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Rum&Milk 暖かなミルクにフワリと香る甘いラム酒。 熱の出た身体に、いつも熱いと思っていたキミの体温が心地良く触れる。 ユラユラと回る部屋。 ああ、熱のせいか―――――。 ゲホッ!ゴホッ! 背中を浮かせるくらい強い咳をすると、太一が部屋をひょこっと覗き込む。 「おいおい大丈夫かよ」 しゃべるには喉が痛く億劫なので、ヤマトは少し笑みを作ってコクッと頷いた。 さっきから太一は、こうやって自分が強く咳をしたり、長く咳をしていると何度も部屋を覗き込んでくる。 先程までゴウンゴウンと唸り声を上げながら回っていた洗濯機が、今度はピー、ピーと音を立てて終わりを誇示している。 「あ、終わった」 大人しくしてろよ。と太一はヤマトに一言言うと、パタパタとスリッパを鳴らして洗濯機の方へと小走りに行ってしまった。 それを見送り、ヤマトは熱い息を吐き出した。 体調は最悪だが、気分はそう悪くは無い。 それは、この静まり返った空間に太一という存在が居るからだ。 金曜日、天気予報を裏切って突如振り出した雨。 この季節、天気にも温度にもばらつきがあり、その日の雨は冬の日のように冷たかった。 その時、少し遠出で自転車で移動していたヤマトは思う存分濡れてしまった。 結果、次の日の土曜日には38度もの熱が出てしまったのだ。 その日遊ぶ約束をしていた太一に事の事情を話し断ろうとすると、 『は?だってお前独りなんだろ?オレが看病しに行ってやるよ』 そうして、太一は今ヤマトの家に来てくれているのだ。 溜まってしまっていた洗濯物をしてくれ、(主に父親が)散らかしてしまった部屋を掃除し、食事を用意してくれる。 今までとは全く違う。 仕事で忙しい父親を引き止めるわけにも行かず、シンと静かな部屋でジッと天井を見ながら眠る。 食事は温かみも何も無いレトルトのお粥。 風邪は、ヤマトにとって人以上に疎ましく嫌なものだった。 だけど。 今は――――― 「ヤマトー?お粥作ったんだけどさ、食うか?」 「・・・ぁあ・・・」 掠れた声で頷き、起き上がろうとする。 しかし、力を入れると頭が痛み、思わず脱力してしまう。 「もーっ無理すんなって」 椀を置き、太一が起き上がる助けをしてくれる。 そうしてようやく起き上がると、太一が膝にお粥の入った盆を置いた。 「熱いから、気を付けてな」 ヤマトはレンゲを取り、少量のお粥を口に運ぶ。 「・・・何か・・・味が・・・」 薄い。と言おうとすると、太一が『あーっ!』と大声を上げた。 「・・・塩入れるの忘れてた・・・」 シマッタと言うような表情で言う太一は、苦笑をさそう。 「でもうまいよ」 レトルトに比べれば、全然おいしい。 それはもちろん、太一が作ってくれた、と言うのも大いにあるのだが。 太一はヤマトが食べ終わるまで傍に居てくれ、ヤマトに負担をかけない程度に話し掛けてくれた。 「ごちそうさま」 ヤマトはそのお粥を残さず食べた。 太一は満足そうな顔で、よし。と頷いた。 「救急箱の中捜させてもらったぞ?ほら、薬」 太一はお茶の他に白湯も用意してくれ、白い錠剤をヤマトの手に取り出してくれた。 1回で2錠を飲み込み、白湯もくーっと飲み干した。 コップを渡すと、太一はそれもお盆に乗せて、ヤマトの額に手を置いた。 「・・・熱いなぁ・・・」 渋い顔をし、太一は冷えピタを取り外した。 「ちょっと待ってろよ」 テキパキとした太一の動きに、ヤマトは最初唖然としてしまったものだ。 てっきり太一はこういう事には疎いと思ったから。 『ヒカリがさ、病弱だったろ?それの看病でさ、こういうのは結構得意だったりする』 少し照れ、それでも自慢そうに太一はヤマトにそう言った。 静かな部屋。 けれど、キミが居る足音が、空気が、確かに伝わってくる。 それが何よりも心地の言い事に、多分キミは気付いていない。 こうして体調を崩すごとに心配し、顔を見に、見せに来てくれる事がどんなに嬉しい事か、多分キミは知らないだろう。 キミの居る景色が、いつの間にか自分の中で馴染んでいる事に。 そうして眼を閉じていると、ウトウトと頭が重くなってきた。 さっき飲んだ薬の副作用で眠気が出てきたのだろう。 トロトロと意識が解けていく。 コレを心地良く感じれるのも、キミのお陰・・・。 ふと眼が覚めたのは、鼻に何か匂いを感じたからだ。 太一が戻ってくる前に寝てしまったのだろう、いつの間にか額には新しい冷えピタが貼られていた。 モゾリと動き、身体を丸める。 起きてしまったのは匂いの他に、寒気がヤマトの身体を取り巻いたからだ。 モゾモゾとベットの中で動いて寝やすい位置を確保する。 クン、と嗅ぐと、何かいい匂いが鼻に届いた。 「この匂い・・・?」 思っていると、ノブが静かにカチャッと回り、太一がそおっと入ってきた。 「・・・あ、起きてた?」 「今起きたトコ」 そっか、と太一は笑う。 自分が入って来た事で起こしてしまったと思ったのだろう。 「どうだ、具合は?」 太一がまたヤマトの額や頬に手を置き、熱を診る。 「・・・ちょっと、寒いかも・・・」 言うと、太一の顔がちょっと輝いた。 『?』と思っていると、太一が少しウキウキしながらヤマトに尋ねる。 「じ、じゃあさ、何かあったかいモン飲まねェ・・・?」 太一がこういう嬉しさを隠そうとしているのは、何かしてほしいモノがあるときだ。 今のこの状況で太一が自分にとって嫌な事をするとは思えないので、ヤマトはゆっくりと頷いた。 途端太一は隠していた嬉しさを解放するようにパッと笑み、『ちょっと待ってろな』と言って部屋を出て行った。 数分して戻ってきた太一の手には、暖かい湯気を出しているカップが二つ握られていた。 「ほい」 手渡されたソレは、ホットミルクだった。 「あれ?このホットミルク・・・」 あの、温めたミルク独特の匂いはほとんどせず、代わりに甘い匂いがヤマトの鼻に届いた。 太一の方を見ると、中学生とは思えない幼い笑みを嬉しそうに浮かべており、自慢気に説明してくれる。 「これはラムミルクって言うんだよ。母さんがな、風邪引いてる時にはいいって」 ラム酒を少なめにしておけ、とも言われたので、強い匂いとは違い、ラム酒はそんなには入れてはいない。 ふーん、と思いつつ、ヤマトはそれに口をつける。 「・・・結構甘いな・・・」 「砂糖も入れたからな」 ヤマトの渋い顔を見て、太一はクックッと笑う。 風邪を引いた時には、大人しく寝て、しっかり身体を暖かくして休めて。 当然のその事を太一に説かれ、ヤマトはハイハイと苦笑しながら聞いてやる。 子供っぽい太一のその仕草に、呆れる自分が居る反面、とてつもなくその存在を愛おしく思う自分もまた居る。 ラムミルクで暖められた身体。 少ないと言えど酒は入っているので、さっきまで寒いと思っていたのにポカポカしてきた。 ・・・ああ、また熱が上がったみたいだ。 だるさはあるが、その『熱』には、思わぬ心地良さがあった。 全て飲み干し、カップを太一に渡す。 「ありがと。うまかった」 言えば、太一はまたニカッと笑う。 起こした身体を横たえると、太一がヤマトの髪を優しく梳いでくれた。 それは普段、自分が甘えてくる太一によくやってやる仕草だった。 「早く良くなれよ」 子供に言い聞かすようにそう言い、太一はポンポンと頭を撫でてからカップをもって部屋を出て行った。 ・・・思わず、笑みが込み上げてくる。 太一は知らない。 ・・・いや、もしかしたら知っているのかもしれない。 『当たり前』のその仕草が、どれだけ自分を安心させてくれているのかを。 幼い頃に両親が離婚したため、遊んでもらったり褒めてもらう事が他の子よりも少ない自分に取って、そうやって扱ってくれるのは嬉しい事なのだ。 もちろん、人によっても状況によってもそれは変化する。 だけれど、やっぱり太一はどうあっても特別で。 嬉しいんだから。 まだ部屋に残る、ラムミルクの甘い匂い。 そして、先程頭を撫でてくれた時にフワリと香った太一の匂い。 自分の家に、たくさんの香りが混じっている。 この空間に、自分以外のヒト―――――太一が、居てくれる。 仰向けに寝、天井を見る。 熱のせいで瞳が潤み、三半規管が少し麻痺しているのか、天井がユラユラと揺れて見える。 あまく、ゆらゆらとまわっている。 あの甘い飲み物が風邪に良いと太一は言っていた。 本当に効くのかよ。そう思う、自分が居る。 甘いものが苦手なんだから、そうそう飲みたくは無いな・・・。 横になった途端、眠気が込み上げる。 ポカポカと身体の中から暖かさが込み上げてくる。 心地良い。 起きたら、やっぱりもう一杯もらおうかな・・・。 小さな笑みを浮かべてヤマトは眠りに落ちていく。 もう、あの頃の寂しい風邪の日は無い。 そう思うと、どうしようもない嬉しさが込み上げてきた。 甘くユラユラと揺れる。 キミらしいこんな看病(ケア) 今度キミが寝込んでしまったのなら、僕がとっておきの甘いラムミルクを淹れてあげる。 コメント 久々に通常小説のヤマ太を更新しました(苦笑) 本当は『PARAFAMI』の方に置こうかとも思ったんですが、こっちだなぁと思い、ちょっと修正しました☆ 元ネタは川村結花さんの『Rum&Milk』と言う曲からですv あま〜い曲というか歌詞なのですが、一発でヤマ太が思いつきました(笑) 珍しくヤマト視点にしたのは、いつも太一がヤマトに甘えているから(大笑) まぁ、たまには、ね☆ |