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marshmallow―kiss. ふわりと触れたそれに思い浮かべた。 それは自分が生きてきたまだ短い人生の中で、一番柔らかく甘いソレと似ていた。 神田が日本から黒の教団へ連れてこられたのが、まだ幼い、九歳の時だった。 それでも人一倍自我やプライドの強かった神田は、ストライキ同然に教団、と言うか洋物に馴染もうとはしなかった。 そんな神田が初めて洋物に手をつけたのが、お菓子(三食事はジェリーが和食を用意してくれた)のマシュマロだ。 まだその時は甘いものもOKで、子供らしい子供らしさが残っていた。 日本では、和菓子にはないようなそのふわふわさは、幼い神田を虜にした。 「ユウはホントにマシュマロ好きなー」 そう言って自分の前に現れたのは、同い年のラビ。 今ココに居る神田と同じくらいの年の子は、ラビとリナリーだ。 リナリーはコムイの後をとことこつけていく、いわゆる『無害』だが(この時はまだ無害だった)ラビは何かにつけて神田にチョッカイを出してくる、ムカツクやつなのだ。 ふん、と鼻を鳴らし、ジェリーが作ってくれたマシュマロを持ってラビから離れようとする。 「あーユ〜ウ〜。どこ行くんさ〜」 ラビに名前を教えたのは大失敗だった。 だが、未熟とは言え記憶力に秀でているラビから、しかも毎日数十回、数百回とその口から出ている言葉を記憶から消すのは不可能に等しい。 (頭ぶん殴って記憶喪失にでもしてやろうか・・・) さすがに犯罪者にはなりたくないので、故意にそんなことはしないが。 それに、最近ようやくもらせてもらえるようになった六幻に、そんなキズはつけたくない。 するのならコムイに任せる。 と言うのは置いておいて、雛鳥よろしく神田の後をついていくラビ。 ウザイことこの上ない。 「ついてくんな!」 「いーじゃーん。減るもんじゃなし〜」 減るわ!と心の中で叫び、マシュマロの入った袋をぎゅうっと抱きしめ、ダッシュをかけた。 「あッ!」 力重視のラビには、スピード重視の神田には足では勝てない。 不意打ちなら尚更だ。 神田は全速力で自分の部屋までダッシュし、部屋に入って鍵をかけた。 「馬鹿兎め・・・」 「ユウよりは頭良いさ〜」 「!!!」 びくぅっと思いっきり肩を跳ねさせた振動でマシュマロの袋を落としかけてしまった神田は、その袋を慌ててぎゅうっと抱きしめ、くるりと後ろを振り向いた。 「なっ!」 ベッドの上に居るのは、先程撒いた筈のラビ。 撒いた、はずなのに! 「オレってばユウよりもここの建物の構造詳しいんさ〜頭良いから☆」 神田の考えている事を読んだ様な、その上更に小莫迦にしたようないいっぷりに、神田はむぅと頬を膨らませる。 その膨れっ面がまた可愛らしくて、ラビの『好きな子ほど虐めたい☆』心に拍車をかけていることにはもちろん気付かない。 神田にはそのつもりは無いかもしれない・・・いや断言してそんなつもりは無いが、そこらの女の子より可愛いので、思わずラビもチョッカイを出してしまうのだ。 「な〜ユウ〜?」 「ンだよ・・・」 神田ももうラビの神出鬼没としつこさはうんざりするくらいに理解しているので、ぐったりとベッドに腰掛けた。 太陽の匂いのする布団も好きだが、最近ではようやくこのふわふわのベッドも気に入ってきている。 「ちょーこっち寄って」 「・・・・・・?」 だが、素直と言うか学習能力がやや低めの神田は、ついついラビの言葉に従ってしまう。 きゅうっと袋を抱きしめたまま、上半身をラビの方へ少し寄せた。 ラビもうつ伏せの体制から四つん這いに起き上がり、神田の方へ顔を寄せた。 まるで、内緒話をするようなイタズラを含めた笑み。 ちゅ。 触れたのは一瞬だけ。 それでも確実に触れた一瞬。 唇と唇の、キス。 怒るだろうなー。 いかりまくるだろうなー。 そう思って、殴られる事も覚悟したイタズラ。 イタズラ、と言うにはコイゴコロが含めすぎているものだが。 それでも触れた唇は、想像以上にふわふわで、暖かく甘かった。 それを味わえただけで満足。 ゲンコツなんてバッチコーイと覚悟した。 のに。 ふと神田を見れば、きょとんと猫だましを食らった仔猫の様に目をまるくしている。 「え、えーっと?」 そんな神田の予想外の反応に驚いたのは、ラビ。 「えっとユウさーん?」 だが神田はコトリと小首をかしげ、ラビを見ている。 「なんだ、今の」 「な、なにって・・・言われてもなー」 キス、を語るにはまだラビも幼すぎる。 ちゅーと言うのはもう幼年期は過ぎており、キス、とド真面目に言うにはまだラビの心が成長しきっていない。 神田は顔を紅くしてなかなか答えてくれないラビに、むぅと眉を寄せ、そっとラビが先程一瞬だけ触れた唇に指で触れる。 「マシュマロっぽかった」 「は?」 何度も繰り返し聞かれる事を好まない神田は、先程とは違う意味で眉を顰めた。 「だから、マシュマロだ!」 げしりとラビを足蹴にする。 避け損ねたラビは真正面からその蹴りを受けてしまい、『あだっ』と情けない声を出している。 「ま、マシュマロって・・・オレからしたら、ユウのくちの方がマシュマロさー」 「・・・俺?」 また神田は、キョトンとした表情になる。 その顔は、本当に仔猫のようで、密かにラビのお気に入りだ。 「俺の口はうまいのか?」 「いやいやいやいや・・・ちがー・・・うとも言えないけど」 「・・・どっちだよ・・・」 そして少しばかり天然だ。 そんなところももちろん可愛らしいのだが。 と言うか子供っぽくっていい。 うーんとラビが考えていると、神田がマシュマロの袋を横に置き、ラビの襟をグイッと自分の方へ引っ張った。 「へ?」 次にきた感触は、先程のあの感触。 先程と違い目を開いたままだったので、神田の冬の夜空のような黒い瞳と本当に近くで視線が克ち合う。 それは先程のラビのようにすぐには離れていかず、近距離で何度も何度も優しく押し付けてくる。 そして最後に、ぺろりとラビの唇を舐めて離れていった。 「・・・甘くない・・・」 「か、菓子じゃねぇからなー・・・」 素っ頓狂な神田の感想に、これまた素っ頓狂な答えを返してしまう。 要するに頭が混乱している。 「でも、やっぱりラビの口はマシュマロだ」 そうして、ひどく気に入ったのだろう、神田は先程のようにラビの襟を掴んで顔を寄せていった。 今度は、目を閉じて。 ラビもそんな据え膳を食わないはずもなく、されるがままに流されている。 まさか神田が九歳で『キス』を知らないのは嬉しい誤算だった。 (役得さ〜) □■□ 「あン時はホンット役得と思ったさね〜」 でれりと鼻の下を伸ばしたラビに、神田は紅い顔で蹴りを繰り出す。 それは昔よりもずっと鋭く威力のあるモノだが、ラビも慣れたものでひょいとそれをかわす。 「てっめーがあんなことしなきゃ、あんな恥ずかしい思いしなくて済んだんだよ!!」 恥ずかしい思い、と言うのはもちろん、キスの意味を知った時のことだ。 繰り返し言うが、その時から神田はもうかなりの矜持を持っていたので、それを知ったときにはもうなんと恥ずかしかったことか。 「思い出すだけでも腹が立つ!!大体、なんで嫌味のようにマシュマロ持ってきてんだよ!」 「えー?だってユウはマシュマロ大好きさ?」 「好きじゃねェよ今は!」 誰かのせいで!と、ケッと吐き出すように神田は怒鳴る。 「どうせモヤシかコムイあたりが持ってんの見て思い出して嫌味ついでに持ってきたんだろう」 うわぁ当たりーと、声に出したら六幻を持ってこられること大決定なので心の中で留めておいた(賢い選択) ラビは椅子から腰を上げ、ベッドに腰掛けている神田に覆い被さるようにし、その無防備な唇に触れるだけのキスを贈る。 「・・・今はもう、マシュマロは嫌いさ?」 にーっこりと。 そんなはずないと知っているような口ぶりにむかついて、でも嘘のつけない神田はほんのりと耳を紅く染め、ソッポを向いた。 「・・・甘いのは、嫌いだ」 「じゃ、甘くない方と言う事で」 ニヤリと笑い、もう一度ラビは神田にキスを贈った。 拒まなかったところを見ると、まだ『甘くないマシュマロ』のキスは、お気に入りらしい。 触れるその柔らかさは、味には感じない心におとすじんわりとした甘さ。 ふれたそれに覚えたのは更なる愛おしさ。 甘くは無いけどどこまでも柔らかい。 そんなキミの、自分の。 marshmallow-kiss. コメント 甘・・・ッ(いつものことですよー) いやしかし暗いラビューが(何故か)多いこのサイトで、ラビの扱いがかわいそうになっている(何故か)このサイトで、 ここまで甘いのは久々かと!(・・・) コンセプトは『キス地獄』・・・じゃなかった、ちゅーなラビュー。 神アレじゃ絶対かけないなーこのネタ(笑) 現代の神田では痛いものがあるので、幼い神田で! こんなんでよろしいでしょうか・・・?(ドキドキ) |