flying 〜The sky story〜 29

自分とは違い、兄たちは何でも出来た。
勉強も、魔術も。
それは自分にとって自慢の親や兄たちだった。
そしてその反面、ソレは自分を苦しめるものだ。
親や兄は優しい。
恵まれてると思う。
でもそれは、逆にやはり自分を苦しめているんだ・・・。

眼が覚めたソコは、何も無いトコロだった。
天も地も無い。
だが、空を飛んでいるのとはまた違う感覚だ。
昏い・・・碧がかった闇の中、丈はただ独りソコに居た。
「・・・ここは・・・?」
『ここは風の間』
と、凛とした声が後ろの方から響いてきた。
驚いてそちらを見ると、そこには驚くほどに美しい女性がやはり浮かんでいた。
・・・美しいが、表情は乏しい・・・いや、冷たい。
女性は丈が振り返ると、また口を開いた。
『我は汝に力を与ゆるものなり。汝がこれを望むなら、我は汝にこれが力を与えよう。
力とは即ち、魔なり法なりの他に、召する力もまた我が持ちし力』
「ち、ちから・・・?」
淡々と語るそれに、丈は思わず聞きなおしたが、女性はそれを黙殺した。
『だが、これが力を汝が得るには犠牲が必要なる。
贄とは即ち天使なる者人なる者、またこれ以外の者もまた是なり』
もう丈は、呆然と聞くしかなかった。
女性は丈の眼を見て話している。
丈も、これから眼が離せない。
『贄はだが、汝が切に守るものに有らずでも由』
ピクリと、この言葉には丈の表情も動いた。
『さぁ、汝は我が力を有するか?有するならば、我に贄を捧げよ』
そう言い、持っていた杖の先をスッと丈の方に向けた。
「贄って・・・そんな事できる訳無いじゃないですか!!」
丈はキッと女性を睨み、そう怒鳴る。
女性はスッと瞳を小さくし、やや見下ろすようにやはり丈を見つめる。
『汝が関せし無い者を捧げればよいのだ。別に汝が切に思う者を奪うのでは無い』
「それでも!そんな事できる訳無いじゃないですか!」
すると女性は、何か珍しいものでも見る眼で丈を見つめ始めた。
『我が力を有すれば、汝を越えし者は居なくなるのだぞ?四翼の天使も、親達も』
その一言に、今度こそ丈の身体がビクリと動いた。
『其れはお前の傷の筈。自分の力を、見せ付けたいとは思わぬのか?』
丈は何も言えない。
そんな丈を見て、女性は溜め息をついて、丈の方に向けていた杖を下ろし、自分の足元を一突きした。
何も無いはずのそこから波紋が広がり、広がるごとに景色が変わっていく。
「・・・なっ・・・ここは・・・っ!?」
丈は驚いた。
自分の浮いているソコ。
ソコは、堕天使領土だった。
「なっなんで・・・っ!?」
今自分は『アース』に居るはずなのに。
そして、その眼下には・・・。
「し、シン兄さん!」
そしてその隣りにはシュウが居る。
「な、なんで・・・」
『汝はこれらの存在が憎いのであろう?』
丈が混乱していると、女性が再び語り出した。
『力を求めよ。汝が我に贄を差し出せば、汝は無限の力を手に入れられるのだぞ?』
丈は答えない。答えられない。
女性はまた溜め息をつく。
『汝が力を手に入れてみよ。汝が親たちよりも、より高い地位を手に入れられるのだぞ?』
ばっと丈は女性を見る・・・睨む。
女性は怯まず、また淡々と語る。
『勉学に励む事も無い。嘲笑われる事も無い・・・何を悩む?』
「・・・でも・・・!」
『兄たちだって、心の中では出来の悪い子だと思っていたのだろうよ』
「――――――っ」
『想い人さえも・・・』
女性はそこで、嘲笑じみた笑みを浮かべた。
『そう、思ってるとは思わぬか?』
『想い人』とは、空の事を指しているのだろう。
それでも、丈は何も言い返せない。
『さぁ、我の力を求めるがいい』
「・・・僕は・・・」
丈は本当に混乱していた。
いきなりシルフにここに連れて来られたと思ったら、いきなり『力を与える』といわれ、何故か堕天使領土のその真上に居る。
――――家族に不満を持っていたのは本当だ。
いや、それよりも、力無い自分にか。
父親も母親も兄たちも、自分以外の家族みんな高位階級だ。
だから自分は領土で独り住まいだったし、家族に会うためにちょくちょく否神殿に行っていたのだ。
兄たちは優しかった。
いつでも自分の身の心配をしてくれたし、父親と母親も、いくら忙しくても会うくらいの時間を作ってくれた。
・・・でも、それは逆に自分が無力なものに思えてくる。
力が無いのはツライ事だと確信的にわかったのは、あの天使と堕天使を分ける『風の境目』を取り除いた戦いの時だ。
ヤマトを死なせてしまった。太一をあそこまでどん底に落としてしまった。空を―――――
・・・空を、傷つけてしまった。
眼下の兄たちを見下ろす。
・・・・・・自分は・・・・・・。

がんばって

丈先輩は、丈先輩なんだから

・・・好きです。・・・そんなあなたが、好きです・・・・・・

―――――――笑顔、が・・・。
ハッと丈は目を開く。
少し目線を彷徨わせた後、丈は泣きそうな、それでもとても嬉しそうな顔で笑った。
「・・・うん。そうだったね・・・」
その言葉に、女性が眉を潜めた。
「すみません。やっぱり僕は、あなたの力を手に入れる為に他の人を犠牲にするなんて事は出来ません」
『愚弄な事を』
女性の視線がきつくなる。
丈は怯まなかった。
「総ての力を手に入れるなんて事は、出来ないんですよ」
今度は丈が語り出した。
「力は、その人達が持っててこそ本当の力を発揮できるんです」
『ならば、汝が持てばよかろう』
丈は首を横に振った。
「その力は、僕が持つものじゃないですよ」
『・・・・・・?』
「確かに僕は家族に対して重圧見たいのを感じていた。・・・でもそれは、逆に僕にはあった方がいいんだ」
それは自分が自分で居る事の証。
それがあったお陰で自分はヤマトたちに出会えた。
こうして、天使たちと和解するキッカケの一人にもなれた。
・・・空に出会えたんだ。
「僕が力をほしいとするなら、それは仲間を守れる、それだけの一つの力です。
自分が高見に登りたいから力を手に入れたいんじゃないです」
『それは夢だ。現実には有り得ぬ』
「僕にしてみれば、すべての力を手に入れるなんて事の方が夢ですよ」
そう言い、丈は笑う。
この空間に来て、初めてしっかり笑った気がした。
「力は、独りが総て持ったって意味が無いんですよ。
守れる力と戦える力。それをそれぞれが持つからこそ、本当の力だって思います」
僕は・・・。
「僕は今までのままの自分がいいです」
『・・・・・・』
「そうでしょ?あなただって、その一人でしょ?・・・シルフさん?」
女性の表情が動いた。
そして、すっと笑みを浮かべた。
それから、女性の姿が風で見えなくなった。
・・・ようやく風が収まり、丈が眼を開けるとそこには・・・。
「・・・ごめーとーvvv」
幼い、シルフの姿があった。



☆NEXT☆


コメント

何だかちょっとばかし話がずれててごめんなさい(土下座)
しかも何か展開早っ!
過去最短で終わる精霊編かも知れない〜(汗)