flying 36

ひゅうぅぅ・・・
風の音が耳につく。
それにかまわず太一はグングン昇って行く。
「ヤマト・・・っ」
自分が行くことだけで、向こうを危険におかすことはもう充分承知だ。
でも、逢いたい。
「ヤマト・・・っ」
足に法力を集中させ、それを蹴ってさらに速度を上げる。
もうすぐ、『風の境目』が見える。
少し気を抜いた、瞬間・・・。
ぐわっと身体が後方に傾く。
なんだっ!?と引っ張られながら後ろを向くと、そこには数十名の高位階級者がいた。
まったく気配の感じなかったことに、太一は背筋をゾクリとさせる。
風の防壁を、太一の襟元を引っ張ってるやつとの間に創って間合いを作る。
猫のような素早さに、ほぅ、と声がした。
「お前ら・・・何しに来た!?」
太一が叫ぶと、向こうは顔を見合わせてから肩をすくめた。
「それはこちらのセリフだと思うが?
お前は最低階級の『太一』だよね?キミはロウ様に堕天使領土に行くことを禁じられているだろう?
なんでこんなとこにいるんだい?」
容赦の無い言葉に、太一はぐっと言葉を詰まらせる。
「それから、僕たちはロウ様の意思により、こっちに来ているんだ」
「ロウ様の・・・!?」
言葉に、太一は絶句する。
「さっき、ヴァージから連絡があって、交渉が不成立したんだって。
で、向こうも多勢で侵略しようとしているから、しかたなくこちらも対抗するそうだ」
甘いね。
男の言葉はそんな風に締めくくられた。
「そんな・・・っ!」
太一は首を振る。
「ヤマトたちがそんなことするはず無い・・・!それに!サーナ様からこれは仕掛けたことだろう!?
オレたちが攻撃するなんて間違ってる!!」
太一のその言葉に、沈黙が落ちる。
最初に太一の襟首をつかんだ男はため息を漏らし、他の高位階級たちに先に行くように命じた。
太一の横を、何人もの高位階級たちが通り抜けていく。
全員が行った事を確認すると、男・・・ラカは、再び太一に向き合った。
「たしかにサーナがこの戦いを仕組んでしまったことは認め、謝ろう。だが」
ラカは、一呼吸置いてから、さらに言葉をつむいでいく。
「どうして堕天使たちがそんなことしないなんてわかるんだい?
確かに僕たちなんかより実際にあって話をしているキミたちの方が向こうの事を知っているだろう。
でもそれはあくまで一部のものの事だろ?
キミは彼・・・ヤマトくんだっけ?・・・の家族と会ったことは?向こうの高位階級者に何人の知り合いが居る?
キミは今回こちらにつれてきた堕天使以外に向こうの友達が居るのかい?」
ラカの質問・・・いや、反論に太一は返す言葉が見つからなかった。
自分は、少し向こうに行ったことがあるというだけで、知ったかぶりっ子している。
ヤマトたちのことはもちろん信頼しているし、裏切らないと信じている。
でもだからって他のやつらもそうとは限らない。
「わかったらさっさと下に降りるんだね。キミの友達も心配してるよ?」
はっと下のほうを見てみれば、空たちがこちらに向かって飛んでくることがわかった。
ラカはふぅ、ともう一度息を吐いてから、太一を追い抜いて『風の境目』へと向かっていった。

「太一・・・!」
最初に太一に駆け寄ってきたのは空だった。
しかし、太一はさっきのラカからの言葉に、下を向き、俯いている。
「お兄ちゃん・・・」
空たちも事情を知っているので、逆にどう励ましていいのかわからない。
そうしていると、上の方から爆音が響いてきた。
はっと空とヒカリと光子郎が上・・・『風の境目』の辺りを見ると、紅い閃光と煙が巻き起こっている。
続いて、空から何人かの天使と堕天使が落ちてきた。
おびただしい血と怪我。
飛ぶ力を失ったということは、もう息絶えているということだろう。
上での戦いは本格的なものになっている。
空は太一の腕をひっぱる。
「太一!行きましょう!」
しかし、空が引っ張っても太一はその力にあがらって拒否するばかり。
「太一・・・!?」
「・・・・・・オレが行っても、なんの役にもたたない・・・」
さっきのラカの言葉。
そして前に言われたロウと光子郎の言葉が頭の中をまわっている。
ひゅっと風を切る音がした。
ッパァアンッ!!
だんだんと頬に熱がこもってきた。
叩いたのは空。
叩かれたのは太一。
手を振り上げている空の目には、いつもは絶対に見ない、涙が浮かんでいた。
「ッカ・・・!」
絞り出すように、空が太一に言葉を投げかける。
「アンタ!ヤマトたちを信じてるんでしょっ!?だから前に自分が犠牲になっても使者になるっていって!無茶して堕天使領地行って!逢ったんでしょ!?
こんなことで諦めるの!?他人に何か言われたら自分の意見変えちゃうの!?
アンタってそんなに弱いヤツだったのっ!?」
・・・空の涙なんて、久しぶりに見た・・・。
ぼんやりとした思考の中、最初に思ったのはそんなことだった。
「お兄ちゃん」
ヒカリの声のする方向を向く。
「・・・タケルくんたち、助けに行こう?」
光子郎に目を向けると、意志の強そうな黒い瞳を輝かせながら、静かに頷かれた。
「オレ・・・」
太一は、叩かれた方の頬をさする。
痛みと熱が、今までのバカな思考を取り去ってくれたみたいだ。
「オレ、大切なこと、忘れてたな・・・」
自分の考えを捨てて、他人に流されるなんで、絶対イヤだ。
太一は頬から手を外し、空の肩に手を置く。
「ごめんな、空。いっつも、困らせちゃって」
苦笑と共に、太一はらしくない表情を浮かべる。
でも。
太一は続ける。
「眼ぇ覚めた。オレは、オレがやりたいからこうしているんだもんな」
太一が少し大人気に微笑むと、空は気付くのが遅い!と軽く太一の胸を叩いた。
「行こう!」
戦いを、止める為に!
太一はまた薄橙色の翼を広げた。
空の蒼に映える8つの翼が、元気よくはばたいていった。



☆NEXT☆


コメント

太一サイドって久しぶりの気がするのは私だけ・・・?(書いていて何を言う)
次くらいにはまた太一とヤマト出会いさせたいなーなんて・・・(苦)