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Roundabout 8 大好きで大切な時間ほどすぐに過ぎていってしまう。 それがすごくもったいなくて。 でもそれがすごく、幸せなじかん。 朝はいつも、アレンよりも神田の方が早い。 神田がアレンを起こすのはいつも、準備が全部終わった段階なのだ。 まだ眠いのか、ぽやぽやとした思考でアレンは上半身を起こした。 「おら、早く起きろ」 「・・・はい・・・」 ふぁ、と大きくあくびをし、アレンがベッドから降りようとすると、神田がアレンを抱えて床に降ろした。 「・・・僕、そんなに子供じゃないですよ?」 なんだかすごく子供扱いをされ、アレンはむぅとむくれつつ神田を睨む。 「そういうことはもっとでかくなってから言うんだな」 へっと鼻で笑われ、アレンはぷぅと頬を膨らませて顔を洗いに行った。 アレンがイノセンスにより幼児化・記憶退化をしてしまい、ようやく神田に心を開いてから一週間が経過した。 未だアレンに記憶が戻る気配は無いが、それでもアレンの一日の生活の様子は、ようやく固定されてきた。 足も治り、自分の身の回りのことも出来るようになった。 「いくぞ、アレン」 それでも、神田がいる限りはずっと傍に着いて回っている。 「はいっ」 だが、今までは神田に抱きかかえてもらっていたが、傍で歩くとその足のコンパスの違いが良く分かる。 元々歩く速度の速い神田が、それでもアレンを気遣いいつもよりも遅いスピードで歩くが、元々そう言う気遣いに慣れていない神田なので、どうしてもやはりアレンよりも速度が上がってしまう。 アレンはアレンでそう言った我が侭を言わないのは昔からの性格らしく、不満を言わずに小走りで神田の後ろを追いかけるのだ。 それでも、まだクロスにばしばしと鍛えられる前のアレンの体力は、普通の子供よりも上くらい。 すぐに息が切れてしまい、それでもアレンは神田に『待って』とは言わないのだ。 はふはふと息が切れる音が後ろから聞こえる。 ちらりとアレンを見やると、アレンは頬を赤くし、息を切らせながら自分を追いかけている。 「・・・・・・」 そこで我慢が切れたのが、神田。 今まで歩いていた足を止め、急に踵を返す。 そして、同じく立ち止まったアレンの背中と膝裏に腕を差し入れ、横抱きにした。 アレンは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに嬉しそうに、そして少しだけ申し訳なさそうに神田に抱きついた。 □■□ そして、いくら神田がアレンの世話を命じられているとは言え、神田には任務の他にエクソシストとしてやらなければならないことがある。 そんな時は、リナリーたちが面倒を見てくれたが、今日はリナリーたちも手が開かないらしく、本当に珍しくアレンは一人の時間を持て余していた。 「・・・」 ティムキャンピーを胸に抱え、アレンは庭をうろうろとしていた。 手入れは完全に行き届いているとは思えない。 だが、完璧さの欠けているその庭の方が、アレンはなんだか好きに思える。 「気持ちいいね〜ティム〜」 バスケットには、ジェリーが作ってくれたお手製のパイが入っている。 なんだか遠足気分で、アレンは木陰に腰を降ろすと、バスケットからパイを一切れ取り出し、にこにこと嬉しそうに口に運んだ。 歯を立てると、サクリとパイがいい音を立て、次いでバターの芳しい良い香りと味が舌をじんわりと刺激した。 中にはリンゴを煮詰めたコンポートが入っており、甘酸っぱくしゃりしゃりとした感触がアレンを更に幸せにした。 ティムキャンピーはご飯を必要としないので、その間ティムキャンピーは、傍で咲いている花を摘んではバスケットへと運んできた。 ふとアレンが気付けば、それは小さな花束くらいの量になっている。 「わー!可愛いー!」 アレンが褒めると、嬉しいのかティムキャンピーは、はたりと尻尾を揺らした。 アレンもパイを食べ終えるところりと横になり、ティムと同じくらいの視線で芝を見つける。 そよそよと風が吹いて、上を見れば木漏れ日を作る木々と青い空が見えた。 そのまま良い天気にうっとりとしながら、アレンはうとうとと眠りの中へと入っていってしまった。 眼が覚めたのは、かすかに耳にか細い声が聞こえたから。 眠ってしまったアレンに付き合うようにティムもすぐ横の芝生に腰を降ろしており、アレンはその可愛らしい姿を見てふふっと笑いをもらした。 と、また耳に入ってくる音。 「・・・?」 身体を起こして耳を澄ませば、ぴぃぴぃと言う小さな声が。 立ち上がる頃にはティムキャンピーも目を覚ましており(ゴーレムなので本当に寝ているのかは定かではないが)ハタリと羽を動かしてアレンの頭に着地した。 「鳥、かなぁ・・・?」 アレンはやはりその声に興味を示し、声が聞こえる方に聞こえる方にと歩いていく。 ピィ 「あ」 見つけた。 雛はようやく産毛が生え揃ったくらいで、大きな黒い瞳でアレンを確かに見ていた。 そしてやはり大きな口で、ぴぃともう一度訴えるように鳴いた。 ふと上を見上げれば、なるほど、落ちたのだろう巣がそこにあった。 アレンはポケットからハンカチを取り出し、そっと雛を包み込む。 直接手で触ると、鳥によってはその匂いゆえに我が子でさえ殺してしまうと言うことを、マナから教わったことがあるからだ。 もっともハンカチにも少ながらずアレンの・・・人間の匂いが付いてしまっているので、気休めといえばそうなのだが。 アレンはそっとその暖かな包みを持つと、奇遇にもその日着ていた服のフードへと雛をそっと下ろした。 「雛が落ちないように、見張っててね、ティム」 アレンはそうティムに言うと、樹へと足をかけ始めた。 幸いにも樹には枝が多く、身軽なアレンはするするとそれを登っていった。 大体、十分ほどが経過した。 時々足を休めつつも登っていくと、ようやく巣のある枝へと辿り着いた。 フードの中でぴぃぴぃと鳴いている雛と共鳴するように、先程大人しかった巣にいる雛たちも合唱を始めた。 「うん。もうちょっとだから」 アレンは枝を股に挟むと、ずりずりと擦るように枝を先の方へと寄って行った。 そして、手の伸ばせるところまで来ると、フードから雛を取り出し、そっと巣へと戻した。 最後は雛から巣へとジャンプをし、四匹いる雛が全員アレンの方を向いてぴぃぴぃと鳴くものだから、アレンはその微笑ましさに思わず笑ってしまった。 「・・・君たちは、いつも良い景色を見てるんだねー」 落ちてしまった雛は、もっと良い景色を見たかったのだろうか。 そう思ってしまうくらいに、目の前に広がる景色は素晴らしかった。 と、向こうから見慣れた黒い服の人物が近付いてきた。 「・・・あっ」 その姿を見つけ、アレンはぱっと顔を明るめた。 神田だ。 するするとアレンは今居た樹から下りていく。 ぴぃ。と、また雛が鳴くから、その雛に手を振って。 「神田ッ」 呼ばれてて慌てて上を向けば、そこには捜していた人物の姿が。 コムイから召集をかけられ、アレンを一人きりにするのには不安があったが、ティムキャンピーがいる限りはまぁ大丈夫だろうと思いつつも終わってすぐに探してしまった。 そして、アレンがあらかじめ言付けていた場所へと行ってみれば。 アレンはそこら中に葉っぱと泥をつけており、それでも嬉しそうに神田に手を振っている。 「・・・何してたんだよお前」 「落ちてた雛を、巣に戻してたんです」 なるほど、世話好きなアレンだったら、落ちている雛を放って置けないだろう。 「・・・まぁいい。早く降りて来い」 「はいっ」 そう言ったことを神田はすぐに後悔した。 アレンはニッコリと頷いた後、その枝から思い切りジャンプをしたからだ。 「!!!」 目を見開いて驚きつつ、神田はその身体をちゃんと抱きとめた。 珍しくバクバクと心臓が激しく脈打っている。 本当に驚いた。 「お前・・・ッ」 だが、アレンが嬉しそうにぎゅうとしがみついてくるので、結局神田は怒りきれずその背に手を回した。 「僕、ホントは神田いなくても降りれたんですよ?」 なんて、小生意気なことを言うものだから、その頭をコツリと小突いてやって。 「馬鹿野郎」 はーっと長く息を吐きつつも、神田はアレンをそのまま抱きかかえたままバスケットを取り教団へと向かった。 何が嬉しいのかアレンは、神田にギュウギュウ抱きついてくすくす笑いながら。 その日の報告を、嬉しそうに神田に伝えるのを聞くのが、神田の楽しみでもある。 それでもくぅ。とアレンの腹の虫が鳴くと、そこでアレンの話しは中断してしまう。 「お腹空きました」 「・・・・・・」 てへ。と照れ笑いを死ながら、一日何度か聞くアレンのセリフ。 だが、今の恰好で行く訳にもいかない。 「風呂入ってからだ」 「えー・・・」 先程とは一転、きゅうと眉を寄せてアレンは神田にお腹空いたのと訴える。 「駄目だ。恨むなら服をいっつも汚して遊ぶ自分を恨むんだな」 「・・・むー・・・」 それでも、マナにきちんと躾けられているアレンはそれ以上我が侭を言わずに部屋へと戻って行った。 神田にそっと地面に降ろしてもらうと、アレンはありがとうと言い、タンスへと歩いて行った。 そして替えの服を取り出すと、きゅうとそれを握りしめ、神田を振り返る。 「・・・えっと、神田・・・」 酷く不安そうな表情をする。 普段きゅうきゅう抱きついているくせに、何か願い事をしようとする時にアレンは、素直にその事を伝えられない。 そのことも神田はちゃんとわかっているので、神田はアレンの使用しているベッドへと腰を降ろした。 「ちゃんと待っててやるから、早く入って来い」 言われ、神田が腰を降ろしたことに安心すると、一気に表情を元のように輝かせて、バスルームへと入っていった。 手早く服を脱ぎ、それを籠の中へと入れる。 そしてコックを捻り、シャワーからお湯を出した。 風呂にはあとでちゃんと浸かればいい。 今は汚れを落として、神田が待ち切れなくなるまでに出なければならない。 ・・・もっとも、神田がアレンを残して行ってしまうなんてこと無いけれど。 髪を洗い、身体も手早くすすぐ。 そして身体を暖めもせずに上がってしまう。 がしがしと髪と身体を拭き、まだ水滴が残っているが構わずに服を着ていった。 「お待たせしました!」 そしてバタンと扉を開けて、やや息を荒げてアレンがパタパタと神田の元へ走ってきた。 「・・・なんで風呂入るのに息が上がってんだよ」 ふっと神田はアレンを認め、小さく笑った。 神田の笑う顔は本当に珍しくて、アレンでもたまにしか見ない。 その笑う顔がひどく好きで、思わずアレンは顔を赤らめてしまう。 そんなアレンを神田が手招きするので、とてとてと歩いて近づく。 「髪、まだ濡れてんじゃねェか」 アレンの肩にかかっているタオルを手に取り、アレンを後ろ向きにするとその髪を優しく拭き始めた。 加減が上手くわからないので、本当に優しく。 アレンも最初は照れていたが、神田が世話を焼いてくれることが本当に嬉しくて、そっと目を閉じた。 「神田」 「なんだ」 呼べば、ちゃんと応える声があって。 とても、嬉しかった。 ご飯はいつも通り、幸せなくらいにおいしかった。 神田からも抓んで、おやつを食べたにも関わらず旺盛な食欲を見せた。 帰り道はアレンが神田の手を握って歩いていたが、やはり食堂から半分ほどくると、神田がアレンを抱き上げて戻った。 ドアを開けたのは、アレンの部屋ではなく神田の部屋。 アレンに部屋を与えはしたが、寝ることができなかったので、就寝時にはアレンは神田の部屋に行くのだ。 「今度はちゃんと入ってこいよ」 神田に釘を刺され、アレンは照れたように笑いながらバスルームへと再び入っていった。 そしてアレンが一日の中で一番大好きなのが、神田と眠る時間。 ひんやりしたシーツは好きでは無いけれど、隣りにある神田の体温が大好きだ。 最初に一緒に寝る時はあまりくっついたり出来なかったが、今は神田がベッドに入るとすぐに抱きついていく。 きゅうっと抱きつくと、神田もすぐに抱き返してくれる。 そして小さな子にするように、背中を優しく叩いて眠りを促してくれるのだ。 すごくすごくそれが大好きで、でもベッドに入るとすぐに眠気がやってきてしまう。 それがすごくもったいない。 「かんだ」 だから少しでも起きている時間を長びせたくて、意味もなく神田の名を呼んでしまう。 「かんだ」 「・・・何だ」 背中を叩く、優しくて大きな手。 嬉しい。 大好きな大好きな時間。 だいすき。 そしてアレンの一日は、静かに暖かく、過ぎていくのだ。 コメント アレンを抱きかかえて移動する神田を書きたかったんです(・・・) なんかもっと萌えシーンと書いていきたいな!(おいおい) |