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7 『正体』
・・・あれから・・・。 あれからユーリは、ボリスを追う事がどうしても出来ず、部屋に戻ってきた。 ヨレや皺の残るベットに座り、先ほどの事を考える。 鼻と眉の間に皺を寄せ、振り向いた瞬間の、隠そうともしな殺気。 ・・・恐い、と思った。 初めてボリスが恐いと思った。 ユーリは両腕で自分の身体を抱きしめる。 でも、これで離れる理由が出来た。 これで、自分もボリスを追いかけなくてすむし、ボリスも自分を気にかけることはもう無いだろう。 何で、ボリスがあんなふうになるのかはわからないけど・・・。 「これでいいんだ・・・」 呟いてみると、心がツキンと痛んだ。 「・・・もう傷付きたくないんだ」 また、痛む。 「『好き』なんて・・・」 そこまで独り言をもらしたら、涙が出た。 パタッと音を立てて、自分の白いズボンにシミが出来る。 自分の中で誰かが呟く。 ――――本当に?―――― ふっと小さな嗚咽を漏らし、ユーリは膝を抱えて泣き始めた。 離れたいのに離れたくない。 好きじゃなければいいのに、好きだなんて。 こんなにも、こんなにも、いつのまにかボリスの存在は大きくなっていた。 「ボ、リス・・・」 声に出してみると、少し心が落ち着いた。 笑顔。 あの笑顔に惹かれていった。 包み込むように優しく笑ってくれる、あの表情に。 交友関係を持たないユーリにしてみれば、ボリスは久しぶりに『自分にだけ』の笑顔を見せてくれた存在なのだ。 ・・・それは、親以来の・・・。 「会いたい・・・」 声に出してみる。 「会い、たい・・・」 そうじゃなければ、今にも自分が壊れてしまいそうで。 次の日、ユーリは初めて訓練をサボった。 イワンもセルゲイも大層驚いたが、ヴォルコフに報告はしなかった。 最近のユーリはどこか元気が無かったので、まぁたまには。ということになったのだ。 ユーリは朝から走り回り、ボリスを探した。 部屋はもちろん、あの中庭に屋上に食堂・・・隅から隅まで探したはずなのに、どこにも居ない。 ユーリは焦る。 下・・・街に降りるにはヴォルコフの許可書がないと降りれないので、それは考え難い。 では、ボリスが自分を避けているのだろうか? そう思うと胸が少し痛くて、それ以上に闘争心が湧いてくる。 ・・・そっちがその気ならこっちも全力で見つけてやる。 ユーリはまた走り出そうとし、ある事を思い出す。 しばらく考え込むように佇むんだ後、クルリと踵を返して歩き出した。 日が沈む頃、ユーリの姿がどこにも無いことを確認すると、ボリスは例の中庭の樹の幹から降りた。 実は、ユーリの後を追っていたのだ。 まさかユーリも、自分の後ろからだるまさんが転んだ方式に追いかけていたとは気付かなかっただろう。 ボリスは溜息をつき、歩き出す。 一日で一番憂鬱な時間。 何故かベイブレードを持つと性格が変わってしまう。 タチが悪いのは、それを覚えていること。 前・・・それこそ小さな頃にボーグでベイの練習した時に、何故かざわざわと血が騒ぎ、気が付けば、辺りに居た子供たちに大怪我を負わせてしまったのだ。 孤児(みなしご)のボリスは、修道院で育った。 親の顔も、家族のぬくもりも知らない。 だから、痛みなんて知るはずも無い。 ヴォルコフに育てられたボリスは、小さな頃から過酷な訓練を受けてきた。 ベイを持つと性格が変わってしまうという現象が起きたのは、ヴォルコフにある溶液に入れられた後から出たものだ。 ・・・いわゆる、人体改造。 試作としてボリスはそれを受けたのだ。・・・いや、受けされられたのだ。 「・・・別にお前が嫌いなんじゃないよ、ユーリ」 ただ傷つけるのが恐くて。 こんな醜い自分を見られるのがたまらなく厭で・・・。 ぽたっと、頬に空から冷たいものが降ってきた。 まるで今の自分の心を表しているような、雨。 構わず歩き出し、そんな事を考えていると、ボリス専用の練習場に到着した。 抉られたコンクリート。 薙ぎ倒されている樹。 来るたびに胸が痛む。 もし自分がユーリを傷つけてしまったら、と思うだけで、心が千切れそうになる。 はぁ、と溜息をついて、ファルボーグをセットしてあるシューターを取り出す。 ワインダーに指をかけると、思考に靄がかかったようになり、身体がざわざわする。 ドクドクと心臓がうるさいくらいに鼓動し、喉から自分のものとは思えない低い声がもれる。 そのまま、ワインダーを引く。 辺りを破壊し、正面の樹の幹にめり込む。 それだけではファルボーグは満足せず、上に向かって幹を裂いて行く。 「ボリス!」 そこで、聞えないはずの声が聞える。 後ろを振り返ると、息を切らせたユーリが立っていた。 「ユー・・・」 自分の中のケモノが、ユーリに目標を定めようとしているのがわかる。 手に力がこもり、肉を裂きたがる。 ―――ダメダ!! ボリスは何とか自我で抑えようとする。 「ユーリ、く、るな・・・頼むから・・・っ」 ボリスは下がり、ユーリとの間に間を開ける。 少しでも間隔をあけておけば、もし自分が自分に負けても、ユーリが逃げれる割合が増える。 なのに、ユーリは自分に近付いてくる。 放つ殺気に気付かないはず無いのに。 「・・・ユーリ、頼むから・・・っ・・・離れてくれ・・・」 そういうと、ユーリの歩みがピタリと止まった。 ホッとし、そのうちに逃げようとする。 ・・・そこで、ユーリの眼を見てしまわなければ。 ポロポロとユーリは涙を流していた。 濡らす雨とは違う、目から流れてくるもの。 ふと気を緩めてしまい、また自分の中のモノが暴走を始める。 はっと気付いた時、自分の両手はユーリの白い首にかかっていた。 ユーリは抵抗せず自分を見ている。 濡れた瞳で。 「ユー・・・」 ボリスは眼を細める。 自分の意志に反する力を、何とか止めようとする。 「離れるな・・・」 ユーリが震える声でそう言う。 「オレの親は、金でオレを売った。 暖かな家も、暖かな笑顔も、暖かな手も・・・全部、嘘だった・・・」 突然ユーリが話し出したことに、ボリスは驚く。 今まで一度も自分の事を・・・弱味を見せたことなどなかったのに。 「ボリス」 呼ばれ、ボリスはユーリの顔をしっかりと見る。 「お前も、オレから離れるのか?」 ぎゅっと、幼子のように、ボリスの服を掴む。 そのまま、その手が背中へと移動し、自分を抱きしめた。 首にあったはずの手は空をさまよっている。 「嫌だ・・・」 ボリスが呆然としていると、ユーリが服に顔を押し付けて、くぐもった声でしゃべりだした。 「もう、『大切』を失うのは、嫌だ・・・」 ボリス・・・。 名前を呼ばれ、ボリスは自分の中から、あの凶暴なモノが消えていることに気付く。 今までこんなことはなかった。 一度凶暴化してしまったら、欲望・・・破壊欲を満たさないと元に戻れなかったのに。 さぁぁぁ・・・と、雨が優しく、冷たく自分たちを包む。 ボリスは、ユーリの身体をゆっくりと、それでもしっかりと抱きしめた。 コメント と、言うわけです(どういうわけだ) ようやく核心に入ってきた(安堵) これからラブラブに・・・―――――なったらいいなv(・・・) |