『なぁ』

聞いたのは、自分の方。

『ユウは』

ただ、聞きたかったのは、その言葉を聞いての自分の安寧。

【死にたくない】? それとも、【死ねない】?


だから


「じゃあ、お前はどうなんだよ」

逆に聞かれた言葉に、自分も答えられなかった。


そうして命に終わりを告げる


神田の部屋には、私物と言っていいものは、あまりに少ない。
例えば机も、ベッドも、壁掛けも、ラグも。
それらは教団からの支給品であり、別段神田が持ち込んだ訳ではない。
神田のもの、と言えるべきものは、櫛や石鹸や、要するに生活必需品。
そんなもの。
【そんなもの】の、中に、どうしても見逃せないものが、本当に、一つだけ、
・・・――――――ある。


だから、その『私物』を久しぶりに見た時に、血の気が引いた。
それと同時に、自分の、良すぎる記憶力を呪った。
・・・いや、記憶力が普通だったとしても、気付いただろう。
だって、それは神田の『私物』なのだから。
それは、咲き誇る蓮の花。
凛としたソレは、花びらの先までシャンとしており、まさに神田そのままだ。
けれどソレは、できれば存在して欲しくないもの。
見てしまった、ソレ。
サアァ・・・と言う、遠くから聞こえる音は、神田が浴びているシャワーの水音。
その音はまるで、自分の血の気の音そのもの。
落ちている花弁が、水槽のそこにある。

・・・・・・さんまい。

まるでしおれることも無く、ただ『落ちて』しまった花びら。
それは、とても不吉なこと。
だって、それは・・・・・・。
カシャン
小さな金音が耳に届き、ラビは我に返った。
そして、その花の前からベッドへ移動し、その辺に置いておいた本の適当なページを開いた。
「おい」
聞こえる、神田の不機嫌そうな声。
見れば、下に黒いボトムのズボンをはいているが、上はシャツすら羽織ってはいない。
「やほーユウ」
にこーと、先程の事を隠して笑う。
神田は更に眉に皺を寄せ、肩にかけてあるタオルで長く艶やかな髪を乾かす。
「ンだよ。なんか用か」
「えー?別に用はないさー。ただユウに会いたかっただ・けv」
「去れ」
だが、神田はそれだけしか言わずにラビの横に腰を降ろした。
それだけ、と言うことは、本心から思っていないこと。
そのことに、嬉しく思う。
まだ乾かしている神田の手からタオルを取り、その肩口に額を乗せる。
おい、と、神田から抗議の声が上がるが、それを無視して肌に唇を寄せ、軽く、吸い付いた。
風呂から上がりたての身体からは、やや高めの体温と、石鹸の良い匂いが鼻に届く。
ちゅ、と音を立て、肌に吸い付く。
「この、・・・ラビっ」
風呂から上がり、さっぱりしたところにラビに懐かれ、神田は半ば本気で抵抗をしようとする。
だが、こと情事に関しては、年齢が同じならば経験の功と言うやつで、神田がラビに勝てたためしはない。
・・・悔しいことに。
「・・・っ」
じたじたと暴れる神田の局部を掴み、掌で揉むように掴んでやると、く、と神田が短い声を漏らした。
唇を、頬に寄せる。
暖かい、体温。
身体をベッドに横たえ、額と、口の端にもキスを送ってから、唇へ。
ん、と、神田の口から吐息のような声が漏れる。
最中、神田は頑として声を出そうとしない。
ラビとしては少しだけ不満でもあるが、我慢している神田の顔が色っぽいし、堪えている中でもどうしても出てしまう声が好きだ。
口を犯している間にも、ラビは神田を攻める手を止めない。
暖かい体温。
安心する。


それは一時の安寧の為の行為。

□■□

肩で神田が呼吸をしている。
ふ、とラビも息を整え、神田の背中を擦ってやる。
「おーい。だいじょぶかーユウー」
「て・・・め・・・ッ」
ギッと神田が睨んでくるが、潤んだ瞳に上気した頬、下半身は白濁の液まみれ、と言う恰好では、怖くも何ともない。
「やーん。だってユウってば、風呂上りでセクシーでさ〜」
「いっぺん・・・死んでこい・・・っ」
神田の暴言は照れ隠しだとわかっているので、ラビはへへ、と笑って神田の背中に抱きついた。
薄い肉付き。
それでもやはり鍛えてあるので、柔らかくは無く、筋肉の硬さが伝わってくる。
それは神田も同じだろう。
背中に続く首の終わりの背骨の出っ張りに、唇を寄せる。
ぬくもりが伝わり、ホッとする。
これは無くしてはいけないものだ。
これが亡くなってはいけないのだ。
「・・・ユウ、はさ」
言葉が口をつく。
どんなにどんなに傍に居ても、不安が消えない。
離れている時は、尚。
ぬくもりを確かめて未だ、安堵はしても安心ができない。
「【死にたくない】? それとも、【死ねない】?」
ひくりと神田の身体が、先程の情事の時とは違う意味で、ヒクリと跳ねた。
そして、素早くラビから身体を起こすと、呆気にとられているラビの身体を思い切り足蹴した。
油断しまくっていたラビは、そのまま踏ん張ることも出来ずに背中からベッドの下に落ちてしまう。
どだん、と重い音がしたあと、ラビは頭を擦りながらもう一度ベッドへ戻ろうとする。
「いってー・・・何すんだよユウ・・・ってアダッ!」
だが、そんなラビを神田はもう一蹴り。
いきなりの神田の暴行は慣れているものの、顎への一発はキク。
だがそんなラビよりもずっと、神田の方がつらそうな表情をしていた。
「じゃあ、お前はどうなんだよ」
「――――――――――」
「じゃあ、お前はどうなんだっつーんだよ」
逆に聞かれてしまった言葉に、ラビは言葉に詰まる。
こんな事態は、想像していなかった。
聞いたことは本心でも、聞く姿勢はおふざけそのものだったはずなのに。
苛烈に怒るこの神田の表情はなんだろう。
「お前、俺をバカにしてんのか?」
「は?いや!バカになんてしてねぇよ!」
焦ってラビは神田に弁解を諮る。
「じゃ、何でンなコト聞くンだよ!ぶわぁっかじゃねぇの?!」
ケッと神田ははき捨てる。
神田は先程髪を乾かしていたタオルでざっと下腹部の汚れをとると、パンツとズボンをはいた。
「出てけ。俺は風呂を浴びんだ」
そう言い、スタスタとラビの前を通り過ぎようとする。
「だって!」
切羽詰った声。
普段のラビからは想像もつかないくらいに枯れた声に、神田はその足を止めた。
「お前!あの花・・・ッ!」
「・・・・・・」
神田は、ラビを振り返らない。
「オレはお前を喪うのは厭だ!あげれンなら、オレの命だってやるさ!けど―――――」

ゲシッ

話しの途中で、神田の足裏がラビの顔面にヒットした。
ラビは再度、眼をパチクリさせる。
神田はと言うと、いつものように眉を寄せ、不愉快を露わにしている。
「アホらし」
「ッ・・・オレは真面目な話しを・・・!」
「だから、それがアホらしいッつってんだよ!」
もう一度神田の足がラビを狙うが、さすがにこれはラビも防いだ。
「お前、俺を何だと思ってんだ!」
「それは、」
「エクソシストだ!!」
「――――――――」
言われた言葉に、ラビはハッとする。
「命かけて戦ってんだよ、俺は。ファインダーの奴等も、他のエクソシストも」
「ッ」
「いつ死んでもおかしくない命だ。戦争を、してんだ!俺らは!!」
神田の怒鳴り声に、ラビは言葉を詰める。
「死にたくない?死ねない?それを決めんのは俺の意思じゃねェ!運と力だ!!」
「そ、れは・・・ッ」
神田は、未だラビにつかまれている足を横に振るいラビの手から逃れる。
「お前が先に死ぬかもしれない。そう言う世界で生きてるのが、テメェはわかんねえのかよ」
「わかってる・・・」
「いや、わかっちゃいねェ」
「わかってるさ!!」
「わかってねェよ!俺の、」
そこで、神田は一息置いた。
そして、幾分落ち着いた声と表情で、ラビを見据える。
「俺の、この能力は、俺を生かすのだ」
「――――――」
再度、ラビは息を詰まらせる。
「ずっと、何度も。俺は死んでもいいくらいの怪我を負ってきた。ラビ、お前よりずっと、ずっとだ」
その突進力は、神田のこの能力のせいでもある。
だが、そこでラビに言えばまためんどくさくなるので、神田は割合する。
・・・ここが神田の悪い癖でもあるのだが。
「でも俺が死んでないのは、この能力のお陰だ。わかるか?俺は命を削られてんじゃねェ。命を、もらってんだ」
それがいつ、自分に跳ね返るかはわからないが。
・・・それでも。
「俺は、生きるんだ。死ぬことなんざ、考えてない」
考えられない。
自分は生きて、やらなければならないことがあるんだから。
「俺は、お前の命なんていらない」
そう言う神田に、ラビはもう一つの失言に気付く。
記憶が良くても、そう言って神田が嫌がると知っているのに、どうしてその言葉を言ってしまうのだろう。
あんなに、傷つけてしまうのに。
「・・・ごめん」
一言謝ると、また神田から蹴りが飛んできた。
避けようと思えば避けれたが、あえてラビはそれを受けた。
神田もそれほど力を篭めた訳ではなかったので、痛くは無かった。
「俺は生きるんだ」
そうして、その向こうにある世界を見るのだ。
・・・見るのだ。
「・・・・・・もっと、判れ。阿呆」
もう一瞥すると、神田は踵を返してバスルームへと向かった。

やがて聞こえてくる水音。
その音を聞き、ラビはあぐらをかいたその状態から、横へばたりと倒れこんだ。
引きつる呼吸が収まらない。
ラビは、腕で顔を覆い隠した。
「・・・ッ」
それは段々と嗚咽に変わり、鼻筋を通って涙が流れる。
暖かい涙の後は、一瞬後には熱を失い、冷たさが残る。
その冷たさを塗りつぶすように、また一筋流れていく。

生きる為の手段。
その為に縮められる寿命。
受け入れている神田。
未だ受け入れられぬ、自分。

生きる為の手段。

その『手段』が尽きた時。
・・・神田は躊躇いもなく・・・



そうして命に終わりを告げる。




☆END☆


コメント

タイトルにこれを付けたいがために作った話しです。
・・・構成していく順序がバラバラなのもいいところだ・・・(ガクリ)
よく、他の小説サイトさんを回っていると、死なない、とかアレンに(本命神アレなので)言っているのを見るのですが、
いつ死ぬかわからないし、(私の書く神田は)そんな一時凌ぎはしなさそうだなぁと思いまして。
神アレならまだしも、ラビューの場合厳しいですから、神田(笑)
しかし、私がラビューを書くと、どうしてもラビが弱くなります。ヘタレに・・・。
そして神田が強い。って言うか強すぎ。
たまにはラビに振り回されっぱなしの神田とか書いてみたいなー。