Roundabout 4


『私がアレンを守ってあげるよ』
そんな子供じゃないよ!と反論したのは、照れから。
だが、今まで誰も自分を守ってくれる人など居なかった為、自分を包んでくれる養父のその言葉が、心の底から嬉しかった。

不思議なことが続く、と思う。
眼が覚めれば食べ物が・・・しかもアレンの好物が置いてあり、変わりにその前に食べ終わって残っていた食器が片付けられている。
それは日に二回。多くて三回。
一度目は、アレンが朝眼が覚めてから。
朝食と昼食分の食事がテーブルの上に置いてあり、清潔なタオルと服が別に置いてある。
二度目は、昼過ぎから夕方近くの間。
することが無く、意識を張っていることもあり、どうしてもご飯の後は睡魔が襲う。
丁度お腹が減り起きると、やはり夕食が容易されている。
時には、デザートがついて。
ハテナを頭に浮かべつつ、だがおいしいそれを残さずに食べていく。
「誰が置いて行ってるんだろうね」
答えてはくれないが、唯一の話し相手のティムキャンピーに語りかける。
状況から考えて、いつも話し掛けてくるリナリーやラビではない。
コムイやリーバーも時々やってくるが、そんな素振りは見せない。
ならば。
「・・・かんだ?」
と考え、ありえない。と頭を振る。
あれから数日経つが、あれ以来神田は姿を一度とてアレンの前に現さないのだ。
大体において、いつもアレンが寝ている時や入浴中などの時に置いていく。
アレンと対面しないのが、偶然では片付けられないのだ。
「・・・神田は、きらい」
自分を納得させるつもりで呟いた言葉なのに、何故か胸がツキリと痛む。
それは多分、最後に見た神田の表情を見てしまったから。
一瞬だけだったが。
あの、傷ついた表情を。
「――――――ッ」
ふるふると、アレンは自分の考えを打ち消すように首を振る。
彼は、マナを悪く言ってもいるのだから。
アレンはベッドから降り、ティムキャンピーを胸に抱きしめた。
「ここから抜け出さなくちゃ・・・!」
神田は、ここにはマナはいないと言った。
証明するように、自分がここに引き篭もってもマナは姿を見せようとはしない。
ならば、行動しなくては始まらないではないか。
時計を見ると、短針は4を過ぎた辺りに来ている。
17時には至ってはいないが、もう夕方と言える時刻だ。
この数日間で、部屋によってくる人々の大体の時間帯は把握している。
このくらいの時間だと、どうやらみんな忙しいらしく、廊下からも足音は遠ざかる。
動くのなら、今だ。
「・・・・・・」
きっと顔をあげ、アレンはずっと近付かなかった扉に歩み寄る。
少しだけ開けてみるが、やはり足音は聞こえない。
もう少し開け、今度はちゃんと様子を見てみる。
右、左。
やはり、人影は無い。
道はわかるはずもなく、とりあえずまずは扉を閉め、左に走った。
曲がり角からそおっと顔を覗かせ、人が居ないことを確認すると、階段を下へ。
下へ、下へ。
どうやら自分が居るのは人々の各部屋があるところらしく、また、まだ仕事中らしく廊下を行くことは会っても、階段を上に行こうとするものはいなかった。
ある程度下まで行くと、そこからは仕事の詰め所らしく、人々が先程よりも多くなった。
どうしよう、と、階段にある窓を見ると、そこから見えたのは大きく茂った樹。
そっと窓を開け、身を乗り出して下を見ると、やはり下には誰も居ない。
少しだけ迷ってから、アレンは窓枠に足をかけた。
そして、まるで手助けをするように窓に近付いている枝に、思い切ってジャンプした。
「・・・ととっ」
少しぐらついたが、枝は丈夫でアレンの体重ならしなるだけで受け止めてくれた。
加えて、普段からバランス感覚を磨いてきた為、難なくアレンは樹へと乗り移れた。
そこから幹へと渡り、丈夫で太い枝を見ながら徐々に下へと降りていく。
時々伺うように下を見るが、人の影は見当たらない。
どうやらここは裏庭らしい。
真っ直ぐに伸びている樹は、下に行くにつれ枝が少なくなってくる。
一番地面から近い枝でも、2mはあるだろう。
だがアレンは、その枝にぶら下がると、自分の身長の1.5倍はあるだろうそこからジャンプし地面へと降り立った。
「よしっ」
そこから、まずは教団を背に置いて走り出す。
とりあえず、少しでも早くここから逃げ出したかった。
そして、その切迫感から、気付かなかった。
ティムキャンピーは、居なくなってしまっていたことに。

□■□

「――――――――」
ぺすっ。
「・・・・・・」
精神統一をしていると、頭に軽い衝撃が加わった。
見なくても判る。
何故か自分に近付いてくると、こうして頭に(向こうにしてみれば)勢いよく飛びついてくるのだ。
それをべりっと引き剥がし、丸い部分を掴んで正面に持って来た。
「・・・そう言うやりかたやめろっつってんだろ」
だが彼(?)は気にした様子も見せず、だが焦った様子で羽をぱたぱたと羽ばたかせている。
「?」
ぺちぺちと、まるで手を離せとばかりにその長い尻尾で手を叩くので、その胴体を離してやる。
と、その十字架のようなものがギギ、と開き、びっしりとした歯が見せた。
そこから、立体映像が映し出される。
「―――――――」
だが、ティムキャンピーが見せた映像は、ひどく神田を驚かせ、また慌てさせた。
最後にティムキャンピーが映したアレンは、森の中に走っていく後姿。
「っおい!あいつのところにつれてきやがれ!」
元よりそのつもりなのだろうティムキャンピーは、急いで羽ばたいていった。
映像で映っていた空の色は、まだ茜色にはなっていない。
だが、今はもう夕闇が強く迫っている。
ずっと一人で居た為、時間がわからないが、時間がかなり経ってしまっているのだろう。 舌打ちをすると、神田は六幻を強く握りしめ、ティムキャンピーの後を追っていった。

「・・・ティム〜・・・」
森の中。
元々方向音痴のアレンが、迷わないはずが無かった。
しかも、いつのまにか頭に乗せたティムキャンピーも居ない。
ずっと走っていた為、落としてしまったのか。
だが、探している時間も無いのだ。
とぼとぼと、アレンは歩いていく。
多い茂った葉で、ただでさえくらいのに、教団から漏れる光も遮断されているので、ほんの3m前もよく見えない。
「マナ・・・あっ!」
やばい、と思ったが、根で足を取られてしまった為、体勢が立て直せない。
「いっ!」
胸にかかる圧迫感は、受け身さえも取れなかった証拠だ。
変に捻ってしまったのが、倒れてる最中でもわかった。
恐る恐る上半身を起こすと、それだけで左足に激痛が走った。
突き抜けるような痛さの次に、打ち鳴らすような鈍痛。
そうっと足を根から抜くが、それだけで痛みが何度もやってきた。
とてもではないが、歩くことはおろか、これでは立ち上がることも難しいだろう。
「・・・どうしよう・・・」
ぐすっと、鼻を鳴らす。
見れば、手の平にも小さな切り傷や擦り傷が幾個もある。
「マナぁ・・・ティム〜・・・」
一度弱気になってしまうと、後は崩れるように涙が込み上げてくる。
無事な右足を抱え、ぐすぐすと泣き始める。
「マナ・・・・・・、か」
言いかけ、アレンはその言葉を飲み込んだ。
何故、彼の顔が思い浮かんだのか。
アレン自身驚いて、少しだけ涙が止まった。
だが、それはすぐに寂しさに飲み込まれ、また溢れ出していく。
かんだ。
一度だけ、心の中で呟く。
ただ少しの期待を込めて。
だから。
「・・・おい・・・」
あの、不機嫌そうな声が聞こえた時は、幻聴かと思った。

だって。
自分を助けてくれるのは、マナだけでしょ?

そう思って顔を上げれば、少し息を弾ませ、いつものように不機嫌そうにしている神田の姿。
「・・・部屋、出たかと思えば・・・」
言い、しゃがむ神田にアレンはぼんやりした意識をハッと取り戻した。
「やっ!」
そして、伸ばしてくる神田の手をパシリと叩いた。
じりじりと痛む足を庇いながら、後ろへ下がっていく。
「来ないでっ!」
「っおい!」
「来ないでッ!!」
強く、拒絶する。
と、神田は近くの幹を強く叩き、声を張り上げた。
「莫迦は状況を見てから言え!!立てもしねェてめぇに何が出来る!!」
怒気を孕んだ声に、アレンはビクリと肩が跳ねてしまう。
「お前が俺を嫌ってンのなんて判ってんだよ!だがしょうがねぇだろうが、見つけちまったもんは!」
帰るぞ、と言う声に、アレンはだが先程よりも弱々しく抵抗を見せた。
ぼろぼろと涙を流し、神田から自分を庇うように手を交差させる。
溜め息が聞こえ、また怒鳴られるかと思い肩を竦める。
「・・・そんなに俺が嫌か」
どちらかと言うと、悲しみを帯びた声。
はっとアレンが神田を見ると、傷付いた表情をしていた。
あの時と、同じ様な。
「だ・・・って・・・」
そう。と言ってしまえばいいのに、込み上げてきたのは言い訳のような言葉。
「マナ、いないんだもん・・・ッ」
だが、神田が見せたのは、さらに深い悲しみの色。
「・・・・・・そう、か・・・」
わかった。と、神田は小さく呟いた。
何故そんな表情をするのだろうか。
彼も、嫌々自分と組まされたのではないのか。
聞こうとし、だがそれは少しだけ早かった神田に遮られた。
「・・・だが今は一度部屋に戻れ。怪我を手当てしなきゃなんねーだろ。
それに、ここは断崖絶壁で、下に降りるにゃ地下水道通んなきゃなんねェんだよ」
ここを真っ直ぐ行っていたら、この暗闇だ。足元もわからず下に落ちてしまっていただろう。
だからティムキャンピーは自分では伝えられない為神田を呼びに行き、神田も急いでアレンを追いかけてきたのだ。
結局、無駄だったのだ。
もう一度、神田はアレンに手を伸ばす。

今度は、抵抗はされなかった。



☆NEXT☆


コメント

ら、ラブラブに以下略。
も少し神田には切ない思いをさせてしまいそうです〜・・・。