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8 『本心』 レイが目をあけて最初に見た色は、白だった。 光に照らされて、いろいろな影や明るみを作る陽の光。 白いカーテンが風にはためかれ、その後ろから青い空と白い雲が覗いている。 ・・・飛行機雲も見える・・・。 「・・・・・・おれ・・・」 トロンとした眼で今の自分の置かれている場所を、状況を確認しようとする。 と、そこでカチャリとドアの開かれる音がした。 「っ!レイ・・・っ」 俯きながら入ってきたのは仁だった。 仁は心配そうにレイを覗き込み、ホッと安堵の溜息をついた。 「よかった・・・気がついたんだな・・・」 仁は静かにレイの頭を撫でてやった。 「・・・ジン、オレ・・・」 仁はレイから離れると、少し錆び付いている丸椅子を引っ張ってきた。 どうやらここは個室らしく、他にベットも人もなかった。 「覚えてるか?お前車に引かれそうになったんだぞ?」 ああ、そうか・・・。 ようやくレイは思い出した。 信号を確認せず渡ってしまったので、車に引かれてしまったのだ。 ・・・引かれて・・・。 「ジン・・・っ」 「?なんだい?」 「今、ジン『引かれそうになった』って言った。『オレ』は、『引かれた』んじゃないのか?」 そう。今の仁の言い方は、レイ以外の別の人間が代わりに引かれたような言い方だった。 そういえば、最期に加わった衝撃は、横からでは無く、後ろから引っ張られるようなものだった。 仁は顔を曇らせた。 「ジン・・・っ」 仁は溜息をつき、レイの眼をしっかり見た。 「カイが引かれた」 眼前が、真っ白になってから真っ黒になった。 ・・・最悪の事態だ。 レイの顔から色が消えた。 「俺は直接見ていないから、傍に居た人から聞いたんだが・・・・・・レイが飛び出して、引かれそうになった時に、もう一人飛びでてレイを後ろに下げたらしいんだ。 ・・・それがカイなんだが・・・自分も逃げる余裕が無かったらしくて・・・な・・・」 レイは自分の身体が震えるのがわかった。 ――――何のために自分はカイから離れた? 「カイ・・・カイは・・・っ?」 レイは仁の眼を見ずに、俯いたまま問う。 「大丈夫。カイもちゃんと受身は取ったらしくてね。軽症だよ・・・」 ホッと息をつくまもなく、仁がただ・・・と続ける。 「どうもそれよりも睡眠がここのところ全然足りていないらしくてね。そういう意味でも療養中なんだ」 睡眠不足・・・自分はどこまでカイを追い詰めていた? レイが虚ろになっていると、仁がまた頭を撫でてくれた。 「あれから丸一日たって、軽症だって言われたのに、二人とも目覚めないから心配だったんだ。・・・事故にしても、疲れが出たんだ。ゆっくりお休み・・・」 仁はそういってレイを横にし、部屋を出て行った。 カチャン・・・。 静かにドアが閉まり、レイは虚ろな眼で両手を覗き込んだ。 『ゆっくり・・・』 「休めるわけ・・・ないだろ・・・っ」 レイは顔を両腕で覆い隠した。 涙が止まらない。 離れたのに。 がんばってがんばって、大ッ嫌いな嘘までついて離れたのに・・・なんでこうなるの? 「・・・なん、で・・・っ」 涙は零れずに服に吸い取られていく。 この悲しみも、ツラさも、苦しみも、想いさえも流してしまえる、涙があったらいいのに・・・。 レイは嗚咽を噛み殺して泣いた。 そうしていくらか時間を過ごした後、金眼を真っ赤に腫らして、部屋を出た・・・。 レイの後を追うように、カイも目覚めた。 最初に視界に入ってきたのは、ぼやけた顔の仁だった。 カイは不快そうに眉をしかめ、状況を把握しようと脳を起こそうとした。 「まだ寝てていいよ。睡眠不足に栄養が少し足りなめだってさ。点滴、外しちゃダメだよ?」 子供のようにあしらわれ、カイの不満は更に増した。 カイは仁に逆らうように上体を起こした。 「レイ・・・助けてくれたんだってね・・・ありがと・・・」 レイ。 お礼よりもそちらの方の言葉に反応を見せた。 「・・・レイは・・・?」 「おかげさまで無事だよ。かる〜い擦り傷切り傷しか負ってないしね」 仁は備え付けの小さな冷蔵庫から緑茶とウーロン茶を出して、カイの前に出した。 カイは無言でウーロン茶を取り、ボトルの蓋を開けた。 「・・・なぁ、カイ?」 「・・・・・・ん・・・?・・・」 『看病してもらった』と言うことが、少し仁に対して礼を感じているのか、カイは素直に聞き返した。 「お前とレイの間に・・・何があった?」 予想はしていた問い。 カイは答えるべきか悩んだ。 仁は答えを待つかのように、カイの選ばなかった方を飲み始めた。 カイは手の中でボトルを転がし、言って良いべきか悩む。 悩む、と言う事は、カイも無意識のうちに仁に少しだけ心を許していると言うことだろう。 仁は優しく微笑み、カイはまだ俯いて考えていた。 そして、降参したかのように、はぁ・・・とため息をついて、レイとの事を語りだした。 仁は終始黙って聞いていた。 話し終え、手の熱で両方の飲み物が温かくなってしまった頃、仁が、で?と口を聞いた。 「キミはどうしたいの?」 仁は生ぬるい緑茶を口に含んだ。 「・・・どうもこうも・・・レイが『嫌い』だと言うんだ・・・諦めるしか」 「諦める。諦める、ね・・・。まったくキミらしくないね」 カイの言葉を否定するように仁が遮った。 「何が・・・俺らしくないと・・・」 カイの眼に怒りがこもる。 この男に効かないとわかっていても、神経を逆撫でされるような言い方がどうにも気に食わない。 「言葉と行動が矛盾してるって事。偶然出会って助けた?そんなこと、あるワケ無いだろ?」 仁はもう一口、口に含んだ。 「無意識かもしれないね。君自身、わかっていなかったかもしれない。でも、キミは、君自身、レイに会いたくてこんな、俺たちの住んでるホテルの近くをウロウロしていたんだろう?」 カイは否定しようとして、止めた。 見事に的を得ているからだ。 「カイ、言葉の意味を考えろ。『何故レイはお前から離れようとした?』」 「それは・・・俺が嫌いだから・・・」 「嫌いなヤツのために泣いたんだ?必死に抑えようとしたんだ?・・・寝言でキミの名前を呼ぶんだ?」 『オレは、本当にカイが嫌いだっ!お前にこんなことしてほしくないっ!』 こんなことして欲しくて、嫌いなんて嘘ついてるんじゃない。傷つけたくないんだ・・・。 あの言葉の裏には、どれだけのレイのツラサが込められていた? あの涙に、どれだけの想いと悲しみが込められていた? 「カイ、もう一度聞くよ?キミはどうしたいの?」 カイはボトルを小さなテーブルに置いて、立ち上がった。 「・・・遠くからなんてまっぴらごめんだ。近くからあいつを守ってやりたい」 カイはそれだけ言うと、点滴の袋が垂れ去れている棒を持ち、部屋を出て行った。 仁は見送り、最後の一口を飲み干した。 カイの眼に、もう躊躇いはなかった。 コメント 次か次の次くらいで終われるかな? どうせだったらまたキリ良く終わりたいなぁ・・・。 よかった・・・ホントによかった・・・『長編』で終われそうだ・・・(大笑) |