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4 『否定』
いつの頃からだろう。 修道院内に変な噂が立つようになった。 「ユーリは知ってっか?」 主語もなくイワンに言われ、ユーリはクエッションマークを浮かべる。 「何をだ?」 「夜な夜な修道院の中庭辺りから硬質なものがぶつかる音と獣の唸るような声がするらしい。 修道士たちが見回っているが、その姿を見たものは居なくてな。 化け物が住み着いたのではと噂が立っているのだ」 イワンの代わりにセルゲイが簡潔に説明をする。 「な、ユーリはそういうの信じるか?」 イワンがソファーから身を乗り出して聞いてくる。 ユーリは書類から目を離さず、溜息をつく。 「居ると言うのなら居るんだろうな。まぁ見ないうちには何とも言えんが」 イワンはともかく、セルゲイはその答えに少し驚いた。 ユーリなら絶対否定すると思ったのだ。 そんなセルゲイの驚いた顔が目に入ったのか、ユーリは付け加える。 「聖獣というものが存在するんだ。霊や化け物があっても別におかしくはないだろう?」 「・・・まぁ、なるほどな・・・」 ところで。とユーリはバサッと書類を手荒に机に置いた。 「そんな事よりまたボリスが練習をサボったらしいな?」 今日はヴォルコフたちと共に街の方に出掛けていたのでユーリは練習に出れなかったのだ。 そのためボリスを探すことも、注意することも出来なかった。 「まったく・・・あいつをどうしろと言うんだ・・・!」 イライラとしたユーリの態度に、イワンとセルゲイは顔を見合わせる。 「・・・なぁユーリぃ・・・オレが言うのもアレなんだけどよ。ボリスのヤツはほっとけばいいじゃねぇか?」 イワンに言われ、ユーリはキッと一瞬睨んだが、すぐに視線をそらした。 「・・・オレはボーグのリーダーだ。それを自慢するわけではないが、統率するのが義務だろう? 乱すものが居れば正すのもオレの役目だ!」 相変わらずヘンなところで正義感が強く、二人は眼だけ合わせてそっと溜息をついた。 もうユーリの頭から、先程の化け物の噂は消えていた。 コンコン。 部屋の扉を叩かれ、少なからずボリスは驚いた。 今までここを尋ねるものも居なければ、交友関係も持っていないからだ。 呼んでいた本にしおりを挟み、ベットから起き上がると、やや訝しげに扉を開ける。 そこには不機嫌さを隠そうともしないユーリが居た。 ああ。と何となく嬉しくなってボリスはユーリを部屋に通そうとする。 「いい。ここで用件を話す」 そう言われ、ユーリは腕を組んでじっとボリスを見る。 ボリスは笑ってため息をつき、自分も廊下に出て扉を閉めた。 まぁ言うべき内容はいつもと同じく 「何故お前は練習に出んのだ」 怒りも呆れも隠そうともしない言い方に、なぜかボリスは嬉しくなる。 「だって俺練習嫌いだし」 ピクッとユーリの眉間がひくつく。 「お前なぁ・・・っ!」 怒鳴ろうとしたユーリの口を、ボリスは自らの手で塞ぐ。 「ほら、大声出すと他の奴等の迷惑になるぜ?」 もう夜なんだから。 「・・・・・・っ!!」 そう付け加えられれば、ユーリも黙るしかない。 もごもごと反論して、ボリスの手を乱暴に外した。 「とにかく!明日は絶対に来いよ!わかったなっ!」 「・・・ヘイヘイ。わっかりました隊長っ」 わざとらしく礼をされて、さらにユーリの機嫌は降下していく。 「・・・返事だけじゃなくて、しっかり態度で表せ・・・っ」 軽くボリスの胸を叩き、ユーリは踵を返す。 「―――ユーリっ!」 ボリスにやや大きめの声で呼ばれ、ユーリは足を止めてそちらの方を顔だけ向ける。 「おやすみなー。また明日っ」 にっこりと笑顔を浮かべ、ヒラヒラと手をふっている。 「・・・・・・おやすみ・・・」 自分でもかすかにしか聞こえないような声で言った言葉は、ボリスにも聞こえていた。 まさか返事が帰ってくるとは思わなかったので、ボリスは手をふったままの格好で固まってしまった。 耳まで真っ赤に染めたユーリは、そのまま早足で去っていった。 ようやく固まったままのポーズを解くと、ボリスは笑いながら部屋に入って行き、少し頬を染めて笑った。 「ホント、相手してて飽きないヤツ・・・」 一々の動作も可愛いし。とボリスは心の中で付け加える。 コツコツと音を立てて歩き、再びベットルームに戻ってくる。 ・・・と、電話から電子音が響く。 途端、ボリスの表情から嬉しそうな表情が消え、代わりに苦しそうな笑顔が浮かんだ。 静かにノロノロとした動作で受話器を取り、2、3言葉交わすと、カタンと受話器を静かに下ろした。 シンとした空間に、ボリスの溜息が静かに響く。 「・・・ゴメンな、ユーリ・・・」 苦しそうな表情を浮かべ、ボリスはファルボーグを持つと、部屋を後にした。 ボリスのところから自室へと戻ったユーリは、真っ赤になった顔を、洗面器に水を張って、何度もそこに顔を突っ込んだ。 ボリスと別れた後から、心臓の音がバクバクうるさい。 顔も、あれから全然熱が引かない。 知らない知らない。こんな感情。 笑顔とか、無神経さとか、バカにしたところとか。・・・遠くを見た時の表情とか。 それとない表情にドキリとする。 「〜〜〜〜〜〜っ!!」 『おやすみ』と言われて、ふっと口から飛び出した『おやすみ』と言う言葉。 何故か恥ずかしさが込み上げてきて、ユーリはまた洗面器に顔をつける。 少しずつ動き出した感情。 でも、まだ『ソレ』を理解したくは無い。 「・・・・・・認めない・・・」 だって、また裏切られるに決まっている。 ・・・我が子を売り払った、両親のように。 『ソレ』を信じてはいけない。 『ソレ』を受け入れてしまったら・・・また自分が堕ちてしまう。 「・・・受け入れて、たまるか・・・」 『ただの』仲間なんだから。 ユーリはタオルで濡れた顔を拭き、しっかりとしたユーリには珍しく、そこら辺にタオルを置いた。 「・・・信じてたまるか・・・」 愛なんて。 コメント 少し間が空いてしまいました〜〜〜(汗) ちゃんと前の流れ通りにかけるかな・・・(時間を空けるとすぐに忘れるヤツ) 目指すは10話☆ 頑張れ自分!!(言い聞かせつつ) |