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とりあえずチュウから始めましょ それはなんでもない一日のはずだった。 野望を企むこの身が大佐に上がったのが数日前。 仕事は増えたが、それでもやはり若い身での昇進は嬉しいもの。 どちらかと言えば機嫌が良い日。 ・・・ただ、薄い紅色の花がハラハラと花弁を散らせながらも咲いている様が美しいのを、覚えている。 トンっと。 軽い衝撃が背中に走った。 ・・・中尉には街の様子見と適当にごまかして、ロイは気晴らしに街へと来ていた。 元来のフェミニストと言うか女性好きが影響し、外に一歩出れば最低三人には声をかけられる。 女は好きだ。 綺麗な顔を見るのは好きだし、手入れされている髪や爪に触るのも悪くない心地だ。 温かく柔らかい肢体を抱きしめ、甲高い声を聴くのも悪くは無い。 そう。悪くは無い。 でもそれは、絶対的に手を離したくないものではないのだ。 心のどこかで、ソウイウモノをロイは求めていた。 それでも愛想が自慢のロイは、ヒラヒラとそれらに手をす。 そうしていると、時間は定時上がりの五時になり、街に鐘の音が響く。 もうはっきり言ってここから司令部に戻って仕事なんてする気が起きないので、ロイは自宅に向かおうと方向転換をする。 若い身でここまで昇進してしまえば、見当違いの馬鹿な上司から嫌味と言う激励が飛ぶ。 今日も何通もの手紙や電信、電話が来て、それを無視する訳にもいかないので一々対応をしていたのでグッタリだ。 中尉・・・部下のホークアイも理解してくれているだろうと勝手に考え、久々にワインでも開けようと考えていた。 そんな事を考えていた矢先の衝撃だった。 チラッと。 後ろを見ると、最初に汚れた金色が飛び込んできた。 金色の頭の次に黒い服。それに対比するように白い肌が、ロイの黒い上着を掴んでいる。 そしてその金色の髪から覗くのは、黒いネコ耳。 ―――――ネコだ。 ロイはボンヤリとそう思った。 普通の『猫』ではなく、『ネコ』とは猫のような尻尾と耳を持つ種別の事だ。 一般的には『動物』、『ペット』として飼われている。 そして、こうして来ると言う事は多分・・・。 「・・・オレを・・・買って・・・」 ヒトの姿をしていてもペットとされている彼ら『ネコ』の立場は弱い。 飼われるということはもちろん、捨てられることだってもちろんある。 そんな彼らが生き延びる方法はふたつ。 一つは野生に返り、森で生きる事。 ・・・もう一つは、その身体を売る事だ。 ロイが呆然と答えを返さないと、金色のネコはロイを見上げてきた。 「―――――」 そしてその顔を見て、素直に綺麗だとロイは思った。 白いだろう肌は、髪を同じで薄汚れてしまっているが、それでもわかる端麗なその顔。 中でも美しいのは、髪と同色のその瞳。 ウスヨゴレタ身体の中で、そこだけがただキラキラと輝いている。 「・・・買って・・・」 もう一度呟かれたその言葉に、ロイは。 自分でもわからぬ間に、その手を取ってしまっていた。 実のところ、ロイは『ネコ』がそんなに好きではなかった。 と言うか、飼っているものの趣味わからない。 いくら一般的にペットと同等の扱いをされているとは言え、彼らはヒトの姿も持っているのだ。 そんな彼らを『飼う』なんて、それは奴隷と同じでは無いのか。 もちろん、飼うと言ってもその扱いは人様々。 一人子の兄弟にと飼うものも居るし、秘書として傍に置くものもいる。 『ネコ』は、人の言葉では普通しゃべらずに彼らの言葉を用いてしゃべる。 たかだが数語の組み合わせのソレは、人間には解読は不可能かもしれないが、彼らは人の言葉を理解する。 それは人の言葉が音それぞれでちゃんと分かれているという事と、彼らの知能が低くない事を示している。 なので地位の高いものは傍に仕えさせたり、人とネコとの会話を取り持つ『ワーラー』にしたりもするのだ。 別にネコそのものに偏見を持っているわけではないし、ロイが蔑視するのは一部の人間だ。 犬猫とは違う。 彼らは彼らの扱い方があるとロイは思うのだ。 だから、『ペット』として彼らを『飼っている』ものたちは軽蔑するが、一緒に『住んでいる』ものたちのことはそんなふうには思わない。 「入りたまえ」 では何故今自分は、このネコを連れ帰ってしまったのか。 ロイの肩ほども無い背の金色のネコは、逡巡しつつも屋敷に入った。 ソレを確認し戸を閉めると、ネコの肩が明らかに跳ねたのが良く分かった。 「・・・・・・」 ロイは溜め息をつきつつ、奥の部屋へと入っていく。 「・・・あ・・・」 金色のネコも後をついていこうとするが、脚が思うように動いてくれない。 「――――」 躊躇っていると、コツコツとまた足音が響いてきた。 戻ってきたその音に正面を向くと、先程のロイの姿。 変わったのは、家だからか制服を着崩している。 「来たまえ」 それだけ言うと、またロイは踵を返した。 一瞬躊躇った後、意を決したように金色のネコも後に続いた。 ・・・が、程無くして着いたのは考えていたところとは違う場所。 戸惑って相手を見れば、苦笑しながら戸を指差した。 「風呂だ。湯は沸かしておいたから入りたまえ」 入り方はわかるか?と聞けば、金色のネコはコクリと頷く。 「向こうの部屋にいるから、何かあったら呼びなさい」 それだけ言い、ロイは浴室から去っていった。 その後姿を追ってから、金色のネコは改めて自分の顔を鏡で見てみる。 「・・・・・・」 そしてその顔を見て、うげ。とネコは眉を寄せる。 薄汚れた自分の顔や髪。 野生で暮らしていた自分も風呂に入らないとは言え水浴びをして身体を綺麗にするくらいはする。 だから、まさかここまで汚れてしまっているとは思わなかった。 ネコはしょうがない。と言うように服を脱ぎ、髪を解いた。 浴室に入り、まさかそのまま風呂に入ってお湯を汚すわけにも行かないので、まずネコは自分の身体と髪を洗い始めた。 そしてようやく部屋にシャンプーのいい匂いがする頃になって髪に水をかけ、普通の家よりも大きい浴槽に身体を沈めた。 「・・・ッ」 お湯はジンワリとネコに染み渡り、ピリピリと言う感覚を堪えながら肩までお湯に浸す。 すると次に襲ってきたのは純粋に気持ちいいという感じ。 四月とはいえまだ寒い季節に上着を羽織らないとなかなかに冷たい。 そんな冷えた身体を暖めてくれる風呂に感謝しつつ、これからの事を思い、ネコは身を硬くした。 ・・・そう。この清めが終わったら自分は。 ・・・・・・あの人に抱かれるんだ。 ぎゅっと膝をかかえ、ネコは彼らの言葉で、何かを呟いていた。 「・・・キミ?」 そこで声をかけられたので、ネコはビクッとして顔を上げた。 擦りガラスの向こうに人が居て、ネコはチャプッと波だでてそちらを見る。 「悪いけど服は洗濯させてもらうからね。・・・替えの服とバスタオルはココに置いていくから」 「・・・・・・」 うん、という感じを伝えたくて、ネコはにぁと鳴いた。 その声で満足したのか、彼は少しだけスリッパを鳴らして浴室を出て行った。 浴槽から出て、身体と頭を申し訳程度に拭いて、置かれていたシャツに手を通すと、それは大きくてネコの太腿辺りまでを一気に覆い隠してしまう。 「・・・・・・」 いくらロイとは背丈に違いが有るとは言え、これは同性であるものにしてみればショックな事だ。 そして、背丈が違えばウェストも違う。 用意されていた下着もパンツも緩々で、ネコは仕方なくシャツ一枚で浴室を出た。 ペタペタ、キョロキョロと周りを見回して歩き、ふと光の漏れる部屋をネコは見つけた。 そおっと覗いてみると、あの人の姿がある。 気配に気付いたのか、ロイもこちらを向き、ネコの恰好を見て苦笑を浮かべた。 「やはり大きかったか」 言うと、おいでとネコを手招きする。 少し緊張しつつも、ネコはロイの元に歩いていった。 「こっちにおいで」 そういわれたのは一人掛けのソファー。 座るように促されて、ネコは大人しくそこに腰掛けた。 すると、髪にタオルを被せられる。 驚いて上を向けば、楽しそうな笑顔に遭遇する。 「髪はしっかり乾かしなさい。風邪を引いてしまうよ?」 そう言い、ロイは優しくネコの髪を乾かしていく。 気持ち良いのか、ネコはゆったりとロイに任せて目を閉じている。 そして、綺麗になったネコを背後から見て、改めてロイは綺麗だと思った。 汚れを取った事で露わになった、光彩と同じキラキラと輝く金髪に、白い肌。 耳は時々ピクピクと上下し、パタパタと尻尾も揺れている。 顕著に現れるその様子に、ロイも微笑ましさを覚える。 だから、ロイは。 ・・・会ったばかりのこの金色のネコに、心を惹かれていた。 今まで綺麗だと美しいと思った女性は何人も居た。 けれど『絶対』手を離したくないと思った事は今までただの一度も無かった。 なのに。 この目の前のネコは。 ただ、傍に居て、欲しいと思った。 「さて」 濡れたタオルを放り、ロイはネコの前に膝を折った。 それまでうとうとと気持ち良さそうにしていた金色のネコは、そのロイの動きで一気に意識を覚醒し、身を強張らせた。 その様子を見て、ロイは一瞬で覚った。 ・・・この子は、初めてジブンを売ろうとしているのだ。 本当は全力で逃げ出したいのだろうネコは、拳を握り締めて必死にソレを抑えている。 それにもロイは愛しさを覚える。 艶やかに自分を誘う肢体も、鳴き甘えることに慣れた躯も。 魅力といえばそうなのだろうが、もう飽いた。そういうのは、もういい。 そうはっきりと自分に思わせたのは、このネコ。 何かを胸に秘めているのだろう、この幼い子。 だから、か。 なんで、なのか。 わからないけれど自分は。 「さぁ、寝ようか」 そう言って差し出された手を、彼はどう見たのだろう。 ビクリと一瞬振るえ、虚空に目を彷徨わせて。 それでも金色のネコは、ロイの手を取った。 連れてこられたのは、やはり寝室だった。 セミダブルのベッドは糊が利いていて気持ち良さそうだった。 座ればサラリとシーツが気持ち良く肌を撫で、スプリングが良く弾んだ。 平常を装ってもネコは、バクバクと心臓が脈打つのを止められない。 怖い、恐い、コワイ。 とても逃げ出しくて、それでもソレを止めさせたのは自分に課せられた使命感。 「じゃあ・・・」 そう言ってロイが屈んでくると、ネコはギュッと目を閉じて俯いてしまった。 クル。と、金色のネコの中の未熟な、それでも確かにある性が感じた。 ロイはびくついているネコに苦笑し、伸ばした手でその金色の頭を撫でてやる。 その手に一瞬大きく身体を揺らしたネコだが、それで離れていってしまったロイの手に、キョトンと視線を上げた。 「おやすみ」 その中の感情に気付かぬふりをして、ロイはその部屋から出ようと腰をあげ、踵を返した。 そこで、予想はしていた抵抗にあった。 「だ・・・いて・・・!」 慣れぬヒトの言葉で、必死に自分の欲求を伝える彼に視線を送れば、もう正面も見れないほど羞恥に顔を染め、それでも自分の服を離さないと掴んでいる。 ロイはそっと先程のように傍に腰を降ろし、彼の頭を撫でる。 耳は、しゅんとしょげており、ロイは何だか切なさを感じた。 「何故、そこまで抱かれたがる?」 こちらの言葉を理解しているネコは、言葉を紡がぬまま更にロイの服を持つ手に力を篭める。 「ソウイウコトが好きだから?」 ネコは一瞬反応したが、それ以上は返さなかった。 「それは無いだろうがね」 そして、ネコの言葉を代弁するように、ロイは自答する。 驚いた顔をしたのは、金色のネコの方だ。 「だってキミは、これが初めての経験なんだから」 言うと、ネコの口から空気とも取れる言葉で、『ナンデ?』と問うて来た。 どうしてわかったのだと聞くネコに、ロイはもう一度その手でさらっと頬を撫でた。 ネコは咄嗟に身体を後ろに引いてしまい、サッと顔を青褪めさせた。 「慣れているのなら、ここで私に熱烈で濃厚なキスを贈ってくるだろうね」 そうしてその身体をくねらせて、自分の雄を誘うのだ。 「キミはあまりに初々しすぎる」 それだけ言い、ロイはもう一度腰をあげる。 だがそれでも、ネコはロイを離してはくれなかった。 「・・・だ、いて・・・!」 懇願とも取れるその声、表情。 ロイは溜め息をつき、先程よりも威圧を篭める為に顔を近づけて話す。 「そんなに、金が欲しいのかい?」 そこで初めて、金色のネコの瞳に怒りが宿る。 必死に自分を抱けと言うのなら、報酬はそれだろう。 「いくら欲しいんだい?」 おどけたように言うと、パシッと小気味いい音が響き、ロイの頬が少し痛んだ。 それが、ココに来て初めての金色のネコの反抗だった。 金の目に宿る怒りの焔。 馬鹿にするな。 そう、瞳が訴えている。 「馬鹿にしているのはキミだろう」 凄みを利かせた声に、気丈にしていたネコは畏怖を感じた。 「初めてで男を誘い、逸れてやっても抱けと強張る。欲しいものはと言っても答えず、ただ自分の利益と一致を求める」 そしてキミは思うだろう、と、ロイは冷たい声で続ける。 「ああ、オレはなんて可哀相で、気丈なんだろう、とな」 「―――――ッ!」 ネコはロイに掴みかかり、不明な言葉を叫ぶ。 だがそれは彼らの言葉で、ロイはさっぱりわからない。 それでも、いいたいことなら何となく・・・わかった。 「ならば理由を言いたまえ。確かに私はキミの事情を何も知らない。私はキミではないのだし、今日の夕方初めてキミに会ったのだから。 理不尽に怒りを持つのならまず、私に理解を求めたまえ」 先程の冷たさを潜めて静かに言えば、ネコはまたキョトンとした顔になる。 なぜ、言葉が伝わったのだろう。という表情だろうか。 言っている事が判り、会話が成立した事にロイは至極満足感を感じた。 「・・・キミが理由もなく金を欲しがるとは思えない。何か理由があるからこそ、こうしてココに居てしまっているのだろう?」 再び優しく髪を梳いて問えば、金色のネコはくしゃっと眉を寄せて俯いてしまった後、間を置いて浅く頷いた。 「かね、・・・いる・・・・・・ひ、ひつ、よう・・・」 たどたどしい言葉だが、ロイは驚いた。 『抱いて』『買って』と言う言葉は必要だからこそ覚えたのだ。 だが、ネコは必要以外の言語だ。 それを、ただのネコがしゃべって居る事に、ロイは驚いた。 ・・・この子は、育てればとても頭の言い子になるだろう。 こんな状況でもそんなことを考えてしまう自分に、嫌悪してしまうが。 「どうして?」 ネコは視線を彷徨わせる。 言おうか迷っているのではない。知っている言葉を捜しているのだ。 「トモ・・・たいせつ・・・び、び、びょう・・・」 「・・・病気?」 わかりに言ってやれば、ネコはコクリと頷く。 「なるほど・・・キミの大切な友達が病気になってしまっていて、それを治すのにお金が必要なんだね?」 単語を繋ぎ合わせ文にしてやると、ネコはもう一度大きく頷いた。 「わかった」 ロイはネコの手を服から解くと、立ち上がって財布を持ってきた。 「十万センズ入っている。これならいくらなんでも足りるだろう」 はい、と差し出した紙幣を、ネコは怒った顔で突き返してきた。 「だ、め・・・!」 等価になってないと言いたいのだろう。 まったく、どこまでも真っ直ぐなネコにロイは苦笑を浮かべる。 それでも、ここまで強情な彼を嫌いではなかった。 むしろ、『愛おしい』 「・・・では、しょうがないな」 手を引っ込め、ベッドの端に座っている彼の両脇に手を置き、身を乗り出した。 ギシッとベッドが小さく軋み、ネコは再びギュッと目を閉じた。 今度こそ、クル。 自分で望んだ事とは言え、やはり未知な事に恐怖は隠せない。 大切な名前を心の中で呟いて覚悟を決めると、降って来たのは額に柔らかい感触。 それだけで離れていってしまったロイに、ネコはもう何度目かわからない驚きを繰り返し味わった。 「これで等価。さ、受け取りたまえ」 再び差し出された紙幣に、ネコはもう一度大きく頭を振る。 「・・・キミ、もし私がキミを抱いたら、いくら受け取るつもりなんだい?」 そこでネコは、あっ!という表情を浮かべる。 決めていなかったのだろう、意外に抜けている金色のネコに、ロイは愛おしさを積もらせる。 「では、私が言い値で買っても、文句は無いだろう?」 だから、受け取れとロイは言うのだ。 明らかに先程よりも冷静さを失い戸惑っているネコは、でも。と目を彷徨わせる。 「あー・・・では・・・」 ロイはもう一度顔を寄せ、額、鼻先、頬へとキスを落としていく。 また強張ったネコにクスクスと笑いつつ、その額にコツリと額をあわせた。 小さな衝撃にネコが目を開くと、至近距離にあの綺麗な金色の瞳があり、妙な優越感に浸った。 「では、まずはキスから始めよう」 そう言い、ロイは。 まだ呆然としているネコのその唇に、自らのソレを重ねた。 とりあえずそれでネコを納得させ、添い寝をしつつ寝かしつけた。 朝食後、封筒にいれてやった『報酬』を差し出すと、まだ納得していなさげにネコは眉を寄せる。 「・・・ああ、ならもうふたつ願いを叶えてくれるかな?」 ロイが言うと、ネコはピンッと耳を立たせて頷く。 自分の等価とあっていないと思っているネコは、少しでも恩を返したいのだ。 「一つは、キミの名前を教えておくれ」 ニッコリと尋ねられ、そういえばとネコは思う。 そういえば、名前を言っては居なかった。 一晩限りの付き合いなのだから、そんなの必要ないだろうと思っていた事もあったのだが。 「・・・エドワード」 「エドワード」 何度もロイは口の中で呟き、再びエドワードに目を向けた。 「うん、とても素敵な名前だ」 言えば、エドワードは今まで見た中で最高に綺麗に笑った。 まるで、一番の自慢なんだと言いたげに。 その笑みを作っている唇に一度触れたくなり、それを心の中でのみに留まらせる。 「では、もう一つ。・・・また金が必要になったなら、私のところに来ておくれ」 それまで笑っていた彼の顔が、またキョンと言う表情になる。 「うーん・・・はっきり言ってだね、こうして内情を知っておきながら、キミが他のヒトに抱かれると言うのに抵抗があるのだよ。 キミがもし私のことを嫌ってはいないと言うのなら、ぜひ私のところへ来ておくれ?」 ・・・おかしなヒトだとエドワードは思う。 『最後』までしなかったくせに高額な金額をくれて、更にまた逢いたいと言う。 自分を抱かないくせに金を渡す。 それは、不謹慎ではあるがエドワードにしてみれば願ったり叶ったりな事だ。 だが、その戸惑いさえもロイはエドワードではなく自分の願いにしている。 一緒に居た時間は、一日にも満たない。 けれど、このヒトの傍にいるのはとても心地が良いとエドワードは感じていた。 「・・・名前・・・」 エドワードはロイの事を指差し、単語だけを口に出す。 そこでロイも、自分が名乗っていない事に気付いた。 「私はロイ。ロイ・マスタング。この街で一番大きな建物があるだろう?東方司令部の、大佐をしている」 「ロ、イ?」 「そう」 「・・・たいさ?」 「そうだ」 エドワードもしばらくその名を呟き、こくりと頷いた。 「たいさ、ところに・・・いく」 やくそく。と、拙い言葉で伝え、エドワードは封筒を胸にしっかりと抱きしめた。 ロイは安堵の溜め息をつき、ようやく顔の力を抜いて笑えた。 「さ、行きなさい」 ロイに促されると、エドワードはチラチラとロイを気にかけながらも去っていった。 「・・・また会える日を、楽しみにしているよ」 初めて『本気』になったから。 今は手放さなければいけないけれど、時が満ちたら。 「キミを、私のものに」 「アル!ウィンリィ!」 走って帰って来たエドワードにいち早く気付いたのは、弟のアルフォンスだ。 「兄さん!!」 だが、その表情は安堵と共に、とても戸惑った表情をしている。 「ほら、これでウィンリィの病気を治してやれるぞ!」 そう、エドワードが自分の身体を売ってでも欲しかった金で治したかった相手。 それは、弟と共にとても大切にしている自分の幼馴染みのウィンリィだった。 「―――――兄さん・・・兄さん・・・!」 だが、喜んでいるエドワードの言葉もそこそこに、アルフォンスは兄と同じ黒い耳と尻尾を垂れさせ、エドワードに抱きついた。 アルフォンスが言いたい事がわかって、エドワードは優しくその身体を抱きしめ、ポンポンと背中を撫でてやる。 「・・・アル、大丈夫。何にもされてないよ」 「えっ?!」 エドワードのその言葉に、アルフォンスは驚いて顔を上げる。 だが、兄は嘘をついている様子もなく、そうするともちろん疑問が浮かぶ。 「・・・え・・・?でも、なんで?」 弟の最もな質問にエドワードは、ん〜。と答えに考える素振りを見せ、 「・・・ヘンなヒトに、出遭ったからかな?」 「は?」 兄の言葉がわからず間抜けな声を出してしまうが、そんな事よりも!とエドワードはアルフォンスから離れた。 「これでウィンリィの病気が治せるかもしれない!ほら、早く行こうぜ!」 そう言い、エドワードは森の奥へと走って行ってしまう。 「あっ!もう兄さん!待ってってば!ねぇ、ヘンなヒトに会ったってどういう事ーッ?!」 アルフォンスも叫びながらエドワードを追いかける。 後ろからエドワードの背中を追いかけていた為、アルフォンスは気付けなかった。 上機嫌で幼馴染みの元へと駆けて行くその頬が、紅くなって居る事に。 それはなんでもない一日のはずだった。 だが、そのなんでもないはずの一日で、金色の彼に逢って、漆黒の彼に遭って。 そしてまたなんでもない一日が始まって。 けれど、なんでもあるエドワードとロイの一年が、そうやって始まっていったのだ。 コメント お題をやるなら絶対にこのお題!と決めていました(笑) そしてパラレルですみませ・・・!(土下座) 本当は最初、この設定じゃなかったのですが、急遽変更。変更前のは中途半端でよかったらまた載せます・・・。 ていうか、最初はどうしても設定を伝える為に物語が進みにくいので書くのに困難しました(汗) でもがんばっていきま〜す!! |