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First Errand 土曜日の午後。 特に何をするでもなく、石田家の4人は家でゴロゴロしている。 午後2時。 うーん。と、太一は雑誌を見ている。 輝二と戯れていた拓也はそれに眼を止め、太一の方に歩み寄る。 「かあさーん。なにしてるの?」 ソファーに太一が座っているため、身長的に拓也は膝にダイビングした。 そんな拓也を持ち上げて、自分の足を跨ぐように座らせてやる。 そうして自分の見ている雑誌の内容を教えてやる。 「わー!たべものいっぱいー!」 拓也は太一から雑誌を受け取り、それをうっとりと眺める。 今にもヨダレを垂らしそうな拓也を笑いながら撫でてやると、輝二もこちらに寄ってきた。 ソファーに上って、輝二も手元を覗いてくる。 「二人とも、何か夕飯に食べたいものあるか?」 聞かれ、輝二は俯いて、んー・・・と考える。 そして輝二とは対照的に、拓也は、はい!と元気良く手を上げる。 「はい、たっくん」 ふざけて先生みたいに言うと、拓也は上を向いて太一の顔を覗き込む。 「オレ、カレー!」 「・・・カレーか・・・輝二は?」 「カレー」 さっきまで悩んでいたくせに間を置かずに言う。 向こう側で、ヤマトが苦笑しているのが目に入る。 「・・・カレーか・・・カレー、カレー・・・」 拓也を膝からどかし、キッチンの方に入っていく。 続いて、拓也と輝二も着いてくる。 「ニンジンある、ジャガイモある、玉ねぎある・・・」 「ニンジンさ・ん・は・いーらないっ」 「だーめーでーすー」 拓也がリズムに乗って言ってきたので、太一もそれに乗って答える。 後ろに居る拓也の顔は見れないが、多分柔らかいほっぺをプーっと膨らませているだろう。 「カレーやシチューのニンジンさん、拓也食べれるじゃないか」 「たべれるけど、たべるまではいやなのー」 なぁ。と輝二に拓也はふるが、輝二はどう答えていいかわからない。 好き嫌いが無いわけではないが、食卓にあって『食べろ』と言われれば、輝二は食べれる。 がさがさと戸棚と冷蔵庫を探し、太一は眉を潜める。 「・・・肉とカレーのルーがねぇなぁ・・・」 「ルー、買い置き無かったか?」 ヤマトがリビングから話し掛けてくる。 しっかり声が届くように、太一は少し声を張り上げる。 「無いみたいなんだよ。どうも前に使っちゃったみてぇ」 うーん。と太一は悩む。 「・・・俺、ひとっ走り言ってこようか?」 楽譜をテーブルに置き、ヤマトもこちらにやってくる。 「うーん・・・」 せっかくの土曜に休日でゆったりしているのに、わざわざヤマトを買い物に出すのは味が悪い。 悩んでいる太一の眼に入ったのは、愛しい二人の息子達。 「・・・そうだ・・・」 名案を思いついたように、太一は拓也と輝二に目線を合わせるためにしゃがんだ。 「拓也と輝二、二人で買い物に行ってくれないか?」 『え?』 「えっ!?」 前者が拓也と輝二の声、後者がヤマトの叫び声。 「オレたちで?」 「そう、拓也と輝二で♪」 「ダメだ!!」 ヤマトがすぐにそう怒鳴った。 多分言うだろうとは思っていたが、実際言われるとちょっと情けなくもある。 「あのなぁヤマト・・・拓也も輝二ももう5歳だぜ?この年で親無しの買い物できなくってどうするんだよ?」 「だって車だって走っているし、スーパーの前には横断歩道だってあるだぜ!」 「車はどこだって走ってるし、横断歩道ないよりあった方が安全じゃねぇか」 「だだだ、だからって・・・!」 「『はじめてのお使い』でだって、3歳なんて結構でてるじゃねぇか。 前には、船乗りついて向こうの島まで買い物に行った兄妹だって居たんだぜ」 「それだって・・・!」 口ではヤマトに勝ち目は無い。 それでも心配性なヤマトは、何とかやめさせたいと口を開く。 そんな夫に呆れつつ、太一はもう一度輝二と拓也の方に視線をやる。 「二人はどうだ?母さんと父さん居なくてもスーパー行けるか?」 「うん!」 先に頷いたのは拓也だ。 輝二も、拓也の続く。 「よし」 二人の勇敢な息子に、太一は満足そうに頷く。 そうしてすぐに立ち上がり、赤いペンと白い紙を取ってきて、大きく平仮名で買ってきて欲しいものを書く。 それから財布を取ってきて、千円を小さなガマ口の財布に入れてやる。 もう一度しゃがみ、紙に大きく書いた文字を見せる。 「いいか?オレが欲しいのは、肉だ。牛の、薄切りだ。それから、カレーのルー。このパッケージを買ってきて欲しいんだ」 パッケージには、赤いリンゴに蜂蜜がかかった絵がある。 「ルーと、にくー」 「そう。・・・二人で二つ覚えないで、一人で一つ覚えてこっか?」 太一が提案をする。 「拓也が、ルーな。はい、これがパッケージ」 そう言って太一は、拓也にはルーのカラのパッケージを渡す。 「輝二は肉。牛の薄切り肉だ」 輝二には紙を入れた袋を渡す。 もう一度今度は子供部屋まで走り、コートと手袋とマフラーを取ってくる。 これは空が買ってくれた、輝二が蒼、拓也が赤を主色としたお揃いのチェックのコートだ。 それを着せてやり、マフラーと手袋をはめてやる。 あったかなかっこうになり、二人は威勢良く玄関に向かう。 「お金余ると思うから、それで好きなお菓子を一つずつ買ってきていいからな」 ご褒美だ。と太一が言うと、二人(と言うか拓也)が、うわぁい♪と喜ぶ。 「車に気をつけて、ちゃんと手を繋いでな?・・・場所は、わかるよな?」 「うん!」 「だいじょうぶ」 輝二が拓也の手を握ると、拓也もぎゅーっと輝二の手を握り返す。 「わからなくなったら、店の人に聞くんだぞ?・・・じゃ、よろしくな」 まだ玄関の扉を開くには二人には背が足りないので、太一が開いてやる。 「いってらっしゃい!」 『いってきま〜っす!』 二人は元気良く飛び出していった。 二人の姿が見えなくなるまで見送って、太一はリビングに戻ってきた。 冷えた身体に、暖房の風が気持ちいい。 先程まで放心していたヤマトは、そわそわとリビングを行ったり来たりしている。 太一は溜め息をつき、エプロンをつけた。 二人が帰ってくる前に他の下ごしらえをしなくてはならない。 肉はすぐ煮えてしまうが、野菜嫌いな拓也の為に、じっくりと煮込まないといけないのだ。 ・・・太一が準備をしているその後ろで、ヤマトはこっそりとコートを取り出した。 そうして着ると、そっと太一に気付かれないように玄関へと行く。 親バカだって何だって、やっぱり子供だけを外に出すなんて心配だ! 靴を履き終わり、外に出ようとすると 「ヤマトー」 と呼ばれた。 遠い声は、多分キッチンから大声で呼んでいるのだろう。 心臓はバクバクするし、寒いはずなのに顔からは汗が吹き出る。 なんと答えて良いのか頭の中は真っ白で、身体が震える。 「外行くんなら、ワインとビール買ってきてー」 さらっと太一がそう言う。 ・・・気付かれていたのか・・・。 安堵か何か自分でもわからない溜め息をつき、ヤマトは『わかった』と返す。 「ワインは安いのじゃ許さねぇぞ。・・・金はヤマトのお小遣い持ちなv」 ・・・マジですか。 ヤマトは今度こそ寂しげな溜め息をついた。 「ルゥー♪ルゥルゥルゥ〜♪」 歌いながら拓也は上機嫌で歩く。 手も一緒にリズムを取るので、輝二も一緒にはしゃいでるように見える。 「きょうのごはんはカレーちゃん♪おいしいおいしいカレーちゃん♪ カレー大好きな拓也は嬉しそうだ。 ・・・石田家は住宅地にあるので、歩道の舗装はかなりいい方だ。 ちゃっかり輝二は道路側に出て拓也を守る。 「お・か・し〜vお・か・し〜vvv」 カレーの唄はいつのまにかお菓子の唄に変わっている。 「きょっうはな〜ににしようかな〜♪ あ〜めっかな?チョ〜コっかな?それともそれともアイスっかな?」 こんなにお菓子好きなのに、拓也の体重は増えない。 どうやらそう言う体質らしいのだが(丈が言っていた)太一はちょっと心配のようだ。 「こうはなにかう?」 「たくがえらんでいいよ」 拓也はパッと顔を輝かせたが、すぐにダメ!と眉をしかめた。 何で?と輝二が首をかしげると、拓也は繋いでいる方の手をブーンと振り上げた。 「かーさんが、『こうのおかしはこうのなんだから、こうにえらばせなきゃダメ』って」 「・・・たくがえらんでべつにいいのに・・・」 ダメー!と拓也はムキになって言う。 「こうのおかしはこうのおかし!たくがたべちゃったら、こうがかわいそう!」 「・・・たく・・・!」 ジーンとし、輝二は拓也の方に顔を持たせかけた。 拓也もぐりぐりと輝二の方に頭を擦り付けてくる。 横断歩道はいつも太一と渡っているし、他の買い物客等も一緒だったので、難無くクリアした。 「ルゥ〜ルゥ〜」 太一に持たせてもらったパッケージを見て、店の人に教えてもらった場所で同じパッケージを探す。 肉は、ちょうど精肉の人がお肉を並べていたので、教えてもらい、4人で適量のグラム数も選んでもらった。 「ルゥ〜・・・あ!」 ぴょこんとしゃがみ、一番下の段で拓也が見つけた。 「これ?」 「・・・みたいだね・・・」 輝二にも確認してもらい、ようやく手に取る。 「おかし!」 その次の拓也のセリフがこれだった。 ルゥを片手に、たたた〜っとお菓子売り場の方に走って行く。 「たくや!」 あまりに早い行動に、輝二は遅れながらも着いていく。 売り場で拓也は、先程よりも真剣に品定めをしている。 「アンパンマン〜ねこにゃんにゃん〜チョコあめ〜」 ウキウキと見回る。 「・・・これ!」 本日拓也は、冬季限定のチョコをGETした。 輝二は甘さ控えめの、コーヒーの飴を選んだ。 「・・・かうものおわり・・・?」 「おわり」 輝二が頷くと、拓也はレジの方に向かってまた走り出した。 今度は輝二も遅れずに着いていく。 「ください!」 「はい、いらっしゃいませ」 小さなお客さんに、レジの人も満面の笑みだ。 手馴れた様子でバーコードをスキャニングしていく。 ピッと最後に小計を押し、合計金額を出す。 「はい、1051円ですv」 「・・・え?」 輝二は持たされた財布の中身を見る。 「・・・これだと・・・」 そういい、千円札を渡す。 レジの人は苦笑を浮かべる。 「うーん・・・これじゃちょっと足りないなぁ・・・他に何か小さなお金とか持ってない?」 輝二が首を横に振る。 拓也が不安そうにレジの人を見つめる。 「・・・かえないの・・・?」 「そうねぇ・・・何か一個買うものを減らしたらいいんだけど・・・」 うー・・・と拓也は半べそだ。 「・・・じゃあ、おれのを・・・」 言いかけた時、トントンと肩を叩かれた。 「・・・とーさん・・・!!」 輝二が驚いて言うと、拓也もクルリと振り向いた。 「あー!とうさーん!」 拓也がヤマトのところへダイビングしていく。 「よしよし。・・・あ、すみません、足りない分は俺が出しますんで」 ヤマトはそう言って残り分を出す。 レジの人はおつりを渡しながら 「・・・あの、『TEEN−AGE WOLVES』のヤマトさん・・・ですよね・・・?」 ヤマトは答えず、そそくさとその場を立ち去った。 「とーさん〜。何でとーさんがここにいるの?」 ヤマトは一番道路側で、真ん中に拓也、歩道側に輝二がついて、帰路を辿る。 「えっ・・・!?・・・あー・・・・・・か、かあさんに俺も買い物頼まれちゃってな!」 そう言って、袋いっぱいの酒を見せる。 「おれたちといっしょ?」 「そうだな」 輝二に向かって笑いかける。 「・・・じゃ、いまいえはかーさんひとり?」 きゅうんと拓也が哀しげにヤマトを見上げる。 「そうだな・・・母さん寂しがってるだろうから、早く帰ってやらないとな」 優しい優しい我が子達に、ヤマトは顔を綻ばせる。 そう言えば、こうやって3人で歩くのは本当に久しぶりだ。 「とーさーん」 拓也に呼ばれ、ヤマトは視線をそちらに落とす。 「とーさんはいそがしいってかーさんがいってた。だからいえにかえってこれないんだって」 言われて、少し胸が痛む。 「・・・寂しいか?」 うん。と拓也と輝二がほぼ同時に頷く。 「そっか・・・」 「だってね、オレとーさんのことすきだもん」 ヤマトはその一言で、息子たちを凝視した。 「・・・もっとうたうたってほしいな・・・」 「かーさんも、はやくかえってこいってつぶやいてるよ?」 子供なんて、見ていないようで実はしっかりと見ているんだ。 最近はコンサートやらテレビ出演やらで、なかなかまともに家に帰れなかった。 「そうだなー・・・。じゃあ少し仕事減らそうかなー」 夜、太一のところでもそう呟くと、太一は嬉しそうな呆れたような顔をしたのは、もう少し後の事だ。 「クリスマスはいっしょ?」 小首を傾げられると、ヤマトは申し訳無さそうに『ゴメンな』と言った。 「24日は無理なんだ。どうしても抜けられない生テレビがあるもんで・・・あ!でも25日は平気だからな!」 「ほんと!?」 「ほんとに?」 同音異語に二人が聞きなおす。 「ああ!だから、サンタさんにも願い事しないとな」 「プレゼントー!」 拓也がまた嬉しそうに笑む。 今度ばかりは、輝二も何にしようか真剣に考えているようだ。 そんな無邪気な二人を見つめて、改めて養子にもらってよかったと思う。 ・・・幼い頃はずっと一人で、自分は報われない子だと思っていた。 けど、違った。 「昔不幸だったのは、今幸せなための貯金だったんだな」 ヤマトの幸福な呟きは、風に乗って流されていった。 暖かい掌。 これから向かう家の中には、もう一つのぬくもりが待っているだろう。 コメント 今日(12/7)に来たちっちゃい兄弟がバイト場に来て、税込み105円だったんですが、100円しか持っていないので私が出してあげたときに思いついたネタです(笑) いいなぁちっちゃい子(笑) たっくんがどんどん幼い子になっていく(笑) 最近パパがないがしろにされがちなのでこんなん書いてみました(笑) 本当は足りないトコ出してくれたのは、空の設定だったのですが急遽変更。 たまにはパパにもカッコいいトコ見せてもらわなきゃ!(笑) |