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debri 知ってる。 知ってるよ。 多分キミよりももっと。 ちゃんと。 けれどそれを含めても。 やっぱり、自分は―――――― 「ユウ」 止めても何をしても、懲りずに名前を呼ばれる。 そんな、良く言えば度胸のある、悪く言えば態度のでかいのは、神田が知っている中で一人しか居ない。 「・・・・・・」 「ンなしょっぱなから睨むなよ〜」 振り向き様に、慣れないものが見たら竦み上がるくらいに睨んでも、ラビには欠片ほどにも効きはしない。 「ユウ〜。任務終わったんだろ?一緒にメシ食いに行かね?」 「誰がテメェとなんか行くか。俺は疲れてんだ。ほっとけ」 と突っ放しても、ラビはまったく諦めようとはしない。 「も〜ユウは意地悪だなぁ。いいじゃん、メシくらい」 「くらい、なんて言うなら、メシくらい一人で食え」 「一人で食べるなんて味気ないさ〜」 ぶぅぶぅと言いながら、まだ後をついてくる。 まったく、懲りない。 はぁとこれ見よがしに溜め息をつき、神田はようやく足を止め、ラビを振り返る。 神田がようやく自分の方を見てくれたことに、ラビもパッと顔を明るめた。 「ラビ」 「なんさ?ユウ」 にこっと笑うが、更に神田は眉間に皺を寄せる。 隠しもしない、『うざったい』と言う顔。 「・・・俺に近寄るなっつッてんだろうが」 「それは無理さ〜。だってオレ、ユウが好きだもんv」 しなを作って言えば、神田は舌打ちをして、またラビを睨む。 「俺は嫌いだ」 「知ってる。でも俺はユウが好きv」 ニコリと、崩れない笑顔。 けれどその瞼を開けば、その笑顔よりもずっと真剣な瞳が神田を見ている。 神田は、この瞳が嫌いだ。 ラビがわからなくなる。 いつもの、おちゃらけたままでいれば、神田もかわせ続けれると言うのに。 その、真剣さを、見てしまうと・・・。 「――――――何度も言ってる。俺はお前に応えられない」 「うん、聞いた」 「お前の隣りに居続けることも出来ない」 「うん、知ってる」 それならば何故。と続けようとしたところで、ラビが一歩だけ距離を詰めてきた。 「知ってるよ。オレがユウの中でこの先ずっと一番になれないことも、好きになってもらえないことも」 「――――――」 「でもオレは、ホントにユウのことが好きなんさ。 好きなんてさ、おんなじ量になれないもんだから、ユウの想いがオレに向かないならしょうがないってのも承知」 ただ、とラビは言いかけ、もう一歩神田に近寄る。 そうしてすぐ前まで来ると、神田より幾分か大きいその手を、神田の左の心臓の位置へと置いた。 「ユウのここの、奥の奥の奥の、もっと奥のすみっこにちょっとだけオレがいればいいんよ」 それだけで幸せだと、ラビは笑む。 作り笑いではない。 本当の、笑顔で。 「そんでちょっとだけ、一日の中で一瞬掠めるくらいにオレをちょっとだけ思い出してくれればもう充分さ」 手から、神田の体温が伝わる。 鼓動が、少しだけ早くなったのがわかり、それが少しだけ嬉しい。 「・・・理解できねェよ」 「しなくていいよ」 そしてラビは、神田のそんな言葉さえ肯定する。 「ユウはオレの、こんな想い理解しなくていいんよ。 オレが何言っても、嫌いだ、近寄るな、ふざけんなって返してくれればいい」 そっと、ラビは神田から手を離し、半歩身を離した。 「期待なんて、絶対にさせてくれんな」 それだけ言うと、ラビは『今度は一緒にメシくお〜な〜』と言って、踵を返して神田から離れて行った。 「――――――――――」 神田は何も言えない。 言うことすら、塞がれてしまった。 『嫌いではない』 その言葉、すら。 「・・・ワケ、わかんねェ」 自分自身に言い聞かすように呟き、それが何となく癪に障る。 もやもやとしたものが、ラビが置いた掌があった位置から込み上げてくる。 ちっと盛大に舌打ちをし、自室へと向かうためラビが行った方向とは逆に神田は歩き出した。 □■□ 「随分、矛盾したこと言うんだね」 曲がり角を曲がったところで、コムイが壁に背をもたらせていた。 「おう。自分でもわかってるさ」 しかしラビは驚いた様子も見せず、にかっと歯を見せて笑った。 それを見て、コムイは苦笑と共に息を静かに吐き出す。 「ラビ。神田くんの一番は、恋愛対象としての一番では無いんだよ?」 「・・・コムイ」 ラビは、一度その目を閉じ、もう一度ゆっくりと開いた。 「オレは、ユウのことならユウよりも知ってるつもりなんよ」 ずっと見ていた。 入団してきた神田を、ずっと。 傷付いて傷付いて、その身体から色を失いかけたことを見たのも一度や二度の話しではない。 「オレはユウの生き方に干渉する気はサラサラ無い」 けれど、何度も言いかけた。 やめてしまえと。 それでも言えなかったのは、神田の世界に深く足を踏み込めなかったから。 「でも、大人しく見てるのもオレの性格じゃないからさ」 知ってるよ。と言いかけ、結局コムイは口を開かなかった。 「ユウの世界を壊す気も無い。だから、期待もしない」 「・・・ラビ、」 「オレは一番恐いンはさ」 言いかけたコムイの言葉を遮るように、ラビは少しだけ声を張り上げた。 「ユウに期待することなんよ」 「・・・・・・」 そっと手を見る。 さっきまで神田のぬくもりが伝わっていたその掌からは、すっかり神田の体温は奪い去られていた。 ただ残っているのは、ラビが感じた熱だけ。 「ユウに優しくされたいなんて思わない。 優しくされて、附けあがるのはいけないことだからさ」 目を閉じる。 その眼から戸惑いを見つけてしまい、少しだけ、焦った。 「附け上がって、期待して。そんで結果が違ったら、絶対オレはこう思っちまう」 自分の言葉を、軽く見て欲しかった。 決して、重く捕らえて欲しくなかったから、あんなことを言ってしまった。 けれど結局は、多分。 神田は、気を重くしてしまっているだろう。 ごめん、とラビは内心で謝る。 「ユウに裏切られたって」 コムイが壁から離れ、自分に近寄ってきたことが気配でわかる。 それでもラビは、そちらを見ずに言葉を続ける。 「勝手に自分で期待して、そんな風にユウを汚すのは絶対ヤだ。 そう思っちまうくらいなら、いっそユウに嫌いだって言われて、気持ち悪いって蔑まれた方が全然マシ」 マシなんよ。 そう言って、ラビは顔を上げた。 その顔が、笑顔が。 それが本心だとコムイに教える。 可哀相、と思うのはラビに失礼だと、内心で自分の考えを否定する。 これが彼の生き方なのだから。 「・・・若者はいろいろと大変だね」 「おーう。色恋もベンキョも仕事もがんばらなァね」 へへっと笑うラビの頭に、コムイは手を乗せる。 撫でるのではなく、ただそうやって体温を伝える。 「・・・キミも、もう少し肩の力を抜いてごらん」 それだけ言うと、コムイはラビを通り越して行ってしまった。 一瞬、コムイの言葉にポカンとしてしまう。 気を引き締めろ、とかなら言い慣れているが、そう言われたのは本当に久しぶりだ。 「・・・敵わんねェ・・・」 飄々としていて、見るところはちゃんと見られている。 ほどよいお節介に、感謝する。 そして、廊下の窓から見える空に視線を向ける。 浮かんでいる空は、けれど自分たちを支えていて。 ならば自分のこの想いとどちらが思いのだろうとボンヤリと思う。 「―――――ユウ」 それは、世界で一番愛しい言葉。 大切で、宝もので、ずっとずっと、それだけを口に出来れば良い言葉。 「・・・ユウ」 何度も、口に出して呟く。 愛しい名前。 『愛』なんて、そんな安っぽい枠なんかでは収められないほど、の――――― 「ユウ」 もう一度、呟く。 突き抜けるような空に向かい、もう一度。もう、一度。 「ユウ」 好きだよ。 お前の中の『一番』よりもずっと、ずっと。 「――――――――――」 ずっと。 ・・・・・・ずっと。 想い続けていくから。 これが自分の、精一杯の。 『愛』 コメント ラビューと言うよりもラビ→神になってしまった(汗) ちなみに神田の一番、の表現はアレンではなく『あの人』です。 いえ何となく間違えてしまい人がいるかなぁと。明確に言っても居ませんし(汗) イメージは新居昭乃さんの『Flower』 『ガレキの楽園』はまたの機会に(笑) |