|
まじかるここあ☆ ぷうっと柔らかいほっぺを膨らまして、拓也はテーブルに突っ伏し、足をバタバタとさせていた。 そんな姿を見て、ヒカリは苦笑を浮かべた。 いつも可愛らしく二つに結ってある髪は、今日はクセのままピョコピョコ元気に跳ねている。 拓也にケーキとココアを出し、正面の席に座ると拓也がようやく顔を上げた。 「・・・こうなんてきらい。こうはいっつもオレにダメっていう」 甘いものの大好きな拓也だが、さすがに今は食べる気はしないのか、ケーキにもココアにも手をつけていない。 「輝くんとケンカしちゃったんだ」 自分用にコーヒーを淹れ、一度立ち上がり、もう一つのカップをタケルの仕事部屋へと運んでいく。 二、三言葉言葉を交わし、リビングへと戻ってくる。 拓也は無言で待っていた。 「こうはね、いっつもダメっていうの。 ごはんのときテレビみようとするとけしちゃうし、ふろでてパジャマきないとダメっていうんだ。 たくやたくでできるのに、こうはてつだおうとするんだよ」 輝二につられていつも拓也は一人称を『オレ』と言っているが、ときどき力が抜けたりすると『たく』と言う。 そして最近、輝二の事を『こう』と呼ぶようになった。 「こんにちは、拓也くん」 その時、ガチャリとノブを回す音がして、タケルがリビングに入ってきた。 「あっ!タケルにーちゃ!」 くっと顔を上げ、入ってきたタケルを見上げる。 目で追っていくと、タケルは自分の隣りの席に座った。 「あははっ。おじさんでいいってば」 タケルが言うと、拓也は『でも』と返した。 「『おじちゃん』っていうのは、もっとかおがくしゃくしゃで、かみがしろいひとのことでしょ? にーちゃもせんせいもわかいもん」 言うと、タケルもヒカリも盛大に笑った。 拓也が頭にハテナマークを浮かべていると、二人の笑いがようやく治まった。 「で、今日は拓也くんどうしたの?パパやママ、輝二くんは?」 「とーさんはしごと。かーさんはこうのトコにいるの」 輝二の名を出すと、拓也はまたブスッと頬を膨らませた。 「たくはいま、こうとケンカちゅうなの。そしたらせんせいがきたから、うちにいらっしゃいって」 要するに、輝二と拓也が(一方的に)ケンカしていると、ヒカリが家に遊びに来て、暴れている拓也を連れて来たのだ。 「こう、きらい。こういるなら、たくはずっとここにいる」 潤んだ声でそう言い、拓也はまたテーブルに顔を寄せた。 タケルもようやく内容を理解したのか、ヒカリの顔を見る。 ヒカリは微笑ましげに笑っていた。 「拓也くんは輝二くんの事が嫌いなんだ?」 「きらい」 一言で言うと、タケルの眼がキラリと意地悪げに光った。 「じゃ、拓也くん、うちの子にならない?」 「えっ!?」 タケルの言葉を聞き、拓也は弾かれたように顔を上げた。 「輝二くんと一緒に居たくないんでしょ?ならここに居ればいいよ」 ね?とタケルが促すと、拓也はもじもじと言葉を濁す。 「・・・でも、とーさんとかーさんといっしょにいたいから・・・」 「じゃ、輝二くんをうちの子にしちゃおうか?」 タケルがすかさずそう言うと、タケルはスカートの裾をギュッと握りしめ、嗚咽を堪えて泣き始めた。 「もう、タケルくんったら!」 そう軽くタケルを睨むと、ヒカリがハンカチで拓也の顔を拭いてやった。 鼻水も拭ってやると、ヒカリは拓也を正面から見つめた。 「拓くんは、なんで今泣いちゃったの?」 ヒカリに聞かれ、拓也は真っ赤な鼻を啜り、しゃっくりを堪えながら喋り始めた。 「・・・っこうをっ・・・と、とっちゃうって、にーちゃがいうからぁ・・・」 また浮かんできた涙を、ヒカリが優しく拭ってやる。 「拓くんは、輝くんと離れちゃうのがイヤなんだ?」 コクリと首を縦に振る。 「・・・じゃあ、本当は拓くんは輝くんが好きなんだよね?」 ヒカリが優しく問うと、拓也はややあってから、また首を縦に振った。 「・・・拓也くん、ココアは何で甘いか知ってる?」 いきなりタケルに違う質問をされ、拓也はキョトンとしつつも『しらない』と首を横に振った。 そんな拓也にタケルはニッコリと笑い返し、拓也が手をつけずに冷めてしまったカップの茶色い液体を眺めた。 「ココアはね、大好きな人が入れてくれるからあったかくって甘いんだよ」 「・・・だいすきなひと・・・」 「拓也くんの、一番大切な人、かな」 ねぇ。と、タケルは言葉を続ける。 「拓也くんは、誰と居る時が一番『幸せ』?」 『しあわせ』 その言葉を心の中で反復する。 ホンワカする事。 心も身体も。 ・・・輝二が淹れてくれるココアは、父親が作るのよりも、母親が作るのよりもずっと甘い。 拓也が猫舌で熱がっていると、輝二は横から一緒に息を吹きかけて冷ましてくれる。 「こう・・・こうじといるときが、いちばんあったかい」 すんっと鼻を啜り、拓也は俯いた。 「そういえばこうじは、ココアみたい」 言い、拓也は冷めてしまったココアに手をつけた。 ヒカリとタケルが視線を合わせて笑んでいると、電話のコール音が鳴った。 「はい、高石ですが・・・あ、はい」 相手がわかると、ヒカリの声が楽しげに弾んだ。 拓也はヒカリの声を少し遠くに感じながら、ココアをちびちびと飲んでいる。 不味い訳ではない。 ココアをお湯で溶かし、牛乳を注いでレンジでチンする自分たちのココアよりも、しっかりココアの粉を鍋で温めて砂糖を加えるヒカリのココアの方が格段においしい。 なのに、拓也にはいまいち味がしなかった。 溜め息をつきカップを置くと、ヒカリに呼ばれた。 「拓くん、輝くんからよ」 『輝二』その名を聞き、拓也は急いで椅子から降りた。 急いで走ったため、何度か転びそうになりながらヒカリの元へと走り寄った。 子機をひったくるようにもらうと、耳にしっかりとつけた。 「・・・こう・・・?」 『たくや?』 たった数時間前に聞いた声が、とっても懐かしいもののように思えて、拓也の瞳がまた潤んできた。 「こう?こう?・・・あのね、オレ・・・」 『ごめんな、たくや。おれもたくやにわるいこといっちゃった。・・・ごめんな?』 輝二が苦しそうに謝るので、拓也の眼からはついに大粒の涙が零れ落ちた。 「・・・ぅ・・・」 うあー――んっ!! いきなりの拓也の大音響の泣き声に、さすがにタケルとヒカリも眼を丸くする。 電話の向こう側の輝二も、さぞかし驚いているだろう。 「こうはわるくないもんーっ!たくがわがままいったからいけないんだもんーっ!」 近所中響き渡っているだろうと、二人は苦笑を浮かべつつも、拓也をそのままにしておく。 これは、拓也と輝二が解決しなければいけない問題だ。 「たくね・・・っ、たくね、こうの、こと・・・きらいっていったけど、たく、こうのこと、だいすきだからねっ」 嗚咽混じりの言葉は、ちゃんと輝二に届いた。 その証拠に、輝二が泣いてる姿を帰ってきたヤマトが発見し、思わずベースを落としてしまった。 「ごめんね、ごめんね・・・っ。・・・こうは、たくのことっ・・・きらいになっちゃった・・・?」 『そんなことぜったいない!!おれはたくやのことがだいすきなんだからっ!!』 輝二が熱弁すると、拓也は安心したのか、ようやく涙がおさまった。 「じゃあね、オレいまからかえるからっ」 そしたら。と拓也は続ける。 「オレがこうにココアをいれてあげるからねっ!」 コメント 高石夫婦に今回は活躍していただきました(笑) 相変わらずの拓也視点ですみません〜〜〜っ(苦笑) 森永のココアのCMあるじゃないですか、『ココアは誰が作ったの?』って。 あれ見てて、ココアが甘くてあったかいのは、大好きな人が作ってくれたからだよなぁとか思ったドリーマーは私です(大笑) ・・・私はココアは自分で入れてるけど(寂っ) 涙で顔をぐちゃぐちゃにしちゃってるたっくんを思い浮かべると萌えるかも。 ちなみに拓也の一人称はかなり迷ってました。 うちの弟が『拓哉』って言って、ちっちゃいころ『たっくん』って言ってたんですよ、一人称。 よっぽどソレにしようかと思ったんですが、べたべたすぎるかもと思い却下しました(笑) 今は『オレ』か『たく』が一人称☆ |