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6 『遭遇』
ユーリは息を切らせて部屋に入った。 乱暴に戸を閉めると、すぐに寝室に直行する。 そうして、そのままベットにうつ伏せに倒れこむ。 息が切れる。 頬の熱さがたまらなく厭だ。 「なんで・・・」 ユーリは枕に顔を埋め、絞り出すように声を出す。 「なんで・・・・・・」 その後が続かなくて、ユーリはたまらなく嗚咽を漏らす。 涙が止まらない。 認めたくない。 『誰かを想う事』なんて・・・。 鼻を啜ると、いつもと違う匂いがする事に気付く。 それは、自分の着ているボリスの服。 いつの間にか、一番自分の傍にいる存在。 1軍になるまで話しさえしなかったのに、今は気になって気になって仕方が無い。 眼を、離せない・・・。 それでも。 「・・・認めない。・・・・・・認めて、たまるか・・・っ」 傷付くのはもうたくさんだ。 どうせボリスだって、いつかは離れていく。 ・・・自分の両親のように。 いとも簡単に自分を捨てて・・・。 「認め、ない・・・」 痛くて痛くて、身も心も裂かれそうだった。 泣きたい自分に、過酷な日々が追い討ちをかけるようにやってきた。 保守でも何でもいい。 もう、これ以上誰かを『大切』に想って、失うのは嫌だ。 ユーリの意識は、そのまま眠りに落ちていった。 次の日、ユーリは眼を真っ赤に腫らせて練習場に来たので、イワンとセルゲイは驚いた。 聞いても、ユーリは答えてくれないだろうと思い、どうしたとは聞かなかったが。 ワインダーを引きながら、ユーリはボリスの事を考えていた。 思った通り、今日もボリスは練習に来ない。 それは予想した通りなのだが、問題は練習の終わった後。 いつもの通り、ボリスに説教をしに行くか、やめるか。 公私を混同するのはユーリの精神に反するが、今は会いたくない。 そんな事を考えてシュートしたので、ウルボーグは狙いを外れて外に飛び出してしまった。 ユーリの不調を心配と言うよりは驚いて見ているイワンとセルゲイは、目を見合わせてどうしたのかと言い合っている。 ユーリは俯きながら、ボーっと外に出てしまったウルボーグを拾うべく、出て行った。 ウルボーグは庭の刈られた芝の上に転がっていた。 ユーリはそれを拾い、溜息をつく。 と、向こうにある一本の樹に眼がとまる。 それは、前にユーリが無理矢理ボリスに登らされた樹。 それでも、その上から見た景色はとても綺麗で・・・。 イワンに呼ばれ、ユーリは、はっと意識を現実に戻す。 「今・・・行く・・・」 ユーリは踵を返して、また練習場に戻っていく。 結局ユーリはその日、ボリスを追いかけずに、練習を終えるとすぐに自室に戻った。 ウルボーグとヴォルコフから預かった書類を、眼をろくに通さずテーブルに粗雑に置く。 そのまま身体を、ベットに埋める。 調子が出ない。 うつ伏せの身体を仰向けにして、ぼーっと天井を見る。 昨日あれだけ寝たはずなのに、自然に瞼が下がってくる。 思考が低下しているユーリは、躊躇い無く眠りを受け入れた。 「・・・・・・」 ふと眠りから覚める。 周りが先ほどと違って、紺色に染まっている。 「・・・っ!!」 ばっとユーリは身体を勢いよく起こし、時計を見る。 もう時計は夜の時刻を指していた。 「やば・・・」 ユーリはベットから降りて、まず部屋の電気をつけた。 それからパソコンを立ち上げて、エクセルをつける。 プリンターが付いていることを確認し、印刷を開始する。 これを、今日中にヴォルコフの元に届けなくてはいけないのだ。 食事の時間はとっくに過ぎているが、もともと食の細いユーリは気にせずに身なりを整える。 バタバタといつも昼間のうちにする事を片付けていく。 その間にプリントが終わったらしく、ユーリは封筒に入れて部屋を飛び出す。 さすがに廊下は走らず、早歩きでヴォルコフの入る別棟へ向かう。 何とか期限内に間に合い、ヴォルコフに一礼したユーリは、ふうっと溜息を漏らす。 余計に疲れてしまい、ユーリは伸びをしながら来た道を戻る。 それでも、いつもよりも寝れたためか、身体の調子は良い。 ・・・これからまた眠れるかが問題だが・・・。 ユーリはそんな事を考えながら歩いていると、硬質な音が聞えた。 「・・・・・・?」 最初は気のせいかと思ったが、何度も何度もその音が聞える。 『夜な夜な修道院の中庭辺りから硬質なものがぶつかる音と獣の唸るような声がするらしい』 いつだかイワンとセルゲイが話していた事を思い出す。 ユーリはどうしようか迷う。 しかし、いざとなればウルボーグがある。 ユーリはシューターをしっかり握りと、音の聞える方へと静かに歩み寄った。 近くに行くにつれ、『獣の唸るような声』も聞えてきた。 ぅぅぅ・・・と言う低い声。 そして、ぶつかりあう音・・・。 ユーリはドキドキとする心臓を抑えるように、何度か深呼吸をする。 「動くな!」 物陰から出て、ユーリはシューターを構える。 ・・・そこには、見慣れた服・・・。 驚きを隠せなくて、ユーリはシューターを構える腕の力を抜く。 ユーリに気付き、ソレはこちらを向く。 薄紫色の髪。月の光を弾くリングピアス。 しかし、いつものヘラヘラと笑っている顔からは想像もつかない、凶悪な顔・・・。 「・・・ボ、リス・・・」 ユーリは、ただ混乱していた。 それでも、その目の前の光景が信じられなくて、前に・・・ボリスに向かって進む。 一緒に、ボリスがさがる。 睨むような視線の中に、戸惑いが見える。 「ボリス・・・」 ユーリはまた進む。 「く、るな・・・っ」 唸るような低い声に、ユーリは思わず足を止めてしまう。 明らかに様子が変だ。 「ボリス、どうしたんだ・・・っ」 そのままユーリはボリスに尋ねる。 ボリスはファルボーグとシューターを強く掴むと、苦しそうに頭を抑え、フラフラと後退する。 「・・・ボリス!」 ユーリはそれに気付き追おうとするが、ボリスがいち早く動き出し、闇にまぎれてしまった。 ・・・それ以上追う事も出来ず、ユーリは唖然と立ちすくんでいた。 コメント ・・・10話ぴったりで終わるかとっても微妙・・・(笑) とととと、とりあえず7話でもうちっと話進めておかないと・・・(ビクビク) ボリスがどんどんヘタレになっていく(小声) |