We who want to catch are ourselves caught.


神田、と呼ばれて思わず振り向いてしまった。
そこに居たのは、コムイの助手であり愛妹のリナリー。
彼女の笑顔から、なんとなく嫌な予感は感じたのだが、逃げるわけにも行かない。
渋々リナリーを待っていると、やはりと言うか何と言うか、頼まれごとを持ってこられた。
「あのね、次の任務のことで兄さんがラビを呼んでいるの。神田、ちょっとラビを探して伝えてくれないかな」
ラビ、の名が出てきて、神田の眉間の皺が更に一本多くなる。
「・・・ンで俺が呼んでこなきゃ行けねェんだよ・・・」
愚痴を零してしまうと、むっとリナリーの細い眉がつりあがった。
「じゃあ神田、今から何しようとしてたの?」
言われ、素直に食堂と言いかけて、神田はリナリーの持っている資料の束に目が言った。
多分これからコムイのところにそれを持っていき、資料を整理したりなどの科学班の仕事をするのだろう。
エクソシストでありながら、科学班室長助手のリナリーは多忙だ。
これでも長い付き合いのある神田は、それをよく知っている。
となれば、これからリナリーが口にするだろう言葉も予想は容易い。
「・・・わかったよ。起こしてくりゃいーんだろ」
リナリーに口で敵う自信は無いので、神田は渋々ながらも踵を返す。
眉間の皺を取ったリナリーはニッコリと笑い、よろしくねvと手を振った。

広く複雑な教団内では、神田もさすがにすべてを把握しきることはできない。
そして無愛想な神田は、他の教団の者の部屋に出向くと言うこともよっぽどでない限り行きはしない。
それなのに何故ラビの部屋を知っているかと言うと、ラビの性格が最も影響している。
何故か冷たくしても突き放しても自分に寄って来るラビは、神田の部屋に勝手に上がり込んだり、逆に神田を自分の部屋に半ば連行して行ったりしているからだ。
ラビは誰が見ていようとも構わずスキンシップを取るので、コムイは半分面白がっているのだ。
裏付けるように、こうしてラビを呼んで来いといわれるのはコレが初めてではない。
ムカムカを隠せずに、それでも一度引き受けてしまったので、ヘンに細かい神田は任務を果たそうとラビの部屋を目指す。
他の部屋と代わり映えしない扉で唯一自分の部屋と見分けを付けされるため、それぞれの部屋にはネームプレートが掲げられている。
ノブを回してみれば、やはりと言うかラビは鍵をかけてはおらず、簡単に開いてしまった。
「・・・おい・・・入るぞ」
と言うまでもなく部屋に入ってしまっている神田。
だが、中から返事は無い。
いつもなら、神田が尋ねてきたと知ればすぐにこちらに抱きついてくると言うのに。
いないのかと思い、それでも部屋を見てみれば、ラビはベッドでグッスリと眠ってしまっている。
「・・・・・・」
探しに来てみて、更にその人物は健やかに寝ており、神田の苛つきは更に増す。
蹴って起こしてやろうと近付き、神田は少しだけその表情を崩した。
ラビはいつものバンダナをしておらず、首に降ろしていた。
ネコっ毛のような髪は、いつもはツンツンと方々を向いているのに、今は重力に従ってラビの輪郭を隠している。
珍しいものを見た気分で、蹴って起こしてやると言う気持ちは萎んでしまった。
立っていると、入ってくる陽を遮ってラビに影が落ちる。
何となく隠されてしまうラビが嫌で、神田はベッドの端に座り、シーツに肘を着いて改めてラビの顔を観察する。
いつもおちゃらけて、へらへらしているラビは、同じ十八歳に見えないくらいに表情が幼い。
だがこうしてうるさい口も閉じて、目も瞑り気配も落ち着いていると、やはり年相応に見える。
輪郭は自分よりも、さらに少年のその丸みを無くしており、青年の端整なものになっている。
着やせしてしまう自分と違い、それなりにがっちりとしている身体は、肩幅もあり誰が見ても男の体躯だ。
認めたくはない。
人一倍プライドと自我の強さは自分でも認めてしまっているので、断じて言いたくは無いのだが。
―――――――――――。
「・・・寝てる方が、男前が上がるんじゃねェのか?」
言ってしまうと、やはり照れが出てくる。
ごまかすように肘を崩すと、頬にシーツのすべらかな感触が伝わってくる。
更に、ラビの顔が近くなる。
鼻の頭が擦れている。
またブックマンに生意気な口を聞いて張り倒されたのだろう。
眼帯の下は見たことが無い。
自分から聞こうとも思わない。
聞いて話をそらされてしまえば、何となく自分はショックを受けてしまうと思っているから。
ショックを受けてしまうことが、認められない。
そんなの、自分がラビを求めていると言うことになってしまうから。
でも、その下の、下。
喧しく開くその口が、自分のそれに重なる感触は、もう知っている。
逃げる自分を追って、ペロリと舌で唇を撫でてから、食むように重ねられる。
少し薄くて、自分のよりも弾力のある唇。
拒否しても、殴っても。
へらへら笑ってはまた唇を重ねてくる。
懲りないやつ、と思ってしまい、もう諦めてしまった。
・・・・・・いや、そうではないかもしれない。
在ればくどいと思うくせに、いざ無くなれば虚空になってしまうだろうことを、自分はもう予想だててしまっているのだ。
予想がついてしまっている。
それはつまり、自分の中にはもうラビが染み付いてしまっていると言うこと。
けれど、それは。
ラビには言わない。言ってはやらない。
と、取り留めの無いことを考えていると、不意に瞼が重くなってきた。
陽の当たりの良い部屋が、更に神田の眠りを深くしていく。
目が閉じてしまい、それでも意識は現をたゆたっている。
「・・・あれ?」
と、聞きなれた声がした。
――――一気に眠気が覚めた。
けれど、そこで目を開ければどうなるかなんて想像は簡単に着くので、神田は一か八かで狸寝入りに突入する。
「・・・なーんでユウがココに居んの?」
まだ寝惚けているのだろう、ボリボリと頭を掻きながら、ラビは目を瞑っている神田をじぃっと見る。
寝転がりながら、神田の方を向いて頭を手に預ける。
徐々に覚醒するにつれ、ラビは段々と状況が把握出来てきた。
明日任務が入っているので、多分そのことか何かでコムイに呼ばれたのだろう。
そして、そこを運悪く神田が掴まってしまい、ココまで来たのだろうとラビは予想つける。
でなければ、神田がここに来る理由が他に思いつかない。
目を瞑っている神田を、先程の神田の様にラビは観察をしてみる。
ツヤツヤの髪の毛は自分の癖のある髪とは違い真っ直ぐで、神田の性格をそのまま現しているようだ。
キリッと目尻の上がっている目は今は閉ざされているが、黒曜石を磨いたような瞳はラビの特にお気に入りだ。
いつもは寄っている眉も、と思い、ラビはおやっと眉を器用に片方だけ持ち上げた。
そしてうーんと考えた後、ニヤリといたずらを思いついた悪ガキの笑みを見せる。
「ユウってばかーわいい寝顔なんて見せちゃって・・・」
そう言い、目元を隠してしまっている髪を梳いてやる。
ほんのりと、目元が紅く染まる。
「オレのこと起こしに来てくれたんかな?」
嬉しそうに言えば、握られている神田の手が、更に強く握り締められる。
「でもま、も少し昼寝でもしてくかー」
と、わざとっぽく言い、ラビは口を閉ざした。
その間の神田は、寝たふりがバレやしないかとドキドキしていた。
何か言われるたびに、思わず起きて罵倒してしまいたくなったが、何とか堪えた。
しばらくすると、言葉通りラビが静かになった。
規則正しい呼吸が聞こえてきたので、神田は安堵しこの隙に逃げようと目を開く。
「―――――――――――」
「よぅユウv」
が。
寝ていると思っていたラビは、しっかりとその目を開いていた。
ぱくぱくと言葉を紡げないでいると、ラビが段々と堪え切れないとばかりに笑いを漏らしてくる。
「く・・・くくっ。ユウってば素直〜。可愛いんだからv」
ちゅっと投げキッスをされ、ブチッと神田の中の何かが切れた。
「この・・・悪趣味めッ!!」
どごっと鈍い音と共に、ラビに神田の会心の一撃が決まる。
六幻を発動させられるよりマシとは言え、強烈な一撃にラビは身悶える。
「とっととコムイのトコに行きやがれ!!」
もう一度ラビを蹴ると、神田はどすどすと足を鳴らして部屋を出て行く。
「ゆ、ユーウー」
「その名前で呼ぶなッつってんだろ!!」
下の名前を呼ばれ、神田は思わず突っ込んでしまう。
ラビは腹を抑えつつも笑顔で
「今度はちゃんと襲ってやるからなv」
などと懲りずに言い募る。
神田は手元にあった本を、思い切りラビに向かって投げて、今度こそ部屋を後にした。
不覚。
まったくもって不覚だった。
ラビを少しでもカッコいいと思ってしまったり、ラビに付きまとわれてそれが何となく嬉しかったりもすると思ってしまった自分を切ってやりたいくらいに不覚だった。
今度こそラビはもう相手にしまいと誓いつつ、多分それは無理なのだ。
だって何度そう思っても、何故かラビが近くに居るのだから。
・・・まったくもって。
ああ、本当にまったくもって。
不覚の限りだ。

そしてその逆に、ラビはくつくつと一人部屋で笑いを漏らしていた。
わざわざ狸寝入りをして、あそこまで自分の言葉に顕著に反応しているのに気付かなかったと思ってしまっている神田のかわいいこと。
これだから、神田は相手をしていて飽きないのだ。
あの端麗な容姿も、刃のように鋭い気配も、ひねくれた性格も。
愛しくてたまらない。
だから今はまだ不完全だが。
絶対にすべて手に入れようと改めて誓いつつ、ラビはバンダナをつけ、上機嫌に歩き出した。



☆END☆


コメント

We who want to catch are ourselves caught.
ミイラ取りがミイラになる、と言う意味です。
ミイラになった・・・かどうかはわかりませんが、諸月さんに捧げます。
素敵な挿絵とイラストとマンガをありがとうございましたー!のお礼ラビュー第一弾でした・・・。
いろいろ捏造しちゃった・・・。
ところでラビって教団に居て、ちゃんと部屋って有るのか・・・なぁ・・・?