自分がまるで、鉄のようだということを、雲雀はよくわかっている。
熱しやすく冷めやすい。
気に入った獲物を見つければ咬み殺すまで熱中するが、咬み殺した後はまるで興味をしめさない。
終われば、終わる。
感情が急速に冷える。
よくわかっている。
だから初めて恋というものを知った時、ああ、これもそうなのだろうと思った。
沢田綱吉はひどく興味をそそる。
恋に変わる前からその感情はくすぶっていて、自覚した途端にどろりと溶けるくらいに熱しだした。
彼の、自分を見る目にも気付いていた。
自分が彼に向けるのと同じ感情。
まるで隠す事を知らないように、けれどひっそりと見つめている事を知っている。
自分が、本能に正直なことも知っている。
彼と同じ感情を持っているのに、どうして抑えられるのだろう。
告白は、自分から。
きょとんと見上げた顔が、みるみる間にくしゃりと歪んで、まるで泣きそうだった。
そして結局彼は、泣いた。
泣きながら笑って、はい。と、頷いた。
ああ、かわいそうに。
好きの言葉を受け取った途端、彼の恋は終わってしまった。
手に入ったものはいつもいらない。
そこでポイと捨ててしまう。
いつだって自分はそう。
かわいそうに。
本能に従順なばかりに、彼を傷つけることを自分は選び取ったのだ。

かわいそうに。
その一瞬で終わってしまった恋。


かわいそうに。
ポイ、と捨ててしまう。

はず、だったのに。



暗いと思っていた室内は、意外にもぼんやりとした光に包まれていた。
日の出間際。
いつのまにか開いていた目。
しかし覚醒にはまだ程遠く、雲雀は夢の思考をそのまま味わっている。
(…終わると、思ってたのに)
ん、と腕の中で小さな声が聞こえる。
見れば、彼がいた。
十年の歳月を共に重ねた彼がいる。
(…終わらなかった、な…)
くぅくぅと寄り添って眠る彼の姿は、二十歳をとっくに超えた大人には見えない。
幼い寝顔。
(…よだれたれそう…)
嫌悪など少しもわかず、けれど垂れる前に口端の潤むたゆみをぺろりと舐めた。
口元がむずがり、なんだか可愛いその姿にきゅんとなる。
(不思議)
どうして、の疑問が解けないくせに、想いばかりが降ってくる。積もるばかり。
愛しい存在を、苦しくない程度にぎゅうと抱きしめる。
二人の間の空気が、また薄くなった。
(この子は、不思議)
どんどん好きが降ってくる。何かのカタチになっていく。
恋のカタチなんて、完成したと思ってたのに。
冷めていく筈じゃあないの?
なのにそのカタチの上には、絶えずキラキラ、ふあふあ、さらさら、どんどん好き、が降ってくる。
積もっていく。
一年、一月、一日、一時間、一秒、一瞬。
絶えず彼を好きになる。
ふいに見せる表情が愛おしくて、ふとトーンの変わる声にたまらなくなって。
ひばりさん、と呼ぶ声は何度呼んだとしても、その、ひばりさん、は一回だけ。
耳に残って、なのにまた聞くひばりさん、は、新しい。
つなよし、と呼ぶ声もまた、そう。
気付いた時、胸がはじけた。
鳳仙花のようにはじけて、一度だってその、ひばりさん、を聞き逃さないようにしなければと密かに心に決めた。
じわりと込み上げる。
涙かもしれない。
想いかもしれない。
でもきっと両方で、すべてだ。
「…つなよし…」
掠れた声。
込み上げてくるのは、新しい、好き。
冷める筈じゃ、なかったの?
だって自分は鉄の性質で。
変化したのかといろいろ気になるやつを咬み殺したけれど、やはり自分は鉄だった。
じゃあ、どうして。
「つなよし」
呼んでいるのが自分の声だと気付き、夢からだんだん朝へと意識が戻っていく。
醒めて行く。
忘れていく。
溢れ出す想いだけが、雲雀を占めた。
「綱吉」
たまらず唇に唇を落とす。
暖かい身体。
濡れる唇。
やがて、とろりと溶けたキャラメルのような瞳が雲雀を映した。
彼はまだ、意識の半分以上が夢世界。
それでも唇に感じるのが、雲雀の唇だと言うのはもう本能に近い感覚でわかっている。
だから綱吉は、ようやく半分起きた頭で、ふありと笑った。
「ひばりさん」
耳に届く声に喉の奥がゴツンと痛む。
ジワリと目元が熱くなって、泣きそうになる。
けれど泣くなんてみっともないから、そのまま綱吉の目を掌で塞いでしまって、深く、口を重ねた。


こんなきれいなかんじょう、彼にしか、降りやしない。