風の朝は早い。
陽が昇る前、目覚まし時計をかけていなくても決まった時間に目が覚める。
中国にいた時に行なっていた朝の鍛錬の癖が抜けないのだ。
屋台の準備は前日のうちにほとんど終わらせていて、することと言えば朝ごはんの仕度くらい。
それも簡単なものを作るだけなのでこんなに早く起きる必要は無い。
風が相変わらず早起きを続けている理由は、すぐ傍で寝ている少年にある。
ほの明るい部屋で、目を開ければ雲雀の寝顔が一番に映った。
すやすやと寝息を立てる姿は年相応に幼い。
悪戯をする訳ではく、ただその寝顔を夜明けまで眺めている。
(かわいいですねぇ)
頬が緩む。
起きている時の猫のような振る舞いも可愛いが、無心に眠る姿も可愛い。
「……ん…」
「おや」
雲雀は気配に敏い。
風の気配は読み辛いと言っていたが、やはり差異には気付いてしまうようだ。
うっすらと瞼が持ち上がった。
「すみません、起こしてしまいましたか?」
「ん…」
むずがるような声を出し、またうとと…と目を閉じる。
浅い眠りにあるのだろう。
すべすべの髪を撫ぜ、背中をリズミカルに叩いてあやす。
「まだ時間はありますよ。おやすみなさい」
しみこむような声で囁く。
半分眠った声で雲雀は頷くと、もぞもぞ動いて自分と風の間にある人一人分の隙間をうめた。
ぴとりと風に擦り寄ると、いい場所を探してまた動く。
「……」
幸せな気持ちで雲雀の額に唇を寄せた。
瞼は閉じたり開いたりを数ミリの間で繰り返し、覚醒しきらぬ意識で心地よいものを求める。
風が頬を寄せると、雲雀は自ら頬を擦り付けてきた。
雲雀の肌はすべすべで、起き抜けの身体はとても暖かく驚くほど気持ちいい。
それは雲雀も同じことで、猫の子ならゴロゴロと喉がなったかもしれない。
顔を段々と下げて鼻先を首筋に寄せた。
ふんふんと匂いをかいだと思ったら、筋肉の部分を甘噛みされる。
色気も何もない戯れは、ただ心地よいものを堪能しているのだ。
雲雀にとって自分が心地いいものならば、こんなに嬉しいことはない。
髪をまた撫でてやる。
「ぼくも…」
寝ぼけた声で言うと、風の背中に腕を回した。
抱きつくのが目的でなく、長い髪を触るために。
シーツの上に広がる髪を手探りで見つけ、指の間に絡める。
雲雀よりも柔らかくゆるくクセをもつ髪を何度も何度も梳いていく。
「ねぇ…」
「はい」
唇もいたずらをやめない。
首筋からまた伸び上がって、頬にキスをしたり唇を食んで舌で舐めたりを繰り返している。
普段風が雲雀にしていること。
幸か不幸か無意識に雲雀はそれを伝えている。
「僕がかみのけ結うからね…」
「ええ、お願いしますよ」
ちゅっと音を立てて風から雲雀の唇にすいつく。
薄く笑むと、雲雀の行動が段々鈍くなっていった。
「やはりもう少し寝ましょうか」
「ん…」
髪の毛を梳いて身動きが取れないくらいに抱きしめる。
嫌がるどころか雲雀も軋むほど風を抱きしめて、暖かい胸元に頬を寄せた。
心音に安心する。
掌には逃がさないとばかりに髪の毛を握り締めて、再び雲雀の意識は睡魔に支配された。
夜はまだ明けない。
可愛い寝顔の為に、恥ずかしさも遠慮もなく雲雀に甘えてもらう為に、風の早起きは明日も続く。