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5 『記憶』 それは、突然だった。 ある日、いつものように金の眼の娘が緋の眼の男のところにご飯を運んでいった。 日陰にあるそれは、いつでも薄暗かった。 コン。 いつものように鉄格子を一回叩く。 すぐに奥から姿を表すのに、いつまでたっても出てくる気配が無い。 コン。 もう一度叩いてみる。 寝ているのかな?と思い、今度は少し強めに叩く。 コンッ。 それでも、返事は無い。 「・・・・・・?」 小さな声で呼んでみる。 「・・・っ」 今度は叫ぼうとして、視界に人を捕らえた。 「・・・あの、緋の眼の人はどこに行きましたか・・・?」 おそるおそる娘は尋ねる。 男は答えた。 ―――監獄に行きましたよ・・・。 緋の眼の男は何事もわからぬ言葉を叫んでいた。 両手足には鉄格子。 肌に食い込むのも構わず引き摺るように這う。 「何故俺をあいつから離すっ!?」 目の前に居る、その時の長老を男はその鮮やかな緋で睨む。 長老はひるまず睨み返し、人差し指で男の額を指した。 「お前が、緋の眼をしているからじゃ。緋は脅威。金に近付いてなにをするかっ」 長老の言葉に、男は一瞬目を見開いて、また抵抗を始める。 「俺が一体なにをしたっ!?何故緋が金に近づいてはいけないっ!?」 押し問答が続く。 「・・・お前は居てはいけぬ存在。金に近付くというなら尚更。・・・もう一度言う。そして誓え。・・・金に近付くな・・・」 「・・・嫌だ・・・」 緋の眼は頑として譲らない。 初めて知った、恋しいという気持ち。 長老は何度か首を横に振り、男に背を向けた。 槍に、炊いた火がきらめく。 長老が出て行く瞬間、金の眼の娘が入ってきた。 耳障りな音が響く。 肉を裂く音。・・・吹き出る、血・・・。 ・・・・・・そして・・・。 風圧に背を押される。 長老が驚いて振り返る。 そこは・・・炎の海だった・・・。 「・・・俺は、戒律なんて、そんなものいらない・・・俺は自分の道は自分で決める・・・っ」 何かしゃべるように口を開いた長老を炎が襲い、一瞬のうちに灰にした。 周囲のやつらは逃げ出した。 娘だけが、呆けたように男を見ている。 男の目に悲が宿る。 「・・・行け・・・・・・」 絞り出すように、男は言った。 「お前は生きろ。・・・そんなトコにいて巻き添えをくうな・・・」 娘は首を力なく横に振る。 男に向かって歩み寄る。 「来るな・・・コントロールが聞かない。俺はお前を巻き込みたくはない・・・っ」 それでも娘は聞かない。 男の腹からはボダボダと血が溢れてくる。 「・・・私は、あなたを独りにしたくない・・・」 娘は腕が焼けるもの構わず、男の頬に触れた。 火が娘にも移る。 ダイスキ・・・。 娘は炎に焼かれながら微笑んだ。 男は、恐る恐る娘を抱きしめる。 「・・・っ」 途端、何故か娘から火が消えた。 男を見る暇もなく、娘は突き飛ばされる。 「・・・お前は死ぬな。・・・俺なんかと、死んじゃダメだ・・・っ」 娘は焼けた腕で必死に起き上がろうとする。 しかし、それは助けに来た村の者たちに抑えられてしまう。 男の耳に、初めて聞いた娘の焦った声が響いた。 娘が出るのを待ったかのように、監獄から連れ出された瞬間、それは崩れ去った。 被害は酷いものだった。 ・・・結果、村の3分の1を焼失した。 金の瞳の娘は、フラリとどこかに消えてしまった。 どこに行ったのか、どうなったのか。それも誰にもわからずじまいだ。 ―――その事件以来、牙族はさらに緋の眼を恐れるようになっていった・・・。 長老が話し終えると、シン。と部屋が静まった。 ときどき、カタカタ。と風が屋根を揺らす。 「・・・緋と金は相反する存在。理解れ(わかれ)、カイ。これは牙族だけではない。世界の全てを律する掟なのじゃ・・・」 長老の言葉を、カイはいつものように鼻で笑い、嘲笑した。 「くだらん。まったくもってくだらん。そんな話しのために金と緋が愛し合ってはいけないと?バカバカしいっ」 「カイ・・・っ」 「大体俺は前世などは信じん。俺は俺だ。誰が何と言おうと。それが、どんな形をしていようと」 カタン。と屋根が軋む。 「・・・レイめ、行ったか・・・」 「・・・フン・・・」 実は、長老もカイもレイの存在に気付いていた。 それでも何も言わなかったのは、レイにもこの話を聞かせるため。 長老はカイに視線を戻す。 「緋は火の証。現にカイ、お前のドランザーに宿る聖獣は朱雀。『火』の属性じゃ」 「緋がなんであろうと、俺には関係ない。もちろん、レイにもだ」 カイは聞くだけ聞くと、椅子から乱暴に立った。 そして、用はすんだとばかりに長老に背を向ける。 「・・・レイが受け入れるかどうかは俺にはわからん。だが、俺は絶対諦めない・・・」 カイは部屋を出て行く。 長老はしばらく扉を見つめていたが、ふう、と溜息を漏らして椅子の背に寄りかかった。 「緋と金・・・運命の証・・・のう・・・」 キィ・・・。 戸の木が擦れあい、寂しげに音を立てた。 レイは駆けた。 駆けて駆けて駆けて・・・転んだ・・・。 まともに顔から転び、レイはうつ伏せになったまま息を整える。 心臓が鳴り止まない。 あの話を聞いている間、ずっとドキドキしてた。 「ぜんせ・・・」 『有るワケ無い』 そう、キッパリと言えない。 「なんで」 そんな運命があるんだろう? 何故、知ってしまったのだろう・・・? 自分の過去の記憶を。 何故、気付いてしまったのだろう・・・? 好きと言う気持ちに。 レイはそのまま肩を震わせる。 起きたら、全部夢で。 緋の眼に・・・カイになんて出会わなくて。 日本に行ったことさえ実は夢で。 ずっとこの村に居たのなら・・・。 レイは目を閉じる。 夢でないはずの現実が、実は夢であることを祈って。 ・・・木の葉が擦れ合う音だけが、今の世界ですべての音だった。 コメント よーしとりあえずオリジナル設定は終わったぞー☆ こっから今度は日本に舞台を移します。 曖昧な考えで打ってくのやめない?月見さん・・・。 |