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6 『涙』 『残りたい』と言う思いを振り切って、レイは再び日本にきた。 カイとはあれ以降話してはいない。 カイがレイに近付こうとすると、レイはいち早く気付いて仁を使ってうまく撒くからだ。 カイと出会ってから・・・眠れない日々が多々ある。 日本では大転寺会長の好意により、仁と一緒にホテルで暮らしている。 ホテルの中は快適だったが、レイは外を好んだ。 風に触れて、太陽の光を浴びて、草の匂いをかぐと、夜よりも良く眠れた。 特にお気に入りは、マックスの父親の経営するホビー店。 ときどきタカオたちがやってきてにぎやかにもなるが、3人・・・タカオとキョウジュとマックスはレイのモヤモヤした気持ちを晴らしてくれた。 そして何より・・・・・・。 カイの家からマックスの家は正反対で、まったくと言っていいほどカイとかち合わないのだ。 会いたくない・・・。 『好き』だって自覚したからって、あの、長老の話が頭から抜けない。 金と緋の眼の秘密・・・。 「会えるわけ、ない・・・」 レイの様子が変なことに一早く気付いたのはマックスだった。 毎日のように通ってきて、お気に入りのベンチで昼寝をする。 それはいいのだが、ときどきワケもなくボ〜ッとしていたり、眉間に皺を寄せて寝ていたりするのだ。 「レイ、どうしたノ?」 マックスは心配そうに尋ねたが、レイはきょとんとした。 「なにが?」 「レイ、なんか辛そう・・・」 妙に的を得ているマックスに、レイはドキリとする。 「レイ、ときどきボ〜ッとしてるでショ?なにかあったの・・・?」 先程と表情が変わったことに、マックスは目敏く気付いた。 「・・・・・・カイ・・・?」 なんとなく出した名前に、レイの肩がビクリと揺れる。 「・・・何かあったノ?」 マックスが覗き込んでくる。 バシバシ聞いてくるタカオとは違い、マックスは一線置いて聞いてくる。 『話したくなければ話さなくていいけど、もしよかったら話してほしい』 という感じの聞き方は、今のレイにとってありがたかった。 「うん・・・ちょっとな・・・」 レイはマックスの綺麗な金の髪を撫でてやる。 マックスはなおも心配している様子だったが、レイの瞳がこれ以上聞かないで欲しい、と語っていたので、マックスはウン・・・と渋々引き下がった。 そこで父親に呼ばれ、マックスは店に入っていった。 レイはマックスの姿を見送り、完全に見えなくなると、ふぅっとため息をつく。 ベンチに横になり、腕で影を作る。 太陽の逆光で、視界に広がる自分の手は、真っ黒な影になった。 その手で、瞼越しに自分の瞳を触る。 ここ最近出来た仕草。 小さな頃は、この金眼が大のお気に入りだった。 牙族に伝わる白虎の眼の色。 長老の家に飾られている、大理石で出来た白虎の像。 タイガーズアイが奥にはめ込まれており、表面をヘリオドールでガラス玉の様に覆っているので、褐色黄金色の色合いに、さらに大理石の白が際立ち、とても美しかった。 それと同じ瞳を持つ自分。 鏡を見て覗き込むと、太陽の光を反射し、時に明るい茶色を作ったり、白に近い金を作り出す。 マオたちにも羨ましがられ、レイは本当にこの眼が自慢だったのだ。 だから・・・まさかこんなにこの金眼を厭になるなんて思ってもいなかった。 ・・・もし、自分が金眼じゃなかったら。 ・・・もし、カイが緋の眼じゃなかったら―――。 自分たちの運命は変わっていたのだろうか? 突き放すこともなく、甘えられたのだろうか・・・? 「――――・・・」 最近増えたクセのひとつ。 溜息。 無意識の内に漏れてしまう。 運命が恐くて避けてるわけじゃない。 自分は、自分は―――・・・。 レイは身を起こして立ち上がった。 とても眠る気分にはなれない。 昨夜もろくに眠れなかった身体は、確実に睡眠を欲している。 それでも、思考回路が許してはくれない。 少し運動すれば程よく疲れて眠れるかな・・・。 そう思い、レイは散歩をするために歩き出した。 ・・・頭がヘンだ・・・。 痛いわけじゃないけど、何回も回転した後のようにクラクラする。 瞼の奥が痛い。 足の向くままに歩いているレイは、昼間にも関わらずまったく人気の無い道に入っていた。 トロトロとするが、まさかここで寝るわけにはいかない。 前に道路のはじっこの方で我慢出来ずに寝てしまっていたら、通行人に倒れたのと勘違いされて危うく病院まで運ばれそうになったという思い出がある。 さすがの仁も呆れてしまい、『道では寝ないこと』と約束させられてしまっているのだ。 そろそろ戻ろうかな、と思い、レイは立ち止まって踵を返す。 ・・・レイの、トロンとした瞳が見開かれる。 目に飛び込んできた、緋色・・・・・・。 「カ・・・」 はぁ、はぁっとカイの息が乱れている。 自分を見つけて、走ってきたのだろうか? ぼーっとしていたレイは、はっと気付き、ばっと再び180度向きかえり、その場を走り去ろうとする。 しかし・・・。 「待て・・・っ」 カイが許すはずも無かった。 その行動を前もって予測していたカイは、即座にレイの手首を掴み、自分の方に引き寄せた。 「は、なせ・・・っ」 しかし、今度はカイも離さなかった。 最後にレイをあってから1週間が過ぎている。 この機会を逃がしたら、次はもっとレイに警戒心を与えてしまい、今以上に接触率は低くなってしまうだろう。 「何故、避ける・・・っ」 中国でも聞かれた質問。 カイの赤銅色の瞳が鮮やかな緋に変わる。 「緋と金が昔愛し合い、村に破滅をもたらしたからかっ?」 先程よりも強い語尾でカイがレイに問う。 「そんな、昔の奴等の、無意味な考えで、引き離されたのに、それが運命で、何故、俺たちにそんなものが、関係するんだ・・・っ!」 一言一言を区切って言うカイ独特のこの言い方は、本当に感情が高ぶった時に出てくる。 今だカイに手をとられもがいているレイのもう片方の手を取って、完全にレイを自分の方に向ける。 「俺はお前が好きだ」 ストレートな言葉にレイはついあがらうのを忘れてしまう。 「運命も前世も関係ない。あるわけがない。俺は俺だ。そして、お前はお前だ。 緋と金の眼の運命なんかクソクラエだっ。・・・『俺』は、『お前』の考えが聞きたいんだ・・・っ」 ―――――もし・・・。 もしここでカイのこの気持ちに答えられたら、この苦しみから解放されるのだろうか? 痛みを、傷を、悩みを、分かち合えていけるのだろうか? ・・・こんなに、哀しい想いをせずにすむのだろうか・・・? 揺れる。 気持ちが揺れる。 ―――スキダトツタエタラ、コノフアンハナクナルノ・・・・・・――――? カイの眼を見る。 紅い瞳。 揺れる。揺れる。 気持ちが、揺れる・・・。 「ぁ・・・っ」 ―――ダメだよ・・・。 心の奥で、もう一人の自分が囁く。 ―――ここで気持ちを伝えたら、カイがもっと不幸になる。 でも、この不安を消して欲しいんだ。 ―――運命にあがらっちゃダメなんだ。自分が金眼であり、カイが緋の眼である限り、自分たちは結ばれてはいけないんだ・・・。 『運命は変えられないよ』 カイを傷つけてしまうのが、一番恐いことなんでしょう・・・? 「・・・・・・らぃ・・・」 「?」 聞き取れず、カイは俯いてしまったレイを見つめる。 「き、らいだ・・・っ」 ポロポロと涙が零れる。 カイの力が緩んだ。 レイはその隙に手解きをし、カイの拘束から逃れる。 「・・・俺が緋の眼を持っているからか?」 レイの反応は無い。ただ、カイの方を睨んで涙を流している。 「お前が、金眼だからか?」 それでも、レイは反応を見せない。 「・・・わかった・・・・・・」 そのまま去っていってほしかった。 そうしたら、これ以上カイを傷つけない・・・。 これ以上一緒に居たら、いつ自分の気持ちを吐露してしまうかわからなかった。 レイは俯いて、カイが去ってくれることを祈る。 しかし、前方から聞こえたのは、カチカチ・・・と言う音。 レイは不思議に思い、顔を上げる。 「・・・なっ・・・!!」 カイはポケットに持っていたカッターを自分の眼前に持ってきているのだ。 今にも横に振りきり、眼を潰してしまいそうな雰囲気に、レイは我を忘れてカイの手を掴んだ。 「何、してるんだ・・・っ」 声には絶対の焦りがある。 「この目がなければ、お前は嘘をつかずにすむのだろうっ!?俺を、『緋の眼の持ち主』として見ずにすむのだろうっ!?」 「嘘なんかじゃないっ!」 レイはカッターの刃を掴んで、自らの手を鞘にした。 「オレは、本当にカイが嫌いだっ!お前にこんなことしてほしくないっ!」 よく聞けば、『嫌い』が嘘の筈が無いのに、今の二人にいちいちの言葉の意味を把握するだけの余裕は無かった。 カイは今の言葉と、滴り降りるレイの血にあがらうのを止めた。 ふっと力を抜き、カッターを落とした。 「・・・・・・わかった・・・」 カイは踵を返す。 何も言わず、一度も振り返らず、遠くなっていく。 カイの姿が完全に見えなくなってから、レイはその場に崩れ落ちた。 血が顔に付くのも構わず、両手で顔を覆い、小さくうめくように『カイ・・・』と呟く。 そうやって、ただ声を殺して、泣いた・・・。 コメント ・・・どれくらいぶりの更新だろう・・・(遠い目) 私のレイは結構感情を吐露する方じゃないのですけどね・・・まぁこんなレイも可愛いかなって☆(死) |