掌に絡めたのは 甘く儚い紅の花 4


初日は神田に良い印象を与えられず、その後の進展も一進一退と言う感じではあったが、一週間も神田と一緒に居れば大体の感じはラビにも掴めてきた。
未だに喜びなどの感情は少々薄いものの、それでも出会った頃に比べれば随分と雰囲気が柔らかくなった。
・・・まだ、笑顔を見たことはないのだが。
「りんご」
「・・・」
「オレンジ」
「・・・」
「花」
「・・・」
ラビが単語をゆっくりと伝えると、神田はカリカリとそのたびにペンを走らせていく。
「次で最後さ。地面」
神田は少し迷ったようにじっと一点を見ていたが、それでもすぐに紙にペンを滑らせる。
「出来た」
ふ、とひとつ息を吐いた神田は、そう一言言うと紙を一枚ラビに渡した。
そこには単語がびっしりと書かれており、ラビはその一つ一つをしっかりとチェックしていく。
「・・・うん、全部正解。すごいさ神田!もう覚えちまうなんて!」
「・・・・・・」
ラビが手放しで喜ぶと、神田は照れたように視線をそらせた。
ラビの話す物語などに最初から興味を示していた神田が、自分で字を書くことや知識を増やすことに興味を覚えたのはつい先日のことだ。
ペンを持つことも初めてなので、まずはそこから教えていった。
もちろんアルファベットも知らないのでaからzまでを書き取らせて、間違いを指摘していく。
一番苦労したのが、単語の意味を教えることだ。
知識が乏しい神田には、いろいろなものを見せたり描いたりしながら間違いの無いように教えなければならない。
ここにあるもの、持ってこれるものならばいいのだが、持ち込めないものについては苦労した。
その甲斐もあって、神田はみるみる知識を吸収していき、今は覚えた単語の綴りを間違えずにかけるようになった。
ラビとしても満足だ。
ちらっと上を見ると、天窓から太陽が見えなくなっている。
随分と日が傾いてしまっているようだ。
「じゃ、今日はここまでにするさ」
お疲れ様。と笑いかけると、神田は緊張を解くように短く息を吐いた。
そして紙やペンを片付けているラビに四つんばいで近付いてくると、そっとその上着をつついた。
「なぁ。何か話し聞かせてくれ」
そんなふうに言う神田の目は、先程よりもずっと輝いている。
やはり勉強よりもラビの話を聞いている方が面白いようだ。
自分の話を、しかも神田に喜んで聞いてもらえるのはやはり嬉しく、ラビもにっこりと笑ってその場に座った。


「ラビくん?」
涼やかなソプラノの声に、ラビはふっと顔を上げた。
空を見ればもう太陽ではなく月の静かな光が部屋を照らしており、またしても時間を忘れてしまったことに気付く。
慌てて行灯に光を燈し、アニタを振り返る。
神田と言えば、その声が聞こえた途端に出来るだけアニタから姿が見えないようにとラビの後ろに隠れてしまっている。
アニタはいつものように柔らかく微笑んでおり、ご飯よ。とラビに伝える。
「こっちで食べるのなら持って来るけれど・・・どうしましょうか?」
「あ、こっちで食べるんで、オレ持ってくるさ」
そう言って立とうとしたところで、くん、と後ろに引っ張られてラビは体勢を崩しかける。
慌ててバランスをとって後ろを見れば、神田がジィッとこちらを見つめていた。
「・・・神田・・・」
神田は何も言わず、ただラビをじぃっと見つめている。
ラビはその視線が何を訴えているのかも知っているので、どうしようと迷ってしまう。
するとくすくすと言う笑い声が聞こえ、ラビはもう一度アニタを振り返った。
「神田は行ってほしくないそうよ。大丈夫、ちゃんと私が持ってくるから」
アニタはにこりと笑うと、綺麗なしぐさで立ち上がり、静かに扉の向こうへと行ってしまった。
慌ててラビはその背中に『お願いします!』と声をかけ、それから神田を振り返る。
まだ神田はラビをじぃっと見つめており、思わず苦笑してしまう。
声に出して示すと言うことをうまくできない神田は、時々こんな子供のようなしぐさをしてくる。
それは、自分を傍に置いておいてくれるということで。
「じゃ、話しの続きするさ」
「・・・ああ」
そんなことでどうしようもなく幸せになれてしまう自分が居る。

結局ご飯を食べても神田が帰してはくれず、ラビは敷いた布団の上に寝転がって神田にひとつずつ星を教えていった。
神田はおおいぬ座を発見できないでいる為、まずその星座から教えていく。
「あれがシリウス。そこから、右に行ったほんの少し下にあるのが前足になる星。で、シリウスの下に行ったところからちょっと左を見ると、明るい星たちが集まってんのわかる?」
「・・・ああ・・・多分・・・」
「その辺りがちょうど尻尾のつけ根になるんよ。もう少し左下にある星が尻尾。で、右下にちっと他より明るい星があるところから後ろ足が出てるンよ」
そこまで説明を聞いたところで、神田の眉根が寄った。
「・・・わかんねぇ・・・」
「ま、最初の内はそうさな。星を見慣れてくれば、いつのまにかわかるようになるさ」
「お前もそうだったのか?」
意外そうに神田がラビを見る。
もちろん、とラビが笑うと、神田は目をしばたかせると、もう一度仰向けになり空を見上げた。
「・・・俺もわかるようになるのかな」
「なるさ。神田は覚えいいからさ」
神田のつむじを見てそう言うと、ふ、と神田の顔が優しくなった。
その口がすぐにふわ、と眠そうにあくびをつき、コロンと横向きになってラビの身体に抱きついた。
「!!」
「眠くなった・・・寝る」
「あ、ね、ね、寝るんさ?ならオレ部屋に戻るさッ」
「・・・・・・」
「・・・神田・・・?」
神田に抱きつかれて一気に心拍数を上げたラビはなんとか神田から離れようと崩れた笑顔で応対するが、神田から反応が返ってこない。
どうしたのかと前髪に隠れてしまった顔を覗いてみると、神田はすでにその瞳を閉じてすぅすぅと眠ってしまっている。
「・・・え、えー・・・」
腹の辺りに巻きついてしまった神田の腕を外そうとするが、それは意外な強さで抱きついていて離れない。
無理に、それこそ神田を起こすくらい乱暴にすれば外れるのだろうが、心地良さそうに寝ている神田を見ているとそれもラビにはできなかった。
「・・・マジですか・・・」
ん、と神田は居心地の良いところを探して更にラビに密着してくる。
服越しに神田の体温が伝わってきて、ラビは顔を赤くさせながら肩を落とした。
・・・今日は寝れなさそうだ・・・。


上から燦々と陽の光が降り注ぐ。
今日もいい天気のようだ。
土もそうだが、光が生きる上で欠かせない神田はその恵みに感謝しながら目を開けた。
「・・・・・・?」
視界には、覚えのある色の布が広がっている。
けれど自分は今布団にいるはずで、シーツの色はこの色ではないはずだ。
そして暖かい体温と、安心するこの感じ。
布を握っていた手を離して、そろそろとそれが何なのか確かめようとさわさわと触っていくと、突然その手を掴まれた。
「・・・起きたさ?」
寝起き特有の、少し掠れたような低い声。
見上げてみれば、目の下に隈を作ったラビがいた。
「・・・あ」
「おはよーさー・・・」
ぼへぼへと笑顔を浮かべるラビに、おはよ。と短く言って小首を傾げる。
「どうしてお前がここにいるんだ?」
「・・・神田が抱きついて寝ちゃったからさ・・・」
「・・・ああ」
なるほど、と神田はラビの身体を触っていた手をそっと離した。
ようやく自由に動けるようになったラビは眠そうにあくびをし、大きく伸びをして身体を起こす。
神田もそれにならって身体を起こし、じぃっとラビを見つめる。
「・・・お前、ホントにあったかいな」
「そっか?」
「ああ。なんかよく寝れた気がする」
神田は特に意識していない、何てこと無い言葉だったんだろうが、ラビはそのセリフにうっかりぽやっとしてしまう。
時々神田は本当に心臓に悪い。
「話しもたくさんできるし・・・一緒に寝るのっていいな」
「・・・へ?」
いいことを思いついたとばかりに、神田は瞳を輝かせてラビの服の袖を掴む。
「お前、これからも一緒に寝ろ」
「へ・・・え、ええー!!」
突然の神田の申し出にラビは思い切り驚いて絶叫してしまう。
ラビのあまりの驚きように神田は眉をしかめて嫌なのかと聞いてくる。
その表情はどこか寂しそうだ。
「や、嫌な訳じゃ全然無いんだけど!・・・ただオレの睡眠時間が・・・」
後半部分をぼそぼそと言うので、神田にはまったく聞こえない。
ただ嫌じゃない、と言うところだけ聞こえた神田は、ラビの言葉に満足したように頷く。
「嫌じゃない、ってことは良いってことだよな」
「え、あ、は?!」
「・・・?違うのか?」
「・・・違いは・・・しねーんだけど・・・!」
「じゃあいいよな?今日も星座、教えてくれ」
「だ、だからな、神田・・・」
「頼んだな」
強い口調な訳ではない。
ただ、神田のそのラビの口からダメと言う言葉が出ないと思っている神田のそのきらきらとした目を見ると、もう嫌とか言えなくなってしまった。


更に四日目。
文字通り、朝も昼も夜も・・・ずっと二人は一緒に居る。
ラビが神田の部屋で寝ているということに気付いたアニタが布団をもう一枚用意してくれたのだが、神田がラビの布団に入ってきてしまうのでまったく意味を成さない。
せっかく用意してくれた布団は、二日で撤去された。
一番ラビが心配していた睡眠の問題も、身体とは欲に正直なもので三日もすればすっかり寝れるようになってしまった。
神田が、というのは確かに緊張するところではあるが、確かに隣に誰かの体温があるというのは安心する。
いつものようにラビが神田に勉強を教えていると、突然来るクロスがまたしても派手に・・・乱暴に部屋へと入ってきた。
「ぃよう。元気か、クソガキども」
「・・・・・・」
神田の眉間に皺がよる。
たった今テストが良い出来でラビが褒めたらほわりと雰囲気を優しくしたばかりなのに、クロスが来ただけで一気にこれだ。
一体クロスはどれだけ嫌われているんだろう。
「おい神田。お前に良い名前を持ってきたぞ。姫華だ」
「・・・・・・」
「姫華。おい主が呼んでんだから返事くらいしろ、姫華」
「・・・・・・・・・」
だが神田は無視を決め込み、黙々と紙にペンを滑らせている。
姫華、姫華、とクロスが言うので、ラビは恐る恐るクロスに話しかけた。
「・・・あの、その姫華ってなんなんすか」
「なんだ、お前は耳まで腐っちまってるのか。若いのに大変だな」
さらりとついてくる嫌味は、さらりと言うくせにねちっこく心に残る。
ラビも神田と同じ様に眉間に皺を寄せながら、それでもクロスの言葉を待つ。
「姫華は名前だ。神田のな。本当はもう名前くらいあったっておかしくねーのに、こいつ何言っても反応しやがらねぇんだよ」
もう一度姫華、と呼ばれるが、神田はツンとそっぽを向いてあくまで拒否している。
「・・・だってそれ、明らかに女の子の名前じゃないすか。いくら神田が無性だからっつったって、もっと良い名前つけた方が神田の為ですよ」
「ンだ?この俺様がつけた名前に不満でも?」
ありありだからああして拒否をしているんだろう、とラビは言いかけ、喉元まで出てきたその言葉を何とか飲み込む。
この男にかかわりを持つのは、正直嫌だ。
クロスはガラの悪い風体で暫くラビを睨んでいたが、すぐに飽きたようでスクリと立ち上がり、踵を返した。
「・・・まぁいい。また良い名が思いついたら与えてやるからそれまで大人しくしてろよ」
じゃあなと女性が見たら卒倒してしまうかもしれない顔でニッと笑み、来た時と同じく乱暴に部屋から出て行った。
女性だったら失神してしまうかもしれない顔も、ラビや神田にとっては憎たらしいものでしかない。
行ってしまったクロスにラビは溜め息をつき、同じ様に肩の力を抜いたらしい神田と目が合った。
「・・・前にも、こんなことが?」
「・・・あいつはいつも変な名前持ってくるんだ。・・・全部、好かん」
あの人のことだから、きっとさっきのよりもずっと変な名前を神田に与えようとしていたのだろう。
・・・それを思うと、よく拒否し続けてくれたと神田になんとなく感謝したい。
「・・・でもやっぱり名前あったほうがいいさね」
「お前もあいつと同じこと言うのか?」
不快とばかりにまた眉をひそめる神田に慌てて、理由を付け加える。
「だ、だって、名前呼んだほうが親しくなれそうさ!こっちにも苗字って言うのがあるけど、やっぱりソレ呼ぶよりかずっと名前やあだ名で呼んだほうが友達って感じがするし!」
「・・・・・・」
ラビの言葉に、ふと神田は考えるように顔を伏せた。
「・・・そう言うもんなのか・・・」
「あ、もちろん全部の人がそうじゃないけどさ。でも、そう言うもんと言えばそうさな」
神田はもう少し考えるようにして瞳を閉じた後、身体をラビの方へと向けてピッと指差した。
「じゃあお前が俺の名前考えろ」
「へ?!お、オレさ?!」
「ああ」
「むっ無理さよ!だって名前は主がつけるもんなんしょ?オレは違うもん!」
「でも、名前あるともっと親しくなれるんだろ?」
「・・・ひ、人にもよるけどな・・・?」
「だったら、俺はもっとお前と親しくなりたい。・・・あんなヤツらから呼ばれたくない。お前が、お前だけが呼んでくれる名前を付けてくれ」
「――――――」
その言葉を聞き、まず思ったのが嬉しい、だった。
自分は神田からどのように思われているのか少々不安なところがあったので、神田自ら親しくなりたいと言われて本当に幸せだ。
じんわりと、頬に熱が集まる。
「おい?・・・ダメか?」
あまりに反応を返さないので、神田が顔を覗き込んでくる。
視界に入った神田の顔に我に返ると、また少し照れで混乱してしまう。
「わわわ、わかったさ・・・!・・・気に入ってもらえるの、考えてくるさッ!」
「ああ。頼んだ」
ふわりと空気を和らげる神田に、ラビは改めて気合を入れなおした。

□■□

あれから二日経った。
昨日は神田と一緒に寝たのだが、今日はブックマンに別の手伝いを命じられた為に、夕飯を終えてからは神田のところにはいけなかった。
「・・・うーん・・・」
そこここに雑に置かれた本を本棚に綺麗に並べていきながらも、ラビは神田の名前を考えることをやめない。
何度もいくつも名前を考えては没にし、段々とその悪循環にハマってきた。
どれにしても神田にしっくり来るものが思いつかず、思いついても一時間後には却下になってしまう。
そんな、うんうん唸りながら本の片付けをしていくラビを見て、ブックマンは一つ大きく息を吐いた。
「まったく・・・なんじゃと言うのだお前は先日から・・・糞がしたいのなら我慢せずに行ってこい。それとも便秘か?情けない」
「ジジィうるせぇさ!つか、便秘じゃねぇし!」
ぐわっと振り返りざまにブックマンを怒鳴るが、もちろんそんなことでブックマンがびびる筈も無く、また本へと視線を戻した。
「・・・で、なんじゃと言うんだ」
突然聞いてくれる雰囲気になったブックマンにラビはきょとんとし、それから少し迷った後で口を開いた。
「・・・名前を・・・考えてるんだけど・・・なかなかいいのが思いつかんのさ」
名前、と聞いて、ブックマンはまたチラリとラビを見る。
何か言われるかとラビはヒヤリとしたが、ブックマンは特に何も言うことなくまた文章を読み出す。
「・・・名、というものは、人やモノを現しているものだ」
「・・・・・・ジジィ?」
「そのものを現しているのが、名前と言うものだ。それゆえ、そのものと名前は相応でなければいけない。華美になりすぎず、貧弱にならず」
「・・・・・・」
「その人にはその人の、その人と言う『もの』を現す名前がきっとある。・・・お前がもし名前を与える立場であるのならば、相応に近い名前をつけるんだ」
「・・・その人を現す、相応の名前か・・・」
口の中でその言葉を噛み締めて、ラビはふと顔をあげた。
「・・・なら、ジジィやオレはどうなんさ?・・・オレの『ラビ』って言うのは、ジジィが新しくつけた名前なんだろ?」
「儂はブックマンじゃ。これこそが本当の名だ。お前も、その名たちは仮初に過ぎん。お前と言うものを現す為のな。いずれもお前は、『ブックマン』になる」
「・・・・・・」
いつかは名を捨てるのことになる。
妙にそのことが惜しくなった。
いくつかある自分の名の中で、ラビは自分を現すためにラビが好んで使っていた名前だから。
沈んでしまったラビを見て、ブックマンは本を閉じて椅子から立ち上がり、ラビの横を通り過ぎる。
「今日はもう終いだ。お前も区切りがついたなら、とっとと寝るんだ」
「・・・ああ」
「それと、名前の意味を知りたいのなら自分で調べるんだな。自分の名の意味も知らないなど、ブックマン後継として情けない」
「・・・ふんっ。余計なお世話さッ」
べ、とラビはブックマンに子供のように舌を見せると、手が止まっていた遅れを取り戻すように本を棚へと整頓していく。
やけにも見えるその姿に苦笑して、ブックマンは書庫を出て行った。
「・・・ラビとは賢者を意味している。・・・お前は遠くない未来必ず儂をも超えるものになる。・・・仮初とは言え、名に恥じぬものになれ」
ぼそぼそと、ラビには決して聞こえないようにブックマンは呟きながら歩いてく。
ラビはまだ知らなくていい。
きっとその意味を知ったらラビは、舞い上がって調子に乗るのだから。

□■□

ギ、と扉がそっと開けられ、神田はそちらを見た。
こんな深夜に人がやってきたことはなく、少なからず警戒してしまう。
「・・・・・・」
少ない照明の中警戒していたが、だんだん近付いてくるその気配に神田はホッと肩を落とした。
「・・・あ、」
「や。神田」
ニコリと笑って近くに座ったのは、この二日間夜は離れてしまっていたラビだった。
神田も布団に仰向けに寝ていた身体を起こしてラビに向かい合う。
「今日はもういいのか?」
「ああ。よーやく終わったさー・・・疲れた〜」
「そうか。・・・じゃあまた星を教えてくれ」
早く、と急かすようにラビの服を掴んで近くに招く神田に少し赤くなりながらラビはその手をそっと掴む。
(・・・神田はそんなこと微塵も思っちゃいねーんだろうけど・・・なんかちょっとあやしい気分になっちゃうさ)
なにせ神田が招いているのは布団の上で、まるでこれから夜伽でもするようだ。
「・・・おい・・・?」
赤くなって黙ってしまったラビに神田は眉をひそめてその顔を覗き込む。
近くにある神田の顔にまたラビは赤くなって、あはははは、と笑って何とかごまかす。
「・・・え、えーっと!・・・星教える前にひとつ神田に聞いてほしいことがあるんだ」
「なんだ?」
今度は妙に神妙な顔になったラビに、神田はまた首を傾げ、見ていて面白いやつだと心の中で思う。
「実はな・・・神田の名前を考えてきたんだ・・・」
「ッ、本当か?!」
「うん。・・・聞いてくれるさ?」
もちろん、と神田は頷く。
そのことにラビは少し安堵し、紙とペンを持ってきた。
「・・・神田の名前は、ユウ」
「・・・ユウ?」
「そう、ユウ」
繰り返し、ラビは持ってきた紙にペンで【ユウ】と書く。
「・・・どういう意味だ?」
書いた名前をじぃと見つめ、神田は顔を上げてラビの顔を覗き込む。
ラビは神田ににこりと笑いかけると、ユウと書いたその隣に、【優】【有】【勇】【悠】といくつかの漢字を並べた。
神田、が日本名だからか、ラビが教えなくても簡単な漢字程度ならば日本語がわかるようだが、画数が多いものにはさすがに頭を捻る。
「これ、なんて書いてあるんだ?」
ラビは書いた文字に人差し指を当て、ユウ、を繰り返す。
「これは全部、ユウって読むんだ」
「ユウ・・・」
「そう。ユウ。・・・ユウって言うのは、すっごく優しくて綺麗であったかい言葉だってオレは思うんよ。いろんな意味篭めたいから、あえて漢字でかかんのさ。・・・それから、【結う】」
「これも、ユウ?」
「そだよ。この結うは、解けないってこと。・・・オレと、ユウの関係が解けませんようにって。離れませんようにって」
離れない。神田は繰り返し呟いて、もう一度【ユウ】を指差した。
「でも、それなら平仮名で書いた方がいいんじゃないか?」
どうしてわざわざ。
するとラビはまた神田に眩しいくらいの笑顔を見せる。
「だって、ゆう、よりもユウ、の方がなんか特別な感じするさ!だから、カタカナで、ユウ!」
な?と嬉しそうに笑うラビに、神田はきょとんとしてしまう。
そんな神田の表情を見たラビは、気に入らなかったのかとヒヤリと肝を冷やす。
「あ、ごめっ!き、気に入んなかった・・・な?」
自分ではいい名前だと思っていたが、それを神田が気に入ってくれるとは限らない。
「も、も一回考えてくるから!だから「呼んで」も少し時間を・・・へ?」
かぶった言葉に、ラビはぎゅっと瞑っていた目を開き、神田を見る。
神田もこちらを見ており、その薄い唇がもう一度、呼んで。と動く。
「・・・、・・・ユ、ユウ・・・?」
ドキドキしながら、その名前を呼ぶ。
神田は目を瞑ってそのラビの呼ぶ声を聞いた後、もう一度。とラビを促す。
「・・・ユウ」
もう一度。神田が呟くようにラビに言う。
「ユウ」
もう一度。
「ユウ。ユウ、ユウ」
何度も何度も、繰り返す。
まるでその名前を、染み込ませるように。
そして神田はそっとその目を開くと、うっすらと、笑った。
その、綺麗な笑顔に、ラビは言葉を失う。
初めて見た神田の笑顔は本当に綺麗で、まさに花が咲くようだ。
「もう一度」
「・・・ユウ」
ぼんやりと、ラビは呟く。
神田はまた笑みを浮かべ、ラビが書いた文字を撫でる。
「・・・いい。これがいい。お前が―――ラビがつけてくれた名前だ」
「、ユ・・・ッ」
その凛とした声で呼ばれた、自分の名前。
初めて呼んでくれた。
妙にそのことが感動的で、ラビはじわりと込み上げてきたものを慌てて喉の奥に押し込んだ。
「ラビ」
神田が、どこか明るい声色で呼んでくる。
「もう一度、呼んでくれ」


ユウ。


精一杯の想いを篭めて、ラビはその名を呼んだ。



☆NEXT☆


コメント

ようやくユウって呼んだ!ようやくラビって呼んだ!
もうセリフ書くたびにユウって言ったりラビって言ったりしちゃってもうギリギリしてたんで、これですっきり!(笑)
やっぱり、ユウ、ラビ、呼びにかぎりますね〜(しみじみ)