4 『理由(ワケ)』

足音がして、レイは家を支える木の柱の上に跳んだ。
下を通ったのは、カイだった。
先程の出来事を思い出し、レイは頬を紅くする。
(でも、なんでカイがこんなところに・・・)
ここは長老の居る家だ。
確かにタカオたちはここに寝泊りしているので、不思議ではないのだが、カイの足は寝室を通り越して別の方向に一直線に迷うことなく向かっている。
それは、長老が居る部屋。
「・・・?」
気になって、レイはカイに気付かれないように気配を消し、木の柱伝いに後を追った。

「ほ、コレはまた珍しい時間に珍しい客じゃのぉ・・・」
カイがノックもせずに入ってきたのに、長老は驚きもせずに笑って出迎えた。
さすがに部屋には入れないので、レイは隣の部屋から聞き耳を立てる。
壁一枚隔てて、やや遠くから声が聞こえる。
「・・・で、おぬしが何のようじゃ?」
長老は深く腰をかけてカイを見る。
「・・・金と、緋の眼について・・・」
長老の眼に緊張が走ったのをカイは見逃さなかった。
「・・・おぬし・・・カイ、とか言ったかの?カイは緋の眼なのか・・・?」
長老は椅子から立ち、カイに近付く。
ランプの火の光をカイの眼前に置く。
カイの眼は、先程の影響か、まだ緋の色を保っている。
長老は渋い顔をして、椅子に戻っていった。
「・・・何故お前等は緋の眼と金の眼がくっつくのを恐れる?」
「・・・・・・」
長老はカイの眼をじっと見ている。
「緋と金の眼の間に、何が起こったと言うんだ・・・っ」
カイは何も言わない長老を睨む。
しかし長老の方はそんなカイの怒りの視線もサラリとかわし、ふむ・・・と唸っている。
「おいっ!俺は教えろと言っている!!」
ついに感情が爆発したのか、カイが声を張り上げる。
それでも長老は、片方の眉をあげただけで、特に驚きもしなかった。
「・・・何故、おぬしはそんなことを聞く?今日観察していたところ、おぬしは他人との馴れ合いを嫌っているように見えたが?」
レイも先程思った質問。
『好きだから』
そう、カイは言ったが、いったい自分のどこを好きになったというだろう?
それに、会ってからまだそんなにたっては居ないし、接したこともない。
レイは耳を澄ます。
「・・・理由なぞ無い・・・」
カイは一拍あけた後、そう答えた。
「レイだから気になった。それだけだ・・・」
・・・言われた時・・・。
そう、言われた時、何故かレイの胸が高鳴った。
言い知れぬ、高揚感がレイをおそった。
長老は、またひとつ溜息をついた。
「・・・やはり、運命なのかのぅ・・・」
小さな声だったが、レイもカイもその言葉を聞き逃がさなかった。
長老はカイの眼を見る。
「よかろう。話してやろう。・・・緋と金の眼の秘密を」

長老は部屋を移動した。
それに伴い、レイも移動を開始する。
行き先は、長老の部屋。
レイは天井に移動した。
着くと、長老はカイに座るように促し、お茶と菓子を出してやった。
カイは、お茶には手をつけたが、菓子には手をつけなかった。
「さぁ、話してもらおうか?」
一気に飲み終わらせ、放った第一声がそれだ。
長老はしゃがれた笑いを漏らし、自分もカイに向かい合って椅子に座った。
カイがあまりに自分を睨むので、長老は仕方ない・・・とばかりに話し始めた。
「牙族は白虎に守られ、栄える一族じゃ。その象徴が眼。
白虎は白い毛並みに金の瞳を持つ虎じゃ。金の眼を持つ者は白虎により近いものとして崇められる。
・・・そして・・・」
長老はそこで言葉を切った。
話していいのか迷っている様子だ。
カイもそれに気付いたのだが、早く。と促すように顎をしゃくった。
「・・・緋の眼を持つ者は・・・厄とされている・・・」
驚いたのはレイだった。
そんな話は聞いたことが無い。
何故・・・?
ドクン、ドクンと心臓が早鐘を打つように高鳴る。
それに答えるように、長老はさらに言葉を紡ぐ。
「緋とはすなわち火の事。我々牙族は必要以上の火は好かん。
持ちすぎる火は我々にとって敵にしかならんのじゃ。
緋の眼を持つ者は我々牙族では祟りとされているんじゃ・・・」
「くだらん」
長老の話を、カイは鼻で笑った。
「そんな現実味のないもののために金と緋が出会ってはいけないと?あまりに阿呆すぎて呆れるな」
カイの小馬鹿にしたような言い方にも、長老は機嫌を悪くした様子は無く、逆に素直な子じゃ。と笑っていた。
「もちろん、そんなことならワシだってバカらしいと笑い飛ばしておる。じゃがの、実際起こってしまったのじゃよ。・・・金と緋の間で」
事件が。
長老の言葉に、カイとレイはまた緊張しつつ聞き始めた。
長老の眼は、先程よりもずっと真剣だった。

「昔、まだ戒律の厳しかったころ、緋の眼はそれは恐れられていた。『災いを呼ぶもの』としてな・・・」
長老はカイに再び茶を入れてやり、自分は菓子を摘んだ。
途切れ途切れなのは、もしかして長老自身あまり語りたくないことなのかと思い、カイはそれをしぶとく聞いている。
「金の眼を持つものも、緋の眼をもつものも、牙族でさえ稀にしか生まれない。
だからこそその上下がしっかりと現れてしまったのじゃ。
金の眼を持つ者は時期長老・・・ちなみに長い間生まれなかったら、わしのように村から選ばれるのじゃが。
・・・緋の眼を持つ者は、さっきから言っているように災いとされ、牢に閉じ込められるのじゃ」
レイは村の隅のほうにある、ぼろくて小さくて汚らしい小屋のようなものを思い出した。
小さな頃、ライたちと遊んでいた時に見つけたソレ。
あまりに不気味で、マオとキキは泣き出してしまった。
あれかな・・・レイは聞き耳を立てながら思った。
「生まれて、眼が見えるようになったらその区別がついてしまう。
幼児の時はそれでも母親と一緒に過ごせるが、緋の眼と聞いて育児を放棄してしまう母親も居たらしい。
そういう時は村の女たちが代わりに育てたのじゃがな、それも7つまでの事じゃ・・・」
そこでまた長老は話を切る。
長老自身、辛いんだろうな・・・。
レイもカイと同じようなことを思っていた。
それでも、話を続けてくれることを祈る。
「その後は飯の時運んでくれる以外人さえ訪れない。昏い(くらい)部屋の中に自分ただ独り。
それでも、村の者たちは自分たちの安息を最優先に考えた。
緋の眼を持つ男はそれはそれは恨んでいた。
当然じゃろうな。『緋の眼』と言うだけで疎外されておるんじゃから」
長老は音を立てて茶をすすった。
「・・・そんな時、出会った。・・・金の・・・金の眼を持つ娘に・・・」
興味本位で、金の眼の娘は緋の眼の男に話し掛けた。
緋の眼の男はそれはそれは娘を、村を、自分を罵った。
娘は黙ってそれを聞いていた。
カッとした男は、去れ、と娘に背を向けた。
金の眼の娘は言った。
『またね』
と。
「・・・それから、緋の眼の男には話し相手が出来た。金の眼の娘は飯運びを交代してもらい、毎日会いに行った。
緋の眼の男にも楽しみが出来た。初めて話してくれるものがおったからのぅ・・・。
話さなために退化しつつあった声帯からは、つたない言葉じゃった。幼児みたいな言葉でな。
金の眼の娘はいつでも笑いながらちゃんと聞いていた。時に字や外の事を教えてやった。
その内に、緋の眼の男も娘には心を開いて言ったのじゃ。
鉄棒越しの密会は、しばらく続いた。・・・そして・・・・・・二人は愛し合うようになった・・・」
しかし、村の者がそれに気付かない筈が無かった。
ただでさえ目立つ金の眼のモノ。
まずおかしいと気付いたのは緋の眼の飯運びだった。
最初はただの好奇心だろうと思ったが、いつも嬉しそうに飯運びをし、しばらくは戻ってこないのだ。
男はそれを長老に話した。
長老は金の眼の娘に監視をつけた。
そして、知る。
二人の、禁忌の恋を・・・。



☆NEXT☆


コメント

どこかで書いた話v(禁句)
風呂の中でずっと考えていたけどこんなんしか思いつかなかった(何で最初のうちに考えようとしない・・)
でもまぁ無問題よね!
所詮工夫も無い話ということで!(笑泣)