Roundabout 6


愛おしくて愛おしくていとおしすぎるから。
どんなに虚勢を張ったとしても、最後になって結局は、拒めなくなってしまうんだ。



アレンの怪我が治ってから出立、と言うコムイからの提案も出たが、アレンがそれに首を横に振った。
少しでも早く、マナに会いたいからと言う。
とりあえず、治療班からしっかりとした治療を受けたので、通常よりは早く治るだろうが。
だが、治療は怪我をした時の初期治療が重要であり、担当したものも的確だったたと感嘆していた。
それでも、安静を言い渡されているので、アレンはごろりと神田のベッドに寝転がった。
「ティム、明後日なんだって。明後日になったらね、マナを探しにいけるの!」
金色のゴーレム(とラビが教えてくれた)に話し掛け、ふふ、とアレンは嬉しそうに笑う。
と、ティムキャンピーとじゃれていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「・・・・・・はい・・・」
未だここへの不信感の拭えないアレンは、誰か尋ねてくるたびに身構えてしまう。
「アレンちゃーん?入るわよー?」
「・・・・・・!」
断りをいれ入ってきたのは、ラビでもリナリーでもコムイでも、まして神田でもない、見たことの無い人物だった。
「あらっ!ほんっとにちっちゃくなっちゃってー・・・」
「え?」
「あ、・・・いーえ何でもないわッ」
これ以上余計なストレスを与えないように、とコムイから注意が言い渡されている為、アレンには小さくなってしまったことも伝えては無い。
今のアレンはあくまで、小さい頃のアレンなのだ。
「私は料理長のジェリーよ。よろしくね☆」
くねっと、巨体をくねらせてくるサングラスをかけた、どう見ても男にしか見えないジェリーに、アレンはたじ、と腰を引かせた。
「・・・えと、アレンです・・・」
それでも、マナが人を見た目で判断してはいけないと言う教えを守り、ぺこりと挨拶をする。
もちろん、人を見た目で判断などしてしまえば、自分を奇異の目で見てくる人達を同じになってしまうと言うのもあるのだが。
「良い子ねーやっぱり!あ、これ朝ごはんねv」
そう言い、トレーを差し出してくれた。
そこには、おいしそうなトーストとスープとサラダとデザート。
きょとりとジェリーを見上げれば、にこりとまたジェリーは笑う。
「ありがとうございます・・・」
行儀悪いとは思いつつ、ベッドに腰掛け、膝にトレーを置いてトーストに齧りつく。
爽やかなマーマレードが口の中に広がり、だがあの皮の苦味は感じなかった。
いつも何故か運ばれてきた料理と同じ味だ。
「あの」
「ん?」
「あの・・・僕に料理を持ってきてくれのは、ジェリーさんなんですか?」
言われ、ジェリーはキョトンとした後、いいえと首を横に振った。
「確かに料理を作ったのは私だけど、運んだのは違うわよ。
・・・って言うか、アンタ、誰が運んできたのか知らないの?」
ジェリーに言われ、アレンは気まずそうにこくりと頷いた。
「だって・・・いつも気付いたら置いてあるんだもん・・・」
誰が持ってきたのかもわからない、と言う痛いとこをつかれ、アレンはいじけたように呟く。
そんなアレンの様子を見て、ジェリーは仕方が無い、と言うように溜め息をついた。
「あーまぁね〜。あんまそう言うの知られたくないでしょうねー、あの子の性格なら」
呟くと、アレンはハッとジェリーを見上げた。
「誰が運んで来てくれたのか、知ってるんですか?!」
「ええ、もちろん」
誰ですか、と聞くと、何でも無いようにジェリーは答えてくれた。
「神田よ」
「・・・・・・えぇ?」
意外と言えばやはり意外で、だがどこかで納得した。
「でも、いつも僕が寝てる時とかに届けられてて、僕一回も姿見たこと無いんですよ?そんなタイミングのいいこと・・・」
「そんなの、ティムキャンピー使えば簡単よー」
「え?」
「ティムキャンピーにはね、映像機能が備わってるのよ。
アレンちゃんが寝ちゃった時に神田のとこ行って、そのこと知らせればアレンちゃんに知られること無く届けられるわ」
「・・・・・・」
「最初はヘンな時間にいつもは注文しないようなもの頼むからなんだろうって思ってたんだけどアレンちゃんにだったのね。
でも昨日になってあたしに持ってって欲しいっていうからー」
昨日と言えば、アレンが抜け出した日だ。
なんとなく気まずくて、トーストをもう一口口に含む。
「あたしがアレンちゃんに持ってくって気付いたのも、アレンちゃんが好きなのばっかり頼むからなのよ」
言われ、思わずビックリと言う顔でジェリーを見上げる。
「はちみつミルクもミートソースもポタージュもから揚げもカレーも、全部アレンちゃんの好きなのでしょ?
・・・って言っても、嫌いなモノなんて私知らないけど」
確かに、出てきたのは全てアレンが特に好きなモノばかりだった。
自分は神田にひどいことばかり言って、ひどいことばかりしたのに。
「・・・嫌いなんじゃ、ないのかな・・・」
「そんなことあるわけないじゃない」
アレンの呟きを拾ったジェリーはあまりに普通にサラリと言うので、アレンは小首を傾げる。
ジェリーはアレンからしてみれば初対面なのだ。
その人物が自分と神田のことを当たり前のように語れば、不思議にも思うだろう。
ジェリーも自分で言ったことをしまったと内心でヒヤリとしつつ、フォローを口にする。
伊達に口が達者なわけではない。
「えーと、ほら。神田ってば素直じゃないのよ。心配なコトを心配って言えない子だから、実はアレンちゃんのことも気にかけているのよ」
そう言われアレンが一番最初に思い出したのは、昨日の神田だ。
見上げた神田は酷く焦った表情で、それでもアレンと眼が合うとその目元が和らいでいた。
「神田はアレンちゃんのことが大好きなのよ」
しゅんとしてしまったアレンの頭を撫でてやると、アレンはそのゆったりとした手の動きにあわせるようにコクリと頷いた。
「・・・僕・・・神田に謝らなきゃ」
改めてそう思った。
自分は神田の思い遣りを散々踏みにじって、それでも神田は守ってくれていたのだから。
小さくなっても変わらないアレンに、ジェリーは気付かれないように笑みをもらした。
引き篭もってしまっていると聞いた時は随分驚き不安になったが、やはりアレンはアレンだ。
「そうね。きっと神田も許してくれるわ」
慰め程度の言葉だったが、アレンにはそれでも救われたのだろう。
にこっと笑い、はい。と頷いてくれた。

だがその日も次の日も、ご飯を持ってきてくれたのはジェリーやラビ、リナリーで、神田は一目も姿を現さなかった。
明日はついに、マナを探しに行く日だ。
「明日になれば、きっと会えるよねっ」
最初の日に、コムイが神田は自分のサポート役だと言ってくれていた。
一緒に居たわけではないが、形としては同室でもある。
と言うことは、明日からの旅に一緒に行けると言う訳で。
『そんなことあるわけないじゃい』
もうとっくに嫌われていると思ったところに言われた、ジェリーの一言。
あの言葉が本当だとするのなら、まだ神田は傍にいてくれるだろうか。
手を握ったら、握り返してくれるだろうか。
つき返されたらと思うととても恐い。
昔から異形の手のせいで虐待やいじめを受けてきたアレンは、拒まれることを酷く畏れた。
マナから惜しみない愛情を受け、それは逆に肥大した。
幸せを味わっただけ、知ってしまっただけ、再び抉られる傷の深さは計り知れない。
そしてふと、アレンは神田に対しての畏れが変わっていることに気付いた。
最初に感じていた対人としての畏れから、自分が好意を寄せている人から拒まれる畏れに。
「・・・かんだ・・・」
ひどく会いたいと思った。
浮かんでくるのは、神田の傷付いた表情。
自分のせいで、傷つけてしまった。
傷つけられた痛みは、自分が良く知っているのに。
「・・・・・・」
明日、会ったら。
拒まれたとしても謝りたい。
涙を浮かべながら、アレンはそう強く思った。

□■□

医者からの診断は、無理をしなければ問題はないとのことだった。
歩いても痛みは無く、リナリーたちはよかったとまるで自分事のように喜んでくれた。
こんないい人達を拒んでいたのかと思うと、心がくすぐったくなる反面、また罪悪感が込み上げた。
引き篭もってしまっていた自分が、本当に莫迦だった。
出発は、昼過ぎ。
夜行の汽車に乗り、明日の昼前につくと言うので、結構な遠出である。
リナリーから貰ったバッグに詰めた中身を確認し、アレンはちらちらと扉を見る。
が、やはり神田は現れない。
「・・・・・・?」
結局、神田はリナリーがアレンを呼びに来ても現れなかった。
手を引かれ、アレンはだがきょろきょろと辺りを見回す。
そのまま教団の外に出ると、ラビたちが手を振りアレンを迎えてくれた。
「よっすアレン。良く寝れたか〜?」
「あ・・・はい・・・」
にこーっと笑いかけてくれたラビに、だがアレンはまだ少し怯えを隠しきれない様子で顔を強張らせた。
切り立った崖の上にある教団から外に出る為には、いくつかある地下水路をゴンドラで下る必要がある。
地下水路のいくつかは教団の外から向かう場所もあり、ラビ達は今回はそこから出ることになっていた。
「・・・じゃ、気をつけてね」
コムイが言うと、ラビ達が頷いて、再びリナリーがアレンの手を引く。
「あ、のっ!」
「?どうしたの?」
手を引き返したアレンに、リナリーはきょとっとする。
「・・・神田が、まだ来てないんですけど・・・」
アレンの言葉にコムイたちは心底驚いた顔になった。
不安そうなアレンに、戸惑ったようにラビはコムイと顔を見合わせた。
「・・・あのね、アレンくん。神田は一緒に行かないのよ?」
「・・・・・・・・・ぇ・・・?」
リナリーの言葉に、アレンは泣き出す一歩手前の表情になってしまう。
「今回俺らの旅にアレンを同伴するのを進めたんは、ユウなんよ?」
「・・・・・・」
「ここにいると、お前が壊れちまうって。ユウの・・・自分の傍にこれ以上置いておけないって」
「・・・・・・――――――ッ」
ぐっとアレンは唇を噛み締める。
胸が、締め付けられるように痛んだ。
「だ・・・って・・・!神田は僕と一緒に居るって・・・ッ」
「でも拒んだのは、アレンだよ?」
痛い一言を言われる。
そう。最初に拒んだのは。
拒絶したのは。
紛れも無い、自分・・・なのだ。
神田の優しさにも気付けず、傷と痛みばかりを与えてしまった。
ぐ・・・。と、手に力を込める。
「これ以上神田を傷つけてほしくはないんさ、俺は」
「ッ」
「アレンは、マナに会いたいんだろ?」
会いたい。
逢いたいに決まっている。
だってマナは、アレンの世界なのだから。
――――――けれど。
だけど・・・。
「ッ」
「あっ・・・アレンくん!」
リナリーの手を振り解くと、アレンは来た道を走り引き返した。
振りほどいたくせに、再び近寄るのも、神田の傷を抉ることだとわかっている。
わかってはいるが、それを堪えられるほど、アレンは大人ではない。
「かん・・・かん、だッ」
上がる息の中、嗚咽を堪えて呟く言葉は上手く言えなくて。
滲む涙を拭うこともせずに、アレンは走っていった。
「かんだッ!」
思いっきり、叫ぶように呼びかけて。
何度も呼んで、涙がはらはらと飛んでいく。
辺りを見て、教団を見上げた。
そして空を見た瞬間に目に入った黒に、アレンはハッと視線を映した。
教団の中から、走る自分を驚いた顔で見ている神田。
この数日間ずっと捜して。
求めて。
会いたかった人。
「・・・・・・ッ」
アレンはバルコニーから教団内に入り、階段を捜す。
切れる息のなか、ようやく見つけた階段を必死に駆け上がると、もう筋肉が悲鳴を上げて、それでもアレンは走るのをやめなかった。
かんだ、と呟いて。
口の中は荒い息をはき、ずっと開けているせいでカラカラで、なのに頬は止まらない涙で乾いては濡れてを繰り返していた。
「ッ・・・神田ッ!!」
辿り着き、久々に見た神田は未だ状況についていけないと言うように放心しており。
神田にあと少しで届くというところで、ついに脚が限界を超えた。
「あっ」
もつれ、走った勢いは止まらずに体勢だけが崩れる。
「ッ」
だがアレンが倒れるより先に神田が慌てて動いたおかげで、床に激突することは避けられた。
一度走るのを止めてしまうと、予想以上に疲労していたことがわかった。
身体に力は入らず、特に足はがくがくと震え立つこともままならず、神田の支えが無ければ床に座り込んでしまっているだろう。
髪も顔もぼろぼろで、呼吸も全然治まってくれず。 それでもアレンは、辿り着いた神田の服を離さないとばかりにぎゅうと握りしめた。
そんなアレンに困惑したのは、もちろん神田だ。
「・・・どうしたんだよ」
普段通りを装い出した声は、自分でも驚くほどに動揺を隠しきれていなかった。
「マナ、捜しに行くだろーが。いいのかよ、こんなところで時間潰して」
「神田が!・・・神田が、一緒に行かないって・・・ッ」
「・・・・・・――――当たり前だろうが。俺が一緒に行っちまったら、何の為にお前外に出してやるのか、わかんねぇじゃないか」
その言葉に、アレンが顔を上げる。
見上げた神田の表情は、つらそうで。
ドコドコとなる心臓が、脈打つ中でズキリと痛んだ。
「おら、とっととラビのトコに」
「やだっ!」
遮ったアレンの言葉に、神田の眉が寄る。
「や、だ・・・っ。神田が行かないなら・・・行かないッ」
「ばっ」
予想していなかったアレンの言葉に、神田はカッとなる。
「莫迦言ってんじゃねェよ!お前を外に出す為にどれだけの人間が動いてると思ってんだ!」
「でも行きたくない!」
「行け!」
「ヤだ!!」
ぎゅうっと、更に神田の服を掴む手に力が篭る。
それを見て、神田はつらそうに眉を顰めた。
「んだよ・・・てめぇが俺を拒んだんじゃねェか・・・ッ!」

かんだ

甘い声が蘇る。
それは紛れも無く、目の前の人物のそれなのに。
「・・・・・・」
その言葉に、アレンは言い返せない。
それは、事実なのだから。
「今まで拒んで、ギリギリで戻ってこようとして・・・お前は俺に何を求めてんだ・・・」
呟く神田の言葉は、先程の怒鳴り声とは違い酷く弱々しくて。
ここまで自分が追い込んでしまったことに、アレンはまた涙を零した。
「ごめ・・・な、さっ」
嗚咽混じりの声は、か細くて。
それでも、神田を掴むその手からは力が抜けなかった。
「ごめん、な・・・ッ」
アレンが嗚咽を漏らし泣き始めても、神田もその手を振り払うことは出来なかった。
出来るはずも無かった。
「・・・マナ、会いに行くんだろうが」
アレンは反応を返さない。
「ここは・・・俺は嫌いなんだろうが・・・」
今度は、横に頭を振る。
「――――――」
神田がどうするべきか対処に悩んでいると、そっとアレンが顔を上げた。
嗚咽は漏れているが、呼吸は先程よりも随分治まってきている。
目の縁に溜まっている涙を拭ってやると、そのまま手に擦り寄ってきた。
「マナは、ここに来てくれるんでしょ?」
それは、最初にアレンについた嘘だった。
だが神田は、ああ。と肯定した。
「じゃあ、僕はここで、マナを待つよ」
神田と一緒に。
言った声は震えていて、神田の拒絶を畏れているのだと知れた。
泣きそうな笑顔。
不安で心配で、押しつぶされてしまいそうなのに、アレンはいつもこうやって笑顔を作る。
「・・・・・・」
「神田と、一緒にいたい」
そっと、神田は。
アレンの身体を抱きしめた。
拒絶をしない身体。
服から一度離れた手に少しだけ不安を覚えるが、すぐにそれは背中で再び神田にしがみついた。
「ごめんなさい」
続いて漏れたのは、謝罪の言葉。
何度も何度も繰り返す、拙い言葉。
「もう、いい」
「ごめん、なさい」
アレンは神田を離さず、静かに泣き始めた。
神田もアレンの身体を抱きしめ、このぬくもりを再び感じれたことに歓びを覚える。
どんなに虚勢を張っても、結局自分は。
アレンが、好きなのだ。
「アレン」
呼べば、ごめんなさいと返ってくる。

あたたかい

その小さな身体があまりにいとおしすぎて。


少しだけ神田は、アレンを抱く腕に力を込めた。



☆NEXT☆


コメント

はーようやくー。
ちなみにこれは前章です。
神田とアレンをらぶらぶ☆にするための。
と言う訳で次回からは神田とアレンのラブラブストーリーを展開していきます(寒)
六話にして終わる前章って・・・。