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スキスキダイスキ! 3 あれから三ヶ月が経過した。 それまでは長く旅を続けていても定期的に連絡を入れるように義務付けていたのだが、それさえもまったくない。 ここまで来ると、ロイだけでなく部下たちも心配になってきてしまう。 「大将・・・どーしてるんスかねェ・・・」 ハボックがポツリと漏らすと、それまで進んでいたロイのペンがピタリと止まる。 それを咎めるようにホークアイがジロリと睨むので、ハボックは慌てて自分の書類に向かった。 ホークアイはハボックから視線を外すと、靴をならしてロイの方に歩み寄っていく。 「大佐・・・これ以上は・・・」 「・・・わかっている」 ロイもペンを置くと、哀しげに視線を泳がせた。 あれだけ楽しみにしてくれていたのに、当日にボイコットされてしまった。 そんなエドワードの行動が読めなくて、ロイは重い溜め息を一つ・・・ついた。 国家錬金術師は軍に直属していないとはいえ、一箇所のところに留まらなければならない。 もちろん何かしらのことがあった場合、連絡をする為のものなのだが、エドワードは国家錬金術師の資格をもちつつも旅をしたかった。 それ故にエドワードはロイから視察とその報告と言う義務を負わされつつも、旅を許可してもらったのだ。 しかし、報告は紙の上だけではすまされない。 何かしらあった場合、そのことに意見を言ったり聞いたりもしなければならないので、基本的に文章だけでなく本人の証言も必要になるのだ。 なのにエドワードはこの三ヶ月、文章でしか報告を行っていない。 とすれば、来るのはエドワードの召喚状だ。 ロイが東部全土に伝令をしたのだろう、電車を降りた途端軍の人間に紙を渡された。 「・・・・・・」 遅かれ早かれ、召集が掛かるだろうとは思っていた。 その紙を見て、アルフォンスも『それ見たことか』と言いたげに大きな溜め息をつく。 エドワードは渡された紙をクシャクシャに丸めると、それを宿の部屋に備え付けられているゴミ箱に投げ捨てた。 それから立ち上がって部屋を出て行こうとするエドワードに、溜まらずアルフォンスは声をかける。 「兄さん!・・・召集かかっちゃったんだから、行かなきゃダメだよ?」 「・・・わかってるよ・・・」 命令に逆らえば、軍法会議にかけられてしまうだろう。 どう見ても、やはりロイは自分の上司で上官だ。 ロイの元で報告書が止まるのならまだいいが、出された報告書の中から必要なモノは中央に回される。 それが無くなれば不信に思われてしまうのは、ロイだ。 しかも、軍法会議にかけられて万が一国家錬金術師の資格を剥奪されてしまえば、今までのような旅は出来なくなってしまう。 金銭面的にも、資料面的にも、だ。 どちらにしろ、軍に縛られているかぎり自分に選択肢は無いのだ。 はぁ、とエドワードは溜め息をつく。 ロイには会いたくないと思う。 ・・・しかしその心の中では、ロイを求める心がどうしてもあってしまう。 そのたび思い出すのはあの光景。 まるで映画のフィルムのように克明に思い出されるソレは、いつもエドワードを苛ませる。 じぶんがおんなだったらよかったのに。 ぐるぐると回る、そんな言葉。 けれどこの世に男性と言う性を受けてしまった以上、それはもうどうしようもできないものだ。 でも言えることは。 それでもまだ、エドワードはロイと言う人間に心を囚われて、抜け出せないということ。 久々に見る東方司令部。 一緒に行くだろうと思っていたアルフォンスは、宿で待っているといってエドワードを一人追い出してしまった。 いつもは軽い足取りで向かうその先が、何かが纏わりつくように足が重くてたまらない。 数ヶ月ぶりに見る東方司令部の人達は皆、久しく顔を出していなかったエドワードを歓迎してくれた。 そんな人達に励まされつつ、エドワードはロイの執務室へと向かう。 大きな扉が、エドワードを阻む。 けれど、これがロイとエドワードを遮ってくれる最後の一枚でもあるのだ。 何度も何度も大きく呼吸を繰り返し、ようやく決心をしてノブに手をかける。 「・・・エドワード君・・・?」 ノブを回すところで聞こえたのは、副官のホークアイの声だ。 思わずノブから手を離して振り返れば、驚いた顔のホークアイが、やはりそこにいた。 エドワードが居心地悪そうにしていると、ホークアイは安心させるように微笑んだ。 「ようやく帰ってきてくれたのね」 「う―――・・・うん・・・」 エドワードも罪悪感を持っているのだろう、小さな声でごめん。と呟く。 「その言葉は大佐に言ってあげて。 ・・・とても、心配されているから」 もう一度小さくエドワードは頷くと、もう一度ノブに向かい合う。 その様子を見て、ホークアイは言いにくそうにもう一度エドワードに声をかける。 「・・・エドワード君・・・大佐は、そこには居ないわ」 「え?」 視察にでも行っていると言うことなのかと思うが、そうではないと言うことは、ホークアイの暗い表情が物語っている。 「・・・どう、したの・・・?」 ホークアイは言いにくそうに視線を彷徨わせた後、いつものようにエドワードの目をしっかりと見て、話し始めた。 「・・・大佐はね、数日前から自宅で療養させているの」 「りょう・・・よう・・・?」 繰り返し聞いてくるエドワードに頷いてやり、ホークアイは言葉を続ける。 「数日前に倒れられて・・・それから自宅で休んでもらっているの」 ホークアイの言葉を聞き終わる前に、エドワードはあれだけ思い悩んでいたノブを思い切り回した。 けれど、そこには、誰も居なくて。 「・・・あなたたちを―――あなたのことを心配なされて・・・ろくに寝ていなかったみたいなの」 座り込みそうになるのを気力で堪えつつも、頭の中は真っ白だ。 思考がまとまらない。 息だけが、不自然に上がっていく。 込み上げる吐き気と叫びを飲み込んで、エドワードは踵を返して走り出した。 「エドワード君!!」 逃げ出すようにエドワードは駆け出したが、それはホークアイに掴まってしまい徒労に終わってしまう。 それでも混乱しているエドワードの思考は、ホークアイから逃れようとその手を振り解こうと暴れる。 「ッ!どこ、行こうと言うのエドワード君!」 「大佐のいないトコだよ!」 そう叫んだエドワードに、ホークアイは眉根を寄せる。 「だって、オレのせいで大佐倒れたんだろ?! ・・・なら・・・なら・・・大佐の傍にいれないよ!」 そう叫んだエドワードの両頬に、パシンと衝撃が走る。 それできょとんとしたエドワードに、少しだけ落ち着きが戻ってきた。 そうして見たホークアイの顔は、何とも痛ましく、そして怒りを秘めていた。 「落ち着きなさいエドワード君」 「・・・ちゅう、い?」 ロイがホークアイに叱られていたり銃を向けられたりしているところを見たことは多々あるが、自分がこうしてホークアイに叩かれたのは初めてのことだ。 「何故そう悪い方に考えるの。大佐は、あなたを、心配しているのよ? ・・・逢いたいに決まっているじゃない!」 「・・・でも・・・」 最初に裏切ったのは、ロイだ。 自分に隠れてこっそりと女性と会って・・・。 それならいっそ、正面から断られた方がどんなに楽か。 けれど、ロイは優しいからエドワードの申し入れを断れず、今回のこともそういうものなのだろうとエドワードは思っているのだ。 押し黙ってしまったエドワードに、ホークアイは上司にも怒りを持ち上げていた。 あれほどロイを慕っていたエドワードがこうも態度を変えたのは、どう考えてもあの無能上司が関わっているとしか思えないのだ。 ロイと違う情とはいえ、同じ『秘密』を共有しているホークアイとしてもエドワードたちには愛情をもって接している。 「何があったのかは私は知らないわ。けれど、あなたがそういう態度になってしまったきっかけは、大佐に関わっているのでしょう?」 ホークアイの言葉に、エドワードは無言で頷く。 「・・・たいさが、おんなのひとと・・・あるいてた・・・」 エドワードの言葉に、ホークアイは思わず怒気を含んだため息をついてしまいそうになった。 「それで・・・やっぱり・・・オレなんかよりも、女の人の方が良いって・・・ッ」 「大佐が言ったの?」 それに対してはエドワードは首を横に振る。 ホークアイは眩暈がした。 やはりあの上司が原因なのだ。 いくらそれが誤解の産物だとしても、そう思わせたのはこれまでのロイの言動が原因なのだ。 しかし、それは自分が言って良い問題ではない。 これは彼と上司との問題だ。 だから、自分が出来るのは助言のみ。 「・・・ねぇエドワード君。ソレは、大佐の口から聞いたの?」 エドワードは、躊躇ってからやはり首を横に振った。 「だったら、一度大佐に聞いてみなくちゃ」 「でも・・・ッ」 エドワードは恐れているのだ。 自己完結させた想いと、相手から訣別される想いとでは受ける傷が違う。 今でこんなにつらいのに、わかっている事実をさらにロイの口から聞いてしまうとと思うと、エドワードは震えてしまう。 「聞かずに自分の中で完結してしまうのなら、エドワード君。あなたにも原因はあるわ」 思いもしなかったホークアイの言葉に、エドワードはハッと顔を上げる。 「情報に振り回されるだけなら、誰にも出来るわ。 けれど重要なのは、そこから必要なのは、ちゃんとその情報から自分自身で真実を見つけることではないの?」 あなたはそうしてきているじゃない。 そう付け加えられた言葉に、エドワードは大きな目を更に見開く。 「あなたが知りたい真実を知るのには、あなたが見て、聞かなくてはいけないわ」 「・・・うん・・・」 「エドワード君が本当に大佐を好きなのなら、大佐もちゃんとソレに応えてくれるわ」 ある意味で一番近くロイとエドワードを見てきたならではと言える言葉。 と言うわ、そもそもそんじょそこらの小娘の恋愛事情を自分が面倒見る方がおかしいわけで。 だから、ホークアイがこういう言葉は、単なる気休めなのではないのだ。 「わかった・・・」 ホークアイの言葉に後押しされて、エドワードはようやく頷いた。 フッとホークアイは笑うと、『ハボック少尉』と声をかけた。 エドワードがきょとんとしていると、曲がり角からハボックが気まずげに出てきた。 「いやぁ・・・何となく出て行きづらくて・・・」 ホークアイはしょうがない。と言うようにふっと溜め息を漏らすと、エドワードをロイの邸に届けるようにと言いつける。 事情を(図らずとも)立ち聞きしてしまったハボックは、文句ももらさず車を回しに行った。 その姿を見送ってから、まだきょとんとしているエドワードにクスリと笑顔を漏らした。 ロイの邸に行くのは、これが初めてではなかった。 宿を確保出来なかった時などはロイが泊めてくれたりしたのだ。 ヒラヒラトと手を振ってとっとと軍に戻っていってしまったハボックを見えなくなるまで見送ってから、エドワードは意を決してロイの邸をノックした。 するとドタドタと言う足音がどんどんと迫ってきて、思い切りドアが開いた。 慌てて着替えていたのか、上着のボタンはすべてはまってはいない。 「エドワード!!」 躊躇わずにドアを開けて抱きついてきたロイに、エドワードはホークアイが気を使って電話をしてくれたのだろうとやけに冷静に分析してしまう。 久々に抱きしめたロイの身体は、確かに前よりも痩せているようだ。 それでも変わらないロイの匂いに、エドワードはやはり安心してしまう。 とりあえず抱擁を解いたロイは、エドワードを中に招き入れる。 普段からそうそう帰ってこれない家とはいえ、ロイはどちらかといえば整然とした方が好きなタイプだ。 けれどこの家は、前よりも雑然としている気がする。 「・・・大佐、掃除してないの?」 ポツリと聞いてくるエドワードに、ロイは当たり前だと眉を寄せて返してくる。 「キミたちから何ヶ月も連絡が無くて・・・心配で仕事にすら手がつかなかったんだぞ?」 「・・・・・・・・・・・・」 エドワードはロイのその言葉に俯いてしまう。 普段ならそこでちゃんと謝ってくるエドワードなだけに、ロイは訝しげに首を捻る。 「・・・どうかしたのかい?」 「どうかしたのかって!!」 ロイのその言葉に、エドワードが先に切れてしまった。 『いたわり』とか『穏便に』などと言う様な言葉は、もうすでにエドワードの中には無い。 「あんたが悪ぃんじゃないか!オレとの約束があるのに女とデ、デートなんかして・・・!」 激昂してしまったエドワードに唖然としてしまっていたロイだが、その言葉を聞いて眉を潜めた。 「オレが嫌なんなら、はっきりそう言えばいいじゃねェかっ!!」 そのまま出ていってしまいそうな雰囲気に、ロイはその身体を抱きしめてやった。 最初は抵抗を見せていたエドワードも、やはりその腕のぬくもりには勝てずすぐに抵抗を止めてしまった。 抱きしめたままソファーに再び腰を降ろし、ロイは記憶をめぐらせる。 エドワードの告白を受けて以来、ロイはどうしても断れない上司の令嬢やパーティ以外ではデートはしていなかった。 それはもう、街でことあるごとに心配されてしまうくらいに。 ・・・街? 「あ」 そこで間抜けた声を出したロイに、エドワードは濡れてしまった目を向けた。 「もしかしてエドワード。君が見た女性は栗色の、ウェーブの掛かった髪の長い女性かね?」 言われ、エドワードは記憶を辿ってコクリと一つ頷く。 するとロイは安心したように微笑んだのだ。 「ならばエドワード。それは誤解だよ」 「・・・・・・・・・・・・え・・・・・・?」 長い時間をかけて、ロイの言った言葉を飲み込もうとする。 ロイは呆けてしまっているエドワードの額にひとつキスを落とすと、ゆっくりとエドワードから離れて寝室へと向かった。 しばらくして戻ってきたロイは、先程のように自分の上にエドワードを乗せた。 「その女性はアクセサリー屋の主人だ」 「・・・嘘」 「ではないよ。これが証明だ」 そう言って渡されたのは、綺麗にラッピングされている小さな正方形の箱。 戸惑っていると、ロイがそのリボンをほのきはじめた。 「キミに取って長く感じられたように、私にしても・・・私から交わした約束の時間がとても長かった。 三年と言う時間はとても大きい。しかもキミは旅をしているから、人と出会う確率は更に高い」 だから。とロイは続ける。 「もし本当にキミが私のことを三年間想い続けてくれたのなら、私はキミのことをスベテ欲しくなってしまう。 だからね、そんなことをしないために、せめて形にしようと思ったんだ」 出てきたのは、小さな紅い宝石のような石がはまっている、銀色の指輪だった。 「だ・・・ったら・・・なんで三年も・・・ッ」 くしゃりと再び歪んでしまった顔に、ロイは苦笑して頬を寄せた。 「言っただろう?私はキミが好きだけど・・・好きだから、ちゃんと自分の想いがどこを向いているのか知ってほしかったんだ」 ドン、と胸を叩かれた。 右手でなかったのは、せめてものエドワードの配慮なのか。 「そんなの、オレはロイだけ愛してるもん!オレが全部欲しいなら、全部あげるに決まってるだろ?!」 実際にはそう言う訳にもいかないけれど。 それでも、エドワードのその言葉も真実なのだ。 ロイは入っていたもう一つのもの・・・銀のチェーンに指輪を通してエドワードの首にかけた。 「これを指にはめる時は、キミたちが旅を終えた時だよ」 ヒック、とエドワードの嗚咽が漏れる。 「・・・オレ、おんなじゃないよ?」 思っても見なかった言葉に、ロイはクスリと笑った。 「私は、キミがエドワードだから好きになったんだよ」 つきなみな言葉だけれどね。 そう言って苦笑するロイに、エドワードは更に涙が溢れてしまう。 「・・・旅が終えた時、私の傍にキミは居てくれるだろうか?」 まるで、プロポーズのその言葉に。 エドワードに頷く以外の事が出来ただろうか。 「とりあえず、誤解が解けてよかったッスね」 ハボックはやれやれと言いたげにホークアイに話し掛ける。 「そうね。・・・でもとりあえず・・・」 そう綺麗な笑顔をしつつ、ホークアイは愛銃のセーフティーを外す。 「ちゃんと手を動かしてください」 と、言いつつもその銃が轟音ととどろかせることはないとハボックもわかっている。 ロイの膝にはエドワードがベッタリといるからだ。 あれからすっかり誤解が解けたロイとエドワードは、以前とは比べ物にならないくらいのバカップルに成り果てていた。 「大佐〜あとどんくらいで仕事終わんの?」 「ん・・・定時に終わるのは難しいかもしれないな・・・」 なにせ休んでいた時のものも遠慮なく仕事として回ってきてしまうのだ。 しかも、ロイの手はいつもの二倍動きが悪いときている。 「じゃあさじゃあさっ!」 今にもホークアイの血管が切れそうなことに怯えているのはハボック。 「ちゃんと定時で上がれたら、オレから大佐に口ちゃーしてあげるv」 なーんてそんな言葉にロイのスピードが上がったことは当然といえば当然と言うことで。 自分がいると仕事のスピードが上がるとアピールできたエドワードは、そのことで一気にヒートゲージを下がらせたホークアイからロイの膝と言う位置を確保したのだった。 やってられんとばかりにハボックは仕上がっていく書類を持って、ホークアイと共に部屋を出る。 二人きりになったところで、エドワードはロイの頬にうちゅーと音がしそうなくらい唇を押し付けた。 「大佐、だ〜い好きv」 こうして世も憚らぬバカバカバカップルが、誕生してしまった。 エドワードの首に煌く指輪が、キラリときれいな光をはなった。 伝えきれないくらいに大きなこの想いを伝えるのは、本当にもどかしくて。 でも、もどかしいくらいに大きな愛を持っているのが本当に嬉しくて。 ああもう自分はとても幸せ。 あなたにこうして触れて想いを受け取ってもらえる自分は、多分絶対この世で一番幸せ。 コメント ようやっと終えた・・・。 なんか予想してたのと違っちゃうし・・・! 私が!私が目指したのはアホなエドワードなのに・・・!(・・・) なんかなー・・・悔しいからリベンジしたい感じ・・・!! |