※ヒバツナ+ディノ骸です。ヒバツナのちょこっとあやしい表現ありなのでご注意を。


偶然あってしまったのが運のつきだったのだ。
ボンゴレに立ち寄ったキャバッローネボスに頼まれ、骸はそのことを伝えにボスの部屋まで足を伸ばした。
「ボンゴレ、跳ね馬が―――」
「ん、…あ、ア…」
「―――」
ドアを開けた途端、一応上司の高い喘ぎ声が聞こえた。
仕立てのいいソファーの背凭れから片足が覗き、それが時々ピクピクと揺れる。
何をしているのです、と呆れて口を開こうとしたところで、雲雀が上半身を起こした。
特に驚いた様子も見せず、少し乱れた髪と呼吸のままちらりと骸を見やる。
「ひ、ば…ヒバリ、さん…?」
「なに、綱吉」
「い…ま、ンぅ…んか…音が…っあ、!」
ぐちゅりと卑猥な水音がし、ツナの足がビクリと跳ねた。
雲雀は、にぃ。と口端を持ち上げて骸に笑みを寄越すと、またソファーの向こう側に隠れてしまう。
「気のせいだよ。誰もいない。…大丈夫、見てるのは僕だけだから」
「ア!、ぁ、あ…バリ、さ…ッ」
ぬち、ぐちゅ、と音が強くなる。
ツナの足が、痙攣したように何度も何度も空を蹴る。
ヒクリと骸は、頬を引きつらせた。
目で、雲雀は、骸に、出てって。と伝えてきた。
「……」
バッチリ、見てくれようか。
あられもない姿を。
そう思ったものの、その後のことを思うと気が思い。
ツナのことだ、恥ずかしさで我を失って雲雀どころか骸まで攻撃してくるに決まっている。
派手に暴れれば今度は最強のアルコバレーノが現れて三人まとめて地獄のお仕置きコース。
任務帰りで戦う気が起きない骸は、仕方なくそのまま踵を返した。
バタン!と強く扉を締めたのはせめてもの仕返し。
けれど雲雀のことだ。
うまいことごまかし、ツナもごまかされてしまうのだろう。

「まったく…どうして僕が…」
機嫌は急降下だ。
苛立ちなど滅多に表情に出さないが、苛々が止まらない。止まらない。
(大体なんですか雲雀恭弥は節操がないですねあんなところでもし入ってきたのが獄寺隼人だったらどうするつもりだったんですかね見せ付けるつもりだったのかならばいっそのことアルコバレーノに見つかって蜂巣にされてしまえばいいのにやつならそんなことは―――)
「……」
ピタリと骸は足を止めた。
「………」
目元を紅くする。
なぜ、そこで跳ね馬のことをまず思い出すのだ。
いや、理由はわかっている。
身体を赦したのは後にも先にもヤツだけだ。
会うたび愛の言葉を囁き、キスをし、骸が頷けば身体も繋げる。
「―――、」
と、そこまで考えて『やつならそんなことは、』が段々あやしくなってきた。
確かに骸が、Si.と言った時にだけセックスをするが、はたしてそれはベッドの上ですむだろうか。
もしソファーで欲情したら彼は誘ってくるのではないか。
確かに自分が頷かなければいいだろう。
だが万が一彼が自分の返事を聞き入れなかったら?流されてしまったら?
(…ありえるかもしれない…)
うっかり肯定してしまうともう自身で否定が出来ず、ふつふつと怒りが込み上げてきた。
「本当にそんなことしたら…どうしてくれましょうかね…」
機嫌は急降下。
普段の冷静さを欠いている骸は、クフフフフ、と低い声で無理矢理笑った。

「うお?!」
バターン!と乱暴に扉を開けると、ソファーでビクリと金髪が跳ね、慌ててこちらを見た。
「む、骸か…あーびっくりした」
入ってきたのが骸だと知ると、ディーノは一気に安堵しソファーに再び深く腰掛ける。
「……」
むす、としたまま、近寄っていく。
「ツナは?」
「…ただいま取り込み中です」
「?…そっかー忙しいかー」
骸の言葉をさらっと天然で流しながら、自然な動作で骸が腰掛けるスペースをあける。
「……」
「ん?どした?座んねーのか?」
先程のことを思い出すと、どうも下心を感じて仕方がない。
「…結構です」
「?そっか…?」
そっけない態度はいつものことなので、ディーノは特に気にした様子も見せない。
…と言うか、あの様子では後一時間は待つに決まっているので、自分がここにいても仕方がないではないか。
(…帰りますか)
「では「あ、のさ!」」
躊躇いながら、ディーノが口を開いた。
やや上ずった声。
…緊張をしている?
何故。
「……」
ゆら、と、骸の中の猜疑心が持ち上がる。
(ここで誘ったりしたらぶっさしてやります)
「…なんですか?」
わざと、ゆったりとした口調で返してやると、ディーノはいくらかホッとした表情になり、それでもそわそわと落ち着かない様子でいる。
「あの、さ…!」
もう少しで骸の我慢の糸が切れるところで、意を決したようにディーノが顔を上げた。
骸も少し緊張し、ディーノを見る。
「手…握らしてくんね…?!」
間。
ディーノの言葉が何度も何度も頭の中をリフレインする。
…手?
……手??
「だ、ダメ、か…?」
骸が何度も何度もその意味を頭に沁み込ませるように繰り返していると、しゅんと頭を下げたディーノが深く溜め息をはいた。
「…わりぃ…迷惑だよな……ちっと最近いろいろゴタゴタがあって…ヘコんじまって…さー…」
悪い。と顔をあげ無理に笑うその顔面に思い切り靴底を押し当てた。
蹴る。
「いて?!」
驚くディーノを無視して、そのまま骸は何度も何度も足蹴にする。
「ちょ、ま!悪かった、悪かったって!ホンの出来心なんだって!!」
「バ…カじゃないですか…?!」
アホらしくて声が震える。
ディーノのまるで子供のようなお願いに。
まるで期待していたような自分の思考に。
顔が熱い。
「むくろ?」
どうした?と顔を上げようとするディーノの顔面を手で掴んで背凭れに押し当てた。
「いて!…わぁ!!」
そのまま、今度は振り下ろすように。
体勢も立て直せずディーノが衝撃を覚悟していると、予想外に暖かいものが横顔に当たった。
「へ?」
見ればそれはソファーの生地ではない。
なんだと思い視線を替えると、自分を見下げている骸が手の隙間から見えた。
…もしかして位置からしてこれは…
(…ひ、膝枕…?!)
「疲れているのなら、寝なさい」
「は?」
「ね・な・さ・い」
「いーてててて!!」
ぎりぎりと顔面を締められる。
骸の顔が赤い気がするが、気のせいだろうか。
「…疲れてる人間に冷たくするほど僕だって鬼じゃありません」
そっと手が離れ、目を覆われる。
手袋を外した手は骨ばっていて、少し硬く、けれど暖かい。
けれどそれが骸の手だというだけでどうしようもなく心が弾んで、じわりと込み上げてくる。
「…ツナ、が…」
「ボンゴレはどうせあと一時間は来ませんよ」
(どちらにしても、来ていることを伝えていないですから)
言えばまた起き上がってしまうのは目に見えていて、あえて骸は省く。
段々とディーノの頭が重くなっていき、手の中の瞼から力が抜けていく。
「…来たら、起こしてあげますから。…寝ていなさい」
「……ぁぁ…」
すぅ、と寝息を立て出す。
そっと手を外せば、すこやかな寝顔。
「………」
顔は未だ熱い。
火傷を負ってしまったように。
(莫迦か僕は…)
いや、莫迦だ。
心底そう思い、自己嫌悪する。
やらしいことをしたいのは、まるで自分のようではないか。
あんなに、ディーノの言動全てをそんなふうに考えてしまうだなんて。
「…いえ、しかし。ヘタレにもほどがあります」
やはり、あなたが悪い。
まさに無実の罪。
押し付けて、骸は、きゅ。とディーノの鼻を塞いだ。
「……んー…」
呼吸を遮られ、ディーノは眉を寄せて寝返りを打つ。
腰に腕が回り、きゅうと抱きつかれる。
顔が下腹に埋められ、熱い呼吸が何度も何度も吹きかけられる。
「…ホントに、むかつきますね…」
かぁ。と耳と首筋まで赤く染める。
不埒なことを考えているのは自分だけだと思い知らされる。

そんな行動をとるディーノからは、やはりいやらしさは微塵も感じられなかった。