「ディーノ、あれが飲みたいです」
だんだん寒くなってきた中骸と歩いていると、突然そう言ってコーヒー屋のポップを指差した。
彼がそうして食べ物をねだることは珍しくもなく、ディーノはわかったと一つ頷くと、コーヒー屋へと足を向ける。
「ここで待ってますね」
「店の中じゃなくていいのか?結構寒いだろ?」
「ここでかまいません。ほら、早く」
急かされて、暖かい店内へ一人で入る。
人ごみが嫌いな骸はディーノに同伴せず、外で待つことが多い。
暑さも寒さもさほど得意ではない骸を外で長く待たせたくなくて、すぐにレジへと並ぶが、暖を求めてか店はなかなかに混雑している。
どうぞと渡されたメニューの中迷わずエスプレッソを選び、すぐに閉じてちらりと骸に視線を向ければ、彼は店の入り口の柱に寄りかかり、どこかを見ている。
そんな骸を見る、多数の視線。
明らかにそれらは色目であり、冷静さを置いてムッとしてしまう。
レジはようやく一組のカップルの注文を終えたばかり。
あと自分の前には三組もいる。
早く終われ。
少し苛立ってもう一度骸に目を向けると、何かに気付いたように彼もふとこちらを向いた。
目が合う。
ふわりと、骸が笑った。
ドキリとしながらも、ディーノもヘラリと笑って手を振る。
骸だって気付いてた。
ディーノに向けられる、多くの女性の視線を。

「ごめん!待たせた!」
長い五分を待ち、ようやくディーノは自動ドアをくぐって骸へと走りよった。
「いいですから、早く下さい」
急かされるが、別に不機嫌な様子ではない。
黒い手袋をはめた手に、カップを持たせる。
「気をつけろよ」
「その言葉はあなたにそっくりそのままお返ししますよ」
「ぐ…ッ」
本日何度も醜態を晒しているディーノは、反論の術がない。
ちぇ、と唇を突き出して、ミルクを入れたエスプレッソを取り出して飲もうとすると、くふふ、と隣から笑い声が聞こえた。
「ん?どうした?」
「いえ」
そう言いながら、まだ彼は笑っている。
視線は、コーヒーのカップに注がれていた。
ひどく上機嫌なその様子。
頬は、寒さか高揚か、赤い。
「これね、気になってたんですよ」
ほら、と見せられたのは、カップに記された二つのアルファベット。
「…なんだ、これ」
「メニューの略ですよ。混じらないように」
「ああ、なるほどな。…で、何でコレが気になってたんだ?」
「鈍いですねぇ、もう」
はぁ、と溜め息をつくくせに、上機嫌は崩れない。
そんなこと、予想済みだと言わんばかりの態度だ。
「ほら、DとMです」
「うん」
「あなたと僕のイニシャルじゃないですか」
「あ」
ぽかんとするディーノに、また骸は声を上げて笑った。
「今頃気付いたんですか?」
くふふふ、と笑いながら、骸は甘いモカに口をつける。
舌に残る、嫌味のないフルーツの甘さ。
「ね、だから飲んでみたかったんですよ」
にこりと骸が笑う。
そんなことで喜んでくれることが、ディーノは嬉しかった。
その赤面を隠すようにしてエスプレッソを一気飲みして舌を火傷し、骸に大笑いされるのは、五秒後。