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flying 40 泣き声が聞こえるの。 か細いか細い声で。 紅い視界の隅でキミが見えるの。 黄緑色の髪をした、泣き虫なキミの姿が。 泣かないで。 泣かないで。 僕は大丈夫だから。 泣かないで。 トーラ・・・。 「―――っ!?なんだこの光はっ!?」 下の方からまばゆい光が視界を閉ざす。 トーラとサーナ、それにカインとヴァージは剣を交えるのをやめる。 「・・・精霊たちが・・・」 耳になんとか届くくらいの高周波が耳を打つ。 精霊たちの声が聞こえるなんて尋常なことじゃない。 これほどまで精霊がざわめく原因とは・・・。 「・・・下に行って様子を見てこないとな・・・」 再びトーラはサーナに視線を戻す。 サーナはしばらく睨みあっていたが、ヴァージに肩を叩かれ、レイピアをしまった。 「・・・一時休戦と行こう。今は下が気になる」 ヴァージ自身剣を納め、トーラよりはカインに話しかけるように言う。 「・・・トーラ・・・」 カインに呼ばれ、トーラも剣をおさめた。 「よかろう」 一言いうと、トーラとカインは方向転換し、すさまじい勢いで下に降りていた。 姿が見えなくなったことを確認し、サーナとヴァージは一回天使領地側へ戻る。 治癒するためだ。 それにそろそろレジストで閉じ込めていた精霊たちも尽きる。 サーナはヴァージに傷を治してもらうと、一息ついてからまたレジストをはり、堕天使領地側へと戻っていった。 ヴァージはやれやれとため息をつくと、サーナの後を追っていった。 「な、なにっ!?」 凄まじい光と風の渦が空たちを襲う。 発動源は太一・・・らしい。 「・・・お兄ちゃんっ!!」 ヒカリが逆らって進もうとする。 それをなんとかという感じでタケルが後ろから抑えている。 白とも言いがたい、太陽のようなまばゆさ。 何が、起きたというのか。 しばらくすると、その光と風もおさまってきた。 「お兄ちゃん!!」 最初に近づいたのはヒカリ。 続いて空、タケル、丈、光子郎にミミ。 最初にたどり着いたはずのヒカリの足が、太一に触れる前に止まっていた。 「ヒカリちゃん?」 疑問に思った空が、まぶしいのを我慢してなんとか太一の方向を見てみる。 そこには、さっきと同じようにほうけている太一。 でも。 「た・・・いち・・・っ!?」 その背には、四つの翼。 純白に近い大きな翼。 それから・・・・・・。 「黒の・・・翼・・・っ?」 その翼の下には、漆黒に近い翼。 太一は、白と黒、つまり天使と堕天使の翼を持っていたのだ。 「なんでっ!?」 ミミが後ろの方で光子郎に捕まりながら先程からとめどない涙を零している。 「・・・・・・四翼の・・・天使・・・?」 空が信じられないように呟く。 太一は、自分たちと同じ最低階級の、二枚の翼しか持っていないはずなのに・・・。 光がだんだんとおさまっていく。 おさまっていくというよりは、出し尽くしたという感じだが。 「お兄ちゃんっ!!ねぇ、お兄ちゃん!!」 ヒカリが身体を奮い起こして太一に触れる。 それでも太一は反応を返さない。 「お兄ちゃん!」 「ヒカリちゃん!!」 混乱に落ちかけているヒカリを、タケルは後ろからなだめるように抱きしめる。 ヒカリは、はっとした。 太一の膝には、ヤマトが・・・・・・。 ヒカリは太一から手を外し、ポロポロと涙を落としながら、ついに堪えきれないように後ろを振り向き、タケルに抱きついた。 そのまま、声を殺しもしないで泣き始める。 ヤマトの血は、太一やヤマトだけでなく、そこら周辺の大地まで色づかせていた。 先程のような鮮やかな紅ではなく、銅の様な錆び付いた色。 地面は、まるで雨が降った後の様。 あれほど流れ出していた血はやっととまったらしい。 光に反射しない。 乾ききっている。 太一はその血を、文字通り全身に浴びている。 頬を伝う涙さえ、赤味を帯びている。 ヤマトの綺麗な金色の髪は、乾いた血で褪せた色に見える。 それでもその表情が穏やかすぎて・・・。 「・・・・・・・・・・・・」 太一がなにか呟いたらしく、唇が微かに動く。 風が吹いて、言葉を流してしまう。 空が耳をすましていると、今度はもう少し耳に届くくらいの大きさで、呟く。 「・・・・・・まと・・・」 もう一度、耳に届く。 「・・・マト・・・」 もう一度。 「・・・ヤマト・・・」 何度も呟かれるその名。 「・・・ヤマト。ヤマト。ヤマト・・・マト・・・。・・・・・・や、まと・・・」 眼が閉じられる。 呟きは消えない。 恐いほど綺麗な涙の粒が流れ落ちる。 ポロポロ。 ポロポロ。 「――――ヤマト・・・」 空は堪えきれないようにその場に座ってしまった。 口元を押さえ、必死に嗚咽を堪える。 丈が正面に回りこみ、抱きしめて、背中を優しくさすってくれる。 空は知らぬうちに丈の服に爪をたててしまった。 丈は何も言わず、その痛みを受け入れている。 ときどき悲鳴のような高い声が喉から漏れる。 太一は眼を伏せる。 ヤマトの額に、血で張り付いてしまった髪を梳いてやる。 「・・・好きなんだよ・・・?」 すきなんだ。 「ヤマトが、好きなんだ」 涙は相変わらず頬を零れ落ちていて。 それでなんで、嘲って(わらって)いるの? 「ヤマト?」 すきなんだよ。 ・・・再び、口元が歪む。 「・・・ごめん、な・・・っ」 ひっく、としゃっくりがもれる。 「ごめんな。・・・言えなくて、ごめ、っな・・・っ」 俯いたため、涙がヤマトの顔に落ちる。 ポタリ、ポタリ。 一粒。もう一粒。 それは、乾いた血をとかし、こめかみの方へと流れ落ちていく。 「すきだよ」 「いえなくて、ごめん」 太一は繰り返す。 空たちはただ、見てるだけしかできなかった。 「これは・・・」 そこに、トーラたちがたどりつく。 四方には仲間や天使たちの屍骸。 カインも血の臭いに、眉をしかめる。 「トーラ?なんかすごい力を感じるんだけど・・・」 カインの向いている方向。 それは、太一たちが居る方。 「・・・トーラ?」 反応を返さないトーラに、もう一度カインは話しかける。 「・・・カイン・・・」 「なに?」 「・・・・・・」 「?ごめん、もう一回言って」 あまりにトーラの声が小さかったので、カインは聞きなおす。 トーラのコブシに力がこもる。 その後から、サーナたちが降り立った。 カインは一瞬振り向きかけ、またトーラに意識を戻す。 もちろん、攻撃態勢は崩さずに。 これだけ離れているのに、サーナたちの息を呑む音が聞こえた。 「・・・カイン・・・」 再びトーラが呼ぶ。 「四翼の天使が、居る・・・」 コメント ・・・本来進むはずのペースからまた外れてしまった・・・っ(苦) ところでこれ、最初は10話くらいの話のつもりだったんですよね。 今思うと遠い過去だ。 |