3 『心情』

うとうと・・・。
ただでさえ人より多く寝なければ気のすまない性格なのに、昨夜はほとんど眠れなかった。
それでも体力はあるほうなので、なんとか仁たちと中国の、聖獣たちのビットが掘り出されたところで合流できた。
いきなり現れたレイにビックリしたのか、タカオたちはいっせいにレイを振り返る。
カイも例外ではなく、思わず眼が合ってしまった。
動揺は表になんとか出さなかった。
しかし、心臓はバクバク言っている。
昨晩からの押し問答がよみがえる。
そこで、また仁が説明を始めて、注意を逸らしてくれた。
レイはさりげなくカイから微妙に離れる。
横から何故か視線を感じたが、レイはあえてそれを無視した。

「おい・・・」
低い声に呼ばれ、しかたなくレイは立ち止まる。
あれから発掘現場を離れたタカオたちは、偶然牙族のライと会って、今は牙族の村に居る。
一騒ぎあったあとの、今は深夜。
やはり今日も眠れなくて、村をブラブラ歩いていたら、一番会いたくない・・・カイに会ってしまった。
最初は、あまりどちらもお互いの事を知らないので、見なかったことにしようとしたら、話かけられてしまったのだ。
「・・・何・・・」
レイは素っ気無く返事をする。
それでも、やはり心臓はうるさい。
レイが足を止め、こちらを向くと、カイは背を持たせていた壁から身を離し、レイに近付いていった。
気付かれないように、数歩身体をずらす。
カイは偉そうに腕を組み、レイの正面で歩みを止める。
「お前・・・」
虫と鳥の鳴き声が微かにある以外、無音の世界に、カイの低い声が響く。
「お前、何故俺を避ける?」
いきなり核心を突かれた言葉に、レイは動揺してしまう。
「・・・別に・・・避けてない・・・」
数瞬間を空けて、カイがいきなり近付いてきた。
「では何故俺に近寄らない。こうやって間隔をあける。眼を、あわせない・・・」
いきなり近寄られて、レイは思わず後退してしまう。
しかしカイはそれを許さないというふうに、レイの右腕を掴む。
ヒクリとレイは振り解こうとするが、予想以上にカイの腕力と握力が強く、解けなかった。
「・・・離せ・・・」
カイは無言だ。
「カイ・・・」
それでも眼を合わせられない。
「俺を避ける理由を教えたら離してやる」
カイの手に力が更にこもる。

―――愛しては・・・―――――――

長老の言葉が頭をよぎる。
(大丈夫・・・大丈夫・・・・・・)
レイはそうやって自分に納得させようとする。
「避けてないとさっきから言ってる。
それに、避けてたとしても、お前には関係ない」
今日一日見ていたところ、カイは最低限以上に人と関わることを拒む。
自分が避けていたとしても、それはカイにとって、人と関わらずにすむ好都合の事ではないのか。
レイはカイが見れなかったので、表情の変化がわからなかった。
ただしばらく間の空けた後、カイがふっと鼻で笑った。
「関係ない、か・・・」
カイの呟きに思わず顔を上げそうになると、いきなり左腕を引かれる。
「な・・・っ」
油断したところを引き寄せられ、瞳を見てしまう。
緋色の瞳。
普段は赤銅色の瞳は、感情が高ぶるとくすみを失い、鮮やかな緋になる。
牙族の瞳にどこか似てる・・・。
感情が高ぶると瞳孔が細まるトコロとか―――。
そんなことを考えて、自分の置かれている状況にようやく気付く。
「離せ・・・」
気持ちだけが焦っていく。
それなのに声が妙に落ち着いているのは、感情がついていかないから。
ふいに、緋色が眼に大きく広がっていく。
それから、唇に感じた冷たいヌクモリ・・・。
一瞬で離れていったそれに、今度こそレイの思考回路は停止した。
「・・・好きだ・・・それでも関係ないか・・・?」
カイの言葉が遠くに感じる。
替わりに大きく響くのは、幼い頃に聞いた、長老のあの言葉。

―――恋をしても、絶対に、緋の眼を愛してはいけない・・・―――

「・・・ぁ・・・」
言葉が出てこない。
ドクン。ドクン。ドクン。
最近静まることを知らない心臓。
「言え。何故、避ける」
カイは執拗に答えを求める。
レイが答えられないで居ると、手にさらに力が加わる。
「手・・・痛い・・・っ」
レイが言うと、カイは素直に手の力を緩めた。
その隙を狙って、レイは束縛から逃げ、その俊敏なバネで屋根へと跳び登る。
「レイ!」
カイは声を張り上げる。
レイは思わず動きを止めてしまう。
逆らえない、その声。
「言え。何故避ける・・・」
レイはカイの方に顔を向けない。
「・・・お前が緋色で、オレが金色の眼をしてるから・・・」
それだけ言うと、物音立てずにレイは屋根伝いに走り去った。

カイは黙ってその後姿を見つめる。
あの状態で、捕まえようとすれば出来たし、追おうと思えばいくらでも追いつけた。
それが出来なかったのは、自分の甘さ。
初めて知った、感情だから。
どうしても、持て余してしまって・・・。
出会いは、実はレイがカイを知るよりも前に遡る。
カイが街をブラブラしていると、居眠りをしているレイを見つけたのだ。
無防備な。あれじゃ物取りに襲われても文句は言えんな。
そう思って通り過ぎようとし、妙なことに気付く。
改めてそちらに眼をやると、レイを中心に猫や鳥が囲むようにたくさん居るではないか。
まるで、レイを寒さから守るように。
まるで、それが自然を言うように。
それは、人間が関係するにはあまりに幻想的だった。
だからカイは興味を引かれた。
惹かれるように近付こうとすると、獣たちが敏感にカイの気配を感じ取り、いっせいにこちらを向いた。
レイに近付くのを拒むように。
う、と足をとめ、獣のクセに・・・と思いながらも、カイは後ろ髪を惹かれる思いで踵を返す。
その光景を壊したくなくて、カイはその場を去ったのだ。

・・・偶然が重なって、また会えて、名前も知れて、こうして旅が出来ているのに。
中国に来たのだって、レイがこちらに居るって知ったから。
それなのに、当のレイはどう考えても自分を避けている。
あえてかけてもらった言葉を言えば、自分の戦い方を賞賛する一言のみ。
・・・緋と金色の眼・・・。
カイは目の下あたりを触る。
感情が高ぶると、鮮やかに色付く自分の瞳・・・。
それから、まるで深夜の月のような、レイの瞳。
チッとカイは舌打ちをし、近くの壁を加減抜きで叩く。
理由もろくにわからないのに、このままの状態だけは絶対嫌だ。
「緋と金の瞳に、何があるというのだ・・・っ」
カイは苦しげに呟き、ずるずると壁にもたれかかった。



☆NEXT☆


コメント

展開早すぎだよ・・・(ガクリ)
しかしマンガの日にち的には仕方ないのですよ!(汗)
さて・・・またここらへんからぐぅたらぐぅたらとしていきます・・・(固羅)