9 『相愛』

あの後ユーリはボリスに答えを出さないまま、部屋を後にした。
『答え』とは、すなわち告白の・・・。
不安はひとつ消えたものの、そのことが渦巻いて、結局夜は眠れなかった。
目の下にクマを作って練習に出たが、はやりボリスは来ておらず、ユーリは練習に身が入らなかった。
イワンとセルゲイはビックリしてそれを見たが、結局何も聞かなかった。
仲間の、こういう小さな優しさが嬉しい。
練習を終え、ユーリは迷う。
理由を知ったのに、前みたいに『練習に来い!』なんて言えないし、何もしないのは避けてるみたいだし・・・。
とぼとぼと歩いていると、ポンッと後ろから肩を叩かれた。
後ろを見ようとすると、頬に何か細長いものが当たった。
そこには、ボリスが立っている。頬に当たったものは、ボリスの指。
「・・・・・・」
どう反応をすれば迷っていると、ボリスがユーリの横に立った。
機嫌が良いのか、ニコニコと笑顔だ。
「練習、終わったのか?」
「あ、ああ・・・」
「じゃあ」
そう言ってボリスは笑顔のままユーリの手を握った。
「・・・は?」
ユーリがワケがわからず眉を寄せていると、ボリスが走り出した。
「ボ、リスっ!?」
ユーリはビックリするが、手をボリスに握られているのでどうしようも出来ない。
「ちょ・・・おいボリス!どこ行くんだ!」
「ま、いいからいいから」
ボリスはあっけらかんと言う。
握られている手に、ぎゅっとボリスが力を込める。
「・・・・・・」
そういえば、手を握られると事は久々だな、とユーリは思う。
まだ親と一緒に居た時はよく握ってもらったが、ここ・・・修道院に来てからは、売られた日にヴォルコフに部屋まで案内してもらった時以来だ。
昨日もボリスと手を握って廊下を歩いた。
その事を思い出し、ユーリもぎゅっと手を握り返した。
込められた力に、ボリスは振り返る。
頬を少し染めつつも手をしっかり握るユーリがかわいい。
ユーリに気付かれないように笑うと、更に走り続けた。
着いたのは中庭だった。
「はい、ちょっと失礼しますよ〜〜〜」
ボリスはそう言って身を屈めると、ユーリの身体を肩に担ぎ、樹を登り始めた。
「!!」
どこかで見たような展開にユーリは最初こそ驚くが、すぐに抵抗を開始する。
「降ろせ!樹くらい自分で登れる!おーろーせっ!」
「はーいはいはい。暴れるなって」
よしよしとユーリを宥めながら、片腕で樹を登る。
時々足を滑らせながらも、何とか登りきった。
そこは、前にもボリスに担がれて登った、あの樹の、あの幹・・・。
「・・・雪が・・・」
雪解けが始まっていた。
雪の白が消え、コンクリートの灰色や、樹の緑が目立ってきた。
濡れて、子供が滑っている。
自分たちのいる樹も、かぶっていた雪が解けて、水を含んでいる。
服や肌が濡れたが、気にならなかった。
寒さはまだ消えないが、雪の消えつつある街は、暖かかった。
「泥が跳ねて、ホコリが舞って、水が落ちてきて・・・芽吹くまではあんまり綺麗じゃないけど・・・俺は好きだよ」
ユーリはぼーっと見ていたが、ボリスのその言葉に、自然に頷いていた。
「・・・うん。オレも、好きだ・・・」
ユーリ自身、自然に漏れてきた言葉だったが、ボリスは嬉しそうに頷いた。
「ユーリ」
座っているユーリは、立っているボリスを見上げる。
「・・・俺な、2重人格の事・・・イワンとセルゲイに話してみるよ」
「えっ!?」
ボリスは笑っている。
無理じゃない、迷いの無い瞳。
「避けられたらしょうがないけど・・・もしかしたら、理解してくれるかもしれない。
・・・閉じこもっていちゃ、しょうがないから」
そうしていたら、永遠に自分は独りだから。
ユーリは、何か言いかけた口を閉じ、正面・・・街の方を眺める。
すぐ横にあるボリスのズボンの裾を、小さく掴む。
「・・・オレは、傍に居るからな」
ボリスは驚いてユーリを見る。
ボリスからの視線だと、ユーリの顔が見えないが、耳が真っ赤に染まっていた。
ふっとボリスも少し頬を染め、膝をつき、ユーリを呼ぶ。
再びボリスの方を向くと、すぐそこ・・・それこそ額が触れそうなところにボリスの顔があり、驚く。
「それは、告白の返事ととっていいのかな?」
「―――っ!!」
火が出そうな勢いでユーリの顔が更に染まる。
素直な反応が面白い。
「ゴメンゴメン、じょうだ」
「いいよ」
冗談だ。と続ける前にユーリがポツリともらす。
は?とボリスが聞く前に、ユーリが更に言葉を続ける。
「・・・オレも、お前の事、好きだから・・・」
癒された。
癒されていく、孤独・・・。
ユーリが小さく笑む。
ド肝を抜かされたボリスの答えは・・・
「よ、よろしくお願いします・・・」
だった。



☆NEXT☆


コメント

ラブラブ・・・?(不安)
ようやくここまで来れたって感じですー!!
次の話しでラストです!
最後までお付き合いいただけたら嬉しいですv