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Roundabout 1 どんな姿になっても、キミが好きだから。なんて。 そんなのは、都合のいい幻想だって、思ってしまうよ。 「兄さん!」 血相を変え、リナリーがコムイの元へと走ってきた。 コムイはコムイで、神妙な顔をしつつリーバーを伴いなにやら機器をカチャカチャと動かしている。 「わかってるよ、リナリー。今ゴーレムから報告が着たから」 早い対応に、リナリーは少しだけ冷静さを取り戻す。 深呼吸を数度し、リナリーは改めて報告をする。 「・・・アレン君が今任務から帰ってきたんだけど、イノセンスに大きな負傷を追ってるの。 今ファインダーが運んできてくれてるから・・・」 そのあとの言葉が続かない。 怪我の多いアレンだが、特に今回は酷いらしい。 リナリーは、その白くほっそりした指を力一杯握りしめる。 コムイは準備の手を止め、リナリーの元へと歩いていく。 そしてその、力が篭っている手をゆっくりと開かせた。 さして抵抗はなく、その代わり泣きそうな眼がコムイを見つける。 「・・・僕がなんとかするから」 ね。とコムイはゆったりと笑う。 いつも見せる表情とは違う、絶対に安心の出来る笑み。 それは、幼い頃から自分を慰めてくれた。 「・・・うん・・・」 戦いの最前線で戦っている以上、命の保証は絶対にされない。 リナリーはもちろん、コムイもその現実を幾度となく見せられている。 だからこそ、確証もなく軽率な約束はしない。 けれど、それだから。 助けれる命なら、なんとしても助ける。 コムイたちに出来るのは、守ることだ。 それはエクソシストたちをサポートする上で、絶対に無くてはならないもの。 そのことをちゃんとわきまえ、備えているからこそ、コムイの信頼はなんだかんだ言っても厚いのだ。 「室長!」 リーバーが大きく、コムイを呼ぶ。 話している間に、アレンが到着したらしい。 手術台に乗せられたのを確認し、コムイはそっとリナリーの背を押した。 少し、躊躇い。 結局リナリーは部屋を後にした。 「リナリー!」 手術室の前の椅子に座っていると、騒ぎを聞きつけたラビが駆けて来た。 次いで、神田が走ってはいないが普段よりも速い足取りで辿り着く。 こんな時くらい、素直になればいいのにとも思うが。 「ラビ、神田・・・」 「アレンが大怪我したってマジか?」 うん。とリナリーが頷く。 今回の任務は、アレンとファインダーとの行動だった。 と言うのも比較的近くの場所で、視察も兼ねたものだったからだ。 「なんで」 至極当然な質問をラビがする。 ラビや神田、リナリーよりもエクソシストとしての経歴が短いとは言え、さすがクロスの弟子と言うべきか、その腕は確かなものだ。 それが、そこまで酷くやられてしまうとは。 チラリと、神田の視線が同行したファインダーに行く。 アレンが大怪我していると言うのに、ファインダーには大きな怪我はなく、重症といった感じではまったく無い。 「・・・またかよ・・・ッ」 ちっと、神田が苛々しながら舌打ちをする。 「どうせファインダーでも庇ったんだろ・・・ッ」 ギロリとファインダーを睨むと、ファインダーはビクリと萎縮し、その場に頭を伏した。 「もっ申し訳ございません!私が油断したばかりに・・・ッ」 「・・・油断だぁ・・・?」 聞き逃せない一言に、神田の殺気が増した。 「てめぇ、油断できるような立場かよ。しかもそれで、モヤシ・・・エクソシストに瀕死の重傷を負わせたのかよ・・・ッ」 「神田!!」 土下座をしているファインダーの胸元を引き、自分の目の前まで持ち上げた。 そのため首が絞まり更に神田の怒気に当てられ、ファインダーは、ひっひっ、と短く呼吸を漏らす。 それをリナリーが窘め、ラビが掴み上げている手からファインダーを助けてやった。 「それくらいにしとけよ、ユウ。結局助けたのはアレンさ」 油断したのはファインダーで、本来ならその油断の為に命を落としていたのかもしれないのだ。 それを自分の身の危険を推して助けたのは、紛れも無いアレンで・・・。 「・・・ッ。わかってるッ!」 ラビの手から逃れると、神田は苛立たしげに壁を蹴り上げる。 窘めてはいるが、ラビもリナリーも神田の気持ちはわからないではないのだ。 仲間を助けるのは良いこと、と言いたいがアレンのソレは極端だ。 毎度毎度神田もラビもリナリーもコムイもリーバーもジェリーも諸々の人々が言うのだが、まったく治る気配は無い。 ちらりと神田はリナリーを見る。 普段はコムイの助手を務めているリナリーは、滅多なことでは動じない。 そのリナリーが顔から血の気を引きさせ、必死に落ち着こうと努めている。 今この三人の中で、アレンの容態を実際に見ているのは、リナリーだけ。 ラビと神田には想像もつかない。 ・・・と。 「うわっ」 「っ?!」 扉の向こうからコムイとリーバーの声が漏れてきて、一瞬強い光が扉の隙間をすぅっと照らした。 「兄さん?!」 リナリーが扉越しに話し掛ける。が、コムイから答えはない。 あのシスコンのコムイがリナリーに答えないとは。 神田とラビは顔を見合わせ、鍵のかかっているはずの扉を蹴り飛ばした。 「モヤシっ」 暴挙にコムイもリーバーも見向きもせず、ただ呆然と手術台・・・アレンを見ている。 三人も、アレンに視線を移した。 『―――――?!』 そして同時に、息を呑んだ。 元々大きめだった団服の袖からもズボンからも手足は見えず、その頬はずっと丸みを帯びている。 そして何より、その髪と左目の傷。 養父から受けたと言う目の傷は消え去り、養父を壊したショックで色素の失われてしまっていたはずの髪は明るい茶色をしている。 「・・・あ、れん・・・?」 呆然とラビがアレンを呼ぶ。 ―――――アレンのその身体は、なんと幼く縮んでしまっていたのだ・・・。 「治癒形態、ってやつだと思う」 「治癒形態?」 本を調べ見ていたコムイの言葉を、オウム返しにリナリーが聞き返す。 「そう。前にも一度寄生型タイプで見たことがあるんだよ。 イノセンスと、寄生主・・・つまり人間があまりに酷く負傷しているとね、イノセンスが自らを守ろうとするんだよ」 「それがなんで、ちっさくなるわけ?」 はーい。とラビが手を上げて質問をする。 「うん、これは確証が無いからあくまで僕の仮説なんだけどね。 人間の身体って言うのは、幼い頃・・・調度今のアレン君くらいが一番回復力とかの治癒能力が高いんだよ。 だから、イノセンスが少しでも体力を温存しつつ早く治そうとするために、身体を縮ませてしまうんだと思うんだよ」 「・・・んなことが・・・いっくらイノセンスだからって可能なのかよ・・・」 仮説、と言う事で、神田が眉を顰める。 だがそれに異を唱えたのは、コムイではなくリナリーだった。 「あら、出来ないなんて事は無いと思うわ。現にミランダのイノセンスだって、時間を巻き戻したんだもの」 この頃はミランダがまだ未熟だった為、発動を止めてしまうとその時間も元の状態に戻ってしまったが、出来なくは無いと言う証拠にはなる。 そっと、四人は縮んでしまったアレンを見る。 確かに、あれほど酷かった傷はかさぶたさえも残さず消えてしまった。 「・・・じゃあ・・・モヤシが全快したら、元に戻るんだな?」 「多分ね」 こういう時のコムイの素直さは、本当に嫌いだと神田は思う。 ヘンな期待は確かに打ち消してくれるが、がっかりも一緒にくれるのだ。 神田はアレンの元へと歩み寄る。 ベッドに腰掛け、その色味を帯びた髪を梳いてやる。 リナリーとラビ、コムイは眼を見合わせ、踵を返す。 「じゃ、神田君。アレン君が起こしたら知らせてね〜」 「頼むぜ、ユウ」 「欲しいものがあったら持ってくるから」 と、口々に言っては去っていく。 だが神田は、それに文句も言わず(不機嫌な態度にはなったが)ただ視線をアレンに戻した。 まったく、性格が丸くなったと思う。 あれほど鋭く、近寄ったものは斬る的な態度と気配を出だしていたのに。 たった一人、アレンによってあそこまで代わるとは。 「人間て、不思議さね」 ラビの、少し揶揄を含めた安堵の声に、リナリーとコムイは少しだけ表情を緩めた。 歳にしたら、七、八歳と言うところだろうか。 普段の知っているアレンも幼い容貌をしているが、今の姿はやはりかなり幼い。 コムイの言う治癒形態と言うもので外面的な怪我は見当たらない。 その頬は血色良く赤く色付いているし、呼吸にも乱れた様子は無い。 とりあえず、安堵する。 銀に近い白髪しか見ていなかったせいで、こうして色素のある髪を見るのは逆に違和感を感じる。 「・・・・・・」 さら。と、髪を梳いてやる。 その手を、頬に移動する。 暖かい。 元々触り心地はよかったが、やはり子供特有の柔らかさがある。 ぱらぱらと髪が手をくすぐり、それにまた心が落ち着く。 かんだ・・・ あの声で、あの笑顔で。 まず名前を呼んで、それから謝らせて。 叱って。宥めてやろうと思う。 「――――――――」 す、と、アレンの長い睫毛が振るえ、瞼が持ち上がった。 「モヤシ・・・っ」 突然の覚醒に驚き、そして起きたことにまた安心する。 瞳は、やはり見知ったものよりも大きく丸く開かれ、神田を捕らえる。 その目は、今の銀灰色の瞳ではなく、もっと青碧味を帯びた色。 アレンの視線が、しばらく彷徨ったあと神田を見た。 「・・・モ」 「だれ?」 呟かれた言葉は、まさに少女のもののような高い声域。 だが、その口から放たれた言葉に、神田は身体を硬直させてしまった。 「・・・あなた、だぁれ?」 コメント 半分パラレル連載です〜。 子アレンと神田のお話しを書きたいけどありきたりすぎる・・・! とか悶々していたオンリーの帰りに出会った母子(主に赤ちゃん)を見て思いついたのです。 何話になるかは・・・不明です・・・!(・・・) |