|
矛盾だらけのこの世界で 多分ソレは、この世の理(ことわり) けれど裏切られるソレは、多分世界の当然の事柄。 「等価交換の原則を破っている一番良い例って何?」 突然言われたその言葉に、ロイは思わずキョトンとしてしまった。 二人の居る部屋はロイの執務室で、報告の終わったエドワードはロイが持ってきていた新しい本を読んでおり、ロイも仕事を片付けていた。 妙に脈絡もなく言われれば、ロイも困惑してしまう。 ロイが答えないでいると、エドワードがようやく本から顔を上げてロイの方を見た。 「大佐?」 「あ、ああ・・・」 訝しげな視線を受け、ロイの硬直もやっと解ける。 「すまなかった。・・・・・・しかし妙に唐突な質問だね」 「ん〜ちょっとね」 言葉を濁して眉を顰める。 エドワードが話しにくいことがある時に出る癖だ。 多分誰かに言われたのだろう。 ロイはペンを置き、エドワードの方に歩いていく。 ソファーに腰をかけて背凭れから肩に手を回せば、ぽすりともたれかかってくる。 そんなふうに甘えてくる様子が可愛らしくて、ロイはその柔らかい髪に頬をよせる。 「・・・等価のものを払っても、戻ってこないものもあると言うことは、キミの方が良く知っているのではないかな」 嫌味ではなく、真実をロイは口にする。 エドワードは居心地悪そうにもぞっと動いた後、やはり同じ場所に留まった。 「・・・私はね、錬金術を使うたびに思い知らされるんだよ」 「―――――何を?」 「私たちが持っているモノは、他のものでは代用出来ないと言うこと」 「―――――――――」 「『壊れた』ものを『修復』することは出来る。 けれど、『失った』ものを『元に戻す』ことは出来ないんだよ」 「・・・ぅん・・・」 それもロイよりもエドワードの方が何倍も強く経験していることだ。 ・・・そして、心を痛めている。 それでも涙を流さないエドワード。 けれど出すことの出来ないソレは、もしかしたら出せるものよりも何倍も重いものを背負ってしまうのかもしれない。 エドワードは涙を流さない。 そんなエドワードの姿勢も、ロイが惹かれた魅力の一つだ。 回した手でそっとエドワードの髪を撫でてやる。 触り心地の良い髪は、エドワードが戻ってきた時にロイが必死にケアしている成果の現れだ。 元々綺麗な髪をしているのに、エドワードはそれを意に介そうともしない。 まったく、もったいないと思う。 その髪に、キスを落とす。 「・・・・・・けれど・・・」 「?」 「もっと等価原則の法則を無視しているものがあるね」 ロイが言うと、一気にエドワードがいろめきたつ。 「な、なんだよ、それ・・・」 犬のようにころころと表情を変えるエドワードが面白くて、ロイは思わずクスリと笑ってしまう。 それを見て、ムッとしてしまったエドワードの額にもう一つキスを落として、囁くようにロイは伝える。 「与えたものに対して、ソレは無駄なものかもしれない。 もしかしたら失ってしまうかもしれないし、逆に自分のすべてになるかもしれない」 エドワードはただ黙って聞いている。 真面目な表情は、多分今から言う自分の答えに歪んでしまうのだろう。 その様子が見たい、と思うのはロイの中にある童戯心だ。 「・・・それは、ね」 「・・・・・・うん・・・」 ロイはそれまでの表情を崩し、クツクツと笑いながら唇を寄せた。 「愛、だよ」 触れるか否かのその距離は、いっそちゃんと触れてくれた方がマシと思うくらいに恥ずかしい。 ぬくもりとか吐息とかが、リアルに感じられるからだ。 ムム〜とエドワードが唸っていると、ロイがエドワードを抱きしめて、耳元で言葉を続ける。 「例えば告白に関してだって、必ずしも成功する訳ではない。 人が一生に出会う人の数が世界の数パーセントだとしても、その人数は計り知れない。 その中で想いが通じ合うことが出来たのなら、それはとてもすばらしいことだ。 それに・・・・・・」 「それに?」 一々聞き返してきてくれるところは、エドワードの可愛いところだ。 隠し切れない好奇心が、言葉の端々に滲み出ている。 「キミがその口で『好きだ』と囁いてくれるだけで、私の活力になる。 これは私に取って、何ものにも替えられないものなのだよ、エドワード」 『等価交換でない』と言うことが、すべてマイナスに傾くなんてことは無い。 悪いところがあるのなら、良いところだって必ずあるものなのだ。 減るのではなく、増えることもある。 それだって等価交換を裏切っている。 「だからこそ、私たち生きとし生きるものには、人体練成が向かないのかもしれないね」 一瞬経つごとに変化していく心。 無機体にないものを、自分たちは有しているのだから。 「だから、キミたちがキミたちを取り戻すのに一番必要なのは、賢者の石などではなく」 ロイはエドワードから身体を離し、その硬い右手をとって彼の心臓の上に置いた。 「キミたちの想いだ」 そうしてその硬い右手の上に、自分の掌を重ねる。 「キミたちの想いが、世界の理を変えてしまうくらいの力にだってなりうるのだから」 ふと視線を上げれば、エドワードがこちらを呆然と見ている。 その様子にクツリと笑う。 「キミはキミたちの信じた道を歩みなさい」 そう言うロイこそ知らないのだ。 その言葉の一つ一つが、その笑顔のあなたが。 自分の活力に成っていることを。 帰る場所があると言うことは素晴らしくて。 待ってくれている人がいると言うことは救われて。 優しすぎないけれど、求める以上の言葉をくれる。 そうして与えてくれたそれに、自分は笑顔を返すのだ。 ・・・これも、等価では、ないのだろう。 「・・・大佐の言葉って、ホンットにキザ!」 ほら、そうして笑い返してくれるから。 ハマってしまう、自分の考えのドツボに。 等価交換の定義は信じたい。 けれどロイの考えも、確かに間違ってはいなくて。 ロイの存在は自分をダメにするものではなく、生かしてくれるもの。 エドワードは、今度は自らロイに抱きつく。 「だけど、あんたのそう言うとこが、スキ」 この言葉だって、ほら。 あげたはずなのに、自分にも還ってきてる。 矛盾だらけのこの世界。 けれど不完全なこの世界は、不完全な僕等が居るための最高な場所なのかもしれない。 キミに逢えた、だからこそ。 この矛盾だらけの世界は、輝いてみえるんだ。 コメント 最終回間近から『等価交換』について出ていたので、つらつらと。 ど〜しても私はこういうシリアス(後に甘々(笑))に思考が走ってしまいます。 ホントは最終回の私的お話しを書こうと思ったのですが・・・切なくなっちゃいそうでやめました(苦笑) 私は甘々路線で行く女なので・・・!! |