・お前はヤマトを傷つけた。
・・・オレは、お前を許せない。だけど、殺したくも無い」
「俺も同様だ。太一の翼を傷つけたんだ。ただですむと思うな」
ここに空たちが居たら、『ゲロ甘っ』とでも呟いていただろう。
二人が本気と知り、男の瞳に躊躇が宿る。
・・・しかし。
「――――っ?!ヤマト、避けろッ!」
妙な寒気を感じた太一は、本能に従ってその場を立ち去る。
ヤマトも素直にそれに従い、退く。
「グアッ!!」
途端、男が前のめりに崩れ去った。
見れば、背中には矢が刺さっている。
「・・・ば、バキラさま・・・ぁっ!」
「太一っ!」
しかも、次々に矢が放たれて太一たちに降り注ぐ。
「プロテクション!」
太一は結界を張り、それから逃れる。
時間にすると数十秒、それは降り注いだ。
ようやく止んだと思ったら、もう気配は遠のいており、太一とヤマトは男に近づいた。
男にも結界を張っていたが、息絶えていた。
「・・・毒だ。矢尻に猛毒を仕込んでいたんだ」
「・・・ひでぇ・・・」
仲間と思われるものを、こうまであっさりと殺してしまうとは・・・。
しかも、こんな魔法晶石を持たされていたのならば、なかり高位ではなかったのではないのか。
「・・・シリア・・・っ」
もし、こんな非道なもののところにシリアが連れて行かれたのならば、シリアの命が危ない。
思わずヤマトの気持ちは急いでしまうが、それを太一が押し留めた。
「ヤマト待て!今行っても、もう追いつけない!」
「だけど!」
シリアを殺すのが目的なら、あの場であいつ等はとっくにやってる!
それをしなかったという事は、あいつ等はシリアに用があるという事だろ!?」
「それは・・・っ」
「あいつは賢い!妙に相手を逆撫でして、むざむざ殺されるようなやつじゃないだろ!?」
それに、と太一は続ける。
「あいつ等が誰の手のものか、わかった」
静かに呟いた太一の言葉に、ヤマトも先程の男の呟きを思い出した。
「バ・・・キラ・・・?」
コクリと太一が頷く。
「バキラ・カゼイル。このあたりを収める、領主だ」



☆NEXT☆


コメント

・・・約一ヶ月ぶりの・・・更新・・・?
しかも、戦いシーンで一話分とってしまった・・・!
でもでも、次くらいから深層に入っていきたいと思います。
・・・今何人くらい読んでくださっている方がいるか・・・不安だったり(汗)