カポの一人が、若い女性を連れてやってきた。
見覚えがある、と思ったら、彼女はキャッバローネが贔屓にしている農家の娘だ。
聞けば彼女はフィアンセで、今夏結婚すると言う。
おめでとう、と言えば、二人は恥ずかしそうにしながらもはにかんで、幸せでたまらないと言うようだ。
「しっかし、いつの間になー。全然気付かなかったぜ」
「聞いてくださいな十代目。私、いつも野菜の受け渡しにこの人が出るもんだからてっきり担当しているのかと思ったら、わざわざ代わっていたって言うんですよ」
「へー」
やるなー。とニヤニヤ笑えば、若きカポは年相応に頬を染めて頭を掻いている。
「そういえば」
ふと思い出したようにフィアンセがパチンと手を叩き、純粋な興味の視線でディーノを見上げる。
「この人と会う時に、よく十代目のお屋敷に出入りしている人を見るのですが・・・あの人もキャバッローネの方?」
「俺の屋敷に?」
「ええ、時々。綺麗なんですけど・・・ちょっとクセのある髪型をしているから覚えてしまって・・・こう、このあたりに跳ねた髪が・・・」
「あー・・・」
骸だ。
一目見れば忘れないだろう独特の髪形。
わかったとくつくつ笑えば、フィアンセはことりと首をかしげた。
「あの方は十代目の部下の方?」
「うんにゃ」
「あら、ではお友達?」
「いやいや。あいつは―――」
言いかけたところで、ディーノは言葉を切った。いや、続かなかった。
説明が、できない。
「・・・十代目?」
「ボス?」
ピタリと止まってしまったディーノをきょとんと二人が見る。
結局、ディーノは骸との関係を言葉にはできなかった。


「て、聞かれたんだけどさ・・・俺たちの関係って、なに?」
妙に真剣に聞かれ、逆に骸はうんざりとした表情になる。
「な、なんだよその顔」
「いえ、馬鹿だなぁと思いまして」
「バ・・・!」
年下に明らかに馬鹿にされ、むむむと口をへの字に曲げる。
「だってそうでしょう?そんなの言葉にしてどうするんですか。貴方、自分の部下に言うんですか?」
「・・・・・・」
骸との関係を恥ずかしいと思ったことはない。
だが、男とセックスをしているという事実を部下に言うのは・・・さすがのディーノも思い浮かべて躊躇われた。
無言を否ととり、ほら。と骸は読みかけの文字をまた追い出す。
「どうせ言えるようなものではないのですから、いいじゃありませんか」
「だ、だってよ!」
話を聞けとばかりに両頬を挟まれて強引に視線を向けられる。
ムッとしつつもディーノを見れば、その必死さに怒りもどっかに行ってしまう。
「骸は気にならねぇのか?」
「別に」
「だってよ・・・俺も骸も――どうしなのに・・・付き合ってる訳じゃねぇんだぜ?」
好き、と言いかけ、察した骸に睨まれて慌ててその部分だけ言葉にはしなかった。
直前だがセーフだったらしく、骸は殴りもしなければ言葉の針を降らせもしない。
「ま、そうですね」
「だったら・・・なんだってーんだよ。友達ってのは、ヤだぞ」
「ではセフレとかですかね」
「む、くろ!!」
カッとして睨めば、骸はただひたすら静かな視線でディーノを見ている。
その、何の感情も映さないような瞳に、ディーノの怒りも吸い取られてしまう。
「だってそうじゃないですか。会えば必ずと言っていいほどセックスをしますし、愛を囁く訳でもない。ならばそう言う関係じゃないんですか?」
「お前が!・・・お前が言わせてくれねぇんだろうが!・・・俺は、ホントなら俺だって・・・!」
くしゃりとディーノの顔が歪む。
これ以上骸が何か言えば、泣き出してしまいそうだ。
息を吐き、先程ディーノがしたように頬をはさむ。
恐る恐ると、見てくる瞳。
「冗談ですよ」
ちゅ、と鼻の頭にキスをし、背伸びしてその頭を抱いてやる。
戸惑うように強張った後、結局ディーノの腕は骸の背中に回った。
「僕だって思ってませんよ。セフレだなんて」
「・・・じゃ、なんで・・・」
「言ってるでしょう、無理に言葉にするものではないと」
「――――」
「世間の言葉で表せる関係なら、僕はとっくに世間に戻ってます。あなたの望む言葉を僕は言わないし言わせない。だからそう言う関係にもなれない。かと言って友達でもセフレでもない。・・・結局貴方の望む言葉に当てはまることなんて、僕が相手の限り無理なんですよ」
「・・・・・・」
癖のある髪を撫ぜてやる。
「言葉にしたいのなら、別の相手を探しなさい」
胸が痛まない訳がなかった。
けれど、恋人と言う言葉に、夫婦と言う言葉に表せる相手を見つけて、彼が自分と言う呪縛から逃れられるというのなら、それなら・・・。
幼子のように、回る腕に力が篭った。
「――――」
口端を持ち上げて笑い、それでも眉は困ったように眉間に寄った。
この、情けない男が愛おしい。
言葉にできなくたって、その思いに偽りなんてないのに。
「・・・、ねぇディーノ。僕はね」
つむじにキスをすれば、清潔な匂いが鼻に届いた。
シャンプーと、彼の匂い。
顔を上げさせて、唇にキスをする。
驚いた顔に、微笑む。
「僕は、嫌いなやつとこういうことはしませんよ」
今度は、深く、キス。
捻りこむように舌を伸ばして、ディーノのと絡める。
驚いて縮こまった舌も、すぐに骸に絡んで深く繋がった。
「ふ、・・・ん・・・、」
濡れ音が部屋を支配する。
言葉になんて、しない。
軽く口にする言葉には、とてつもなく重い想いがかかっている。
わかっているから、口にしない。
させもしない。
「むくろ・・・」
だから伝われ。
言葉になんてしなくても、すべてすべてが伝わればいい。

言わないことで、伝わればいい。