くるくるせかい くるくるまわる


ソレがあれば世界は完成するのに。
ソレが無ければ世界が完成しないだなんて。



「ん?」
そろそろ神田の訓練が終わると思い部屋まで来てみれば、そこにはティエドールがオロオロと部屋の前をさまよっていた。
「げーんすい。どうしたんスか〜」
「おおラビ」
ラビが砕けた、それでもいつもよりも丁寧な口調で話し掛ければ、ティエドールは安堵したようにラビの方を見た。
「ユウ、どうかしたんすか?」
コンコンとラビがノックするが、中にいるであろう神田からは答えが無かった。
再びティエドールに視線を戻すと、涙もろいティエドールの目は、少し歪んだ眼鏡越しに潤んでいた。
「実はさっき訓練でマリと対戦したんだけどね・・・うん・・・」
「あーボロ負けしちゃったんかー」
と言ったところで、部屋の中からダンッと言う何かを叩きつけたような音がした。
大方、枕か何かをドアに投げつけたのだろう。
その音を聞きながら、ラビはティエドールに苦笑を向けた。
「いいさ。オレがなんとかするから、元帥はもう行っちゃっていいさ」
「・・・ぅん・・・そう、・・・かい?・・・じゃ、任せようかな」
グスンと鼻を啜って、とぼとぼと寂しそうにティエドールは去っていった。
「げーんすい」
呼ばれ、パッとティエドールは振り返る。
「そこの角で立ち聞きなんてしたら、ますますユウに嫌われるからな☆」
笑顔で言われ、ティエドールは今度こそ涙を零しながら去った。
・・・時々名残惜しそうに振り返りながら。


「・・・さぁ〜て」
ティエドールの姿が完全に見えなくなってから、ラビはもう一度神田の部屋の前に立った。
コンコン、と、先程と同じ様にラビは扉をノックする。
「ユウ?オレさ。あ〜け〜て〜」
コンコン。
もう一度、ノックする。
中からは応答は無く、ラビはもう一度、ノックした。
「・・・元帥、ホントにもういないさ?オレだけさ。な?開けて」
しばらく沈黙が降りる。
「・・・オレ、いないほうがいい?」
言いつつ、けれどそれ以上ノックはせず、神田の出かたを伺う。
・・・出かた、なんて、もうラビにはわかっていることだけれど。

キィ・・・

「ユウ」
古びた音を立て、扉が開き神田が顔を出した。
見れば目元が赤く腫れている。
そして、そっとラビの袖を掴んだ。
結局そのまま神田は無言のままラビを部屋の中をいれ、ペタリと絨毯の上に座った。
ぎゅうと膝を抱えて小さく座っている姿が可愛らしくて、その重い空気の中にも関わらず、ラビはふっと少し笑ったしまった。
「マリに負けたんだって?」
ズバッと言えば、神田の眉が寄り、瞳がうるうると揺らいできた。
その様子がまた可愛いなーと思うあたり、自分は少しサドが入っているかもしれない(この十数年後にマゾが入ることは本人はもちろんまだ知らない)
ラビは神田の隣りに座ると、よしよしとその艶やかな頭を撫でた。
そして、パシ、と小気味いい音を立てて叩かれたのは、ラビの予想範囲内だ。
「対戦相手、マリだったんだろー?負けんの当然さ。オレでも勝てねェよ」
「・・・お前は俺より弱いだろうが」
ぐす、と鼻を啜る音と共に、ギッと神田はその涙の浮かんだ眼でラビを睨んだ。
「えーオレはユウより強いさー。だって修練でオレ泣いたことないもーん」
「!」
その一言に、また神田の顔がじわりと歪む。
「泣いてねェよ、バカ!!」
ぽかり、と、勢いの無い拳がラビに当たる。
そしてそのまま何度も何度もラビを叩きながら、わーわー喚き始めた。
「だってマリずりぃじゃねぇか!身長俺よりでけぇし力強ェし!!」
「頭良いし、しかも人への思いやりもあるしー」
「うるっせぇよバカラビ!!!」
「あたっ」
そこで喰らったもう一発は、さすがに力が篭っていたのか痛かった。
「どうせオレはバカだし思い遣りなんてねェよ!悪ぃかよ!!」
「あーそうさなーどうせなら優しい方が、そりゃいいんじゃねぇか、生きていくにはさー」
なに、と神田が反応する前に、でも、と、ラビはまだ叩き続けている神田の手をパシリと止めた。
「・・・でも、オレはそんなユウが好きさ」
にこっと笑顔で言われ、神田も思わず寄せていた眉を解き、キョトンとした顔でラビを見てしまった。
「まだちょ〜っと?弱くて、口が悪くて涙もろくて人見知りしてるのにオレには懐いてるユウが大好きさ」
「お前今俺のことバカにしたろ」
「あ、ばれた?」
えへ☆と小首を傾げれば、ラビが掴んでいない反対側の手でスコーンと頭を叩かれた。
あたーとラビが頭を擦っていると、また神田がぐすぐすと鼻を啜り始めた。
「・・・どうせ嫌われてるよ」
「そんなこと言ってないさ?」
弱りきっている神田の頭を、先程と同じ様に撫でてやる。
今度は、払い落とされない。
「・・・オレたちまだちっちゃいさ。ユウだけじゃないぞ?オレも、リナリーも。
オレらまだ子供なんだからさ、ちょっとずつおっきく、強くなってけばいいさ」
「・・・でも、あいつら早く強くなれって言う」
「ティエドール元帥たちの言う強さって言うのは、自分を守れる強さのことさ。千年伯爵と戦う為の強さじゃない。
・・・そりゃ、それを強要するやつらだっているけどさ、元帥は違うだろ?元帥もマリも、ちゃんとユウに優しいだろ?」
尋ねるように言えば、神田はむすりとしながらも、コクリと頷いた。
「いいじゃねぇか。ゆっくり強くなってけばさ。ちゃんとオレがユウのこと守ってやるから」
な〜?と満面の笑みでラビが言えば、神田はまだ自分の頭を撫でていたラビの手を払い落とした。
「バカ言うな!オレがお前よりも強くなって、お前を守ってやるんだ!」
「だって今、ユウオレより弱いじゃーん」
「弱くねェよバカラビ!!」
「じゃ、一緒に強くなろうな」
「ッ」
そっと差し出されたのは、右の小指。
「約束」
「・・・・・・」
ちらりと、神田はラビを見やる。
ラビは眩しいくらいの笑顔を自分に向けていた。
どんなに我が侭を言っても癇癪を起こしても、ラビは絶対に投げ出さずに自分を宥めてくれた。
ちゃんと自分の眼を見て話してくれるし、ちゃんと同じ目線で考えてくれる。
そっと、神田は自分の小指をラビのそれに絡めた。
「・・・ラビは変なヤツ」
「う?何がさ」
ゆーびきーりげーんまーん。と、懐かしい音がラビの口から零れていく。
懐かしい日本の歌だ。
「・・・・・・オレと一緒にいるから」
ゆーびきった、と言ったすぐに、キョンとしたラビの顔が、また破顔した。
また、眩しいくらいの笑顔がこぼれる。
「何言ってるんさ。オレはユウ大好きなんだから、一緒にいれば嬉しいに決まってるさ〜」
「・・・・・・」
その、『好き』が、ラビはどこから来るのかがわからない。
だって自分は、ちょっと弱くて口が悪くて涙もろくて人見知りをするのに・・・。
「だって、ユウはオレの世界の中心なんさ。ユウがいなきゃ、『オレ』は回らないンさ」
「・・・せかい?」
「世界。オレを構成するもの」
「・・・??」
けれどその例えは神田には難しかったのか、しきりに首を捻っている。
それから考えるように遠くを見た後、また視線をラビに戻した。
「・・・俺は、ラビがいなきゃこんなとこ、絶対にもう逃げ出すか死ぬかしてた」
「――――、」
「そういうことか?ラビの世界って」
小首を傾げて聞いてくる神田の視線からふいっと顔をそらせ、逃げる。
そして口元を覆い、天井の端っこを見た。
神田はコレだから目が離せない。
時々さらりと、ラビをもビックリさせるくらいの殺し文句を言うから。
「違うのか?」
ラビの反応を否定と取り、また神田は、むぅと考え始める。
そんな神田を見て、またラビは顔を赤らめた。
そして、その口の端に紅いものを見つけた。
「ユウ、怪我してる」
言い、神田の反応を待たずにその口端をぺろりと舐めた。
舌の先に、鉄のような味と、ふわりと柔らかい感触が伝わる。
鉄のようなのにそれはどうしようもなく甘くて、もう一度ラビは舐め取った。
「・・・ラビ、痛い」
神田はそう言い少し身体を後ろに傾けるが、ラビはそれを追い、今度は唇をぺろりと舐めた。
「違わないさ、ユウのそれと同じこと」
まだちょっと弱くても口が悪くても涙もろくても人見知りしても。
ソレが神田を構成するものならば、嫌なわけが無い。
ちょっと弱いのも涙もろいのも、だんだんと治っていくのだろうし。
(・・・それはそれでちょっと寂しいものがあるのだけれど)
だって神田の涙は、とても綺麗だから。
思いつつ、ぺろりともう一度その唇を舐めると、今度はラビの唇に濡れた感触が伝わった。
見れば、神田がマネをするようにラビの唇をもう一度舐めた。
「・・・痛いって」
「ごめんごめん」
そう言い、怪我をしているのとは反対側に、ちゅ、と音を立ててキスをした。
「明日は、オレと訓練しような」
ラビの言葉に、神田は渋々、と言う態度を取りつつ、嬉しそうにラビの手を握り締めた。


ソレがあれば世界が完成して。
ソレが無ければ世界が崩れる。 なんて脆くて愛しい世界。

僕の世界の中心で、キミがくるくる幸せ運ぶ。



☆END☆


コメント

・・・だんだん(仔)ユウたんが泣き虫っ子になっていく。
すいません、思いっきり趣味です。
マイ設定で、本編のあのキツイ性格になったのは、『あの人』が去ってしまったくらいか、あの身体になってしまったくらい。
ラビはきっとで寂しいやら自分の不甲斐なさを後悔するやらしたんだろうなぁと。
いつかそのあたりの話しも書きたいですー。ここか本にするかして。
とりあえず仔ラビューは書いてて滅茶苦茶楽しいと!(笑)