キミと奏でるエチュードを


「あら」
回廊を歩いていたリナリーは、ぼけーっと窓から空を見ているのか見てないのか判らない、明るいオレンジ色をした髪の少年を見つけ顔を綻ばせた。
「ラビ」
「おうリナリー」
リナリーが声をかけると、先程までの魂の抜けた表情に少しだけ生気を宿らせ、ニコリと笑ってくれた。
「どうしたの・・・ってゴメン、わかったわ」
聞いたあとで、そこが神田の部屋の前だと言うことに気付いた。
「なに〜?また怒らせたの〜?」
苦笑しながら聞くと、向こうも苦笑しながら、まぁねと答える。
「ちょーっとさ〜おふざけが過ぎちゃったみたいでさー・・・ゲンコ喰らった」
どうやらリナリーはこれから食堂に向かうらしく、ラビもお供させてもらう。
ラビのしつこいくらいの神田への想いを知っているので、リナリーはラビのその懲りと言うものを知らない根性に溜め息が出てしまう。
「ラビも懲りないわねー」
そう言いながら、食堂に入る。
神田一番のラビだが、基本的にはフェミニスト。
リナリーを先に席に座らせ、ラビは自分とリナリーの分を持ってきてくれる。
「おっ待た〜」
「ありがと」
自分にはハンバーグセット、リナリーには頼まれていた五目チャーハンを渡す。
しばらく途切れていた話題は、何とはなしに引きづり出させた。
「でもさー最近ちょっとさすがに不安になってきたさー・・・オレってユウに愛されてんのかなーって」
ラビでも不安になるんだ。
なんて内心でちょっと失礼なことを思ってしまう。
と言うか、こんなふうに沈んでしまっているラビを見ることはそうはない。
いつだって飄々としており、リナリーの知る限りラビは、元帥クラスを抜かして一番内心の考えが読めない人物なのだ。
この場合コムイは、腐っても兄、と言うことで除外されるらしい。
とは言え、ラビのしつこい性格を知ってはいるが神田の、照れ隠しと言ってもあの態度はちょっと酷い。
うーんとリナリーはレンゲの端を少し加えて考える。
「ねぇラビ?」
そして唐突に、先程の事を思い出して沈んでいるラビに話し掛けた。
ん?とラビは顔を上げる。
「もう、諦めたら?」

□■□

ようやく怒りの熱が冷めたのは、翌日。
と言うか、ラビ相手に怒りを持続させてもただ体力と精神力を消耗するだけなので、ラビに限り怒るのはその場限りだ。
向こうも向こうで、何事も無かったように近付いてくるから。
だから、任務がある時以外毎日自分を朝迎えに来てくれていたラビが来なかったときには、少しだけやりすぎたかと罪悪感を感じた。
任務がない時以外は、特に意識して時計を仕掛けようとは思わないため、大体はラビに頼って起きている。
そのため、今日は少々寝過ごした。
コツコツとブーツを鳴らして回廊を歩いていると、向こうから見慣れた姿の青年が見えた。
少しだけドキドキして、抱き付かれそうになった時の為に少しだけ身構える。
だが。

コツ コツ コツ・・・

「―――――――――」
足音が聞こえなくなるまでその場に呆然とし、慌ててて振り向くがすでにラビの姿は視界にはなく。
・・・無視された。
しかも、目すら合わされず。
そこまで考えて、ムカムカがぶり返す。
だからなんだ、ラビのくせに。
そんなことを考えつつも、心のどこかで『気のせい』と自分をごまかしてしまいつつ。
だがもちろん、それが気のせいのはずが無かったが。

「・・・・・・」
ここ、二日間。
まともにラビの顔すらまともに見ていない。
となれば、会話は皆無だ。
苛々が普段の数倍増しの神田に、コムイすら声をかけるのを躊躇ってしまう。
自分がなぜこんなに苛々しているのかもわからない神田は、それで余計自分の内心を煽ってしまうのだ。
そして、最近良く見るようになった光景。
不意に外に眼を向けてみると、図ったようにいる、ラビと・・・リナリー。
最近良く見るようになった光景。
それは、ラビとリナリーのツーショット。
元々十代の教団者が少ない為、自然と意識が向いてしまう。
その為、ラビとリナリーもかなり仲が良いのだ。
だが、ここ数日は特に。

付き合い始めたんじゃねェ?

なんて、下賎な話題になるくらいに。
ちっと舌打ちをする。
と、まるでこちらのその舌打ちが聞こえたようなタイミングで、リナリーがこちらを向いた。
ニコリと邪気の無い笑顔と共に、ひらひらと振られる、手。
そして逸れにつられる様に、ラビがこちらを向いた。
眼が、合う。
だが、それは一瞬にして反らされてしまった。
興味が無いようにラビは、ふいっと神田から視線を外すと、またリナリーと会話を再開させる。
ぎり、と神田の手が、キツく握られる。
少しだけ伸びた爪が神田の皮膚と肉に食い入り、鮮血が垂れる。
「ンなんだよ・・・!!」
壁をその手で殴り付け、神田はその光景から逃げるように早歩きで回廊を渡る。
考えたくない。
考えたくない。
考えたくない。
なのに。
頭に浮かんでくるのはラビのことばかり。
「くそ・・・くそ・・・くそ・・・ッ!!」
何なんだあの態度は。
ろくに視線も合わせないで、会話なんてしてきやしない。
あれではまるで。
「―――――――――――」
ピタリと、歩みが止まる。
冷や汗が出るような感覚に、神田は止まざるを得なかった。

あ れ で は 、 ま る で

自分の様ではないか。
「―――――――・・・・・・ッ」
声をかけるのも、ラビ。
話し掛けてくるのも、ラビ。
触れてくるのも、笑顔を見せてくれるのも、キスをくれるのも。
・・・好き、と言う言葉を惜しみなくくれるのも。
では自分は、彼に何を返したと言うのか。
相槌とも言えない会話に、邪険に振り払う手。
触れてくる彼を照れ隠しに叩いてしまうことも珍しくはなく。
「・・・・・・」
言葉も出ない。
今のラビは、まさに神田の姿だ。
振り解いても離れても握り返し追ってきて笑顔を見せて来てくれた彼に、いつの間にか自分は、ラビは絶対に自分から離れていかないと思っていたのかもしれない。
・・・胸が痛い。
酷い思い上がりに、神田は吐き気を覚える。
ぎゅ、と、神田はローズクロスを抑える。
正確には、その下で痛みを伝えてくるココロを。
―――――思い知らされる。
自分の中のラビの大きさを。
そして、もう失ってしまった傷の大きさと深さを。

□■□

集中力が欠けていた、と自分でも思う。
あれからすぐに神田は単独任務を言い渡された。
いくら頭でようやく理解できたとしても、神田がそれを行動に移すことは難しい。
もし、それであの冷たい視線を向けられて、拒否されたら。
どんな反応をするのか、自分でもわからないから。
そんなもわもわした気持ちを抱えていた為、とんでもないミスを仕出かした。
その結果追ったのが、右肩、鎖骨辺りから胃の辺りまでの裂傷。
加えてアクマを倒した後に気絶をしてしまい、ファインダーに抱えられ帰ってくると言う不名誉なことをしてしまったのだ。
回復力の高い神田だが、さすがにコムイから療養を言い渡され、現在は医務のベッドに横たわっている。
「もー・・・ほんっとにびっくりしたんだからねー」
そしてその看病をしているのが、リナリー。
今一番会って気まずい相手に看病され、神田としては複雑な気持ちだ。
そんな神田の感情が手にとるようにわかるのは、最初に策を考えたものだからか。
「ねぇ神田」
もう治っているところの包帯を取ってやりつつ、リナリーは話し掛ける。
リナリーは神田を恐れずに話し掛けてくる数少ない人物だ。
加えてコムイの妹で、口も達者で戦闘能力も高い。
苦手と言えば苦手で、だが物言わぬものになる者になるのが厭だと思う人物。
「ラビ、最近神田のこと避けてるでしょー?」
ストレートな物言いに、思わず手を引っ込めそうになる。
それは、あらかじめ予想していたリナリーによって遮られてしまったが。
「ホントはもちょっと続けるつもりだったんだけど、もう無理そうみたいだし」
要を得ないリナリーの呟きに、神田は眉を顰める。
「だからねー今回のこと。発案者は私なの」
「・・・!」
にこっと笑いながら残酷なことを言ってくるリナリーに、神田は眼を見開く。
やはり、これはあれなのだろうか。
ラビに、好意を―――――
「あ、ちなみに私、恋愛感情でラビを好きなんて、小指の爪程も無いから☆」
コムイ曰く天使の笑顔に、少しだけ背筋を凍らせるが、それはなんとか表情には出さなかった。
「ただね、今回のことで神田も自分の態度振り返ったかと思うけど・・・ちょっと、説教を篭めて、ね」

「もう、諦めたら?」
いきなりのリナリーの言葉に、ラビは素で驚いてしまった。
「え、えー・・・それは無理さリナリー・・・」
と言ってくるラビに、リナリーはキョトンとした後でぷっと吹いてしまった。
「やだもうラビったら。私も言葉足りなかったけど、別に神田を諦めたらって意味じゃないわよー」
そんな他人に諭されたくらいでラビが神田を諦めるようなら、最初の会話でもう二人は犬猿の仲だっただろう。
「・・・じゃあどう言う意味さー・・・」
年下の女の子に言いようにからかわれ、ラビとしては面白くない。
ぶーっと口と尖らせる態度は、リナリーのしゃんとしている態度よりは子供だろうが。
「だからね、ラビの正攻法で行くのを、よ」
「オレの?」
聞き返すと、そう。とリナリーが頷いてくる。
「いつも思うんだけど、ラビって神田に言いように振り回されてるじゃない?
ラビはそれで良い、って言うか、無理強いすると神田に嫌われるって恐がってるんだと思うけど、それって神田のためにはならないと思うのようね」
「・・・うー・・・」
まさにドツボを付いているリナリーの推理に、ラビは言い返せない。
周囲が見ていてもラビ本人が見ても、どう見ても神田がラビに夢中と言うよりは自分が神田にめろめろだ。
「だからね、押して駄目なら引いてみろ!たまには、向こうから来てくれるのを待たなきゃ!」
リナリーの見る限り、神田だってラビに気がある。
と言うか、ただあれは照れているだけであって、ラビのことが好きなのだ。確実に。
でなければあの神田が自分の部屋にラビを招きはしないだろうし、キスやセックスなどもっての他だ。
自覚していないラビは、ぶっちゃけ鈍い。
普段鋭いくせに、一番欲しい感情に対して鈍くてどうするとも思うが。
「・・・具体的には?」
話しに乗ってきたラビに、リナリーはふふふと声を漏らす。
「ラビがね、普段の神田のような態度を取るのよ!」
「・・・普段のユウのような?」
「そう。だから、話し掛けるのも触れるのも駄目。キスなんてもってのか」
リナリーの言葉に、えっとラビの肩が跳ねる。
「え、え・・・」
「あ、眼をあわせたり、笑顔見せるのも禁止ね」
更に言われ、ラビはへちゃりと机につっぷす。
「・・・無理・・・絶対に無理さー・・・」
「ん、もうッ。だらしないわねー」
ラビに、リナリーは盛大に溜め息をつく。
「ラビだって少し神田と離れてみたら、違う一面に気付くんじゃない?」
「・・・じゃあもしそれで、ユウがせいせいしたーみたいな感じになったらどうするんさー・・・」
絶対立ち直れない・・・と、ラビはまたしくしくと泣いてしまう。
なんだこの恋する乙女のような態度は。
「しっかりしなさいよ!そしたらまた口説きなおせば良いじゃない!」
リナリーからしてみれば、神田が心から清々したーなんて思うことはありえない・・・・・・とは100%誓えないが。
なんとかリナリーの説得のかいもあり、とにかく作戦は実行された。
されたが。

「もーうっざいの。監視かねて傍に居たんだけど、会いたいー抱きつきたいー触りたいーって。神田欠乏症で」
「・・・・・・」
そこまで言われると複雑な気分になるのはどうしてだろう・・・。
・・・それにしても・・・。
と言うのが、神田の知らないところで顔に表れてしまっていたのか、ニヤッとリナリーが笑う。
「私とラビが付き合ってるように見えた?そうじゃなくって安心した?」
「!」
言われ、リナリーを睨むが、何故かこの少女にこれで恐がらせた覚えが無い。
サラッとリナリーは案の定その視線をかわし、更に神田を追い込んでいく。
「それって嫉妬でしょ?いい加減認めちゃいなさいよ」
「なっ・・・!」
「神田だってこの数日間で、自分のラビに対する態度とか反省したでしょ?
この怪我だって、言わばそれが大きな原因なんでしょ?」
「・・・!!」
発言すら封じらる。
元々語彙の少ない神田が、この少女を言い負かせられるはずもない。
大人しくなった神田に、リナリーは表情を和らげる。
軽い溜め息に、そっと優しく笑む。
こういう表情をする時、ああ、こいつはコムイの妹なんだとしみじみ思う。
よく、似ているのだ。
「たまには肩の力抜いて、ちょっと自分に素直になってみようよ。
それって神田にしてみればかなりしんどいだろうけど、見栄ばかり優先して、ホントに失っちゃったらどうするの?」
「・・・・・・」
反論は出来ない。
これこそ、今回のことで一番神田が味わったことだからだ。
それを確認したリナリーは、またにこりと笑ってから、包帯をもって席を立った。
「さてとー。そろそろ我慢できなくなったウサギさんが来ちゃうから、私は退散しよっと」
「は?」
リナリーの言っている意味が判らなくて聞こうとするが、リナリーはもう扉の向こう側。
と、擦れ違いに入ってきたのは。
「ユウ・・・!」
珍しく、あの不敵な笑みと余裕を消したラビの姿。
鍛えているはずなのに呼吸は上がっており、髪は走ってきた時の風圧で乱れている。
ラビは一瞬扉を開けて止まったが、すぐに神田の元へ小走りに近付いてきた。
「よ・・・かったぁ・・・コムイに、ユウが大怪我したって聞いた時は心臓止まるかと思ったさー・・・」
「・・・・・・」
「・・・ユウ?」
呼んでも、神田は反応を返さない。
神田は、ただラビがここに来て、この数日間はどうしたんだという感じに普通に話してきているのを驚いているだけなのだが、ラビは神田の無言を怒りと受け止めたらしい。
「ご、ゴメンな、ユウ。この数日間無視なんてしちまってさ・・・。
えーっとな・・・えーと・・・なんていうか・・・な、」
上手い言い訳が思いつかず、ラビは頭を抱える。
神田を試した、何て言えばそれこそ何と言われるか。
悶々と考えていると、急に頭皮に痛みを感じた。
はっと神田を見れば、据わった目でラビを睨み、痛みは神田の手が思い切り自分の髪を掴んでいるからだ。
絶体絶命。
「ユ」
ウ、と言う言葉は続かなかった。
いきなり神田に頭を押され、次いで唇に、暖かい感触とカツリと言う歯が少々ぶつかった音。
眼を閉じることも出来なかった為、目の前には神田のどアップ。
自分と違い、神田が眼を閉じていると言うことは、神田は予想していた事態と言う事で。
と言うことは、やはりこれは神田からしてくれている行為で・・・。
まともに働かない思考で『ユウ、やっぱ睫毛なげー』なんて見当違いなコトを思いつつ。
それはすぐに去っていき、だがキョトンとした表情で神田を見れば、バツが悪そうに顔を逸らされ、頬には赤味が。
「・・・・・・悪かった・・・・・・」
なにが、悪かったのか。
主語が無い為、特定が出来ない。
それとも、いろいろなことを含めた言い方か。
ともかく、嫌われはしなかったようで。
それだけでラビは、ほっとした。
「オレの方こそ、ごめんな」
そう言って抱きしめれば、ただ少し肩が揺れただけで、抵抗は無い。
これは、リナリーの作戦は成功と見て良いのか。
・・・まぁどちらにしても。
「もう、こんなことしないさ」
と言うことらしい。
結局ラビは、神田にメロメロでラブラブで甘々なのだ。
どんなに冷たくされようが、叩かれようが、怒られようが。
本人がいいのだからしょうがない。
ラビとて、今回のことで神田の自分への想いに多少は自信がついだだろうし。
・・・欠乏症になられるよりは、よほど。



これが本件の、結論。

以上。



☆END☆


コメント

イマイチ・・・まとまりが・・・!(ガクリ)
これは、潮さんと賭けして負けたので、その賭けした時の約束のブツです(笑)
こんなんでいいのかなー・・・と不安・・・。
途中神田からキスしてますが、まぁラビューと言う事で☆(逃)