8 『会話』

あのまま雨の中に居るわけにも行かず、ボリスはユーリをつれて自室へと連れていく。
ユーリは青い瞳を真っ赤に腫らせて、無言でボリスの後をついてくる。
繋がれた手が、雨に打たれて冷えているはずなのに暖かい。
静まり返った廊下に、2人分の足音だけが響く。
ボーっとボリスは、何故先程自分の中のケモノが収まったのか考えていた。
ユーリに触れられた瞬間、いつもの靄のかかったような意識がぱっと四散し、普段の思考に戻った。
『傷つけたくない』
そう、思ったら・・・。
ふっとボリスは笑みを作る。

ボーっとボリスの部屋の前で立っているユーリの手を引いて、中に入れてやる。
暖房とストーブを入れて、風呂に湯を入れる。
バスタオルで自分の髪を乱暴に拭いた後、ユーリの髪を自分のよりも優しく拭いてやる。
濡れた服のままでは風邪を引いてしまうが、まさかボリスがそこまで出来るはずも無い。
風呂もまだ沸くには20分はかかるだろう。
ユーリの肩にタオルをかけ、ボリスは奥の、服をしまってあるタンスのところに向かう。
なるべく暖かそうな服を上下選んで、急いで持っていく。
ユーリはまだ突っ立っている。
「・・・ユーリ、風呂場の方行って着替えて来い。シャワーとかも勝手に浴びていいし・・・使い方、わかるだろ?」
ユーリは反応を返さない。
先程度違い、まったく感情を返さないユーリにボリスは戸惑う。
怒るにしよ、戸惑うにしよ、ユーリは今まで何らかの反応を返していた。
「ユー・・・」
もう一度ユーリの名を呼ぼうとすると、ユーリの両手がボリスの襟らへんを掴んだ。
いきなりの事にボリスがビックリしてユーリを見ると、ユーリは潤んだ瞳でボリスを睨んでいた。
「・・・さっきのアレは何なんだ・・・オレにわかるように説明しろ・・・っ」
否を唱えさせないような圧力にボリスは押されながら、はぁっと溜息をついた。
「着替え終わったら、話してやるよ」

下はジーンズ、上はフワフワの黒いモヘアのセーターを着て、ユーリはソファーに座っている。
今度は大きな服にそれほど怒りは沸かなかった。
・・・それ・・・怒りは、別の方向に向いていて・・・。
ユーリが着替えている間に、ボリスは暖かなホットミルクを入れてくれた。
蜂蜜を落としてほんのり甘い液体を飲みながら、視線はやはりボリスに向いている。
『さぁ、話せ』
そう訴えている。
ボリスは苦笑して、ホットミルクを口に含んだ。
「・・・ユーリは、ヴォルコフサマのやろうとしてること、知ってるだろ?」
唐突な質問に眉をしかめながらも、ユーリは、ああ。と頷いた。
「日本の火渡エンタープライズと手を組み、最高のベイブレードと最高のベイブレーダーを造りあげて、この世界を手中に治める、だろ?」
数年前まではその火渡エンタープライズ現会長の孫がこの施設に入っていたらしいが、ユーリはあまり面識が無い。
どうやら向こうはその時、少し上の階級のところに住んでいたらしい。
いつのまにか消えてしまったその存在は、あまり噂にはならなかった。
『負けて』罰を受けてしまったのかと言うものと、力の持たないベイブレーダーは、目的そのものの事を知らないからだ。
「そうだな・・・。じゃあ、『人間兵器』って知ってるか?」
聞き覚えの無い言葉に、ユーリは眉をしかめる。
「ある溶液の中に入れられてな、身体や脳の中弄りまわされて、力を増幅させるんだ。
体力、知力、聖獣を操るための力、それを支配するための力・・・」
それを聞いて、見る見るユーリの顔が驚愕に変わっていく。
「ま、さか、お前・・・っ」
ボリスは何とも言えない笑顔を浮かべた。
「『罰』を受けた子供の中にも、何人かはこの『試作』に使われたんだ。
精神を破壊されたもの、自らを傷つけようとするもの、力を余してしまい、廃人同然になっちまったもの・・・。
いろいろ見てきたよ。・・・・・・そして、俺自身・・・」
ボリスは自分の手をじっと見る。
ユーリは何と声をかけていいのかわからない。
「俺の場合は、ベイブレードを持つと性格が変わっちまう。まぁ、一種の2重人格だな・・・。
ただ、俺の場合は俺の中のモノが出てきても、テレビみたいにソレを見て、覚えているんだ。
・・・映像も、感触も・・・」
見ているその手をギュッと握り締める。
いかに強く握っているかは、手が震えているのでわかる。
「俺はその中でも『よく出来た方』でな。性格変わってもベイブレード操る力はアップしてるし・・・ヴォルコフサマに評価してもらえて、今のこの地位に治まっているのさ」
ユーリはボリスから視線を逸らせる。
「・・・じゃあ、練習に来なかったのは・・・」
「・・・この手で誰かを傷つけたくなかったから」
ズキンと胸が痛む。
ユーリはそれを、ぎゅっとジーパンを掴むことで耐えた。
ボリスはその悩みを、誰にも言えずにずっとずっと抱えていたのだ。
しかも、激痛を伴って・・・。
なのに、確かにわかっていなかったにしても、自分が今までボリスにしてきたことは、何てその傷を抉ってきた事なのだろう。
そんなユーリの心を読んだのか、ボリスは苦笑を浮かべた。
「確かにな、この身体はあんまり好きじゃない。オレも昼間に大好きなベイブレードと友達と一緒に練習したかった」
ユーリの眼にまた涙がたまっていく。
・・・自分の涙腺はこんなにも脆かっただろうか?
「でも・・・でもな、ユーリ」
ボリスはユーリにこちらを見るように促す。
ボリスは、柔らかい笑顔を浮かべている
「1軍になって、お前と話出来て・・・別の楽しみが出来たんだ。
追いかけっこも、木登りも、かくれんぼもとっても楽しかった。
今まで陰口言うヤツはたくさん居たけど、それを実際声をかけてくれたり、毎日追いかけてくれたりしてくれるヤツなんて居なかったから」
ユーリの顔に戸惑いが浮かぶ。
「それに、俺の中のモノが出てきてあんなに短時間で戻ったことも、誰かに手加減出来る事も今ではやれなかったんだ。
わかるか?ユーリ。結局俺は、お前に救われているんだ」
過去形でない、現在進行形のその言葉。
「お前を傷つけたくないって・・・ああ、ユーリの事好きなんだなって、改めて思ったよ」
ボリスは向かい合っているソファーを移動して、ユーリの方に行く。
「俺は孤児だから、もともと親からの痛みなんて知らないんだ。
それもユーリ、お前が教えてくれた。『一番痛いこと』を教えてもらった」
それは、『大切なものを失いたくない』と言うこと。
「離れないよ」
ユーリの喉が鳴る。
一筋涙が流れた。
ボリスはそれを指で拭って、ユーリを静かに抱きしめた。
ユーリは一瞬ピクッと身体を強張らせたが、すぐに力を抜いた。
「もう、離れられないんだ・・・」
ボリスの声は、どこまでも優しく、強さを含んでいた。



☆NEXT☆


コメント

中途半端とか言っちゃダメv(微笑)
もーちょっと伸ばしていきますー・・・。
ラブラブ・・・ラブラブを出さなくては・・・!!(切実)