梅の咲き初めの頃、二度目の恋をした。
初恋と同じ人を、もう一度好きになりました。


ファミリーか、僕一人か。
僕を選ぶのならば、僕も復讐を捨てます。
(なんて卑怯だろう)
ディーノにばかり選ばせて。
罪悪感を背負わせて。
彼の選ぶ方なんて決まっているのに、それに淡い期待を混ぜてしまうなんて。
(なんて、愚か)
手を引っ張って歩くディーノの後ろ頭を見る。
彼が来てから僕の夢に光が差した。
その光をキラキラとはじいて、ああやっぱりとても綺麗。
あったかくなってきたな、と貴方が言う。
暖かいのは季節のせいじゃないのに。
この夢に光と、ぬくもりを与えてくれたのは貴方なんですよ。
言ったって、何の意味もなさない言葉。
(―――貴方と居たいと伝えたのなら、僕を選んでくれるのだろうか)
ふいに思いついた言葉にドキリとした。そして、絶望する。
もう、遅い。
曖昧だけれど幸せな時間は、もうとうに通り過ぎたのだから。
ぼんやりしていると、いつの間にかディーノが立ち止まったらしい。僕の方が先に進んでいた。
「…?」
訝しんで振り返り、すぐに後悔した。
(覚悟なんて、出来てるはずだったのに)
彼の静かな表情に、終わりがついに来たと知ると、途端血が全部流れていくような感じがして、嫌だと喚き散らかしそうになる。
沈黙。それから、ずっと握ってくれていた掌がゆっくり、ゆっくりと開いた。
ひやり、ぬくもりが醒める。
醒める――冷めた掌が、どれだけディーノに傾倒していたかを思い知らす。
名残惜しくて、大きくて暖かい掌の上で自分の手を握り締め、もう一度だけ重ねた。
(これで、最後だ)
言い聞かすように。
ディーノを見る。
すぐに、逸らして、踵を返す。
(そんな泣きそうな笑顔、見せないで)
掌が離れて、指が擦れ合う。
もう少し、もう少しだけ。
たん。ピアノを弾くように指先すらも離れて、俯いていた顔を上げてただ前を見て歩いていく。
プライドを奮い立たせなければ、今すぐ振り返って、駆け出して、抱きついてしまいそう。
情けない姿を見せず、彼が好きだと言ってくれた僕のまま別れたくて必死に足を動かす。
(そのまま、離れていってください)
出会わなければ、あんな表情(かお)させずにすんだのに。
花びらと一緒に、水が一粒滴った。
それでも彼はきっとまた恋をして、幸せになるだろう。
(そんなのは、みたくない)
「僕は貴方以外、もう恋なんてしませんよ」
言ってみたい。
言ってみたかった。
「恋なんて、もうできない」
声にしたって、風に攫われてディーノに届きはしない。
「…大好きでしたよ」
最初で最後の告白は、いづれはしたい過去形。


薄紅色の花びらが降ってくる。
春の終わりに、一生の恋も枯れ尽いた。