ツナの気遣いか、珍しく骸が仕事としてキャバッローネを訪れた。
「骸っ。わりぃ!遅れ、……」
骸との約束の前にあった会議がおしてしまい、ヤキモキしながらこなした後、慌てて骸を待たせている客間へと向かってみれば、何とも珍しい光景に出会った。
大声を慌てて潜め、改めて近付く。
座り心地のいいカレイド生地のソファーにゆったりと座りこみ、骸はすやすやと眠っている。
普段から人の気配を察知しやすい骸が先程のディーノの声でも起きなかったところをみると、かなり眠りは深いようだ。
「……」
珍しい光景をもっと近くで見たくて、できるだけ、できるだけ音を立てないように書類をローテーブルに置き、その顔を覗きこむ。
いつのも皮肉めいた表情はなく、無防備な顔はまるで幼い。
(こうして見てっと、歳より全然ちっさく見えるな)
普段自分よりも優位に立った場所から、まるで見下だす態度をとる骸からは考えられない寝顔。
じぃ、と眺めていると、サラリと後ろからディーノの肌を風が撫ぜた。
ふと振り返ってみれば、テラスに続く窓は開けられており、風が新緑の薫りを運んできた。
「―――――」
思わず、眼を細める。
(…骸がねむっちまう訳だぜ)
寒くも暑くもない、ちょうどいい心地。
さらさらと耳を流れる葉のさざめきもまるで子守唄だ。
無意識に、ふ、と口元に笑顔が戻る。
そして、大きなあくびが出た。
骸が来ると知ってから今日一日、焦りやら緊張やらでずっと肩が張りっぱなしだったが、それが一気に緩んでしまった。
どうしようかな、と考えたのは一瞬で、静かに静かに骸の横に腰を下ろす。
軋み音は出ない。
ただ、どうしても重みの分ソファーは沈む。
近くに座った分骸の身体も傾いて、慌てる間もなくもたれかかってきた。
「!!」
骸の身体が密着したことに、更に慌て、心臓が鳴る。
けれど骸はまだ起きてなくて、相変わらずすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てていた。
ホッとして、妙に左側を意識しながら改めて身体の力を抜けば、一時忘れていた睡魔はあっという間に戻ってくる。
うとうとと瞼が重い。
(…どうせ骸が起きりゃ、起こしてくれんだろ…)
起こし方はきっと乱暴だろうけれど。
顔を真っ赤にして足蹴にする姿を思えば、なんだかどうでもよくなる。
新緑とは別の、甘い香り。
骸の髪に鼻をつけ、肺いっぱいにその匂いを吸い込む。
そこでディーノの意識もすこんとおちた。


一時間後、やはり足蹴にされ起こされたことに、ディーノは苦笑するしかなかった。
その顔が真っ赤だったことも、予想範囲内。