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flying 39 生暖かいものが頬に落ちてきた。 つぅ、と滑っていくのが感触でわかる。 クタリと、それでも太一をしっかりと抱きしめている、手。身体。 翼を広げているせいで、落ちるのがやけにゆっくりに感じる。 まるで、刻が止まりかけているようで・・・。 落ちていくと、下にあった浮石に足がついた。 腰が立たないみたいに、太一はしゃがみこんだ。 蒼い視界の端っこで、さっきの堕天使が崩れ行くのが見える。 ―――風が、吹いた。 空を仰ぎ見る。 大好きな大好きな、空。 毎日見ていて、自分が一番この空に詳しいと思った。 ・・・そらって、こんなにあおかったっけ・・・? 腕の中に重みが加わる。 視線を、空からそちらに向ける。 ヤマトの濃紺の服から、ドス黒いものが広がっていく。 いつのまにかまわされた、自分の手。 アタタカイ。 心地の良い温度が、太一の手を、腕を、胸を、身体を濡らしていく。 唇が震える。 確かにその名を呟いたはずなのに、自分の耳に届かない。 もう一度、呼ぶ。 もう一度。 もう一度。 ふと、掌をみる。 紅く染まった、自分の手。 ヌルっとする。 これは、なに? 手の支えを失って、ヤマトが意外に軽い音を立てて崩れ落ちた。 見れば、自分の服もほとんどが紅い。 地面を、見てみる。 おぞましいくらいに広がっていく、紅。 「・・・ぁ・・・」 初めて、自分の声が耳に届く。 「ぁああああぁぁぁああぁぁぁぁぁああぁあっっっ!!!!」 狂ったような叫び声が、辺りにこだました。 空は、キラリと光るものをやや遠くに見つけた。 敵の眼を気にしつつも、そこへとたどり着く。 そこにあったのは、剣。 「・・・ア、レク・・・タリス・・・?」 実物をこんなに近くに見たのは始めてだ。 いつも、陽月祭にのみ公表されるそれを、空はいつも遠くから眺めていた。 何故ここに・・・そう思いつつも、空はアレクタリスを丈たちのいる岩場へと持っていった。 「空さん?それなに?」 帰り着くと、ミミが一番に出迎えてくれた。 「これ?これはね、精王剣アレクタリスっていってね、神具のひとつなのよ。 ふーん、とミミはアレクタリスに手をのばす。 「綺麗だねー」 アレクタリスは今、本来の色、青銀色をしている。 やや大ぶりの刀身には細やかな細工がこれでもかと施されている。 剣全体には、多種類の宝石がちりばめられていた。 「この宝石はね、精霊の属性を表しているの。ルビーはイフリート、アクアマリンはウンディーネって感じにね」 空は剣を大事そうに地面に降ろす。 「あれ?その剣・・・」 そこにやってきたのはタケルとヒカリ。 タケルは驚いたようにアレクタリスを眺める。 「その剣、たしかどこかで見たよ」 「えっ!?」 タケルの言葉に、ミミもそういえば・・・と空を仰ぐ。 「どこだっけ・・・確か最近見たような・・・」 む〜とミミが頭をひねっていると、タケルがそうだ!と手を打つ。 「さっき、上に行ったときだ!女の人がそれを持っていて、トーラさまとカインさまに剣をはじかれたんだ!」 そーだ!とミミもスッキリしたように笑顔になる。 「おんなの・・・人・・・」 サーナだ。 空は唇を噛み締める。 この剣のせいで、何人のものたちが絶命したのだろう。 そう思うと、悔やんでも悔やみきれなかった。 とりあえず興奮を鎮めるために深呼吸していると、光子郎と丈の大声が聞こえてきた。 空の元にはかすかしか聞こえなかったが、『太一』と『ヤマト』の単語をその中から見つけると、みんなでそちらへと急いだ。 空たちが見たもの。 それは、真っ赤に染まった二人の姿だった。 「空!光子郎!ヒカリ!!ヤマトを助けてくれ!!」 太一は誰が見ても取り乱していた。 見ればレジストも解けてしまっている。 ここに来るまでに太一は全法力をヤマトに注ぎ込んだのだろう。 いくら光子郎がなだめてもヤマトから離れようとしない。 助けてくれ! 狂ってしまったようにそれだけ叫ぶ。 「光子郎くん!太一も怪我をしているかもしれないわ!そのままにして一緒に治癒しましょう!」 我に返り、空は光子郎たちに指令をだす。 光子郎は太一をヤマトから離すのをやめ、二人の周りに法力増幅の魔方陣を描く。 ヒカリもそれを手伝い、空はいち早くヤマトに治癒術をかけている。 「空さん!」 ヒカリの呼び声に、空は魔方陣から出て、三人で円を囲った。 『光の加護を受けし蒼の民よ。 汝、光を司るもの、『REM』 ―レム― 、水を司るもの、『UNDINE』 ―ウンディーネ― よ・・・。よ。 我等に汝等の癒しの聖水を授けたまえ・・・。 傷付きしものに聖なる息吹を! リザレクション!!』 三人が同時に法術を唱える。 青く澄み切った精霊たちが円陣の中を満たす。 キラキラと白く光るものが太一とヤマトに付着する。 ・・・だが・・・。 「う・・・そ・・・」 愕然と呟いたのはヒカリ。 空と光子郎も驚きを隠せないでいる。 ・・・ヤマトの傷が、回復しないのだ。 「そ、んな・・・治癒系最高法術なのよ!?」 血は勢いをとめない。 太一はヤマトの頭を膝に乗せ、うつぶせにしている。 服はとうに元の色を失っている。 どんどん、どんどん血が出て行くのが、攻撃を負った時に破けた服の間から見えた。 まるで湧き水のようにトロトロと流れ行く。 出たばかりのソレは、太一たちの身体に付着したのとは異なり、妖しいくらいに紅い。 その紅が陽の光に反射し、こうこうと光っている。 「ヤ、マト・・・?」 太一がヤマトを揺り起こそうとする。 「ヤマト・・・?」 何度その名を口にしただろう。 「ヤマト・・・っ」 何度か太一が読んだ後、ヒクリとヤマトの指が微かに動いた。 「・・・っ!――ッヤマトォ!」 「た・・・いち・・・」 かすれている、低い声。 ヤマトは太一が大丈夫なのを見ると、ふ、と笑ってから仰向けになった。 「ヤマト!動いちゃダメ!」 空が注意すると、ヤマトは横に首を振る。 「も、い・・・よ。法術・・・」 その言葉に丈たちははっとする。 歩み寄りそうになるのを、ヤマトが眼で制した。 「バカ言わないで!私たちが絶対治すから!」 「さん、きゅ。・・・でも、死って、さ・・・。自分が、一番・・・わ、かるんだよな・・・」 他人事のように微笑みを浮かべて言われた言葉に、思わず空は法術をやめてしまった。 「こうし、ろ。・・・ヒカリちゃん、も・・・」 ヤマトに言われ、光子郎とヒカリも法術を止める。 実際のところ法力が限界だ。 「バカ言うな!絶対絶対!お前はオレたちが助けるから!!」 太一の双方の瞳から涙がポロポロと落ちてくる。 俯いているため、それはハタハタとヤマトの顔に振ってきた。 ヤマトはダルそうに手を太一に伸ばす。 涙を拭いた代わりに、べったりと血が広がってしまった。 「ごめん、な。・・・太一・・・。まも、て・・・やれなくて・・・」 ヤマトの伸ばされた手を握り、太一は必死に首を横に振る。 「ああ・・・ごめん。もう眼ぇ、みえねぇ・・・」 あれほど綺麗だったヤマトの青灰色の瞳はうつろで、焦点が定まっていない。 また、音が遠ざかっていく。 「ヤマト。ヤマト・・・。ヤマっ」 「戦争、とめられなくて、ごめんな・・・」 どれだけヤマトは今痛みを堪えてしゃべっているのだろう? 激痛は、ヤマトの額に浮かぶ冷や汗が物語っている。 「太一・・・?」 そこにいるのか?とヤマトは手を動かす。 「ここにいる!ここにいるから!!」 ぎゅっと手を握る。 握り返してくる力が、強まったり弱まったりする。 「たい、ち・・・」 ヤマトは微笑む。 掠れた声で。 低い声で。 本当に小さな声で。 ヤマトが言葉を、紡ぐ。 「あいしてる・・・・・・」 ふいに、太一に預けられていた手が、重みを増した。 それは太一の指をすりぬけ、地面へと落ちる。 パサ・・・。 こんなに軽いものだろうか、人の手が落ちる音というものは。 身体も、一気に重量を増した。 ヤマトの白い肌が、土気色に染まっていく。 あれだけ暖かかったぬくもりが、無い。 血だけが、今だ太一を、ヤマトを、地面を、濡らす。 「・・・まと・・・・・・?」 大きく眼を見開いて、太一はヤマトの頬に触れる。 ヒヤリとするその感触は、さながら粉雪のよう。 口には、小さな笑み。 ・・・寝たの? そんな雰囲気でヤマトは眼を閉じている。 指を、口に移動させる。 息をしていない。 左胸に、手を移動させる。 鼓動が聞こえない。 「・・・・・・?」 さっきよりも小さな声で太一が囁く。 空たちは、直視できずに、崩れ落ち、泣いている。 「・・・・・・ゃ、だ・・・」 太一は首を横に振る。 これはゆめだ。 たちのわるいゆめなんだ。 ゆめなんだゆめなんだゆめなんだゆめなんだゆめなんだゆめなんだゆめなんだゆめなんだゆめなんだゆめなんだゆめなんだゆめなんだ。 ―――――――現実だよ。 頭のどこか冷静な部分がそう囁く。 「・・・やぁだ・・・ぁ・・・っ!」 太一はヤマトの身体を揺する。 ヤマトは壊れた人形のようにその度に揺れた。 「やだ!やぁだ!!死んじゃ・・・!!」 太一はヤマトの身体を抱きかかえる。 自分よりもいくらか大きなその身体は、太一の腕にはおさまれなかった。 ―――ヤマト!俺は、ヤマトってゆう! ―――・・・太一の翼も、綺麗だな・・・ ―――言霊。『信じる気持ちが力になる』んだろ? ―――――――――――好きだ。 「・・・ってなぃ・・・」 太一は必死にヤマトを抱く。 「オレっまだヤマトに好きだって言ってないっ!!」 涙がヤマトの血を落とし、肌が見えた。 「死んじゃ、嫌だぁっ!!」 ――――――叫んだ瞬間、太一の身体から閃光がほとばしった。 コメント ・・・長っ! つか、これ謳のページ見てもらえばわかるですが、歌聞きながら書いております。 『Days〜愛情と日常〜』聞くとせつねぇ歌だ・・・。 |