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Roundabout 5 幸いなことは、アレンが部屋を抜け出したことにまだ誰も気付いていなかったことだ。 一日中といっていいほど人の動きのある科学室は避け、できるだけ人通りの少ない道を選びながら部屋へと辿り着いた。 「ここで待ってろ」 ベッドにそっとアレンを降ろすと、神田は部屋を出て行ってしまった。 鍵も何もかけず出て行ったのは、アレンが動けないことを見越してのことだろう。 証明するように、大分時間がかかったにも関わらず、アレンは先程と同じまま座っていた。 神田は医務室から貰ってきた薬や包帯をベッドに置くと、今度はバスルームに消えていく。 そして洗面器に水を張り、ついでにタオルを二枚ほど持って戻ってきた。 「・・・脱がすぞ」 一言呟いてから、神田はアレンの足に触れた。 短いブーツのような靴は紐できつさを調整する為、脱がすのにそれほどアレンに苦痛は与えなかった。 靴下も丸めるように脱がし、とりあえず検分をする。 捻った後動かさなかったのが幸いしたのか、思ったほどは腫れてはいなかった。 だが、それはあくまで神田がひねった時に思うことであり、まだ痛みに弱いだろうアレンにはどれほどつらいかは神田には判らない。 タオルを水につけ、あまり固く絞らずに足へとつけてやる。 もう一つのタオルはしっかりと絞り、汚れている部分を拭いてやる。 「沁みるぞ」 「―――――ッ」 まずは顔を拭いてやろうとすると、ビクリとアレンは肩を揺らし、ぎゅっと眼を硬く閉じた。 「・・・・・・」 神田はそんなアレンに触れるのを一瞬躊躇うが、それでもタオル越しに触れていった。 顔は傷がついていない為、泥を落とすようにしっかりと。 右手はかなり傷が付いている為、慎重に綺麗にしてやる。 途中で何度か手を引こうとするのを宥め、何とか完了した。 次に、ガーゼに消毒液を含ませて、患部につけていく。 これはアレンもつらかったらしく、何度か堪えきれない声が漏れた。 神田はあえてそれを無視し、大きなバンソウコウをつけてやった。 「おら。左手出せ」 「・・・・・・」 だが、アレンは頑なに拒否し、左手を後ろへと隠してしまう。 「何してんだよ」 「だ、って!」 絞り出すよな、アレンの声。 「こんな手・・・ッ」 「だからなんだッつってんだよ」 「あッ」 神田は無理矢理その手を掴み、目の前に出してしまう。 いくら何度か神田に見られているとは言え、こんなふうにマジマジと見られるのも、触れられるのも初めてだ。 それは記憶を失ってしまっているアレンの中での考えだが、今までマナが絡んだもの以外で良い思い出の無いアレンは、人前にその紅い手を出すことを酷く拒んだ。 だが神田はそんなアレンの心中を知ってか知らずか、かまわず治療を進めていく。 もっとも神田からしてみれば、それは普通の行動なのだが。 力を込めて神田の様子をびくびくと窺っていたアレンも、右手と変わらず治療をしていく神田をそおっと眼を開け、伺う。 神田は至極普通に、それでいて大切にアレンの手を扱ってくれていた。 「痛ェのか」 アレンの様子に気付いた神田が不意にそんなことを聞いてくるので、思わずアレンはふるふると首を横に振った。 「そうか」 「・・・嫌じゃないの?」 「だから、なにが」 「こんな醜い・・・」 「醜いもクソも、これがお前の手なんだろうが」 「―――――――ッ」 中には、これがあなたの個性だもの。なんて言ってくるものも居た。 個性が何だと言うのか。 個性なんて言葉で片付けて、それで自分は拒否をして。 何の慰めにもならなかった。 だから、余計にマナの存在はアレンの中で大きくなっていった。 そしてそれと同じくらいに神田の言葉がじわりと沁みた。 「・・・・・・」 神田は両手を終えると、膝にも同じ様な治療をしてやる。 最後に、冷やしておいた左足首からタオルを退け、改めて固く絞ったタオルで拭いてやった。 患部を押していき、時々アレンに痛いかどうかを問う。 そして腫れている部分をとんとんと叩いたり、軽く捻ったりしていく。 「靭帯やアキレス腱には影響は無いな」 一息つき、改めて湿布を張り包帯を巻いてやる。 時々痛む中、それでも鮮やかな神田の手付きにアレンは感心した。 神田としては、自分の手当ては結構蔑ろにしている為、実はこうしてちゃんと手当てすることにあまり慣れておらず、四苦八苦しているのだが。 「おら」 ようやく巻き終え、神田は自分の膝に乗せていたアレンの足をそっと降ろしてやった。 「風呂はやめとけよ。血の巡りが良くなって逆に腫れが酷くなる」 神田は水を捨て、汚れたタオルを持つと扉へと向かった。 「出来るだけ足は曲げるな。動く時は、足の平を出来るだけ平行にしながら歩け。 痛みが引かないようなら湿布を変えておけ」 「・・・・・・ッ」 それだけ言うと、神田は扉を開け、とっとと出て行ってしまった。 伸ばしかけたアレンの手は、神田にはもちろん届かず。 感謝の声はもう、アレンの唇にすら乗らなかった。 □■□ そのままの足で向かったのは、ラビの部屋だった。 これまで訪れたことが数度しかないその扉を叩き、中から顔を見せたラビも至極驚いた顔をしていた。 「よう。どうかしたんか?」 それでも、すぐにニコリと笑顔を見せ、中に神田を招き入れてくれた。 神田は無言で中に入り、床にどかりと座った。 いつもと変わらない神田の尊大な態度だが、なんだかんだ言って付き合いの長いラビには、神田の違和感に気付いていた。 もっとも、神田がここに来る時点でおかしいと言えばそうなのだが。 ラビも神田と同じ様に床に座り、尋ねつつも神田の言葉をちゃんと待っている。 「―――――――」 一度口を開き、再び閉じる。 それからやはり顔を俯かせたまま、今度は言葉を発した。 「・・・お前、今度任務入ってるよな?」 「あ?・・・ああ。三日後にな。つっても、まぁブックマンの仕事が主になる感じだがな」 「そうか・・・」 「・・・ユウ?」 だが、またしても神田は黙ってしまう。 それをやはりラビは、辛抱強く待つ。 いや、ラビに取ってそれは辛抱でもなんでもなく、普通の行動となっているのだが。 「あいつを、一緒に連れてってやって欲しい」 「―――――――――――」 あいつ、が誰を指しているのかは、すぐにわかった。 だからこそラビは、その言葉に困惑を隠せない。 「え、ぇえ?ちょ・・・ユウ?」 「今日、あいつが教団から外に出た」 「・・・・・・」 再び神田の口から出た言葉に、ラビは口を噤んだ。 「森の中で迷ってた。・・・マナに会いたいって」 少なからずアレンから事情を聞き、知っているラビは、マナの名を聞き眉を寄せた。 それは今、間接的に神田を苦しめている一番の人物。 「ここにいても、あいつが壊れるだけだ」 「だ・・・けど・・・ユウ、外は外で危険なんだぞ?!」 「んなもん知ってる。だが、もうこれしか方法が無いんだ!」 だん、と強く握り締めた拳で床を叩く。 神田自身、まいってしまっている。 確かにアレンは今記憶が『無い』 だが、神田は覚えているのだ。 「頼む」 「―――――」 神田が頭を下げるところを見るのは、師であるティエドール元帥への礼儀上のものくらいだ。 まして、自分に頭を下げるなど・・・。 「・・・ユウは、さ」 「・・・・・・」 「ユウは、アレンと離れたいんか?」 時間の流れとしては、そう長くない時間。 だが、それでも長く感じた中で神田は絞り出すように、『ああ』と頷いた。 「・・・・・・」 はぁ、と溜め息が漏れる。 昔からを知っているせいか、この幼馴染みにはどうしても弱い。 「・・・わかったさ」 言うと、神田が僅かに肩を揺らした。 「コムイに、相談してみる。結果はコムイに任せるしかねェけど・・・やってやるよ」 ラビの言葉に、神田の身体から力が抜けた。 「・・・感謝する・・・」 その言葉は、安堵か、未だ残る躊躇いか。 だがそれは付き合いの長いラビにも、残念ながらそのどちらとも判別はつかなかった。 だいぶ神田が精神的に弱っていることをコムイも知っていたが、それでも少し渋ったが結局は許可をした。 条件としては、ブックマンとラビの他に、アレンの護衛もかねてリナリーが同行すること。 その分リナリーの任務は、神田が併せて受け持つことになった。 そのことが決まったのが、もう夜の遅い時間だった為、次の日の朝と言うには遅い時間に、ラビはアレンの部屋に向かった。 ラビとしては、気が重い。 神田の本当の心情は、これでもわかっているつもりだ。 内心では、自分の傍に置いておきたいはずなのだ。 あれだけ冷徹を眼前に出し甘さと言うものを一切切り落としてきた神田が、自分からアレンに手を伸ばしたと言う。 それだけアレンを可愛がり、想っているのだから。 それを知っているからこそ本当に・・・ 「重・・・」 出来れば、断って欲しいと思う。アレンには。 だが、聞いていたよりもアレンのマナに対する思いは限りなく深い。 あの状況で、断るとも思えない。 そしてアレンはそのラビの予想を裏切らず。 「本当ですか?!」 扉越しに伝えたその言葉を聞くなり、あれほど開けるのを拒んでいた扉を、いとも簡単に開いたのだ。 眼を輝かせ、幾日かぶりに見る、笑顔を浮かべて。 コメント 進まない・・・! でも次には!次には甘くなりそうな よ か ん !!(・・・) ちなみに怪我の手当てに詳しいのは(常識だと言われればそれまでですが(汗))私が怪我をして治療を受けているから☆ 靭帯が切れると自分でわかりますよー。 ブチッてね!!(・・・) |