9 『想い』

錆び付いたドアを開け、カイは屋上に来た。
レイの部屋を訪ねたのだが、個室のベッドはモヌケの殻だったので病院内を探したのだ。
ガラス越しではない、青い空に、白く雲とシーツが良く映えていた。
そして。
「レイ・・・」
レイは珍しく、カイが来たのに気付いていない。
いつもあんなに聡く気配を読むのに。
レイは髪を結いもせず、風にその長い髪を思うままになびかせていた。
そうやって膝をついて・・・カイ側では見えないが、胸元で両手を組み、一心に祈っている。
「れ・・・」
近付くと、レイが何か呟いているのが耳に入った。
「どうか・・・」
カイは歩みを止め、レイの言葉を聞いた。
「白虎・・・お願いだ・・・お願い・・・カイを」
カイを。
「カイを・・・助けて・・・」
レイの頭が更にうなだれていく。
「もう・・・カイがツラい想いするの、見るのヤだ・・・。なんでもするから・・・」
それは。
それは、ずっと聞きたくて、ずっと聞けなかったレイの本心。
自分を傷つけたくなくて、自分ばかり傷つけて・・・でもそれは結局、両方傷付いてしまって・・・。
悪循環を作ってしまった原因は、なんだっただろう?
レイの『嫌い』と言う言葉の裏に、本当は何が隠されていたのだろう?
カイは再び歩みだす。
まだ、レイは気付かない。
「では答えろ」
レイの肩が揺れ、振り返りそうになったのを、やはり言葉で制した。
「振り返るな。・・・そのまま答えろ。嘘も何にもつくな。・・・お前は、どうしたい?」
カイの言葉に、レイはどうすることも出来ない。
「答えろ。『なんでもする』んだろう?」
さぁっと、二人の間に、気持ちの良い風が吹く。
「・・・俺は何度でも言える。レイが好きだ」
レイの肩が震える。
「過去もいらない。・・・いや、必要とあるなら受け止めよう。緋の眼ということも、金の眼ということも。お前のついた、嘘も・・・」
受け止めてやる・・・。
だから。と、カイは言葉を待つ。
――――ああ・・・。
レイは視界がぼやけるのを感じた。
――――ああ、もう、ダメだ・・・。
「・・・お、れは・・・・・・」
ぎこちなく、レイがしゃべる。
カイは遮らず、レイの背中を見ていた。
「オレは、どれだけ傷付いてもいい・・・カイを守りたかった・・・。
今、カイの言葉を受け止めてしまったら、絶対カイは不幸になる・・・オレはそれでもいい・・・でも、カイがそうなるのだけは、絶対ヤだ・・・っ」
そのためなら、いっそのこと死んでしまいたかった。
「でも・・・でも・・・・・・っ」
喉が鳴る。
声が震えて、うまく紡げない。
「やっぱり、好きなんだ・・・」
レイは耐えきれず、カイの方を振り返った。
涙でグシャグシャな顔。腫れぼったい眼。乱れきった髪。きっとで自分はすごい顔をしているのだろう。
・・・それでも、今は、カイの顔が見たかった。
「カイの事、好きすぎるんだ・・・っ」
――――ああ、もうダメだ・・・。溢れてしまうよ・・・想いの全てが・・・アフレテシマウヨ・・・――――。
「ホントは、過去だって、金眼と緋の眼ってことだって、ホントは、本当は・・・どうだってよかったんだ・・・っ。カイが傷付かなければ、後はどうだってよかったんだ・・・っ」
鼻をすすり、一瞬目を閉じた時に、カイが動いたのか、次の瞬間には抱きしめられていた。
レイも、突然の事で思考が着いていかない。
それでも、頭の隅っこの方で、『ああ、カイの匂いだ・・・』と感じていた。
逃げないレイを、カイは思いきり抱きしめる。
「・・・痛みなんて、いくらでも受け止めてやる・・・っ」
レイの耳に直接囁くように、カイは呟く。
「痛みなんて、生きてるうちにいくらでも受けなきゃいけないんだ。・・・俺は全部この身で受け止める・・・っ。・・・・・・でも・・・」
カイの腕に更に力がこもった。
「嘘は嫌だ・・・」
『嘘』
「嘘は、痛みを覆い隠す・・・」
・・・実際・・・。
実際、レイのついた嘘は、どこまでも屈折した、絡まった糸のように、カイに届かなくなった。
優しくて、どこか儚い、レイの『嘘』
「痛みはいい・・・身体的なものならいつか消える・・・。心のモノだって、いつかは想い出になれるかもしれない。・・・俺は、それをお前と作っていきたい・・・」
・・・レイの中で、何かがカシャンと音を立てて落ちていった。
枷が、外れた気がした。
「・・・・・・す、き・・・なん、だ・・・」
涙が止まらない。
でも、前のような引き裂かれるようなモノは無い。
カイが傍に居てくれるから・・・?
「好きなんだ・・・カイが・・・。すごくすごく、好きなんだ・・・」
うわ言のように呟くレイの言葉を、カイは頷いて受け止めた。
風は、もう二人の間を通り抜けなかった。



☆NEXT☆
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コメント

・・・自分的にはあんまり納得がいかないような・・・。
でもこれ以上表現方法浮かばない(号泣)
次でラスト!よぅっし!今回の分までしっかりまとめなければ・・・!!