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変動感情 刹那 その、刹那 自分の中の、何かが変わった 自分にとって仕事は、生まれた時点からもうあるものだった。 生活の一部とか、暮らすためにはしょうがないと言うものとは違う、人生そのものなのだ。 大人の媚びや愚者を見るのは呆れる以外の何ものでもない。 そして、子供でありながらも副社長の地位に居る自分に、恨みや妬みを持つものだって少なくは無いだろう。 当然、見え見えのソレらにストレスは溜まる。 そこで、仕事以外の趣味、ネットに関しての資格、オフィシャルネットバトラーになったのだ。 多忙に更にその仕事も増えるが、『暴れられる』と言うのは以外にストレスを発散させた。 IPCは世界にも通用する権力をもっており、それに比例して仕事にも手を抜けない。 今日も、カタカタとキーボードを打っていると、ピピピッと機械音独特の音がPETから響いた。 「なんだ?」 視線は向けず、言葉だけブルースへと投げる。 『炎山さまが取られています、ネットバトルのメールマガジンです』 そうか、と炎山はメガネを取る。 炎山は視力はいい方だ。なので度はあまり入ってはいない。 ただ、クセで目元をいじるクセがあり、たまに仕事に集中しすぎてその手で肌を引っかいてしまうのだ。 肌だけなら良いが、眼球を傷つけてしまったらいけないと、信頼している執事の一人が誕生日にくれたものなのだ。 以来、炎山はそのメガネを愛用している。 クセは、メガネの縁をいじるのに場所が変更された。 そのメガネをケースへと丁寧にしまい、PETへと視線を向ける。 「表示してくれ」 言われ、ブルースは一礼をしてメルマガのデータをPETに表示させる。 やはり最近の目玉、N-1グランプリの事が細かに書かれている。 下にクロールしていくと、ネット犯罪の事も書かれていた。 最近、WWWの活動が頻繁にあり、その危機を救ったのが何と小学生らしいのだ。 しかもオフィシャルではない、一般人と書かれている。 「・・・・・・」 炎山はその記事を読み、少し考えるような仕草になる。 「ブルース」 『はっ』 呼べば、直ぐに忠実な自分のナビが応える。 「このWWWに関して事件を解決している小学生がどのような人物か、調べられるか?」 お時間を少しいただければ、とブルースは答える。 「頼む」 『わかりました』 ブルースは大きく一礼すると、PETから姿を消した。 ・・・今思えば、それが熱斗の事を始めて意識したかもしれない。 「炎山っ!!」 男子にしては高い声で、名前を叫ばれる。 歩む足を止めず、チラッと振り返ってまた視線を正面に戻す。 そんな炎山の態度が気に入らない向こう・・・ネットは、憤慨したように地団駄を踏む。 「えんざんっ!!聞こえねぇのかよ!!」 「キコエマセン」 「聞っこえてんじゃねぇかっ!!」 いい加減煩いと思っていると、熱斗の腰にあるPETからこれまた男子のものにしては高い声が聞こえた。 「熱斗くん。そんな大声出しちゃダメだよ。周りの人に迷惑かかっちゃうよ」 確か、ロックマンと言っていた。 熱斗のナビの名だ。 ロックマンに言われ、熱斗は叫ぶのをやめる代わりに小走りに炎山に近付き、一向に歩みを止めない身体・・・腕を掴んだ。 「え・ん・ざ・んっ!」 耳元で言われ、炎山は眉をしかめて歩みを止めた。 「・・・何だ、煩いな」 「そっちが呼んでるのに無視するから悪ぃんだろーっ!!」 キャンキャンと叫ぶ。 「まるで・・・みたいだな」 「は?何だよ?」 呟いた言葉は、熱斗には届かなかったらしい。 再度聞いてくる言葉を無視し、用件を問う。 「で、何で俺を追ってきた」 言うとするなら、先程の準決勝のやり方の事だろうけど。 「さっきの準決勝!何でロックマンを攻撃するんだよ!」 案の定、熱斗はその事を問うて来た。 うんざり・・・と言う感じで、炎山はその言葉に答える。 「だから、言っただろう。俺は誰かと・・・しかも自分よりも弱者とわかっているやつとは、例えそれがルールだろうが組む気は無い」 「じゃ・・・っ!」 カッチンッ!とその言葉が脳天にぶつかる。 「悔しかったら、ブルースの一発で気を失わないようにするんだな」 『あれは、ブルースがいきなり攻撃してきたから!』 『警戒を怠るからそうやって突然の攻撃に対処できないのだ』 『だって!』 ナビはナビで言い争いを始めてしまった。 そんな、切迫した空気を破ったのは、やはり炎山だった。 「・・・とにかく、俺に構うな」 「そんなの、俺の勝手だろっ!お前が俺のコト邪魔だって思ったって、絶対構うからな!」 本当に、煩い。 炎山は眉をしかめ、熱斗を睨む。 が、熱斗は怯む事無くそれを真正面から受け止め、返す。 ・・・そういえば、こうやって自分の視線を真正面から受けられる人間は少ないな・・・とボンヤリ思った。 反論する事も、自分の意思を無視する事も、名を呼び捨てする事も。 幼い事からそういう経験は本当に少なかった。 「・・・お前・・・」 「?」 いきなり普通の調子で話し掛けた炎山に熱斗は少し面食らってしまう。 「お前は、俺の事を知っているのか?」 「・・・いじゅういんえんざんだろ?」 何言ってんだこいつは、と言う訝しげな視線を熱斗は向ける。 「・・・オレが、IPCの副社長だと知っているのか?」 言われ、熱斗は考えるような仕草を取る。 『ほら、メイルちゃん言ってたじゃない。コンピューター関連を主に作っている、大きな会社だよ』 ロックマンが入れ知恵をすると、熱斗は思い出したように手を打った。 「あーあー言ってた言ってた」 それが?と熱斗は普通に返してくる。 炎山は少し面食らう。 「・・・俺に諂ったりはしないのか?」 「なんで」 やはり熱斗は、おかしいように返してくる。 「もし俺が本気で動けば、お前がネットバトルを出来なくする事も、ハードやソフト製品を買う事が出来なくする事も可能だ。 ・・・それにもし俺のご機嫌を取れば、お前は俺のお気に入りとして一目置かれる事になるんだぞ?」 大人は皆そうだ。 ご機嫌を取り、今の地位を守る。 気に入られようとし、昇格を媚びる。 それは子供とて同じだ。 地位の大きな知り合いをもてば、社会での自分の環境も変わってくる。 父親に言われ、仲良くなろうと迫るやつも居る。 「・・・お前・・・」 声がしぼんでいる。 熱斗は、自分のした事に愕然としているのだろうか。 ・・・だとしたら、更に失望だ。 それならば、『ふざけるな』と言われる方が数千倍マシだろう。 が、熱斗の言葉は炎山の思ったもののどれでもなかった。 「・・・かわいそうなヤツだな・・・」 『カワイソウ』 そんな事を言われたのは初めてだった。 驚いて熱斗の方を見ると、熱斗は先程の元気はどこに行ったのか、シュンっと項垂れてしまっている。 「・・・かわいそう・・・?」 「だって、そうやってお前、誰も信じられないんだろ? 権力を振りかざしてさ・・・そうやって盾作ってるのって、可哀相・・・」 自由なんて無い。 それは、自分の中では当たり前だった。 数年先までスケジュールは詰まっており、たまに白紙のところがあっても、社長の都合のいいように埋められてしまう。 そんなこと、当たり前だった。 なのに・・・ 「お前は」 炎山がまたポツリと漏らすようにしゃべれば、熱斗は顔を上げる。 「お前はもし俺がどんな人物でも、そうやって俺に接しられるか?」 言えば、熱斗は胸をまた張る。 「そんなの、当たり前だろう!!」 そうやって、当然の事のように言う。 ふんぞり返って断言する熱斗が、おかしくて、炎山は嫌味ではない、フワリとした笑みを漏らす。 「・・・お前は・・・」 「?」 炎山が不意に見せた笑顔に不覚にも魅入ってしまった熱斗は、炎山の言葉に小首を傾げた。 「犬みたいだな」 敵に対しては遠慮をしない。 そのくせ、どこか抜けている。 唯一違うとすれば、それは目上に対して諂わない事だ。 炎山は、熱斗と離れた距離をまた歩いて埋めていく。 「お前は、好きなヤツには全力で尻尾を振るんだろうな」 そうやって、輝くような笑顔を浮かべるのだ。 未だボ〜ッと自分を見上げている熱斗とは、かなり背に差がある。 一瞬 その一瞬の出来事を、ロックマンは驚いて真っ赤になり、ブルースさえも肩を揺らし、熱斗は呆然としていた。 頬に触れていた唇を離し、耳元で囁く。 「・・・その図太い神経を賞して、決勝は全力で潰してやろう」 そう言い、炎山は再び踵を返して熱斗の元を去っていく。 『ねっねねねねね、ねっとくんっ!!』 ロックマンが真っ赤で喚いている声を聞き、熱斗もようやく先程自分の身に降りかかったことを脳が理解した。 「え、え、炎山――――――っ!!」 頬を抑え、熱斗は絶叫する。 「唇にしなかっただけ、ありがたいと思え」 ポツリと呟いたその言葉は、熱斗には絶対届かなかっただろう。 それでもいい。 まだ、ソレには気付かなくてもいい。 それは、もう少し後の事だ。 炎山が完全に見えなくなり、ようやく熱斗も叫ぶのをやめた。 追いかけなったのは、先程の行為の驚きで足がガクガクしてしまっているからだ。 頬を抑え、熱斗は真っ赤な顔で俯く。 『ね、熱斗くん・・・』 「ロックマン・・・」 どうしよう。と、熱斗はPETの中の親友に呟く。 「・・・俺、き、キスされて・・・嫌じゃなかった・・・」 思わぬ言葉を聞き、ロックマンも驚いてしまう。 男にキスをされたのに、悲観する感情が無い。 むしろ、ドキドキとしたものが込み上げてきた。 「くっそー・・・」 こんな感情、熱斗はまだ知らない。 「炎山の・・・ばかやろ――――――――っ!!」 そして、そのワケの判らない感情は、怒りになって炎山へと返っていった。 その刹那。 その言葉で。 自分の中の、何かがはじけた。 それは嫌なものではなく、むしろ気分を高抑させるようなものだ。 理解できなくは無い、その『感情』 それでも、まだ言葉には出せない。 あと少し。 まだ少し。 もう少しだけこの関係で行く、この時。 コメント 『刹那』という単語がフッと頭の中に思いついて、それを炎熱で書いて見たいなぁと漠然と思った作品です。 時間設定は、アニメの準決勝終了後らへん。 まだ付き合ってない頃の、仲が悪い時と言う設定にしております。 ちなみに、この時ロックマンはもうブルースの事が好きです(笑) ・・・ブルースはまだ炎山以上にその感情を理解していませんが・・・。 ・・・関係ありませんが、最初私、『炎山』って苗字だと思ってました(笑) |